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足なし宰相  作者: 羽蘭
第5章 アーネスシス王女
76/82

74話 アピール

ちょっと短めです。






「『明日香お姉ちゃんから手紙来たのか。』」


フェリスリアンの教育係としての仕事も最近は順調にいっており、薄めの本なら嫌悪感なく読んでくれるようになっていた。

今日はその仕事のみで総部省の仕事はなく、お昼過ぎに邸宅に帰宅したシュリルディールは自分の机の上に封蝋のない手紙が置いてあるのを見てポツリと呟いた。

1週間前に会ったアーネスシスからの手紙が机の上に置かれていた。


実際に会ったその日のうちにアーネスシスへの手紙にコリミール草について書いて送った。

コリミール草とは以前に本を読んだ時に見つけたカラスビシャクらしき草だ。酔いに効く効能を持っている。

前世の記憶にあった毒を失わせる方法と、本当にそのコリミール草がカラスビシャクかどうか判断する方法なども記した。

シュリルディールもアーネスシスも外出が難しい身の上だが、車酔いのせいで遠出がほぼできないディーに比べたらアーネスシスの方がまだ出ることができる。

今は春だからカラスビシャクを採取するべき初夏には間に合うだろう。


そう考えていたが、中々アーネスシスは仕事が早い。コリミール草を取り寄せ、特徴が一致するためカラスビシャクであるだろうと記してあった。加えてカラスビシャクの毒を消すことができる加工方法に必要な生姜はほぼ同じものが存在しているらしい。

時期が来たら実験をしておくと書いてある。


手紙の内容はそれだけではなかった。というよりかは、その後に続く文章がメインだろう。

ディーの目が左右に幾度も動き、止まる。


「なるほど…」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「さ、ディール。これは公務ではなく私用よ。」


いつもよりは落ち着いたドレスを見にまとったアーネスシスが馬車から降ろされたディーに笑いかけた。


「分かっておりますよ、アスお姉様。」


こちらも同等の裏のない笑顔を浮かべる。

公務では確かにないのだから私用ではあるが、裏に何もないわけではない。

そうでなければアーネスシスとシュリルディールの2人で孤児院や数少ないが無料や安い料金で基本教育を受けられる学校へ訪問しない。


仲良いアピールの一環だ。

よく貴族が訪問する場所であり、私用で訪問したと言っておかしくのない場所、且つ、他の貴族たちにその様子が伝達しやすい場所。

ディスクコード邸にアーネスシスが訪れてもアピールにはなるが、その場合、何を話していたのが勘繰られる。

自分達は単純に仲良く話しているだけとアピールするには、オープンな孤児院等の訪問が適しているのだ。

まず最初に2人が訪問したのはクノートルダム孤児院だ。ここが孤児院の中で一番有名で、王女と公爵次男が来たこと、その様子が貴族間に伝達する速さが速い。

にこにこと笑みを浮かべて孤児院の敷地内に入った2人を迎えたのはクノートルダム院の院長だ。


「久しぶりね。無事で良かったわ。」


アーネスシスと面識があるらしい。院長は少し前まで行方不明となっていたからそれより前からの知り合いなのだろう。


「お久しぶりでございます、殿下。

この通りさらに老け込みましたが、何とか永らえましてございます。

王女殿下もご息災であらせられるようでございますね。近頃はご活躍の報をよく耳に致します。」


「ありがとう。早速子供達の元に訪れてもよろしいかしら?」


「はい、もちろんでございます。」


そう言った院長の目がディーの方へと動く。それに気付いたアーネスシスは、ああ、と呟いてディーを手の平で指し示す。


「紹介するわ。こちら私の従兄弟のシュリルディールよ。」


実に簡潔な紹介だ。しかし、院長とディーはこう面と向かって話したことはないが初対面ではない。


「先は挨拶も出来ず申し訳ありませんでした。このクノートルダム院の院長をしておる者でございます。

この院を蝕んでいた毒の除去、改めて感謝申し上げます。」


「いえ、そんなに御礼を言われるほどではないよ。僕はまだ学んでいる途上であり、先達の方の指導のもとで動いていたにすぎないのだから。」


ほぼ初対面の自分より遥かに年上の人に向けてタメ口で話すのは未だに慣れない。だが、ここで敬語で話すのは身分の問題上おかしいのだ。特にここは孤児院であっても、その特質上そのような身分制度に厳しい孤児院なのだから。

どの身分か分からないティーリではないのだ。公爵家次男という立場は中々に重い。


院長と一言二言話している間にもアーネスシスがこちらに意味ありげな視線を送ってくる。あとで総部省として関わった孤児院の件を根掘り葉掘り聞かれそうだ。

ため息は決して出さず、表情にも出さない。

しかし、早くこの話題は終わってほしかった。何の拍子で女装して訪問したことに繋がるのか分からない。アーネスシスは鋭いから少しの情報で勘付く可能性が高い。


別に勘付かれたらどうなるわけでもないが、心理的に少し嫌だ。ここにはベリルアグローシュもいるのだ。そちらにバレるのが一番避けたい。彼女の中では何か不思議な子がいたで終わらせておきたい。


ディーはそんなことを考えながら前を歩く院長と王女の後をカラカラと音を立てながら付いていくのだった。









次回は2月10日21時です。

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