5話 謁見
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上を見上げると見えるのはどんよりとした雲に覆われた空。
今は雨が降っていないが時間の問題だろう。
まるで今の自分の気持ちそのものだと馬車に乗る前に見た景色を思い出しながら現実から目をそらす。
現在シュリルディールは馬車の真ん中の席に座っていた。窓から丸見えの端の席は何かあった時に対応できないからと、あまり座らないそうだ。目の前の父へと視線を動かす。右前にはいつも使っている車椅子が固定されていた。
「お父様…帰りたいです。」
眉を下げうるうるとした瞳で見上げるが、父は一瞬狼狽えたものの、ディーから目を逸らしながら告げる。
「気持ちは分かるが、我慢しなさい。陛下は結構フランクな人だからディーなら大丈夫だ。」
(やっぱり泣き落としは効かないか…)
内心軽く舌打ちをしながらこれからやらねばならないことを考える。
(秘密にするとは言え、王には伝えなくちゃならないもんね。分かってはいるんだけど…憂鬱だな…)
空間魔法を創り出したことは秘密としたが、王には伝えなければ後々バレた時に面倒な事になるし、対策を講じる時間を得る必要がある。第1騎士団長であり公爵家当主の父として伝えないという選択肢はないのだろう。
それにはディーも賛成だ。伝える理由もしっかり分かってはいる。
だが、気持ちが付いていくかは別問題だ。
馬車に乗って5分程で王城内の馬車置き場に着く。王都内のディスクコード公爵家の屋敷は王城から非常に近い位置にあるのだ。
父付きの使用人ハラルドが降ろした車椅子の上に身体を降ろされてから、改めて王城を見上げる。
空はどんよりとした色である為か、より物々しい雰囲気が感じられる。薄いクリーム色と深い赤の城は、普段は落ち着いた綺麗さを醸し出している。それが空の色程度でガラリと変化するはずもない。完全にディーの現在の心情の影響だ。
(前世で見た城より大きいなぁ…)
美奈が見たことがある城は日本の城。美奈は外国に行ったことはなかった。日本の城は天守閣だけ残っているもの等で全て残っているものは少ないし、全部残っていたとしてもここまでは大きくないだろう。
今まで見た中で一番この城に近いのはこの間行った学園とディスクコード公爵領地にある屋敷だろうか。
この世界の建物は縦に小さい訳ではないがそれ以上に横に大きい。細々と密集し縦へ縦へと伸びていた前世の建物が少し懐かしい。
ディーはハラルドに車椅子を押されながら父の後に付いていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
父が扉の前の衛士に話しかけると、ディスクコード公爵閣下とご子息がいらっしゃいました。との声と共に扉が開けられる。
入ったのは豪華な会議室。低めのテーブルに三人がけのソファが二つ、対面になるように並んでいる。ドアから離れた方のソファの中央に一人の30代程度の男性とその後ろに数人の衛士と一人の文官らしきお爺さん。
ソファに座っている母によく似た銀髪の男性がルドルフェリド陛下、後ろにいる人物が父の部下の近衛と宰相だと一瞬のうちに把握し、父と共に頭を下げる。
3歳児には到底場違いな胃の痛くなる時間の始まりだった。
おそらく父が伝え忘れたのだろう。はじめにディーが車椅子の為、深い赤に金の縁という高価そうなソファを移動する必要があった。
だが、そのおかげでその場の空気が緩む。加えて、ディーにとって陛下は伯父であるし、父と陛下は親友ということもあり、比較的和やかに話が進んでいく。
父が概要を説明し終え、質問も済んだ所でルドルフェリド王はディーを見つめた。
「シュリルディール君。空間魔法を見せてもらっても良いかい?」
「は、はい。」
心の奥まで見透かされそうな瞳に声が少し震える。
今回見せるのは魔力を入れている空間ではなく、別に作った兎などを入れて色々と試していた空間。
テーブルの上のクッキーを一つ取り、それを後ろにひょいっと投げる。
すると、クッキーは跡形もなくその場から消えた。
近衛は目を見張るが、王と宰相はそこまでの反応は見せない。流石だと思いつつ口を開く。
「見ることも感じることもできない空間にクッキーを入れました。」
「ほお。見事だな。取り出すことも可能か?」
「はい、っと、こんな感じです。」
ごそごそと空間に手を突っ込みクッキーを取り出す。思ったものが取り出せるなんて機能はない。本当にただ目に見えない大きなバッグだ。
「これは…皆が使えるとなると警備を見直さねばならないな。」
(そう。だから、なるべく秘密にすべき。転移魔法も創ってみたいけどそうしたら更に面倒になるかな。公爵家に生まれていなかったらどうなっていたことやら。)
ごくりと唾を飲む。
長く生きる為の代償は何だろうか。
この魔法の価値はそれなりに分かっている。
価値があるものは争いと怖れを生む。
それだけではない。
この魔法は特に犯罪を犯す点において優れ過ぎている。
どんな事をふっかけられるだろうか。
心臓が早鐘を打つ。
だから、
「欲しいものはあるか?」
その言葉に一瞬思考が停止した。すぐに唇を少し尖らせ視線を下で彷徨わせる。
(んー…?ちょいと予想外。口止め料諸々含んだ褒美かな?ちょっと探ってみようか。)
内心のホッとした気持ちと見極めようとする気持ちをひた隠し、チラッと陛下を見上げて答える。
「空間魔法は僕自身の為に創りました。だから創ったからと言って何かを貰うのは違うと思います。」
そう言うとルドルフェリド王は目を細めてディーを見つめた。
「創るという行動にはどんなものでも自身の為が含まれているのではないかな?そんな事子供が気にする事ではないよ。」
優しい物言いの中に確かな意志と一筋縄ではいかない性格が読み取れる。
(やっぱりこれは恩を着せるのが目的かな。さて、頼むのは許容範囲ギリギリのところが良いけど…)
頭にふとよぎったのは此処に来るまでの道。
「それならば、王城内の書庫の本を読む許可が欲しいです。」
王城内の書庫への入場許可。
これは同時に道は制限されるだろうが王城への入場許可でもある。
(空間魔法の持ち主を取り込むのか、遠ざけるのか。どちらかと言うと家族と離れたくないし取り込む方向に動いて欲しいんだよね。)
「書庫か。」
陛下の顔に興味深そうな笑みが浮かぶ。3歳の願うものとしては普通とは言えない。
だが、属性を創り出した時点で普通の子供と見られるはずもない。それでもあまり子供らしくない行動を取り続ける訳にもいかない。
「ここに来る途中で本沢山見たので読みたいなって…」
恐る恐る不安そうに目を揺らしながら陛下を見上げる。
可愛らしい見た目と相まって破壊力が半端ない。隣の父が悶えているのが目の端に映った。しかし、目の前の人物には目立った変化はない。
「ふむ、良いだろう。書庫の地下一階と一階、二階の本をいつでも読めるようにしておこう。」
書庫は地下二階もある。そちらは流石に駄目ということだろう。
(思っていたより広い範囲を許可されたか。取り込む方向に行けたということかな。元々家系的に遠ざける事はないとは思ってたけど、この足だとそうとは限らないからね。)
「ありがとうございます!」
できるだけ無邪気に。
良いように使われないように。
だが、警戒されすぎないように。
子供らしく。
そんな事を思いながら初の謁見は終了した。
次回は8月20日21時更新です。