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足なし宰相  作者: 羽蘭
第5章 アーネスシス王女
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76話 姉弟






アーネスシスがフェリスリアンと会うと、シュリルディールと約束したのが昨日のこと。


アーネスシスは宣言通りリアンの元へと来ていた。人と接するのが苦手な弟に配慮して1人部屋に入り、あとは外に待機させていた。

それでもリアンの表情はいつもより数段固く強張っている。


「久しぶりね、フェリスリアン。」


「…おひさしぶりです。」


そう返したリアンの声はあまりにも小さい。

そもそもこの部屋の空気は姉弟の雰囲気ではない。いくら王族とは言えあまりにも会話が続かずもどかしい空気が部屋中に立ち込める。


その空気の中で動いたのはディーだった。リアンに近付き頭を撫でる。


「リアン、よくできました。しっかりと言葉遣いも出来ておりますし、問題ありませんよ。」


「ほんと?」


「はい。」


そもそも会うという最終決定をしたのはリアンだ。その時点でかなり以前より改善されている。

心からの笑みを浮かべるディーと頭を撫でられ褒められて嬉しそうな表情を隠さないリアンの様子に、かわいい…と呟いて悶えている姉にはフォローも何も要らなさそうだ。


「フェリスリアン、私も貴方をリアンと呼んで良いかしら?」


「いい…です。」


「ありがとう、リアンは私を何と呼んでくれるかしら?」


「え、えっと…」


チラチラとディーを見るリアンに微笑ましい気持ちになりつつ、その要望通りフォローをするために口を開く。


「僕はアーネスシス殿下のことを私的な時には失礼ながらアス姉様と呼ばせていただいておりますよ。」


「アス姉様…」


「リアンとは実の姉君でいらっしゃられますから様を付けずに呼ばれてみてはいかがでしょう?」


「うん…アス姉?」


「はい、そうです。それをアス姉様に向けて返してください。」


「アス姉、って呼んでいい…です…か?」


「ええ、嬉しいわ。」


本当に嬉しそうだ。ディーは見た目は子供だが、中身は前世と今世含めると成人している年齢だ。そのような子供より、中身も外見も同じ子供で実の弟、しかも可愛い子から姉と呼ばれるのは想像以上に嬉しかったらしい。

ぱっと見では穏やかに微笑んでいるが、口端に抑えきれないにやにやとした笑みの残骸が残って表われ出ている。


その後もアーネスシスの質問にリアンが答えるという形で会話が進んでいき、リアンの回答を時たまディーがフォローする。

アーネスシスとリアンが会話をしているときはディーが口出ししたくなる時があり、リアンの回答をディーがフォローしているときはアーネスシスが口を挟みたくなる時があるが、両者とも口を出すことなく、グッと飲み込む。

それぞれが良い方向に向けてくれることを知っているから任せられる。


「そう、すごいわね。魔法を覚えたの。魔法はどんなものを覚えたのかしら?」


「光と火とかで…まんまるのをとばす…します。」


段々質問への返しが慣れてきたのか、リアンの声は少し大きくなり、しっかりとしたものへと変化していた。

リアンの変化にディーはアーネスシスに向かって微笑む。アーネスシスもディーに向かって微笑み返した。


「そんなにすぐにできるようになるなんてすごいわね。」


その言葉に返答せずにリアンは顔を下に向けた。

その時、ディーはくいっと腕が引っ張られた感覚に釣られてその方向へと顔を向ける。その瞬間不満そうな小さな声が耳に入ってきた。


「……ディーはぼくのだもん…」


腕の部分の服を両手でほんの少しだけ掴み下を向いて声を震わせる、この場で唯一歳相応の中身を持つ子供の様子に、残る2人揃って口元に手をやった。


「『かわ…かわいぃ…』」


アーネスシスが思わず漏らした声は思わずすぎて日本語になっている。

周りの様子によく気がつくリアンだから2人が微笑み合ったことに疎外感を感じてしまったのだろう。それに気づいたディーは少し悪いことをした気分となる。

アーネスシスみたいに可愛いとだけ思えないのは自分がリアンの教師だからだろうか。


「リアン、僕はリアンが一番大好きですし、リアンが一番の友達です。」


「…それ、ほんとう…?」


「はい、もちろんです。」


恐る恐るといった風に返したリアンに、ディーは力強く肯定する。

それを受けて柔らかく絡み合った糸がはらりと解けるような笑みを浮かべたリアンは「よかったあ…」と漏らした。

ディーが心から言っている、肯定しているとよく分かったのだろう。


それをアーネスシスも気付いたようで可愛いと悶えていた表情から一変し、感心するように目をいつもより見開いている。

リアンの他人のことでも何かとよく気がつくことは伝えた。しかし、驚いていることから予想以上だったのだろう。

次の瞬間には笑みが顔に浮かんでいる。

そこに安心が見て取れる。


(アス姉様は数年後にはこの国を出ることになるから不安だったのだろうか…)


国王派として、この国の姫として、親しい者の多くいるこの国の行く末を。

シュリルディールという同じ前世持ちがいても一家臣に過ぎない。将来の王候補として挙げられている王子2人の内、国王派の首魁となる候補の目の良さが嬉しく、自分が国を出ても将来かなり困る事態にはならなさそうだと思ったのだろう。

これに気付いたディーがリアンに感じた安心感と同じ安心感を感じたのだろう。


再びアーネスシスが質問する形で姉弟の会話が始まる。その様子を眺めながらディーはリアンの左手をそっと握り直して口元を緩めた。










次回は2月24日21時です。


ヴェルド出そうと思ったんですが、どうやらまだ出ないようです。次で出せるか…その次か…

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