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足なし宰相  作者: 羽蘭
第4章 教師
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50話 教師達の報告書

今回フェリスリアンと会うと思います?私もそう思ってましたー!思ってたんですよ…





王城内のとある部屋。

王城にしては簡易な応接間の造りとなっており、1人がけソファがローテーブルを境に対象的に3つずつ置かれている。

窓が1つあるが現在は厳重に閉じられており、部屋を照らす光は天井からぶら下がっている光石がいくつも使われた光源から発せられているのみであった。


現在その部屋にいるのは1人の少年だけであり、それ以外に姿はない。

手に取った冊子を眺める様は幼い容貌と似つかわしくない真剣な表情をその顔に貼り付けている。

その少年の口からポツリと、おそらく無意識的に声が漏れた。


「1人目は…熱血教師。」


素晴らしい


流石殿下です


覚える速度が非常にお速い


先に覚えて頂けた内容をお忘れになられているご様子


覚えるのはお速いですが、残念ながら忘れてしまう速さもお速いようです


この部屋にいる少年とはもちろんシュリルディールのことである。そのディーが現在目を通しているのは今までのフェリスリアン王子の教師たちが作成した報告書だ。

王子を半分騙す形で教師と教えず教師になるのだから、どこからどう耳に入るか分からない王城でこの報告書を読むのは場所が限られる。もちろんこれらは王城から持ち出し禁止であり、総部省内で読むには仕事の邪魔になりかねない。ということを報告したらついでとばかりに補佐官専用の部屋をディーももらうことになったのだ。

元々部屋自体は用意していたらしく、会議室より見た目と年齢から応接間の形式の方が使いやすいだろうということでここの応接間の鍵をクジェーヌからその場で渡された。

初っ端の使い方としてはソファもテーブルも使わないという部屋の用途に沿った形ではない。完全密室という一点のみを理由とした使用である。まあ、この部屋の責任者がディーなのだから問題はないはずだ。

ちなみにケインリーはこの部屋の外に待機している。


さて、ディーが目にしている報告書。先程のどんどん評価が厳しくなっていった文章はそれらから目に留まった文である。

1人目の教師は最初の数枚は褒めちぎる様子が目に浮かぶくらい褒め言葉で溢れている。しかしページをめくるごとにそれはなりを潜め、逆に厳しい言葉が書き連ねられていた。


(これは酷だろうな…)

相手は4歳児…いや、この頃は3歳児になるのだろうか。日本でだって文字を書けたら物凄く褒められる時期だ。よく分からない絵を書いて喜んでいるのが普通のはず。いくらこの世界の精神年齢が年齢の割に高めだとは言え、そう大きくは変わらないだろう。

文章を読むところから始めたようだが、すぐ本1冊を読めるようになったものの数日経つと読めなくなったそうだ。

この報告書と教師の人となりから察するに何度も根気強く教えたのだろう。しかし、途中で飽きてしまったのか本を読むことをしなくなっていってしまった、とある。


元々この教師は子供とは言えもう少し年齢が上の子供相手にしか教育したことがないらしい。そもそも3歳という早い段階で教師を付けて勉強を教える家が少ないのだからそれは仕方がないが、飽きやすい子供に対してそれを怒鳴ってしまうのは残念ながら教師失格だろう。

3歳児の飽きやすさと7歳児の飽きやすさとでは訳が違う。集中できる時間も異なるし、その密度も異なるのは当たり前のことなのだ。


「馬鹿正直に3歳児に教えようったって無理に決まってるでしょ…」


ため息をつきながらディーは1枚紙をめくる。馬鹿正直な熱血教師は合う合わないがあるし、3歳児向きの教師ではなかった。結論としてはそれで済む話であるが、子供視点では大人に怒鳴られた経験は恐ろしく感じるだろう。


その次は途中で読む気を失うくらいには酷評が所狭しと並べられている。所々に兄である第一王子と比べている表記があるが、実際のところ本当の話なのかはディーには判断できない。


第一王子殿下は数日で文字を読めるようになった。その後1週間で書けるようになった。

それと比べて…


要約するとこんな感じだ。

これが本当ならばどうしてあんな風に育ってしまったんだろうかとは思うが。

脳裏によぎるのは王宮の中庭で初めて出会ったルドウィレン王子の姿。うん、残念すぎる。


その後の教師からは似たような文言が続く。


勉強に対する拒否反応があるご様子でいらっしゃいます


そして、上記の文言は次第に下記へと進化している。


お会いすることが叶いませんでした


どうにかならなかったのか。

ならなかったから今こうしてここに話が来ているのだが、そう思わずにはいられない。

これでは「勉強=嫌なこと」がフェリスリアンの中で確定的になってしまっている。そう予想はしていたが、これを見てしまうと事実以外考えられない。


「まずはそれを覆すところから始めるしかないか…」


どのようにすべきか…と思考を巡らせたところで、ディーは首を振った。


「いや、その前にどうしたら会えるかを考えるべきだ。子供なら会えるという考えは安易すぎる。本当に会えるのか確かめて警戒されたらマズい。」


なるべくなら自然な出会いを演出したい。

子供だから教師とはバレにくいが、人間不振に陥っている可能性がある。そもそもフェリスリアン王子の周囲にいる子供なんて兄姉くらいであり、前に見た様子から考えて同年代だからと言って怯えず会えるとは思えない。

前に会ったのは少しの時間であったし覚えているとは思えない。女装をする気にはなれないし。

勉強の話題は出す必要はない。大人である教師と会える段階にまで持っていくことが目標だ。どれくらい人見知りが酷いのか、それは教師だけに留まるのか。教師だけに留まるならば共に教わる形ならば幾らか緩和できるだろう。だが、人全般に対して不信感を抱いているならば…


「どうしよう…」


本気で困った。

引き受けなければ良かったかもしれない。引き受けるしかなかったのは分かってはいるけれどそう思わずにはいられない。

美奈の時からそこまで他人と話すタイプではなく、休み時間も1人かせいぜい様子を見に来た親友と2人でいる程度だったのだ。

他の同い年の子供より大人だと思うし、実際精神年齢は20近い。だが、得意不得意はどうしようもないのだ。これからずっと共にいるであろう相手に演技し続けたくない。

すぐに別れる相手ならいいのだ。

簡単に会えない相手なら問題ない。

だが、ディーは人間不信に陥っている子供に対して演技なしに接せるほど見合った性格は残念ながらしていない。


「選択肢は3つ。」


頭の整理のために声を出す。人差し指を立て、1の数字を作る。


「兄様に対するように猫被り。…キツいな却下。」


即却下した理由はあの兄だからできる態度であって同年代には無理だからだ。包容力のある相手じゃないとあれは中々に厳しいものがある。

つまり、甘えられるような相手でなければ無理だ。フェリスリアン王子に対して甘えられるか?否。というわけだ。


「同年代の子供に接する時のように無邪気にいく。」


「素のまま、若干子供らしくいく。」


指を2本、3本と立て言い終えた結果。

ちゃんと頭の整理が付けたらしい。選べる選択肢など1つしかないことが明らかだった。


これで性格が合わなければ仕方がないと諦めるより他に手段はない。

しかし、これから否応無しに付き合い、支えることになるだろう相手。信頼関係を築き上げなければならない相手。

よし、と呟いてディーは部屋から顔を出す。


「ケイ、早速会いに行ってきますと伝えておいて。」


誰にとは言わない。察しの良いケイなら気付くだろう。

偶然を装った出会いなど色々考えたが、そもそも相手は中々部屋から出ない子供。しかも王子で外に出る機会はほとんどない。


思い立ったが吉日。


その言葉通り行動を起こすことにした。

とりあえず王宮に入るためにペリポロネシス妃に伺いを立てなければ。

陛下や宰相にはケインリーから伝わるだろうし、既に王宮への入宮許可書は貰っている。あとは王宮に入った後、何処にどうやって行くかという話である。

元王女である母シュリアンナがいれば特に問題なく入ることも歩き回ることもできるが、今のディーは一教師で一官吏である。

そりゃあ親の肩書きはあるから咎められることはないだろうがそこの線引きは引くべきだ。

当日にこれから行ってもいいかというのも非常識ではあるが、ディーが王子の教師であること、既に許可書を持っていることから用事がなければペリポロネシス妃は許してくれるだろう。


なるべく嫌な人に会いませんように。

あまり良い思い出のない王宮に向かって手を合わせそう呟いてから、書き終えた手紙を持ってディーは部屋を出た。










次回の更新は8月5日21時です。


色々伺い立てるのは最初だけです。そうじゃないと教師するの面倒なので。

まあ本当ならもう少し面倒な手続きが必要ですが、前にも王宮に入ったことのある人には少し簡略化されます。

もちろん、これからもいつ何時から何時までいるかという手続きは必要ですが王や妃から一々今日行ってもいいかと許可をもらう必要はないというだけです。

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