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せっちゃんたちの恋愛事情  作者: くい
あやまちの、はじまり
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お手柔らかにお願いいたします。

ふわり、ふわり。

浮かぶような、包み込まれるような、暖かな何かに包まれて、少年は目を覚ました。

目を開ければ、真っ白な空間。

唯一色を持つのは、彼の正面にいた、金髪の女性。

胸元が少し寂しいが、むしろそれが清楚さや神聖さを倍増させているような、美しいヒトだ。耳がかなり長く尖っているのを見て、少年はエルフ?と呟いた。

女性は曖昧に笑みを浮かべてから、女神であると自称する。

…瞬間、少年は堰を切ったように話し始めた。


己は、どこへ転生するのか、一体どんな能力がもらえるのか!と興奮真っ只中である。

それに虚をつかれたように驚いた顔をした自称女神は、クスクスと楽しそうに笑いながら、少年に話した。

これから彼が向かうのはモンスターと冒険者がおり、魔王も獣人もいる素晴らしい世界ーーリレント。少年にはそこで勇者になって欲しいのだ、と女神は言う。

そして、願いはなんですか、とかなえられるだけ叶えてあげましょう、と幼さをにじませて笑った。

少年は言った。


「チートにしてくれ!!」


女神は頷いて、四角い箱を呼び出す。

電車1両程の大きさだろうか。長細さ的にも似ているが、ただ真っ白で、そして窓などもないため、中の様子が一切見えない。

女神はゆっくりとその四角い箱に手を翳す。

数分、いや数時間のように少年には感じられた何の変化もない時間は遂に終わり、女神は微笑んで、タッチパネルをスライドさせるように四角い箱を開けた。

泣きながら、光り輝く宝石の中心に座り、いくつかを握りしめている女性ーー少年から見れば、おばさんーーがいた。

女神は慌てたようにスライドさせたそれを閉める。そして、顔面を蒼白にさせる。

次の瞬間、雷のような怒声が真っ白の空間に響き渡り、割れた。

少年が気が付いた時、そこは、どこかの子供部屋のようで、そして、美しい女神がいた場所には、少年と同じくらいの歳の少女が涙目になっていた。


「…え?」


少年の声が虚しく響く。白い箱はそのまま白い箱としてあり、中からは小さく嗚咽するような声が響いている。

勇者となるべき少年の心の中には、何とも言い難い怒りが湧き上がり、白い箱にうっすらと見える引き戸を思い切り開き、叫んだ。


「ババアが泣いてんじゃねーよ!」


どうして勇者となるべき少年の『チート』の元である箱に女性ーー彼女の名誉のために言っておくが、彼女はまだ三十代であり、働き盛りだーーはいたのか。

少年は、彼女が自身のチートを奪う悪だと考えた。

だが、その考えは、怒声の持ち主である、美しい男によって否定される。


「お前は、借り物である世界の魂になんてことをしたんだ…!」


少年の父が彼を怒るよりも酷く苛立たしげに、そして、苛立たしさと同じくらいの失望を混ぜて。

その声に泣いていた女性の涙が止まるほどの悲しさを含ませて。


「でも、全部寿命の終わる魂でした」

「…でも、ではない。それに、事実、寿命がまだまだ残っている魂がここにいる理由は、何だ」


少女と同じ空色の瞳を険しくさせたまま、言い切って、男は女性へと近寄った。

深く謝罪をした男は、女性の涙をそっと拭って、キラキラと光る宝石を一つ一つ拾っていく。手を差し出した男の手は取らず、一人立ち上がった女性は、悲痛な顔で俯く。

対して潤んだ瞳のままの少女は、ウワァン、と子供のような声をあげて座り込んだ。

男はその様子を見て、さらに目を険しくすると、ゆっくりと少年を見て、女性を見た。そして、説明を始めた。


リレントという世界についての説明、理路整然とした内容を硬質な声色で告げた男が何か聞きたいことは、と問うたとき、少年はきっぱりと言った。

ーー俺のチートはどうなったのか、と。

男は眉を寄せ、これだ、と宝石を見せる。俺のものだ、という少年に、男は女性を見る。いくつかはすでに女性の手元で光となり、その体に吸収されていた。

少年の怒りは頂点に達する。俺のものを取りやがって、と。

ありのままの怒りをぶつけ、困ったような顔をした男は、女性と何かを話す。そのヒソヒソとしたやり取りが、少年には大人の事情としていつも誤魔化される何かに感じて、より怒りが蓄積していく。

だが、結論としては大量の宝石が少年の元に渡った。

数は69個。残りの30は女性にすでに入り込んでしまった。少年はそれを見せろ、という。

女性は静かに頷いた。まるでゲームのステータス画面を宙へと浮かべ、スキルという項目をタップし示す女性の不健康な色白の指を追いかける。


スキル

 おばあちゃんの知恵袋 Lv.10(MAX)

 美の追求 Lv.5

 健康の追求 Lv.5

 家庭料理 Lv.5

 愛妻弁当 Lv.5

 オタク(固有スキル) Lv.5


文字を見て、いらないな、と判断したついでに、この歳でオタクとかモジョってやつか、とかなり失礼な思考をした少年は憮然とした表情のまま、じゃあいらない、と告げた。

彼女のスキル画面を見てスキルレベルは10が上限なのだと知り、楽勝だな、と笑う余裕さえある。

そして、彼は神にそのババアが絶対に俺の邪魔をしないようにしろ、とだけ告げて、リレントへと勇者として降り立った。


他人から受け取るスキルはLv.が必ず1になってしまうことも、人生で一つでもスキルを最大値にできればその道のプロ…否、神だと称されるようなものなのだということも。

そして、神であった男が、彼を勇者として転生させようとした少女の父であり、少女を天界と呼べる世界から追放したことも知らなかったのだ。


ーーここから、追放された勇者の苦悩の旅が始まる。

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