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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
54/82

51話 再会 リアン編1

やっと出会いました。

再会2→再会 リアン編1にサブタイ変更しました(8/16 22:42)






「お久しぶりでございます、ペリポロネシス妃様」


シュリルディール・ディスクコードは車椅子に座った状態でゆったりと洗練された動きで左胸に指を揃えた右手を添えて頭を下げる。


「シュリルディール君、久しぶりね。少し大きくなったわね。」


「本当ですか!?そうだと嬉しいです。」


本気で嬉しさを前面に出すディーにペリポロネシス妃の頰もつられるようにほころぶ。

ただ、その裏ではこうして見ると男の子に見えるのね…などとディーが嬉しがるとは思えないことを考えていたが。

親しげのある会話はここまでだ。本題へと移るために年相応に見える笑みを消し、ディーは頭を下げる。


「突然のご訪問にお応え下さりありがとうございます。」


「構わないわ。アンナと比べて先触れも出しているし、元々今日か明日に貴方が来ることは分かっていたもの。」


元々分かっていたという言葉にディーの眉がピクリと動く。一体いつからディーが教師となることが決定されていたのだろうか。とりあえずペリポロネシス妃の発言から今朝のディーとクジェーヌの会話以前らしく感じる。やはりあれには拒否権など存在しなかったらしい。


「あの子に会うのね?」


「はい。本日会うことが出来るかは分かりませんが行動してみないことには何も分かりませんから。」


「そうね…おそらく会えるわよ。あの子貴方のこと覚えてるはずだもの。」


「え?」


フェリスリアン王子とディーが会ったのは前に王宮に強引に連れてこられた時だ。

正直言って覚えていてほしくなかった。いっそのこと別人としたいところだが、確かあの時名乗ったから難しいだろう。

それにしてもどうして覚えているはず(・・)なんだろうか?余程助けに入ったのが印象的だったのか…


「あの子、シュリルディール君の女装姿に恋しちゃったみたいで…手っ取り早く幻想を砕いて来てくれるかしら?」


「えっ?!」


(これは予想外すぎる!)

思わずディーは額を覆った。


「え…えっと、恋云々は置いときまして、砕いていいのですか?」


未だ混乱する頭で一番疑問に思ったことを尋ねる。まあ本心ではどうして恋に落ちたなど聞きたいことがあったがそれを目の前の人に尋ねても意味がないことに思い至るくらいには思考は働いていた。


「ええ、砕かないと面倒よ?」


ペリポロネシスは眉頭を寄せたまま眉尻を下げて苦笑する。

周囲には中々いないしっかり者の常識人、それがディーから見たペリポロネシス妃の印象である。決して他の人達に常識がないと言っているわけではない。

その人が本気で困った顔をしてアドバイスをしてきている。


「…分かりました。砕いて来ます。」


そのアドバイス通りにするべきだという答えをディーの頭は叩き出した。


「あの子は部屋にいるから案内通りに行って頂戴。おそらく私がいない方が拗れなくていいはずだから私はこちらで待っているわ。」


「分かりました。では、僕のためにお時間を下さりありがとうございました。失礼致します。」


おそらく…いや、確実にディーは混乱していたのだ。

フェリスリアンに惚れられたと聞かされたせいで。

だから、ペリポロネシス妃にどういった子か、どう話しかけるべきかなどの情報を得ないで会話が終わってしまった。加えて、ペリポロネシスが胸の内に潜めていた、自分で諦めさせることができず今まで来てしまった罪悪感と、それによりこれから2人の再会になるべく立ち会いたくないという感情を感じ取ることができずにこうして部屋の前にいるのだ。


今更気付いてももう遅い。

付いてこないで待っていると言っていた時に疑問を持つべきだったのだ。


そう思う後悔と共に頭の中では冷静にメリットデメリットを叩き出していた。ディーがあの時の少女と同一人物とバレたとして、第一印象から好印象で進むことができるメリット。一方、実は男だったということを告げた時に最悪これから会うことに嫌がられるデメリット。


(バレたらその時。自分から言わない方がいいな…)


砕いて来ると言った際、それはバレるということが前提条件であった。だからバレなければある程度仲良くなってから明かせば良い。自ら明かすことのメリットよりデメリットが上回る。

ディーの最大の目的はフェリスリアンと仲良くなり、引きこもりを解消させることだ。

バレなければ明かすタイミングが自由に選べるのに、明かしたらどう転ぶか分からないことを明かすわけがない。会うことすらできなくなったら非常に困るのだから。


息を大きく大きく吸って吐く。



気は落ち着いた。


大丈夫。



侍女が開けた二重扉の1つ目を通り抜け、次の扉の前に立つ。


コンコン


「フェリスリアン王子殿下、シュリルディール・ディスクコードと申します。おそらく先触れが」


そこまで言った時だった。

目の前の扉が勢いよく開けられ、ディーの前髪を大きく揺らす。

大きな音を鳴らして開かれた扉が目の前を通り過ぎてからディーは何度か瞬きを繰り返す。

そんなディーの耳に入ったのは自分より少し低いか同じくらいの高さの声。


「しゅりるでぃーる…あのときの!?」


目の前に突然現れた明るくキラキラと光る翠に目が吸い込まれたかのような感覚に陥った。

亜麻色の髪は前に見た時より伸びていて背丈は少し大きくなっているように見える。何より涙で溢れていた瞳はキラキラとした子供らしい無邪気さが宿っていた。


「…はい、お久しぶりでございます。」


先程までのバレなかったら…という作戦は白紙に返すしかない。まさか名前だけでバレるとは思わないだろう。確かに名乗りはしたが大勢の人と出会ってきた3歳の子供が一度会っただけのディーの名を覚えているとは思わなかった。

ああ、当然次のフェリスリアンの反応は分かっている。


「あれ…?おんなの子…?」


貴族の子供の服装は男女で大きな差がある。そして基本的には互いの服を着ることはない。王子という立場からそれを教えられずとも察していたフェリスリアンは首を傾げた。


「そのお話をさせて頂くためにも部屋の中に入っても宜しいでしょうか?」


「う、うん…いいよ。」


コクリと頷く姿からは酷評されるとは思えないくらい純粋で素直だ。それに伴う流されやすさが引きこもる原因だろう。

礼を言ってディーだけが部屋の中に入る。


「それどうなってるの?」


フェリスリアンの目からは勝手に動いているように見えるのだろう。風魔法は目に見えない。それなのにディーと車椅子が前に進んでいるのが不可解に映ったらしい。


「魔法で動かしているんですよ。僕は足が動かしにくい体質…あー…体なので。」


「…けがしてるの?」


ディーの顔に思わず笑みが浮かぶ。


「そのようなものです。」


「でも、まえのときはあるいて…あれ?」


「前の時も魔法で動かしていたんです。でも上手く動かせないのでスカートで誤魔化していました。」


ちょっと戯けたように立てた人差し指を口元に当てる。


「え、じゃ、じゃあ…しゅりるでぃーるはおとこの子?」


「はい。」


「そう、なんだ…」


落ち込んでいる。ものすごく落ち込んでいる。観察眼が鍛えられていない人でも簡単に分かるくらい落ち込んでいる。

スッと勢いよく吸い込んだ息の音がやけに大きく響く。


「あ、あの!」


自分のせいで落ち込んでいる子供の姿は結構胸が痛い。打開しようと出した声は思っていた以上に上ずっていた。


「今日僕は殿下とお友達になりに来ました!お友達になってくれませんか!」


言った途端にディーの胸中は後悔と不甲斐なさに対する遣る瀬無さが占めていく。

もっとこう何かあっただろう。見た目は4歳だけれど実際は20超えているんだから、もっと気の利いた言葉を言えないのか。

咄嗟に出た言葉があれだった。考える前に言葉が口をついていた。

おそらく今ディーの頰は赤く染まっていることだろう。子供らしいと言えばらしい言葉選び。それしかできなかったことに、友達になってくれないかと大声で叫んだことに恥ずかしさが込み上げてくる。


ギュッと目を瞑ったディーの手に何かが触れる。


思わず開けた目の先、いや眼前には緑の瞳が印象的な整った顔が広がっていた。

その表情には先程までの沈んだ色は見られない。扉が開かれた時のようにキラキラと綺麗な瞳が痛いくらい真っ直ぐにディーの瞳を見つめていた。


「ほんと!?ともだちになってくれるの?!」


「まぶしい…」


「え?」


思わず口から出ていた言葉をかき消すようにディーはニッコリと微笑む。


「殿下と友達になりたいです。」


パアッと向日葵かタンポポかの明るい花が咲くような無邪気な笑みを浮かべて全身で喜びを表す少年にディーにもそんな笑みが移っていく。


(この子の側にいると自分が綺麗になった気がする。)


それと同時に自分の汚さを実感する。そしてそれをこれから教えていかねばならなくなる悲しみ。


それを心の片隅に感じながらも今だけは、ディーも心からの笑みを浮かべた。









今はまだあまり問題なさそうに見えるフェリスリアン…

ただの純粋少年に見えるフェリスリアン…

純粋って時に怖いよね…


ディーは自分では気付いていませんが、この時犠牲者を出したことにとらわれていました。だからか少し病んでました。そしてちょっと洗われました。



次回更新は8月12日21時です。

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