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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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48話 後継

この章最終話です!






「オセロ、孤児院の子って8歳になったら孤児院を出て住み込みで働くんだね。」


ぽつりとそう漏らしたシュリルディールにオセロッティアヌは一瞬、ん?という効果音が合いそうな表情を浮かべる。


「大体その辺りで学園に通うか働くかを決めるからね。」


この世界では8、9歳は既に責任を取ることのできる準大人と見なされるのだ。だから当然働くことも自由にできる。学園に通うことのできる10歳になる歳がそれより1年以上遅めであるのは安賃金でも余程でなければ学園の試験を受験できるだけの資金を貯められるからだ。

それ以外にも貴族内の様々な思惑も理由ではあるが、表向きの理由はこれが最たるものとして広まっている。

前に8歳以下の子供を働かせようとした馬鹿貴族がいたが、基本的にそれは禁止されている。騙されやすい子供が低賃金で働かされにくいのは良いことだが、身寄りのない子供は生きるすべを失う。

この対策として、例外的に孤児院では子供を派遣したり孤児院内で製造し販売することも可能となっているが、孤児院に入っていない子供は盗みか違法の店以外生きる手段がない点に残念ながら変わりはない。

ちなみに、貴族は8歳以下でも働くことが許されている。先代が亡くなり小さな子供が跡を継ぐことや、学園に行く前に領地経営を実地で学ばせておくことが多いからだ。シュリルディールの場合はそれらとは少し異なるが違法ではない。仮に違法だとしても王の意向である時点で誰も罰することなどできないが。

オセロは内心4歳で既に本格的に働いているディールが何を言っているんだと思っている。

しかし、ディーの中では自分は4歳児でありながらそうではないのだ。だから8歳というまだ幼い段階で選ばねばならないこと、働かなくてはならないことに衝撃を受けている。


(昔はもっと幼い頃から働かされていた時代もあるっていうからここはまだマシなのかもしれないけど…)

そう分かってはいるが、感情は残念ながら伴わない。


どうした?と首を傾げるオセロにディーはにっこりと微笑む。


「何でもない。知らなかったからびっくりしただけ。」


「ディールはもう働いちゃってるし貴族には関係ないことだからね。」


オセロがその事に全く疑問を持ち合わせていないことは当たり前だ。その当たり前が悲しいのではないが、何か妙にしこりが残る。

そんな気持ちは押し殺しフワッと花が咲くように微笑む。


「そうだね。それよりチェルノー婦人や子供達にお礼を言われて嬉しかったよ。」


「うん!もう問題なさそうだしね。」


途端にパアッと笑顔になったオセロにディーはクスリと笑い声を漏らす。


「オセロがすぐに補助金が戻るように手配したんでしょう?」


「一言二言財部省に伝えただけだけどね。」


今後1人で何か仕事を担当した時にこういったことにも気にしてほしいという思いから連れてきた。

それに間違いはないだろうけれど、それ以上に。

(お礼を言われることによって助かった人もいるってことを伝えたかったんだろうな。)

それに気付かなければ良かったという思いもある。何でもかんでも打算や裏を読み取ってしまう自分に嫌気がさすこともある。


「オセロは優しいね。」


でも、今は気付いて良かった。

今回の件に関してオセロはディーの教育係だ。単なる教育係なのだからこんな所までケアする必要などない。それでもチェルノー孤児院に連れてきたオセロの行動の意味に気付けたことは良かったのだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「クジェーヌ様、お帰りなさい。ヤムハーン国はどうでした?」


「オセロか。あちらはまずまずと言ったところかのお。後で詳しく話すわい。そんなことよりそちらはどうかの?」


国同士の関係ややり取りをそんなことと言うクジェーヌにも、挨拶代わりのように他国の様子を聞くオセロにも他に人がいたらツッコミが入っただろう。

しかし、現在この総部省大臣部屋には2人以外いなかった。

トッレムはクジェーヌと共にヤムハーン国に行ったために貯まった仕事や報告書を作成している。マクベスは先程オセロと入れ替わりでこの部屋を出ていた。

他の2人ならばこんな軽い調子で国のことを話さない。トッレムはこの中では柔軟さはあるものの真面目な堅物であるし、マクベスは寡黙な真面目人間だ。

3人の中で一番クジェーヌに似ているのがオセロだった。真面目ではあるが、他の2人程ではなく、楽しい事や周りを驚かせるのが好きで、交渉の時は特に口が上手い。


「これが今回の監査結果です。あの子4歳とは思えませんね。子供らしいところもあるんですけどそうではない点が多すぎます。」


「後任としてどう思うかの?」


「今すぐは無理ですね。対外的にも内面的にも。ですが、頭の回転は速いですし、取る手段も色々と教えればこれから増えるでしょうし能力的な面での問題はないですね。性格も自分の行ったことから生まれた被害から目を逸らさないですし非常に良いですよ。」


「ふむ。ならば問題点は?」


「対外的には年齢からして言わずもがなですが、内面的な問題は真面目すぎる点ですね。トッレムほど真面目ではないですけど色々な事に傷付きやすい性格をしてますよ。まあこんな幼い内から割り切られちゃ困るというか怖いですけど。」


クジェーヌはふぅとため息を漏らす。


「わしはもう数年は頑張らねばならぬか…」


「頑張ってくださいよ。せめてディールが準大人となる8歳まではクジェーヌ様に頑張ってもらわないと僕等が大変です。」


本当にクジェーヌにこんな事を言えるのはオセロくらいだ。加えてオセロはディールに適性がないだけマシじゃないですか、などと続ける。

クジェーヌはそのようなことなど聞こえなかったかのように次の話題へと移った。


「全員にディールの教育係をしてもらいたいが次はどちらが良いと思うかの?」


「マクベスは寡黙すぎるんですよねえ。それに子供苦手みたいですし。僕みたいにお喋りなら教えてもらいやすいですけど、教師と生徒の関係で見るとディールとの相性はそんなに良くないですね。」


「ならばまずはトッレムを教育係にして、ある程度経ってからマクベスかのお。あやつももう少し話すことを覚えれば良いのじゃが。」


マクベスは頭の良さで言ったら物凄く良いのだ。他の2人やディーやクジェーヌよりも良いかもしれない。だから様々な仕事を同時に行えるし、それだけ様々な仕事を任せられる。だが、マクベスに流せない仕事は人と交渉することである。それ以外の仕事では最善の結果を出すのだから使いどころを間違えなければ最高に使える人材なのだ。


クジェーヌ・ソルベール宰相は70歳。

そろそろ後継を考えなければならない歳だ。トッレムは平民であるから他の貴族が黙っていないだろう。マクベスは交渉が苦手という時点で向いていない。オセロが一番向いてはいるが、男爵家の五男でありトッレム程ではないが反発が大きいだろう。

だからディーが出てくるのだ。子供に頼らねばならないくらいには人材不足に陥っている。子供が宰相というのも反発はあるだろうが、それまで仕事をしていればそれも和らぐし、公爵家という貴族トップの家柄は反発を最小限に抑えることができる。


ディーを総部省に連れてきた当初はオセロを後継にしてその補佐としてディーが公爵家の力を持って反発を抑えるつもりだった。

だが、やはり補佐官の力で抑えるのには限度がある。補佐官はあくまで補佐官なのだ。だから平民でも大きな反発は起こらないのだ。

そして、思っていた以上にディーの出来が良く、一発で官吏登用試験にも7位で合格したことによりディーが後継候補に浮上。

補佐官の3人全員が順に教育係に就くことで性格等から適任か見極めることにした。

ルドルフェリド王は初めからディーをクジェーヌの後継にする気だったが、クジェーヌはまだ見極めている段階なのだ。

そしてオセロからはOKが出た。

次はトッレムの番だった。


「クジェーヌ様。トッレムが教育係になりますけど4、5年ありますし、ディールに子供らしいことをさせてみません?」


意外だったのだろう。クジェーヌは一瞬言葉に詰まった。


「…例えばどんなことをさせるのかの?」


「このままだとディールの中で友達という定義が可哀想なことになりそうなんですよねえ。だからちゃんとした友達と遊ぶ機会を作るとか…」


クジェーヌは手元の資料に目を向けた。そこにはベリルアグローシュのことも記載されている。

2人は当然ながらディーが4年しか生きていない子供であると思っている。ディーがヴェルドと話した内容を知らないしヴェルドのことをディーがどう思っているかも知らない。

ディーの中で友達=利用する相手と思われていると思われても仕方のないことをディーはしている。少なくとも2人はそう思った。


「…確かにこのままじゃと学園に入ってからも仕事漬けになって友達ができなさそうだからの…」


先程までニコニコと微笑んでいた2人の表情は消え去っていた。

2人の心境はさながらディーの親だ。

これからの人生を自分達の思惑で国のために捧げざるを得ない子供が少しでも楽しく過ごすための一手を見付ける。そのために、2人は先程と比べ物にならないくらい真剣に意見を交わした。










当初の予定ではこの辺りでヴェルドをメイン登場人物にしていくつもりでしたが、上手く流れが生み出せず、そうなるのは多分もう少し先になります。次の次の章くらいになります。


登場人物紹介は後々1ヶ月後辺りに挿入します。


次の章はクジェーヌとオセロの策による話です。

ディーに、ある程度は子供らしくいてほしいための策を気付いて欲しくない。気付いて落ち込んで欲しくない。だからその思惑を察されないように、他の思惑が一番の理由と誤魔化せる策を2人は考えました。

だからか、子供らしくはないことをディーにしてもらうことになりますが、それが今取れる策の最善手だろうと半分妥協しました。


例えば孤児院に定期的に行けるように手配したとしたらディーはそれに対して孤児院で何かしてほしいのかなど無い裏を読み取ろうとして悩みます。裏がないと気付いたら気遣われていることに気付き落ち込みます。

ディーがそんな性格だと分かったからこそ、オセロはクジェーヌと共に気遣われていると気付かせず、かつ、裏が分かりやすい又は裏がない策を講じます。


皆面倒な性格してますね。


次回の更新は7月22日21時です。


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