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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
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65話 魔法の危険性(雷)






「今日から火と雷魔法へと移っていきましょう!」


オー!という掛け声でも上がりそうな声音でそう告げたシュリルディールは花が咲くように笑顔になったフェリスリアンの様子に笑みを浮かべつつ空へ上げた拳を何気なさを装いつつ下ろした。

リアンは知らないからオー!という掛け声がなかったことは仕方ない。仕方ないけど何だか1人で盛り上がって少し恥ずかしくなってきたのだ。

リアンの翠の瞳がキラキラと輝いているのは自分の得意属性がやっと使えるようになることに対する期待だ。光も火と同様にリアンは適正バッチリだったものの、光は言うなればただ光を出すだけでいくら適正があっても一定程度を超えてしまうとその適正度の高さを認識しづらい属性であった。

だからこそ火魔法を使えることは高度な魔法も使えることになることと同義であり、リアンはずっとその時を待ち遠しく思っていたのだ。


「ですが」


期待に膨らむリアンの胸の内に陰りが見えたのはそんなディーの言葉だった。


「火魔法や雷魔法はとっても危険です。ですから、その危険さをキチンと分かっていないと使って良いという許可がもらえません。」


「じ、じゃあ、今日はまほうつかえないの?」


「そうなりますね。僕も火と雷はすぐに使わせてもらえませんでしたよ。」


ディーの場合は1日危険さを学んだだけで済んだが、リアンはより深く学ぶ必要があるだろう。それはディーがどちらも手のひら大の大きさしか出せないのに対し、リアンは強大な威力の魔法を使えるからだ。


「そっか…」


座学で学ぶ必要がある。その事に気付いたかは分からないがリアンは誰が見ても分かるくらいにどんよりとした空気を醸し出す。


「リアン、火や雷魔法が危険だと言われているのは何故だと思いますか?」


「えっと、まえにディーが言ってたのは、かみなりは、そらからおちてきて、人にあたったらしんじゃうこともあって、木にあたったらわれちゃうこともあるやつだから…かみなりまほうも人にあたったらしんじゃう、から?」


ああ、確か前に雷について説明した時、電気という概念がないというか、しっかり解明されていないから説明しづらくて、とりあえず危険性を重点的に説明したんだっけ。

この世界にそぐわない知識があるからこその説明のしづらいものは思っていた以上に多い。雷は今のところその第1位だ。あれを電気の説明なしに説明するにはそれによって起こる現象はこんなものがあるよ、くらいしか言えないのだから。


「はい、そうですね。軽いものなら痛かったり、少しの間動きにくくなる程度ですが、雷魔法は強いものだと木は折れますし人は死にます。」


リアンの喉がゴクリと鳴った。


「加えて、雷魔法の非常に厄介な点は、その伝わる範囲、つまり場所の広さです。

雷は伝わりやすいもの伝わりにくいもの様々ありますが、伝わりやすいものが多い場所ですと…そうですね、その木に雷が空から落ちたとします。するとここ、僕が今いる場所まではほぼ確実に雷は伝わります。危険で、死ぬ可能性もありますね。」


その木と呼んだ木からディーまでは1メートルちょっとだ。

それを聞いたリアンはディーの座る車椅子の背を押して木から遠ざかる。思わず笑みがこぼれるくらいにリアンの表情は必死だった。


「り、リアン。今は雷落ちてきませんから大丈夫ですよ。」


「え、でもしんじゃうって…」


「今雷は落ちてきていませんから。雷が落ちることが多いのは暑い日で高く高く積み上がっているような雲が空にある時、そして基本的には雷と同時に雨が降っていますね。」


「そ、そっか…よかった…」


心底ホッとした様子で呟くリアンに思わずディーの口から飛び出た。


「かわいいがすぎる。」


小さな声で呟くなんてものではなく、断言したような口調でそこそこ通常通りの声の大きさで言ったものだからリアンの耳にもよく届いた。

いや、でも仕方ないだろう。本当に仕方ないだろう。

アーネスシス王女殿下、こと明日香お姉ちゃんへの手紙にこの事はしっかり書いておくことにしよう。

誤魔化すように、ありがとうございますと微笑めばリアンはディーを元の場所まで戻してくれた。だが、先程までよりリアンの座る椅子に近づいており、木から少し遠ざかっているのはわざとだろうか。わざとだったら可愛すぎる。


「雷の特性についてはとっても難しくてまだ分かっていないことだらけですので、後々別の機会に詳しく話す事にしましょう。」


コホンと咳払いをしてから話を続ける。いつか雷と電気についてはディー自身の仮説としてリアンに話すつもりだが、今の年齢では理解は難しいだろう。下手に難しい話ばかりしてこれ以上勉強に嫌悪感を抱かれる事態にはなってほしくないのだ。


「魔法としての雷は、基本的には先程まで言った人が死ぬほどまでの強いものは出せません。ですが。」


ディーは風魔法を使い、落ちている太めの木の枝を地面にぶっ刺すと、手のひらの上に光魔法にも見える球を出した。


「これが雷魔法です。触れたら危険ですから、水魔法の球より離れて球を出しているでしょう?…これをあの枝の上から落とします。」


雷魔法は慣れていないから練習したのだ。物凄く小さい球だが、時折バチッと音と共に球から何かが飛び出る。これがこの球が光ではなく雷である証拠とも言える。

ディーが使える雷魔法は球を移動するのと、落とすの、そして線状に飛ばすくらいだ。どれも威力は弱い。人に直撃させたら数秒動きを止められるかもしれない程度だ。

ゆっくりと枝の上に移動した雷の球は、数秒そこでゆらゆらと蠢いてから落下した。


バチッという不快感をもたらす音がした。


結果的に枝は倒れたが折れなかった。しかし、白っぽい茶の色をした枝は雷魔法を浴びて、特に先が黒っぽく変化していた。

木の枝を手元まで引き寄せると少し焼けた匂いがする。


「この木の枝は割れはしませんでしたが、このように焼けました。今回僕は非常に弱い魔法しか使っていないのにこの結果です。僕の適正度ではこれくらいが限度ですが、リアンは適正が高い方ですからあの大きな木を割ることも出来てしまうでしょう。」


手渡しで焼けた木の枝をリアンに渡す。それをまじまじと眺め、黒く煤けた場所をなぞる。そこはもう電気は溜まっていない。


「もし木ではなく人なら…と考えてみてください。」


「…怖い、ね。」


「はい。それと、雷魔法を使う時には自分が感電…いや、この枝みたいに燃えないようにしなければなりません。」


「さっきディーの手とかみなりのたまが、とおかったみたいに?」


「そうです。自分の手がこの枝みたいなったら大変ですからね。」


雷属性に適正のある人はそれだけ雷、つまり電気に対する耐性も強いと言われているがこれは必ずしもそうであるわけではないらしく、個人差があるらしい。よく分かっていないのは実証研究がなされていても危険なためあまり進んでいないからだ。


「では、これまで僕が話したことを通して、雷魔法を使う時に注意することは何でしょう?」


これはちょっと難しいかもしれない。だが、これを言えなければならない。


「じぶんにちかづけちゃダメなのと、ひとにやったらしんじゃうのと、木にやったらくろくなっちゃうのと、われちゃうのと…」


「うん、合ってますよ。あともう1つです。」


「えっと…とおくないとかみなりあたっちゃう?」


ディーはパチパチと手を叩く。リアンは嬉しそうにしながらもどこか誇らしげだ。やはりこの子は頭が良いのだろう。


「そうです!全部合ってます!」


これくらいの年齢の子供に対して、していいこととしてはいけないことを説明するには、大まかにこれはダメと言うより細かな事象をダメとした方が理解されやすい。

しかもこれは魔法という人の命を左右する事柄だ。人にされて嫌な事は…なんて次元を超えている。

もっと何年も10年くらい後になったら、戦争に駆り出されることになった時などの戦いの場面では人に当てることもあるだろう。王子であるリアンにその機会があるかは分からないが、ないとは言い切れない。だが、今は人に当てちゃダメで良いし、そうしなければならないはずだ。


「リアンの今言ったことをもっと詳しく説明していきます。」


「もっと?」


「例えば遠くないと雷魔法は自分や他の人にまで伝わってしまいます。どれくらい遠くないと伝わってしまうか、どれくらい遠ければ大丈夫なのか。それを知らなければならないのです。」


うんうんとリアンは頷いているから分かったのだろう。


「では、危険なのと、僕の適正が低いために大きな球が作れないので、代わりに光の球を使いますね。」


そう言って小さいものから大きいものまで並べて光の球を計10個空中に出す。

その内の一番小さなもの、先程ディーが出した雷の球より少し小さいくらいだろうか、が並べられた光の球の中から降り、地面に落ちる。


「普通のこう言った土に雷魔法を当てた場合…」


その光は地面に広がり、直径15cm程度の円となる。まるで太陽の光を反射した丸鏡が地面に光を映しているかのようだ。


「あ、わかった!この光ってるとこは、かみなりがあたるとこ?」


「正解です!」


この日は雷魔法の危険性の説明で終え、リアンは魔法を使うことはできなかったがその顔に嫌悪感は見られない。

その事に安堵を覚えつつ、ディーはディスクコード邸に帰宅する中で明日からの数日間も続く危険性の説明のスケジュールを頭の中で組み立て直した。










火魔法については次回やります。


次回の更新は12月9日21時です。

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