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足なし宰相  作者: 羽蘭
第5章 アーネスシス王女
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70話 アーネスシスの噂

前回不穏になると言いましたがまだでした。多分まだ大丈夫。私の気分が変わらなければ。







最近王城内で特に話題となっていることがある。

第一王女アーネスシスがまた国内巡りをするという話だ。その内容を手紙でやり取りしたのは3ヶ月ほど前。よく噂にならず水面下で動けたものだとシュリルディールは感心していた。

しかもアーネスシスが行く場所は貴族派筆頭のラフティンディウム公爵家の領地に程近い西南部に位置する国王派子爵家2家と中立派伯爵家1家の領地である。


もう少し時間がかかると思っていたが上手く調節したようで1ヶ月後に出発するようだ。

シュリルディールは噂になるより前に手紙で知らされていたが、最近はその手紙も中々交わすことが少なくなっている。単純にアーネスシスが忙しいためである。

このように噂になっている今が一番大変な時期なのだ。噂というものは一歩間違えるとすぐに自分の不利なものへと変化する。それを上手く誰に何の情報を出すか等により動かしていく。そして、自分のアーネスシスの狙い通り自分の内政手腕を広め、貴族派内の不和を内政に問題を抱えている領地から発させたい。そこまで行かず、貴族派が貴族派内で対処し、その問題を解決しても良い。貴族派の結束は固まるが国内全体で見るとそれも悪くない。

まあこのように色々述べてはみたが、アーネスシスからの手紙には、好きなこの国から隣のヤムハーン国へ嫁がされることの要因となった貴族派にちょっと仕返しをしたいからと書いてあった。

貴族派内で金と時間を費やし対処するか、派内の不和を見過ごすか、はたまた別の手段をとるか。それを考えねばならない状況へ持っていくことがアーネスシス王女が行う仕返しである。


そして、自ら貴族派と対立しに行くが、いずれ他国へと嫁ぐアーネスシスは、その後も国内で戦うことになるディーが自分と親しく、この計画に関しても話をしていたと思われないように直接会ったのは最初の一度きりだった。

アーネスシス・ミリースとシュリルディール・ディスクコードの繋がりは全くと言っていいほど知られておらず噂にもなっていない。ただ従姉弟という血縁関係があるというだけだ。


「ディールも気になってるの?あの噂。」


オセロッティアヌが周囲から漏れ聞こえる会話に耳を傾けつつ目の前にいるディーに問いかけた。

現在2人は王城内にある執政官執務官専用の食堂にいる。その中でもここは貴族位にある者が使うスペースだ。

分けてあるのはそもそもの食事内容が異なるためと風紀を乱さないためという貴族向きの理由だ。食事内容は、貴族向けのスペースではそれだけの対価を支払うが豪華な食事、またはその人に合わせた食事となっている。

また、貴族で王城内で働いている者の多くは一年や半年程の昼食代を一括で前払いする。当然毎回そこで食べるわけでも固定休以外の休みの日にそこで食べるわけでもなく、基本的に支払った分より食堂で食べる回数は少ない。

それでも問題がないという貴族だけがそのように前払いしているのだ。ディーはフォルセウスが共に前払いをし、宰相補佐として稼いでいるオセロも自身で前払いをしている。

前払いをしているかというのは一種のステータスとなっている傾向がある。

この前払いという制度は、とある貴族が毎回払うのが面倒だ!1年分多いけど払っておくから顔パスで食事を出してくれ!と言い出したことがきっかけである。現代の日本ほどインフラ整備も農業技術も発達していないこの国では、昼食はその日によってメニューだけでなく値段が異なる。自分で細かな金銭のやり取りをしない貴族が面倒だと感じるのも道理であった。

貴族の中でも当然その場で代金を支払い昼食を済ませる者も多く存在する。前払いはかなりのぼったくりなのだ。値段が毎日異なるから1日の値段は高めに設定されており、食べない日もあるのだから当たり前である。

それでも忙しい役職であったりすると、優先的に食事が提供される前払いという制度は非常に有り難く必要不可欠なものであり、オセロも勿体ないとは思ってもこの制度を使っているのだ。

ちなみに、前払いは平民であると使いたいと思っても使うことができない。そのためトッレムは非常に時間を待たされる食堂で食べることは滅多になく、家から自分で作って持ってきている。


「王女殿下の?噂は聞いているよ。」


当たり障りのない答えを訝しく思ったのだろう。小声でさらに尋ねてくる。


「ディールは殿下と親しいの?」


「いや…王宮には行くけど王子宮と王女宮ではかなり離れているし全然会わないよ。」


その答えにオセロの眉尻がへにゃりと下がる。


「王女様お美しいと聞くけどお会いしたことないんだよねぇ。ディールならあると思ったんだけどなあ。」


「え、オセロは会ったことあるのかと。」


宰相補佐の地位に就いて日が浅い方だとは言えその地位に就いているのだ。

オセロは緩く首を横に振る。


「前任の少し前に亡くなった方が僕たち補佐官の中でも王宮方面を担当していたからね。僕はまーったく関わってないんだよ。お見かけしたことはあるけど遠くて顔はよく分からなかったしね。」


確かに王女と宰相補佐官とはいえ内政処理に(いそ)しむ執政官ではそんなに関わることもないのだろう。

1人で納得しつつ、オセロと同様に周囲に耳を傾ける。この食堂は仕事ばかりで取り残されがちになる忙しい執政官の情報収集の場でもあるのだ。


「第一王女殿下が今度はキヌス地方を巡るそうだぞ。」

「ああ、聞いた聞いた。また伝説作るのかい?」

「そうじゃないか?私の領地にも来て欲しいものだ。」

「君の所は無理だろう。遠すぎる。」

「やはりそうだろうな…」


ここは王城ということもあり良い噂ばかりが聞こえてくる。人の目や耳のある場所で王に不利益なことを話す人はいないのだろう。

そんな者がいたらすぐに城から消えていくに違いない。


「王女殿下は人気高いの?」


「ん?ああ、かなり酷かったモルガ街を改善させてから、その後も他の街を改善や問題を解決してたからね。民にとってだけでなく問題を抱えている領地の貴族にも支持されているようだよ。」


オセロの表情からもアーネスシスが嫌われているような印象は受けない。アーネスシスの計画は非常に順調に進んでいると言えるだろう。

そのことに内心で安堵の息を漏らす。


「凄くアイデアが豊富な方なんだね。」


そう一言返したディーは、その口に小さく切った柔らかな肉を運んだ。










次回は1月13日21時です。

気が向いたら登場人物紹介書きます。今は気が向いてませんので多分もう少し時間かかります。

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