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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
55/82

52話 絆された

ちょっと短めです。

でも、やっとゆっくり文章を書くことが出来てそこそこ満足です!






「じゃあ、リアンまた明日来ますね。」


そう言って部屋に向かって小さなもみじの手を振る。


「うん!またあしたね!」


部屋の中の少年は嬉しそうに笑って手を振り返した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「失礼致します。総部省大臣補佐官シュリルディール・ディスクコードです。」


ノックをしたドアの向こう側から了承の声がしたのを確認してから扉を開ける。


「ディール、どうだったかの?」


入ってすぐに声をかけたのはクジェーヌ宰相。その隣にはこの国で一番偉い人物、更にその隣にはその二番目の妃が座っていた。


「ディール、私もあの子の様子を聞いていいかな。」


今日でディーがフェリスリアンと友人となって5日目。最初の一週間は毎日王子の元に通い、毎日軽くでもいいからクジェーヌに報告しろと言われているために毎日リアンの元を訪れた後にこの宰相部屋へと来ていた。王と王妃がいるのは初めてであるが。


「はい、問題ありません。一言で申し上げるのならば、フェリスリアン殿下は非常に純粋でお優しくあられます。」


ここらでまとめて言おうと思っていたことがあるのだ。陛下とペリポロネシス妃がいるのならちょうどいい。


「どうして部屋から出てこなくなったのかは分かったかい?」


「…推測の域を出ませんが、殿下は非常に観察眼が優れております。悪意や嘘に敏感でその主を遠ざけたのでしょうが、遠ざけても新しく似たような人物がやって来たために自ら遠ざかることにしたことが始まりだと思われます。」


そうなのだ。てっきり熱血教師が嫌で合わなくなって、その後嫌味な教師のせいで勉強が嫌いになったと思っていた。それは間違いだった。

観察眼に優れているから熱血教師の感じた残念だと思う気持ちに気付き、それを超えられない自分が嫌になった。嫌味な教師は単純に嘘と悪意だらけで嫌だったのだろう。そんな人物と居なければならなくした人達に嫌気がさして閉じこもった。

真相はこんなところだろう、と数日間リアンと接して来たディーは感じていた。

そもそもリアンは我慢強く人見知りが激しく怯えやすい性格だ。


「殿下はお優しく、心は決して強くありません。一方で、周りの環境により非常に我慢強い。我慢強くなくてはならなかったのでしょう。殿下が例え教師に教わることが可能となったとしてもそれは我慢強さからであり、決して上手く行くとは思えません。

僕は効率主義的人間ですし、このような性格ですので例外ですが、殿下は察しがよく目の効く子供なのです。子供にあまり色々と押し付けないでもらいたいのです。このままではいつか壊れてしまいます。部屋から出ないのは一種の防衛本能です。」


だから、どうかそっとしてあげてほしい。

そんなディーの言葉にクジェーヌとルドルフェリド、ペリポロネシスは沈痛な面持ちで口を閉じた。


「…リアンに、あの子に会ってみてもいいだろうか?会う場所は王宮であるから親子として会話は出来ないだろうが…」


暫くのちに口を開いたのはルドルフェリド王だった。今まで数度しかフェリスリアンに会ったことがないらしい。

王宮の管理者は第一王妃であるニケーアネスクなのだから会えないというのも、王妃の仕事を代わりにペリポロネシス妃がしている分、ニケーアネスク妃が常に王宮にいる状態だというのは分かるのだが、会わなすぎである。


「僕が決めることではございません。しかし、重要な事ですので実際に会いご実感されるのが良いでしょう。」


そう言ったからだろう。

その次の日、またその次の日と立て続けにリアンは彼らに会った。ペリポロネシス妃とはよく共にいるのだから今一度じっくり話し合う機会を設けただけであるが、それは有意義な時間を過ごせただろう。





その結果がこれである。





「フェリスリアンには正式に教師を付けないこととした。」



ルドルフェリド王はディー以上に目敏い。数日かけて寄り添ってディーが得た情報を予め聞いた上で接したことにより、それが事実だと感じたのだろう。


「正式に、ということは非正式には付けるということでしょうか?」


そんな事を聞きつつも分かっていた。

この場には前回と同様4人しかいない。その場で3対1の構図で告げられているのだからこの後言われる言葉も分かっていた。


ディーは純粋な教師ではなく、性格を改善させて次の教師へスムーズに引き渡せる段階まで持っていく人員だった。

それが過去のこととなったことにディー自身分かっていた。


「シュリルディール・ディスクコード。貴殿をフェリスリアン第二王子の教育係に任命する。この任命は非正式であり非公式である。」


…こうなると分かっていた。


シュリルディールは笑みを浮かべる。

前に言われた時と異なる自分の変化に苦笑した。

おそらくフェリスリアンの部屋に行く前までならどうにかして抵抗しようとしていたのだろう。無理だと言い、言葉を尽くして逃れただろう。そうすれば何だかんだ言って子供に甘いこの人たちは手段を変えると知っているから。


けれど今は。


「ディスクコード公爵家次男シュリルディール・ディスクコード、謹んで拝命致します。」


恭しく頭を下げたディーの髪がサラリと揺れる。


「全てを任せる。あの子を導いてくれ。」


その言葉にディーは柔らかな笑みを浮かべ了承しましたと応える。その声音も柔らかなものだった。

どこまでやればいいだとか、このようにしてほしいだとかそういったものは全て消え去り、ただ抑圧されず壊れないようにしてほしい。

そのような教育係だからディーは受けた。


いや、それだけではない。


これがおそらく同じ4歳児の他の子供なら引き受けなかっただろうという自信がある。

リアンだから、フェリスリアンだから受けたのだ。


もちろん将来的にリアンが王になったらディーが宰相になり、ならなかったらディーも一官人か単なる公爵家の次男となるという一種の運命共同体であるという点に起因することも理由の1つではある。

ただ、周囲の期待や思惑からなってもいいとは思っていても宰相になりたいという気持ちが強いわけでもないディーにとってはそれは次点に過ぎない。


まあ、簡単に言えば絆されたのだ。


周囲の環境や状況と、現在引きこもってはいるがその裏にある感情に触れてディーは同情しつつもその人間性に惹かれたのだ。

まだ幼い子供だというのは分かっているし、性格も出来上がっていないはずなのに、普通の子供より大人っぽい。色眼鏡抜きにしても子供らしさの中に大人っぽさがある。

そこにどうしようもなく惹かれ、この子の為なら一緒にいていいかもしれないと思うくらいには絆された。


そして、それらの自分の感情を理解しつつ、まあいいかと笑えるくらいにはその感情を好ましく思っている。

それに起因して多分言葉にするには難しい様々な感情がディーの中で入り乱れていることも分かっていた。

安心感であったり、独占欲であったり、同情であったり、嬉しさであったり、哀しみであったり…

そのどれを取ってもこの結果はディーにとって喜ばしいものであった。


だからディーは全てを任せると言われた時、浮かんだ笑みを隠すことが出来なかった。










何故こう思うようになったのか…その一端が次回出てきます。


この話を書くまでリアンが超やばい子で矯正していく話にするか、それとも今の感じにするか悩んでたんですけど、前まで前者だったんですけど、後者になりました!

共依存風味のゆったりゆっくりのんびりの教育です。


共依存好きなんですよ…元々その要素をここにふんだんに入れる気はなかったんですけど、書いてくとどんどんその要素が入っていっちゃうんですよね〜

おかしいですね…共依存から逃れられない宿命なのでしょうか…


次回の更新は8月19日21時です。

時間軸は今話の数日後でちょっと回想を入れる予定です。

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