66話 火魔法実践1
火魔法の危険性云々は単調なのですっ飛ばして火魔法実践始まりまーす。色々すっ飛ばして多分1週間以上は経ってまーす。
「リアンは全属性の中で火魔法が一番使いやすいでしょう。ですから、よくよく気を付けて使ってくださいね。」
フェリスリアンが一番才能がある属性は火と光、次点で雷水だ。光はいくら才能があっても巨大化か個数が増える程度であり、光の強さは危険なほど強くなることはない。強くしたいのならそうなるよう練習し身につけるしかない。だから、このような初期段階で危険はない。
しかし、火は違う。小さくても危険をもたらす可能性のある火は大きいとさらに威力を増していく。
才能があればあるほど初めてその魔法を使う場合でも大きな威力が出てしまうのだ。
だから一昨日、昨日はリアンに火を使わせないことにした。
◆◆◆
「まず、水球をいつも通り手の平の上に作って下さい。」
「₢₯ᖻᏫᏐᑭ」
火の練習じゃなかったのか、という表情をしつつも、リアンは素直に従って手の平より10cmほど上に水球を出す。
「その球をもう少し上に上げられますか?」
「んー…と、こう?」
ゆっくりとした動きで徐々に上がり、水球はリアンの目の高さ辺りまで上がる。
「そうです!今度はそれを…そうですね、僕の作ったこの水球にぶつかるくらいまで近づけて下さい。ゆっくりですよ。」
リアンから1mほど離れた場所にディーが作り出した水球に向かって、リアンの水球がこれまたゆっくりと進んで行く。
「はい、そこで止めて下さい。この場所をよく覚えて、次はこの場所に水球を出してもらいます。」
今まではリアンは手の平のすぐ上でしか魔法を出してこなかった。水や光は問題ないが、これから行う火や雷魔法では問題がありすぎるのだ。本来はいつもより手の平を身体から離して、いつもより上空に魔法を出せばいいが、それは適性の低い者だからである。
その辺りの説明は既に済んでいる。リアンの適性は高いため初めは特に遠くで火を出す必要があるのだ。
「えっ!むりだよ…」
大丈夫とも無理じゃないとも言わず、ディーはにっこりと微笑みながら首を傾げる。
「火は自分に?」
「ちかづけない!…あっ!これできないと火つかえない?」
「はい、だから頑張らないといけません。まずは、ここ、いつもより少し高いところに出してみましょう。」
◆◆◆
初めは目の高さにも出せなかったが、子供が熱中した時の集中力と上達具合は素晴らしいものがある。
リアンは2日で2m近く離れている場所に出せるようになっていた。
当初の予定より長くなっている気がするのは気のせいだ。リアンが気づいていないのだからそっとしておくに限る。
当の本人が当初の火を使うためという目的のためではなく、純粋に楽しく距離を伸ばしていたのだ。これを予定は越したからと止めてしまうのはもったいないというものだろう。
「きょうは火つかえるんだよね?」
語尾が弾んでいるように聞こえる。一昨日も昨日も楽しく遠い距離から水球を出していたが、この楽しみがあったから続いたという面もあったのだろう。
やはり魔法を発動させる距離を伸ばすのは火魔法を使う前にしておいて良かったと内心でシュリルディールは頷く。
「もちろんです。」
「やっていい?いい?」
「リアンの出来る一番遠いところに出すようにしてくださいね。いいですよ。」
やったー!と全身で喜びを表す様は初めて部屋で会った時のようなおどおどしさや暗さは感じられない。子供らしいリアンの様子にディーは笑みを深める。
「火魔法の詠唱は₪₯ᖻᏫᏐᑭです。」
ディーが出した火の玉は小さく弱々しい。遠くに出そうとしたらどうしてもこうなってしまうのだ。
「いまディーがだしたとこにだせばいい?」
「はい、頑張って下さい。」
一応失敗した時用に薄っすらと水の防御魔法を辺り一面に敷いている。剣も矢も防ぐことのできない水の防御魔法は火に対してのみ効果が高いのだ。
ただ今のディーは、長時間張ることができず、大きな炎となると無意味なくらい薄い水の膜となっているが、そこまで大きな炎は出ないだろう。
リアンはぶつぶつと呟き、火のイメージを高めていく。ディーが言わずとも一度言ったことを忘れずに実践するこの生徒は非常に優秀だ。
「あそこに火火火…₪₯ᖻᏫᏐᑭ!」
2mほど離れたディーが火球を出した上空に大きめの火の玉が出来上がる…
なんて上手くはいかず、
その場所より手前の地面付近に大きな炎が燃え上がる。
「うわっ!」
「っ!」
水の防御魔法は初めて使用されたがほぼ意味なく消え去っていた。
リアンの背を優に超える高さの炎が燃え上がる。思わずリアンは叫び後退する。
「っ!₢₯!」
ディーがそう叫んだ途端、未だに燃え上がる炎に向かって空でバケツをひっくり返したように大量の水が降ってくる。
そのおかげで水はすっかり消えたが、もう今日は火を使うことはできないだろう。
「リアン、大丈夫ですか?」
「うん、だいじょうぶだよ。あれだからとおいとこでやらなきゃだったんだね。」
「そうですね。」
「もういっかい、こんどはちいさくやってみる!」
それに同意したい。したいが本当に申し訳ないができないのだ。
「あ、あの、申し訳ありません。リアン…僕使い過ぎて今すぐ魔法使えなくなってしまって、先程のように水出せなくなってしまいました。あと、水だらけのここで火魔法を使うのは大変ですから明日またやり直しましょう?」
当然のように使っている風魔法に、慣れない火球に、水の防御魔法に、空中に浮かべていた水球に、最後の大量の水。流石に魔法を使い過ぎたらしい。これ以上使ったら問題が出て来てしまう。
それにこの中庭はまるで大雨が降ったかのように水溜りだらけだ。この中で初心者が火魔法を使うのは至難の業だ。
「そうなんだ…」
落ち込んだ声が心に突き刺さって痛い。魔法を使いすぎたために物理的に頭も痛い。
ごめんとしか言えない。
火球ではなく炎となる事を想定していたから空中にいくつか水球も浮かべていたのだ。それで消せる炎の大きさではあった。なのに、空中に浮かべていた水球も水の防御魔法も全て制御出来なくなった。
全て水球も防御魔法もそのまま地面に落下し、咄嗟に無詠唱で水魔法を出せなくなった。
「何故?」
ディーは女官とすれ違いながらポツリと呟く。
総部省の補佐官部屋に向かいながら思考する。頭の中を占めるのは先程自分に起きた現象だ。
火魔法を中断して、水魔法の練習をしたり、リアンと魔法のこと、全然関係ない日常的なことなど話しているうちに、部屋を出る頃にはすっかり魔法を使えるくらいには頭の痛さも和らいでいた。
だからこうして一人で向かっているのだ。一人で良かった。先程までリアンと一緒だと考えられなかったことを必死に考える。
「炎か。」
火は自分自身でも使えるし、光石があるこの国ではマイナーではある蝋燭の火も見たことがある。
でも、あんなに大きな火は見たことがなかった…
「いや、昔見たな…」
昔とは前世のこと、学校の行事か何かでキャンプファイアーしたことがあった。あれの方が火の大きさは大きい気がする。
でも、確かにあの炎を見た瞬間、何かが脳裏を過ぎった。思い出そうとすると自然と頭が痛みを訴えてくる。多分頭が痛かったのはそれもあるだろう。
(炎は確かに良い思い出とは言えない思い出があるけれど…多分それじゃない。)
次回の更新は12月16日21時です。
週一更新に戻ります。諸々終わったのでもうちょっとスパンの短い3日更新等にしようかとも悩んでいます。




