55話 英雄物語
キリが悪いのとどの魔法をどのくらい使えるかちゃんと決まってない為今までの中でもダントツくらいに短くなりました。
ご了承下さい。
シュリルディールはフェリスリアン第二王子の教育係である。
教育係としてこれからの指針、フェリスリアン王子の教育方針を決める必要があった。今までの教師とは異なる方針であることを熟知しているからこそ、何か言われる前に王や宰相各所に教育方針を書き出して提出して暗に許可をもらっておこうと考えているのだ。
一つ、何よりもフェリスリアン殿下の意思を尊重する。
一つ、無理に机に向かわせない。
一つ、遊びの延長の勉強を意識する。
一つ、なるべく身体を動かさせるようにする。
一つ、信頼関係を構築する。
この辺りだ。理由は言わずもがなだろう。
身体を動かすようにするのは単純に弱い身体より強い身体である方が良いからだ。これから命を狙われることもあるだろう。リアンの魔力量は多いだろうが剣も使えた方が確実に良い。
学園でも剣技の授業は多数あるのだ。ディー自身は教えることができないし、まだ幼い身体だから剣を持つことはしないが体づくりはしておいて損はないだろう。
机に向かうことに忌避感があるからこそそれ以外の勉強は進めておきたいのだ。
そんな事を考えていたからだからだろうか、突然舞い込んで来たちょうど良い言葉に大きくディーは反応を示した。
「リアンは騎士になりたいのですか?!」
食い気味に言ってしまってから内心しまったと思ったが、リアンは気付いてないようで恥ずかしそうに俯いて小さな声で肯定する。
「う、うん…かっこいいから…」
そう言って立ち上がったかと思うと本棚から絵本を取り出してディーに向かって両手で突き出した。
その本の表紙には英雄物語とある。有名なこの国の建国史を元に創られた話だ。主人公であるハルヒコはミリース国初代王の名と同じであり、シュリルディール自身はハルヒコの法等の制度作りに着目したが、普通子供はミリース国がヤムハーン国から離反した人々により誕生するまでの戦記に着目するだろう。その例に漏れずリアンも戦記に着目したらしい。
文字の殆どない本であるが、なくても伝わるくらいには絵が精巧で分かりやすい。流石王子の元にある絵本と言える代物だ。
現在の国の為に働く騎士とは少々異なるが、本を受け取り読んだディーから見ても憧れる気持ちが分かるくらい惹き込まれる本だった。
「これは確かに憧れますね。」
「あこがれ?」
「あーえっと尊敬…うーん…すごいな、この人みたいになりたいって思うことですかね。」
「うん!なりたいっておもう!」
「この人みたいになるために剣や魔法を使えるように練習しますか?」
「えっ、いいの?」
その言葉にディーはにっこり笑って大きく頷く。
騎士になることは王子という立場からはなれないだろう。国王派からしたらなってほしくない。だが、ディーはリアンの考えに賛成するかのように提案していく。
おそらく今まで否定されたか方向修正をされたのだろう。つまり、ディーはそのようなことを告げてもらえるくらいには信頼されるようになってきたことだ。
「もちろんです。だってカッコいいこの騎士みたいになりたいって思うのは良いことですからね。」
良いこと、そう言われたリアンの頰が側から見ても明らかな程に緩む。
「あ、あのね、剣は木をふってるの!」
キョトンと不思議そうな顔をしたディーを見てリアンはこの部屋にのみ隣接された庭から木の枝を持ってきて振って見せた。
「おおー!」
ビュンッという音と共に絵本のように両手の中にある剣代わりの枝が縦に振られ、床に当たる。
それが真っ直ぐだったか、正しい持ち方素振り方法だったかなどはディーには分からない。
兄や父のを見慣れてはいるがアレは別物すぎて比較なんて出来やしないし、動体視力が良い方ではない自覚があるくらいには剣筋などちゃんと見られたことがないのだ。
比較したらそりゃあ拙さがはっきり分かるが、ディーはそれ以上に大人しそうなこの子供が思っていたより活発で子供らしくてその事に安堵を覚えた。
剣に関してはディーは素人だ。前世の知識も全く意味を成さない。身体を動かすことは元から苦手で今は足を動かすことが難しいのだから。
何が正解で何が間違いかは分からないが、特に口出し出来ることはないだろう。
とりあえずディーは心の中で剣技を覚える為の本を読み漁ることを決意した。
「じゃあ、剣に関しては問題ないですね。」
少しは奔放さもあっても良い。軽い木の枝なら身体を壊すこともないだろう。
剣に興味があることを気にした方がいいだろうが、すること何でも否定され、一方向に持っていかれるのを好意的に受け止める人間などいない。
ディー自身リアンが自らやっていることを否定したくないという思いもある。むしろ後押ししたいくらいだ。
うん、後押ししたい。
そうしよう。
「そういえばリアンは魔法を気にしていましたよね。この本にある通りハルヒコ様は魔法も使えますし、リアンも魔法覚えてみますか?」
その言葉を聞いた瞬間、フェリスリアンは眼に期待と希望を宿し頰は桃色に染まり口角が上がった。そして、
「うん!!する!!」
と大声で叫んだ。
今まで聞いたことのないくらい嬉しそうな大きな声にディーの口角も自然と上がる。
「よし、思い立ったが吉日と言います。早速行きましょう。」
「えっ、どこに?」
この部屋から出るとは考えていなかったのだろう。
「魔法には適性…性質…うーん…水とか風とか土とかがあるんですよ。」
突如ディーの手の平の上に現れた水や風、土にリアンは目を丸くしてパチパチと手を叩く。
ピンと来ていないリアンの様子に言葉を言い換えていった結果、直接魔法を発動し見せることで属性が様々あることを教えたが上手く伝わっただろうか。
本当ならば座学をきっちりやるべきだろうが、今までのリアンの様子から考えると難しいだろう。座学の前に軽く実際の魔法に慣れる者も多いのだから問題ないはずだ。
「これらのどれが使えるか分かるものがこの部屋の外にあるのです。」
「それつかえば魔法つかえるの?」
「はい。」
厳密に言えば違うが指摘しなくていいだろう。説明が面倒臭い。
眉根を寄せ軽く俯いたリアンはそのまま1分ほど固まる。
そして、強い意思を宿した瞳でしっかりと頷いた。
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