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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
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58話 詠唱文言






幼い子供の吸収率はびっくりするほど高い。

それをシュリルディールは実感していた。


「さて、今日は光魔法を覚えていきましょう!水魔法とあまり変わりません。最初の₢₯(水よ)が…」


そう、本日からフェリスリアンの魔法練習は水魔法から光魔法へと移る。

魔水晶に触れてから5日しか経っていないというのに水魔法の中でもこの小さめの中庭で出来るような詠唱文言は全て覚えて使えるようになってしまったのだ。

いや、おそらく幼い故に柔軟に何事も吸収する頭脳というだけでなく血筋もあるのだろう。フェリスリアンの父はルドルフェリド国王だ。

彼は常に学園でも成績トップであったと聞いている。血筋と頭の良さに因果関係があるのかどうかという問題に関して特別ディーは前世で調べたこともなく、興味もなかったが遺伝子等を考えても少しは関係あるのではないかと考えている。他に、すぐに魔法を使えるようになったのは、これは流石に血筋が関係していると思われる。魔法自体血筋との因果関係が強いという統計結果が出ていることから、その魔法の上達度も血筋が関係していると考えても良さそうだ。

フェリスリアンは魔法において頭脳において言うなればサラブレッドなのだ。ただ、覚えるのが嫌いと言って詠唱魔法を一切使えないシュリアンナという存在がいるので一概には言えないが、彼女は魔法に才能全振りされたのだろう。


ディーは別の誰かが見ていたら怒られかねない中庭の地面に座るという行為を2人でし、白い石を片手に地面の黒っぽい石に擦り付けていた。

そこに記されたのはꙭᏁњという記号である。


「これに変わるだけです。これは光よという意味で、ꙭᏁњ(光よ)ですね。」


「目みたいだ。」


石に結構はっきりと記されたその詠唱文言を見てリアンがポツリと呟く。そしてディーが書いたꙭᏁњの下に拙いながらも同じように手にした白い石で書く。

白い石は一部以外は布で覆われており手が汚れたり傷つかないようにはなっているが、多分王子の教育法としては少しおかしいのだろう。

けれど仕方がない。何か既製品を使って教えるより、自然の中で石を使った方が楽しいのだ。

中庭にしゃがみこんで落書きのようなこの行為をする前に一応リアンには、本当はいけないことだから2人の秘密です、と伝えてある。その時2人で顔を見合わせて人差し指を唇に当てて悪戯っ子のような笑みを浮かべ合ったのは記憶に新しい。

ノートに書くか石に書くかと違いだけという話ではあるが、その違いは精神的に大きい。

ディーにとって、詠唱文言という日本人からしたらちょっと複雑な記号を石に書き記すという行為は少し前に有名で学校でも養護施設内でも人気のあった小説原作ドラマ『ガリ○オ』のとある教授になれた気分で嬉々として書いていた。リアンはそれを真似てか分からないが同じように嬉々として書いていた。ノートに書いていた時にはそんな楽しそうな表情を浮かべていなかったのだから心情的には 大きく異なる説は正しいと言えるだろう。


さて、何故書く(・・)必要があるのか。

わざわざ文言を書かずとも発音できれば良いではないか。そう思うだろう。

しかし、それは詠唱文言の学園での学び方と複雑性にある。

学園では詠唱文言は全て書いて読めなければならない。加えて意味も分からなければ魔法の講義は途端に付いて行けなくなるだろう。

詠唱文言の読み書きなど日常生活で使う機会はほぼない。だと言うのにその面倒さは一入だ。


魔法の詠唱とは新たな言葉を覚えるようなものだ。いつからどうやって伝わったのかは昔から根付き過ぎて不明。その言語を用いて日常会話をするにも言葉が少なすぎて難しい。

分かっているのはこの言葉この発音で言った時にこの現象が起こる、ただそれだけだ。

例えば₢₯(水よ)と記されるが、この₢₯(水よ)と書かれた文字は後になってから当て字のように付けられた文字であり、「水よ」というミリス語訳はおそらくこうであろうという推測から付けられた訳だ。

だから、ᖻᏫᏐᑭ(球となれ)の「球」と「なる」がどれを表しているのかは分からない。このᖻᏫᏐᑭ(球となれ)全部で「球となれ」を表しているというのが分かっているのみだ。

他に「球」の意味だろう詠唱文言があれば分かったかもしれないが残念ながら「球となれ」以外に「球」を使ったような文言はなかった。

つまり、詠唱文言の読み書きに使われる言葉は言うなれば発音記号のようなものなのだ。だから詠唱文言の発音と別個に覚えるより読み書きも共に覚える方が効率が良いし楽だ。

どうせいつか覚えねばならないのだから共に覚えるべきだというのがディーの判断だ。


ただそれには1つ弊害がある。

リアンに詠唱魔法を教えるとは、まだ完全にミリース国内で使われているミリス語を理解し使えてはいない子供に新たな言語を教えているようなものだ。ごちゃ混ぜになってしまう恐れがある。

まあそんな事はリアンにあの石を使わせる許可を得た時には既に王達へプレゼンし許しを得ていた。ミリス語の読み書きをリアンが大体できることもあるがごちゃ混ぜにさせないようにするとディーが誓ったのも大きい。

ちなみに、無詠唱魔法を初めから教える案も共に出したがそちらは一瞬で却下されたことを付け加えておこう。





さて、リアンが覚えた水魔法の詠唱は全部で10種類だ。

一番初めに覚えた水球という名の魔法や、噴水、放射水、浮揚水などである。それらに加えて、例えば₢₯(水よ)ᔌФѯ(大きな)ᖻᏫᏐᑭ(球となれ)Ꮼᘔᘜ(飛び出よ)というように水球の定型文言にᔌФѯ(大きな)を付け足すことにより水球が大きくなる、といったように詠唱文言の中でも強調詞と呼ばれる詠唱文言を多く覚えてもらった。

これらは非常に使い勝手が良い。複数付けることで更に巨大化したり数がより増える、飛び出る速度が速くなる、途中で曲がるなど。これらがなくては魔法は発展しなかったのではないかと言われるほど重要なのだ。

よって、リアンは10種類の水魔法を覚えたが、強調詞を使うことにより更にレパートリーが増える。数えるのも面倒なほどには種類豊富となっている。

それらをどう組み合わせればどういった結果になるのかというのを実験のように2人で色々言い換えて魔法を使い、時に地面にしゃがみ込んで石で落書きをする。

多分(はた)から見たら遊んでいるようにしか見えないくらいには和気藹々と歓声を上げながら魔法を覚えていたと思う。


だからだろうか。リアンにはディーとやっている魔法の練習は勉強とは別物と考えているらしい。

その事を報告書に記して提出した際、ルドルフェリド王から抱き締められた。顔は見えなかったが、泣き声と離れた時に目が赤くなっていたことから酷く感動したのだろう。この程度でとは思わなくもないが、次代の王候補だ。今までの教育係のアレコレのせいで物凄く心配していたのだろう。うん、大の大人が泣くほど心配してたのだ。

そんな事が脳裏によぎり1人内心でクスッと思い出し笑いをしていると、その袖を軽く引っ張られた。

その方向を見るとキラキラとした目で早く早くと訴えかけられた。読み書き練習もとうに終わっていた。

その様子に、ディーは今度こそクスッと声を漏らして笑う。


「では、光魔法の詠唱を始めましょうか。」



そして、今日も2人の魔法詠唱が始まった。










次回は申し訳ありませんが、論文が忙しくて時間が取れないので1週お休みになります。

よって、9月30日21時更新です。


ほのぼの勉強回も飽きてきたのでちょっと新キャラ登場させる予定です。

とは言っても名前だけは多分彼方此方で出てきているキャラですが。

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