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足なし宰相  作者: 羽蘭
第5章 アーネスシス王女
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78話 帰宅






それは、黒い空に白が滲み出し、灯りがなくとも眼に映るものが何かを認識できるようになってきた頃だった。


何だか外から騒がしい気配を感じて起きる…なんてことはなく、シュリルディールはぐっすりと眠っていたところをサニアに起こされた。


「さにあ…?どうしたの?」


「ディール様、アレク様がお帰りになられましたよ!」


「…アレク…にいさまが…かえって……きたの!?」


覚醒途中にあった幼い頭は、言われた言葉をすぐには理解できなかったらしい。反芻していく内にようやく認識したディーは身体を起こしサニアに目を丸くした顔を向ける。


「はい、つい先程お着きになられましたよ。」


外からも屋敷内からも騒ついた空気が伝わってくる。ついでに言うと、目の前にいるサニアからもソワソワとした空気が伝わってくる。


「着替えさせてくれる?今すぐ兄様の元に向かうから。」


多分それらのソワソワが移ったのだろう。ディーは笑みを口端に浮かべいつもより早口でそう言った。




◆◆◆




急いで着替え終え、カラカラカラといつもより速い回転音を鳴らしながら、この邸宅の玄関口ホールへと向かう。

車輪の奏でる独特な音に、その場にいた者はそれが誰かすぐに察したらしい。

ディーがホールに顔を出した途端、視界に映ったのは少し背が伸びたアレクフォルドが満面の笑みで両手を広げ迫ってくる様子だった。


「ディー!!!」


「兄様!お久しぶりで、グェ」


フワリと尻が椅子から離れた感触と共に、思いっきり抱きしめられたディーは蛙が潰れたような声を出す。

前より力が強くなっている気がする。そう思ったが、すぐにそれもそうだと思い直す。

アレクフォルドはもうすぐ16歳。日本で言うと高校生と言ったくらいだ。そりゃあ力が強くなっているに違いない。アレクは領地にいるときも鍛錬は毎日欠かさず行っていただろうし。

力が落ちる理由は皆無だった。


「あ、ディーすまないな。」


力は緩まったが、変わらず抱き締められている状態だ。

こんな事前もやった気がする。いや、久しぶりに会うときはいつもこんな感じだった。


「ディー、怪我はないか?体調は悪くないか?」


「大丈夫、何も悪いところはありませんよ。兄様こそ問題はありませんか?」


「俺も問題は何もないぞ!ちゃんと学びきったしな。」


「おめでとうございます。兄様は頭も良いと聞いてますからそこは心配していませんでしたよ。」


アレクは人との駆け引きという面では決して優れているとは言えないが、察しは良い方であり、思考能力や記憶力も悪くない。

領地経営学には対人面での勉学も含まれるが、これは主に領民に対するものだ。

人の良い性格が滲み出ており、誠実なアレクなら合格点以上を貰えたに違いない。


「そうかそうか。」


浮き上がってくる笑みを隠そうとしているようでアレクの顔は面白い具合に歪んでいる。

つられて浮かびそうになる笑みを内心に抑えたディーは、ところで、と声を上げる。


「兄様は夜中の真っ暗闇の中走って来られたのですか?」


「いや、その真っ暗闇の時に王都に着いたんだが、閉門後だったからな。そのまま外で野宿していたんだ。」


公爵家でも関係なく王都の門を開けることはしない。そこは徹底されているのか。


「ん?でも開門ってもう少し後の時間だったような…?」


ディーは首を傾げる。

こんな早朝も早朝な時間ではなかった気がするが気のせいだったのだろうか。


「ああ、数人で馬で来たから紋章もないしバレないかと思ったんだが、空が明るくなった途端に門兵に俺だとバレてしまってな。先に入れさせてもらったよ。」


門兵も騎士団の一員だ。騎士団長の息子の顔は知っていてもおかしくない。大団長フォルセウスとアレクフォルドの顔はよく似ているのであるし。

王都の門も大貴族となると関係なしに出入りできるらしい。


「これからは王都に居られるからディーと一緒に居られるな!勉強も終わったし。」


小さく付け加えられたそれにディーの目は泳ぐ。


「多分兄様自身の誕生パーティーの準備でこれからも勉強漬けだと思いますよ…?」


「あっ」


本気で忘れていたのだろう。驚いた表情からうんざりとした表情へとコロコロ変化する表情にディーの口から笑みが(こぼ)れる。


「当日は僕も参加するようですから兄様の勇姿楽しみにしておりますね。」


気の毒だとは思うが変えられない事だ。乗り越えるしかない。

アレクは身体能力は非常に高いからダンスは音感さえ狂ってなければ問題ないだろう。話術は…そう考えると、もしかしたらアレクにとって領地経営学より苦手分野ばかり勉強することになるのだろうか。

それに気付いたからこんな悲壮な顔になっているのだろう。

しかし、ディーの笑いにつられたようにアレクの表情にも笑みが戻る。


「アレク、帰ったのね。」


階段から声が聞こえた。振り返らずとも誰かは分かる。


「母様、お久しぶりです。只今王都に到着しました。」


「元気そうで良かったわ。また背が伸びたのね。どんどんフォルに近付いてるわね。」


シュリアンナが遅かったのは単純に女性は身支度に時間がかかるからだろう。ディーより後にアレクの帰宅を知らされたとは思えない。

ここは家の中であり、家人と家族しかこの場にはいないが、それでもしっかりと身支度をするのが貴族である。

加えてシュリアンナは元王族。その辺りの徹底振りは他の貴族よりもしっかりとしていた。

王宮は王族の家とは言っても、その実態は家ではなかった。多くの者が行き交い、乱れた格好でいるとすぐに糾弾される。

厳しい世界なのだ。フェリスリアンが引きこもってしまったのもそれが理由な面もある。


髪は外に出る時ほどではないが、セットされており乱れは見られない。化粧も施されており、家用ではあるがドレスを着用し、レースのショールを肩からかけ、靴もヒールを履いているのが階段から降りてくる小さな音から推測される。

顔を軽く洗い、短めの髪を撫で付け着替えただけのディーに比べて遅く登場したのは当たり前のことであった。


「フォルには今伝えに行ってもらっているから何もなければすぐ帰ってくるんじゃないかしら。」


フォルセウスは騎士団長として今日…いや、昨日になるだろう…は帰って来ず、夜勤であった。だが、もうそろそろ帰ってくる頃合いであるし、何も問題が起こってなければ少しいつもより早めに上がってくるかもしれない。


「さ、アレクは着替えてきなさい。先に居間で待っているわ。」


久々に家族が全員揃うことに皆が嬉しさを実感していた。










次回は3月17日21時です。


ヴェルド出したいのに出せそうにありませんね…このまま流れて当分出番がなくなりそうです…


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