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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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47話 再会 ヴェルド編 1

サブタイトル変更しました。(7/15 14:24)






「は…?ディール?」


その言葉にシュリルディールは笑顔のまま固まった。


2人の間を何処からともなく木の葉を2、3枚散らしながら風が吹いてくる。その風の後に残ったのは葉が床に落ちる小さな音と外を静かに濡らしている音だけだ。

ヴェルドの服の袖を掴んでいた小さな子供達も何かを察したのだろう。ヴェルドへとこちらへと何度も視線が往復している。オセロは状況を察し内心冷や汗を流しつつとりあえずディーへと目を向けている。

そのような中で真っ先に動いたのは幼い子供達だ。


「ヴェルドにいちゃんちがうよ!ティーリさまだよ!」

「ちがーう!」

「ティーリさまー」


ディールと同い年かそれ以下の子供達はワイワイと笑いながら楽しそうに間違いだと指摘する。子供達は変な空気だと一瞬黙ったもののすぐに発言が変だと思ったのだろう。


「ティーリ様、ヴェルドとお知り合いでいらっしゃいましたか?」


固まった2人に知己なのだろうといち早く気付いたチェルノー婦人は不思議そうな面持ちである程度の確信を込めた口調で問いかける。


「え、ええ。私今日みたいによく屋敷を抜け出しますの。その時にお会いしましたわ。」


「あら、そうでしたか。ヴェルドとお話しされますか?」


「そうね、せっかくだもの。お願いしてもよろしいかしら?」


トントン拍子で話が進んでいく中もヴェルドは固まったまま呆然とディーを見つめている。

チェルノー婦人は先程木の葉が入ってきた窓を閉めてから応接間の戸を開け3人を通した後、小さな子供達を連れて、子供達が先ほどまでいたのであろう部屋へと入っていく。


「ロゥ、少し2人で話させてくれる?」


「…分かった。」


応接間を出るまでこちらをチラチラと気にしているオセロに大丈夫という意を込めて軽く手を振る。オセロによって応接間のソファに降ろされたディーは一礼して部屋を出て行ったオセロを確認してから目の前のヴェルドに向き合った。

2人は向かいのソファにそれぞれ腰掛けている。

ヴェルドは現実に思考が追いついたようで慌てたように口をパクパクさせていた。その口からようやく声が発せられる。


「ほ、ほんとにディール?」


誤魔化すことは出来なくもないがしなくていいだろう。ディーはそう頭の中で結論付けたが、それ以上に誤魔化したくないという気持ちが強かった。


「…うん。何で気付いたの?」


「いや、だってきれーな顔だしわすれられるわけねえって…」


(ふむ。この顔か。)

ディーはそう独り言ちて顎に手をやる。

化粧でもすれば良かったかもしれないとは思うがこんな小さな子供の内から化粧をするのは気が引ける。

それに、ヴェルドと会ったのは地下室だ。光石は2つ程付いていたが、質の良いものではなく明るいと言える程の明るさではなかった。救出されて外に出た時も日は沈んでおり暗かった。

そもそもあの時だって変装していたのだ。バレるわけがないと思っていた。


「ってほんとにディールなんだな!ひさしぶり!」


「ヴェルド、久しぶり。元気そうで良かったよ。」


ヴェルドに会えて本当に嬉しいという笑みを向けられ、ディーはつられて笑顔を浮かべた。

だが、次の言葉で自然な笑顔はぎこちないものへと変化した。


「もしかしてディールって女なのか?」


「男だ男。」


反射的にそう返してから慌ててディーは付け足すように続ける。今の格好ではあまりにも説得力に欠けていることが自分でもよく分かっていた。女装しているとか言いたくはないがもう今更だ。


「んーと、貴族令嬢が孤児院に来るのはよくあることなんだけど、子息が孤児院に来ることって珍しくて目立っちゃうんだよね。だからこうして変装してきたんだ。」


「そうなのか?」


「貴族見たことない?」


「うん。俺が会ったのはディールいがいいないよ。チラッと見かけたことはあるけど。」


女装する意味あったのだろうか…という考えが頭を掠めるが、この女装は子供達へのカモフラージュではなく職員や財部省に対するものだ。彼らの中では子息は孤児院を訪れることは少ないことは常識であるからやはりこれに意味はあったのだろう。

なかったらこの格好で外出歩くなんて泣きたくなる。例えその女装に違和感がないとしても。


「ディー…いやティーリさま?ってよんだほうがいいか?」


「いや、ディールでいいよ。」


「そっか、なら!ディール!」


ヴェルドは急に立ち上がって目をキラキラと輝かせた。


「はい?」


「ディールが先生をたすけてくれたんだな!」


おそらくヴェルドが言っているのは援助金のことだろう。チェルノー婦人が言ったのか、誰かに言っていたのを聞いたのかは分からないがティーリ=助けてくれた人という構図が頭の中に入っているらしい。可能性としてはチェルノー婦人が次いつティーリが来るか分からないから幼すぎない子供達には怪しい人ではなく助けれくれた人だと教えたというパターンが高い。常にチェルノー婦人がいるとは限らないだろうし、子供たちが失礼な態度をとらせないようにしていたのだろう。


そもそもディスクコード家に対する事件がきっかけでここの孤児院は窮地になったと言うのに。それを教えるつもりはないが、真相を知っている身としては少々心苦しい。

あれは表向きフォルセウスに対する陰謀の一環ではなく、単なる馬鹿貴族がやらかした誘拐事件となっているのだ。真実を巻き込まれたからと言って孤児院の人達に話すわけにはいかない。

だから…


「うん…そういう事になるのかな。」


チェルノー婦人に対しては普通に返せていたが、どうにもディーはこのキラキラとした邪気の感じさせない瞳が苦手らしい。


「ディールありがとう!」


罪悪感が募っていくディーに気付かずヴェルドは言葉を続ける。


「そういえば、きぞくがいっしょにつかまったって言ったら先生その子もたいへんだって言ってたけど、ディールだいじょうぶだった?」


(どうしようヴェルドが眩しい。)


「うん、護衛が常に付くようになったけど大丈夫だよ。」


こちらが巻き込んだのにその尻拭いをしたらお礼を言われ、心配までされる。

子供ってこんなに純粋なんだなと否応無しに実感させられた感じだ。それだけではないけれど。

その後もヴェルドとディーの会話は弾んでいく。基本的にヴェルドが話してディールが聞いていたが、ヴェルドも貴族の暮らしが気になるようで質問はいくつか飛んできた。

2人が話した時間にして30分ほど。

オセロが迎えに来たのがリミットだった。


帰りの馬車。

その中でディーは黙ったままだった。心配の色を隠そうとしなかったオセロは次の瞬間ディーの口から溢れた言葉に納得の表情を浮かべる。


「オセロ、孤児院の子って8歳になったら孤児院を出て住み込みで働くんだね。」


初めて知ったよとディーはもらした。










次回の更新は7月15日21時です!

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