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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
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64話 許可と申請書






アーネスシス王女との手紙のやり取りは続いている。国内の味方を増やすための布石を置くための計画。

流石に領地経営に関してアドバイスをして上手く軌道に乗ったとしても、何処もが国王派になるとは限らない。だからこちら側に来そうな、元々貴族派に縁や恩が薄い人物を選ぶ。

加えて、第一王女が訪れても問題のない場所であり、許可が出る場所である必要がある。

2人でやり取りをした結果、次のアーネスシスの巡察は国王派の中小貴族のとある二ヶ所訪れることに決まった。

貴族派の中小貴族を揺るがすための布石だ。大貴族だけではないということを見せつける意味合いがある。


裕福は伝染するし、貧困も伝染する。

このミリース国の昔からあることわざ「富は友までを富す」、富める者は周囲にいる人達までもを裕福にしていくという意味の通りこの国の人達はそれが一般常識化している。

金があっても貯金しかしないのなら話は別だが、基本的に金のあるところに金の大きな流れが起こるのだから理屈的に考えてもそう間違っていない考えではある。

だからこそ、ヤムハーン国に嫁ぐアーネスシスが富める原因だとしてもこの布石は前世の世界、日本等を基準に考えるより一層効果をもたらすのだ。

日本も流されやすい国民性があるとは思うが、情報も少ないこの世界ではそれ以上に流されやすい性質があると考えて良い。


これからアーネスシスは中小貴族領地への訪問の許可をもらうための案を考えると書いてあった。ここをシュリルディールが共に考えることはしなくて良いと予め言われていた。

アーネスシスの訪問は今まで3回ある。その時の知識があるから別に少し頭が良いだけで素人のディーの助けは要らないのだろう。

アーネスシスは無事に許可をもぎ取るとシュリルディールは信じている。だが、それまでは最低でも1ヶ月はかかるだろう。特に安全面を意識した計画を立てる必要があるし、受け入れる側の貴族の許可はもちろんのこと、関係のないように思える貴族の許可まで必要になる。

王族は自由奔放に動くことができるわけではないことをよく実感させられる。王族の権力が物凄く強ければ別だろうが、この国はそうではない。

遠い昔の日本…例えば平安時代の摂関期ほど、外祖父と言えど臣下が権力を持っているわけではないが、王と対立できるだけの権力を持ち合わせている貴族がいる時点で王族の権力が強くないのは理解できるだろう。

先程は許可と言ったが、実際に関係のないように思える貴族に許可をもらいに行くわけではない。王と滞在する領地の領主は許可が必要だが、流石に王族の行動が貴族に制限かけられているわけではない。

アーネスシスが動いたら、貴族派にとって良くない事態に陥りやすいことを知っている彼等は、正妃や自身らの官職の職務にかこつけて様々なことを言い勘繰りをかけてくる。阻止しようと動いてくる。その勘繰りや動きを上手く回避して最終的に黙認という形に収める。それが出来たらやっと憂い少なく領地訪問に向かうことができるのだ。

だからなくても行くこと自体に問題はないが、後々それを持ち出されると困った事態になる。最悪向こうの要求を呑まされることになるのだ。

これ以上貴族派に権力を強くされると本格的に国の分裂の危機だ。そうなっては本末転倒だからこそアーネスシスは回りくどく時間がかかり面倒であっても決してそれらを疎かにしないのだ。




(ああ、しまった。思考が脱線しちゃってた。)



シュリルディールは首を緩く振り目の前の文字に焦点を合わせる。

そこにはノルマーク・クメリレンスの名が記してある。この国有数の大貴族クメリレンス伯爵家の当主だ。


現在ディーは総部省大臣補佐官部屋にいる。

手元には多くの書類。これは広部省からの伝達方法に関する申請書だ。

この申請書と共に提出されたと思われる、細かに記された新方法の説明やメリットが書かれた書類がおよそ15枚程度の束。それらが本当に上手くいくのか、デメリットは何かなど総部省の熟練執政官と執務官が調査し記したものが20枚程度。

以上の書類等から申請を是認するか棄却するかを決めるのが総部省大臣であり、またその補佐官である。大臣は宰相としての仕事もあり忙しいため、補佐官が自身の賛否等の意見と共に簡潔にまとめて大臣に提出するのだ。

ディーはまだ新人で子供ということもあり、このような通常業務は基本的に熟練の執政官や執務官から上がってくるものを担当している。

この間の補佐官自ら動いた監査は例外だ。補佐官は上がってきた資料を読んで書き加え上に上げる仕事、つまり事務仕事を主に(おこな)っている。この間の監査は他に任せるわけにはいかなかったことだった。そうでない限りはこの城から出て仕事することは少ない。大臣の供として行動するときくらいだろうか。


クメリレンス伯爵家は広部省大臣を代々受け継いでいる。広部省は国が決めた取り決めやルール、様々な報告等を平民達に広報する役割を担っている。また、100年ほど前からは加えて馬車や人力車、郵便等のインフラの一部も担当するようになっていた。

そんなクメリレンス伯爵家当主はかなりの高齢であり、確か大貴族の中で一番の長齢だった気がする。クジェーヌ宰相よりも歳上だ。

そんな伯爵は貴族派の次点を担う国王派にとって厄介な人物だ。しかし、この人の後継にあたる唯一の嫡子セビッツマークは明言はしていないが国王派か中立派だ。だからこそこの家に関しては何かするより時の流れに任せればこちらにとって良くなっていく。

だが、まだノルマークは健在。ネチネチと揚げ足を取るのが上手いタイプだ。アーネスシスが気をつけるべき貴族の1人。

だからこの名前を見たとき、ディーの思考はアーネスシスとの手紙の内容に移ってしまったのだ。


まあ、そんな言い訳めいた弁明は止めておこう。

先程あまり良い言い方をしなかったが、ノルマーク・クメリレンスは仕事に関して有能だ。有能だからこそ脅威になっているという面もある。今回の申請に関しては一執政官等が提議したものであるが、総部省に来るまでに広部省内でこちらと同様に補佐官に提出され、更に大臣にというルートを辿っている。

何処でこういった分かりやすい書類の作り方になったのかは分からないが、広部省からのものは非常に分かりやすい資料が多い。

広報が主な仕事だということも理由だろうが、ノルマークが大臣になってからより分かりやすくなったそうなので彼が貢献したことは間違いないだろう。


書類の上部分に重要度を示す1から5までの数字を記入する。これは特に早く受理する必要のあるものではないから3だ。その隣に広部省を示す広を○印の中に記す。

そして、その下に本文、計35枚分を要約した文章を記していく。

字が上手くなりたいとの思いと共にぴったり1枚に収めた後、それを1番上に、その次に上がってきた申請書を2番目、広部省からの15枚、総部省からの20枚を重ね、左上部に穴を開け紐を通してある程度硬めに結ぶ。


これで今のところこの申請書に対するディーの仕事は終わりだ。あとはクジェーヌ宰相に提出し、その後、その結果を広部省に伝えるように執政官に伝える。


次の申請書は魔法省からだ。

魔法省は軍事部と研究部に分かれる。その内の研究部の方からの申請だ。

勿論ながら研究は国の施設か城で行われ、国庫からそのための物資や金銭が出る。だからこそ、新規の研究内容に関しては総部省や王の許可が必要である。

それは当たり前と言ったら当たり前であるが、同時期にいくつかの研究を行う研究者が殆どであるため、このような魔法省からの申請書は多い。

先程と同じように魔法省職員の情熱が垣間見える分厚い詳細とメリット、それに対する総部省執政官らの調査報告が添えられている。


分厚いだけでなく、専門的な理解も必要であるため、このような申請は終えるまで時間がかかる。なのに、多くは棄却される。総部省補佐官まで上がって来たということは見込みがある申請内容なのだろう。


シュリルディールは大きく深呼吸を1つし、メモをとりながら目の前の難題に思考を沈めた。










事務作業もしてるんです。


次回の更新は11月25日21時です。


最近章題通りの内容じゃないですね。多分次くらいに教師に戻ると思います。

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