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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
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60話 初めての邂逅






シュリルディールは気を引き締めながら、目の前で優雅に微笑むアーネスシス王女に微笑み返す。


「貴方とは一度話をしてみたいと思っていましたの。噂がよく届いてくるものですから。」


「僕の噂が殿下の元にまで届くとは…それは光栄ですね。」


アーネスシスの父母弟と交流を持っていて彼女に噂が行かないはずがないと知っているが、様式美というものである。

加えて、噂がどのようなものであるかは分からないが後ろ暗い噂など存在しませんと示す為に光栄ですという言葉で良い噂が届いているのですね?と返した。


それに満足したのだろうか。

アーネスシス王女はフッと笑いを溢す。どこか妖艶で13というその年齢に似つかわしい笑みだ。


「2人きりで話させてくれる?護衛も影も要らないわ。話を盗み聞きするのもなしよ。」


「姫殿下!それは…!」


当然ながら抗議の声が上がる。


「シュリルディールは信用できる人物ではないと言うの?それにこんな幼い子供よ。問題あるかしら?」


普通なら男女2人だけで1つの部屋にいるのは不味いが、片方は4歳児である。幼児はノーカンだ。

侍女や護衛達もそう思ったのだろう。


「…いえ、会談が終わりましたらお呼びください。」


護衛の騎士が精錬された動きで退室した後、王女付きの侍女達だけあって綺麗なお辞儀をして次々と部屋から去って行く。


「ケイ。ケイも倣って。」


ディーだけ護衛を残すわけにはいかない。残したらそれは貴女を信用していませんとこの国の王女に向かって言っていることと同然だからだ。


何の話をされるのか。


側から見てディーは怪しい子供だ。

家柄や血筋は申し分ないが、4歳児ではなし得ないことを幾つもしている。いくら本が好きで沢山読んでいるからと言って通用するレベルを超えている。

それでも何も言われなかったのは問題なかったからと都合が良かったからだ。


多分これに関する話をされる。そんな予感がした。

まだ顔が割れていない新人を使者にしたこと、ディーが書庫にいる間にその使者を寄越したこと、通常では考えにくい即時会合、この会合場所。

貴族派に突っかかれずに会うだけならば王やペリポロネシス側妃を通じて会えばいい。そうしなかったということは彼らにも知られたくなかったということだ。


つまり、彼らに信用されている人を自分が疑う行為をこれからするから、ということだ。






と思っていた。



「さて、シュリルディール・ディスクコード。貴方に聞きたいことがあるの。答えてくださるかしら。」


疑問文の形なはずなのに疑問口調ではない。拒否権はないことがありありと察せられる。

ディーはそっと唾を飲み込んだ。


「はい、構いませんよ。」


いつか通ると思っていた、分かっていた道だ。今までつっこまれなかったのが不思議なくらいなのだ。

どのように聞かれるだろうか。

色々と思い当たる節があるのも困ったものだ。4歳児とは思えない所業を幾つもおかしているのだから仕方がないが。

ディーは聞かれることの予想を立て、それに対する答えを頭の中で組み立てていく。この部屋に向かう途中でもずっと行なっていたことだ。


王女が口を開く。




その言葉は意外だった。




全く考えていなかったと言えば嘘になる。



だが、あり得ないと断定できないのに、それはないだろうと決めつけていた。




「貴方前世の記憶があるのよね?」



その言葉は意外すぎたのだ。


カタンと車椅子が揺れたのが分かった。

揺らしたのは他ならぬディー自身。

不意を突かれて反応してしまったことに内心で舌打ちをする。だが、表情は微笑みを浮かべたまま変化していなかったことは幸いだった。そのまま軽く目を見開き、首をかしげる。


「…前世、ですか?」


自分では反応を出来る限り抑えられたと思ったのだが、出来る限りでは足りなかったらしい。

アーネスシス王女はにっこりと笑みを浮かべて確信に満ちた声で告げる。


「ここには私と貴方以外いないわ。真実を言っていいのよ?」


ディーの頭の中は高速で回転していた。

アーネスシスは初めからどこか断定しながら聞いていた。おかしい子供だから前世がある、と結論付けるような性格ではない、と初対面ではあるもののディーは目の前の人物をそう評していた。

だからその結論に至った理由が別にあるのだ。

この国、この世界には前にも前世持ちがおり、前世持ちであることを公言していた…これはないだろう。それならば王や宰相から話が出るはずである。

王が知らず王女が知っている。この条件のクリアが必要だ。

それに合致するのは…


(もしかして…?十分にあり得ることではある…)


ディーの頭が1つの答えを導き出す。

そうだと思った途端それ以外考えられなくなるくらいの推論。

それを裏付けるかのように肯定するかのようにアーネスシスの口が開く。


「『うーん…通じるか分かりませんけど、こうするのが手っ取り早いかしら?』」


「『やはりそうでしたか…』」


そう声が漏れたのも仕方がないだろう。

アーネスシス王女が口にした言葉は日本語だった。

前世があるイコール異世界人で日本人、とは限らないが賭けに出たのだろう。

その賭けは成功した。


アーネスシス・ミリース(13)

シュリルディール・ディスクコード(4)


2人は紛れもなくこの世界にとは異なる世界で過ごしていた過去を持っていたのだ。


「『あ、通じたのね!なら日本語で話しましょう!まさか日本人だとは…あ、日本って分かる?同じ日本語使ってるけど全然別の世界という可能性もあったわね。』」


先程までの決して多くを語りそうもない王女然とした姿は一瞬で消え、お喋り好きな女性へと変化する。


「『は、はい、日本人でしたよ。えーっと、そうですね…僕が覚えている限りですが、西暦20××年、和暦平成××年の8月××日までは覚えています。』」


「『私も同じ日まで覚えているわ。ちなみに私は福井県××市出身ね。同じかしら?』」


つまり、死んだ記憶はないが、おそらく2人は同じ日に死んだということだろう。


「『場所は異なりますね。僕は××県です。福井には行ったことがありませんね。』」


「『何故私が前世の記憶を持っているのか不思議だったけどその日に何かあったと考えるべきかしら。

あ、そうだ。自己紹介しましょうか。私の前世は柳城明日香。普通の独身OLだったけれど、病気にかかって、多分それが原因で29歳で死んだわね。』」


自分が死んだというのにそうとは感じさせない笑顔でカラリと笑う。多分今まで見てきた笑顔は偽物でこちらが本物の笑顔だろう。


「『僕は本郷美奈。○○高校3年でした。何故死んだのかは覚えていません。』」


ディーはアーネスシス、柳城明日香のペースに流されてばかりだ。


「『○○高校ってすごい進学校じゃない!私が務めてたのは…あれ、ちょっと待って。』」


「『?どうかしました?』」


ディーは首を傾げる。何か引っかかることがあったのだろうか。


「『シュリルディール殿って前世は女だったの?』」


「『ああ!そのことですか。女から男に変わりましたよ。』」


「『前世は単なる前世だものね…性別が変わることだってもちろんあるわよね…』」


この国は男尊女卑の傾向がある。昔の酷かった頃の日本ほどではない気がするが、アーネスシス王女も王子になりたかったのだろうか。


「『…性別が変わるのは大変そうね…』」


いや、そうではないらしい。逆だった。憐れられている。


「『今のところ不便はありませんよ?前世より可愛い顔立ちしてますし…

アーネスシス殿下のことは何とお呼びすればいいでしょうか?僕のことは美奈でもディールでもどちらで呼んでも構いませんよ。』」


先程の殿付けされたことを思い出しそう付け加える。日本語で殿付けされると何となくむず痒く感じてしまう。

それは目の前の女性も同じだったようだ。


「『そうね、日本語で話す時は美奈ちゃんで、普通に話す時はその時に合わせるわ。私のことはお姉ちゃんって呼んでくれるかしら?』」


「『お、お姉ちゃん、ですか…?』」


ヒクリと頰が揺れる。


「『そう!美奈ちゃん、Repeat after me!明日香お姉ちゃん!』」


「『あ、明日香お姉ちゃん…』」


殿下呼びがむず痒いだけならお姉ちゃん呼びが良い理由はない。だから多分この見た目が美少女の子にお姉ちゃん呼びをされてみたかったとかいう理由だろう。

お姉ちゃん呼びは前世で沢山してきたから照れはないが、これはこれでどことなくむず痒い。

だが、従姉弟なのだからお姉ちゃん呼びは決しておかしい話ではない。普通だ。うん、普通にあることなはずだ。


「『よろしくお願いします、明日香お姉ちゃん。』」


懐かしさと同類に出逢えた嬉しさから、ディーは頬を染めつつ、今までで一番柔らかい笑顔を浮かべたのだった。









それを向けられたアーネスシス、もとい明日香は内心悶えてまくっていたのだった。


まだ2人の話は続きます。

今回、『』内が日本語です。


次回の更新は10月14日21時です。

登場人物紹介ずっと作ってないんですよねー…時間が欲しいですね…

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