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足なし宰相  作者: 羽蘭
第5章 アーネスシス王女
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80話 アレクフォルドの誕生パーティー

先週の話が投稿されてなかったことに先程気づき、先週分の話を思い出しながら書いてきたため更新遅くなりました。


以下の本文は先週と今日の二話分の量です。






シュリルディールは兄アレクフォルドの誕生パーティーに最後まで参加する必要はない。

まだ6歳にもなっていない幼い子供を夜遅くまで参加させたとなると、逆にそうさせた者の評価は下がる。

それを利用してパーティーを最後まで居たくないがために幼い子を連れる者も歴史上ではいたようだが、幼い子を連れる必要のないパーティーに連れて行っていたら、その思惑はモロバレである。だから普通はそのようなことはしない。

あったとして、仲良くする気も良くなさを隠す気もないが、参加せざる得なかったパーティーの場合くらいだろうか。

最後までパーティーに参加するということはパーティーの主催者と深く仲の良い付き合いをしていきたいという意思表示である。

上位の家の者になればなるほど、途中で抜けて深い付き合いをする気はない、そこまでの興味はないと示すことが多いが、そうなると人の多い中で会場から出る必要がある。それを苦手とする者は中々に多い。だから幼い子連れなんて歴史があるのだ。


しかし、今回限りにおいては主催側であるシュリルディールが参加するために幼い子を連れて来ることはおかしくない。

だから帰りやすい雰囲気のパーティーになるだろう。

子供を先に帰して最後まで残るような者は余程仲良くしたいのだろうと見ることもできる。


さて、幼い子供は最後まで残る必要はないが、主催側のために最初からいる必要はある。

だから今こうしてディーは母シュリアンナの隣で次々とやって来る参加者たちに微笑み、同じ口上を繰り返しているのだ。


それが数十分も途切れない。十分を超えた辺りで頰の表情筋が引き攣ってきた気がする。

今では表情を変えずに同じ言葉を吐き出す人形のようだ。


とは言え、何も考えず人形になっているわけではない。頭の中は絶えず動いている。ディーにとって城で見かけた者も数名ほどいるが、殆どが初対面だ。

教わった貴族達の特徴や詳細と母の告げる貴族の名前を一致させていく。間違えるなどあってはならない。

フォルセウスはよく間違えているが、それが許されるのは地位と武力、実績のためだ。加えて武人であるからというのもある。

シュリルディールは文人だ。間違えるということは自分の頭の弱さを露見させることとなり、今後順調に進めば重要な地位に就くだろうと思われるのに、こんな所で躓くわけにはいかなかった。

写真があれば…とは思うが、それはその存在と利便性を知っているからこそ出る思考であり、ここには存在しないのだから仕方がない。便利さに慣れると不便さがより不便に感じてしまう。知らない方が良かったと思うほどに。

写真に関して言えばディーはカメラアイがあるからまだマシであるが、ディーの場合、カメラアイはその記憶を取り出すのに時間がかかる。頭の中の本を読むようなものなのだから本の中から探し出す必要があるのだ。そのようなことを考えると、貴族の顔と名前くらいは普通に覚えた方が速いし今後のためにもなるのだ。


「ディー、取り敢えずはここまでが時間前に来た方々だから来場の挨拶はこれでおしまいよ。」


「本当ですか。良かったです。」


「あとは頃合いを見て数名に挨拶しに伺うときにディーを呼ぶわね。」


「はい、分かりました。」


シュリアンナは青いドレスを身に纏っている。様々な生地が使われており一目見て凝っていることが分かるものだ。

これからシュリアンナは女の戦いが始まるのだろう。ディーから見るといつもと異なる印象を受ける。いつものほわわーんとした空気が薄れているような印象だ。


その戦いにディーは不向きだ。少し気になる気もするが、怖さが勝る。どんな会話をすれば良いか分からないのであるし。


シュリルディールは深呼吸を一度して会場内を見渡す。

ディーにとってこの部屋はものすごく見慣れた…というわけでもないが何度か見たり足を踏み入れている。ディスクコード邸であるからそれは当たり前であるが、いつもは使わないため入ることもしない。

初めてこの大きな部屋を見たときは、がらんどうとしていると思ったが、今は料理人達が前々から準備し腕をふるった豪華な料理が並んでおり、多くの人が煌びやかな服を着て談笑している。とてもがらんどうという印象は受けない。


(まだパーティーが始まって間もない。すぐに話しかけてくる人はいないだろう。)


そう予想していた通り、初めはディーに話しかけてくる者はいない。話しかけてくるとしたらアレクの挨拶や催しが終わった辺りだろう。


(話しかけてくる人の目的は大きく分けて3つ。僕に、いや、ディスクコード家次男で宰相補佐官に取り入りたいため。僕がどんな人間かを把握するため。揚げ足を取るため。)


1つ目の場合は、単純なものであると婚姻策だ。今回のパーティーで幼い子供連れが多い理由でもある。幼い子供か子息である場合は、同年代同士で仲良くして欲しいのだろう。

これは言質を取られることなく、基本は子供相手になるだろうから疲れるだろうが問題はないだろう。

2つ目の場合は同じ公爵家や有力な伯爵家に多い。突如として宰相補佐に任じられた幼い子供に不信感を覚える者も多い。どんな子供か確かめにくるだろう。会話の駆け引きが面倒そうだが、気は抜けない。

一番厄介なのが3つ目だ。どんなことで突っかかられるかわからない。重箱の隅をつつくようなマナーを強要する者もいるらしい。

子供だから…である程度は緩和できなくもないが、マナー違反は違反。

ディーがと言うよりはフォルセウスの教育が良くないが悪く言われる原因となる。フォルセウスは気にしないから楽にしろとは言ってくれたが、普通に気にすべきであるし、ディーはすでに働いている公人だ。

宰相補佐という役職から、クジェーヌ宰相にまでディーの不手際が飛び火する可能性もある。


(あーうん、頑張らないとだな。)


マナーはスパルタで覚えた。不安はあるがやるしかない。


今日パーティー中でディーの車椅子を押すのはパメラの役割だ。使用人の中で若く、パーティーの経験のない15歳のパメラはディーと共にパーティーの雰囲気を掴んでおけということらしい。

パメラはマナーに関して特にしっかりとしている事も表に出てディーとともに回る理由だろう。基本的に話すことはないとは言え見られる立場となるのだ。恥ずかしくない態度を取れなければならない。

ディー付きのメイド、サニアは今裏で忙しく動いていることだろう。サニアはこの家の次男付きになれるくらいには有能で使用人の中で地位が高いのだ。

行動が制限される表方より、忙しく自分で考えながら動き回る必要のある裏方の人手不足が深刻なのだろう。


ディーは背後に立つパメラの方へと小さく首を回した。


「パメラ、父様の所に行く。」


「は、はい。」


(うーん、パメラは大分緊張しているみたいだな。)


そうは思うがどうすれば他者の緊張をほぐす事が出来るのか分からない。リラックスと言ってもパメラの場合は逆に悪化させそうだ。

不安を覚えながらシュリルディールはゆっくりと動く振動に身を任せた。





◆◆◆◆◆◆





アレクフォルドの挨拶は堂々としたものだった。

以前人前に立つことは苦手ではないと聞いたことがあるが、得意と言って良いのではないだろうか。あの人を惹きつけ、自然と話を聞き入らせる点は一種の才能だろう。聞き取りやすい声の高さであるのも良い点だ。

リトラもその点は褒めていたが、以前聞いた練習より断然良くなっていることからあれから余程しごかれたのだろう。


その後、アレクと騎士団所属の騎士数名が模擬戦を行った。事前にある程度打ち合わせをしていたのも知っているし、どんな事をするかを聞いてはいたのだが、やはり聞くと見るとでは大きく異なる。

全く剣について知らないシュリルディールでも眼を見張るようなアクロバティックな動きや目で追うことすらできない素早くなめらかな動きが次々と披露され、思わず見入ってしまったほどだ。

すぐさまアレクの元へと行って感想を伝えたかったが、パーティー中では出来そうもない。


(シュカイルゼン王立学園で兄様が優勝したって言う武闘大会見たかったな…)


そちらでは今回より実践的なものであろうが。

今回のはパーティーでの披露ということもあり、軽い打ち合わせが行われていた。

剣舞とは到底言えないが、少しだけその要素が入っていただろう。


とりあえパーティーが終わった後に、兄に感想を言いに行こうと、ディーは心の中でそっと決意した。





ここからが正念場。


シュリルディール・ディスクコードにとってこれから幾度も訪れる貴族同士の駆け引きの初陣だ。


真っ先にディーに声をかけてきたのは緑をアクセントとしたグレーの凝った燕尾服を来た男だ。

こちらに近付いてくるのが誰か分かった瞬間、ディーは内心で舌打ちをした。

彼は一人らしい。確か会場に入ってきたときは奥方がいたが、彼女は現在女の園で格闘しているのだろう。

ディーより2歳年上の娘がいたはずだが連れて来ていないということはそのつもりは無いということだろう。それもそのはず、彼は貴族派に属する貴族だ。国王派の次代を担う一翼であるディーに娘を嫁がせる気があるわけがない。

彼がディーに声を掛けてきたのは、ディーがどのような人間かを把握するためと、揚げ足を取れるなら取るためだ。


「初めまして、宰相補佐官殿。」


そう言ってでっぷりと腹の出た男は、その少し脂っぽい額の肌に対して大半の者が好ましいに分類するであろう柔らかな微笑みを浮かべた。


「こちらこそ初めまして。クラリエス伯爵様。」


シュリルディールも負けじと微笑みを浮かべる。互いに目が笑っていないことが分かる目敏い人には不気味に映るだろう。


(思いっきり目に意地悪する気満々って感情が見えてるんだよなあ…)


ディーが気付くと思っているのかは分からないが、ディーに対してそれを隠す気がないのが妙に腹立たしい。


「この度はお兄様の16歳のご誕生日おめでとうございます。流石は次代の王家の剣であらせられる。先程の剣技は素晴らしいものでしたよ。」


「ありがとうございます。後ほど本人にそう伝えておきますね。」


そんな内心とは裏腹に、にこやかに会話は進んで行く。会話の主導権が上位である伯爵になるのはどうしようもないことではあるが、非常に面倒臭い。

会話の主導権を握る方が相手の出方を見てから自分の動きを決めるより楽だ。


しかし、そうするとリトラに怒られる。


実践練習でディーが怒られたのは会話の主導権を握ろうとすることだ。マナー違反にもなることであるし、大変ではあるが、面倒ではあるが、後々のことを考えるとキチンとしておいた方が良い。

そう分かってはいるが、面倒なものは面倒だ。


「兄君は武、弟君は文に優れておられるとはディスクコード家は安泰ですな。」


「内部省大臣補佐官殿に僕のことを知っていただけているとは嬉しい限りですね。」


「いやはや、最年少での官吏試験合格者であり、総部省大臣補佐官に就任した者のことを知らぬ者はおらぬでしょう。私もよく耳にしておりましてね、話してみたいと思っていたのですよ。」


「それはありがとうございます。僕も有能であると耳にする伯爵と話をしたいと思っておりました。」


ふふっと微笑む。クラリエス伯爵は一向にミスをしないディーに少しイラつき始めているようだ。それを表に出すことはしないが。


「シュリルディール殿は第一王女殿下と親しいご様子ですな。」


「ええ、そうですね。有り難くも王女殿下に声を掛けていただきました頃から。」


「第二王子殿下とも親しいですからな。教育係を務めておられるのだとか聞いておりますぞ。」


「はい。畏れ多くも務めさせていただいております。」


「王子殿下に私は会ったことがないのですよ。どのような方です?」


「非常に聡明であらせられますよ。僕も共に学ぶことがあるほどです。」


「それはそれは王族の方々は流石ですなあ。」


クラリエス伯爵の足が小刻みに動いている。貧乏揺すりだろう。事前情報ではイラつきを小さく表に出すことがあるが、声を荒げることなどは決してなく、その前に会話を打ち切るタイプらしい。その事を考えるとそろそろこの会話は終わりだ。


「では、他の方もシュリルディール殿に話しかけたそうですから、この辺りで失礼させていただきます。宰相補佐官殿と話すことができたことに感謝致します。」


「こちらこそ内部省大臣補佐官行き殿と会話することができたことに感謝致します。」


(終わったか…まずは一人。)


一人目から大分ハードだ。

内部省大臣であり貴族派の最有力貴族ラフティンディウム公爵の子飼いクラリエス伯爵。

彼はフェリスリアンのことを知りたかったのか、それとも王族に対する発言でマナー違反をあげつらいたかったのか…

王族に対するマナーは他の比べて一段と厳しく細かいものとなっていることであるし…



いや、それは後で考えることにしよう。


こちらに歩いてくる者の横には小さな少女。


「初めまして、シュリルディール・ディスクコード殿。」


こんな会話があとどれだけ待ちかまえていることやら。

数は数えない方が良さそうだと頭の隅で思いながらも、そうは思っても数えてしまうんだろうなと半ば諦めつつ、シュリルディールは微笑みを浮かべた。


「こちらこそ初めまして、ナハザール伯爵。」










次回からの更新は不定期です。

更新が遅かったらブラックな所だったんだな…と思っておいて下さい。

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