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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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45話 レイクス・天秤

今回長めですよ〜






総部省大臣補佐官部屋には部外者を入れる事ができないため、誰かと対面する時、話す時、会議する時などは空いている部屋を使用する。

王城は当たり前であるが広い。しかし、普段使用しない空いている部屋が多数ある一方で、用途の決められていない部屋は少数しか存在しない。

その大部分を占める用途の決められている部屋の中に総部省大臣補佐官専用の部屋がある。補佐官それぞれに鍵も与えられ、会議や応接間として自由に使用して良いとされている部屋が1人1部屋ずつ存在した。シュリルディールはまだ必要ないと用意されていないが順当に進めば鍵をもらうことになるだろう。


今いるのはオセロッティアヌが鍵を所持している王城内の部屋だ。大きな机を囲むように椅子が並べられ、見てすぐに小会議向けの部屋と分かる配置だ。


ここで今からすることは一つ。

レイクスに真実を告げる。

その役目はレイクスがオセロとディーに話しかけて来なければ騎士団の仕事だった。

しかし、レイクスが2人に母が逮捕された理由を聞きに来た今、返答しない訳にはいかない。突っぱねるには今のこの時間は都合が悪かった。逮捕失敗とならないようにする為にここで時間を潰させておかねばならなかった。

そしてオセロとディーには嘘を吐く理由も必要もなく、嘘を吐いて不信感を募らせるよりは今話すべきと結論付けた。


「初めましてかな。私は総部省大臣補佐官オセロッティアヌ・ルベキリニージュ、こちらは同補佐官シュリルディール・ディスクコード。

まず、財部省執務官レイクス、どうして我々が総部省の者だと気付いた?」


先程までの廊下のほわほわとしたお花畑感は一切ない。その理由は色々あると思われるが、これからする話の内容を冷静に聞いて欲しいためと、オセロ自身の感情を表に出さないためが大きいだろう。

ディーはオセロに付いて来た身として背景に同化するかのように口を開かず無表情に徹する。


「は、はい、それは総部省に新しく幼い子供が入ったと聞きまして…まさか宰相閣下の補佐官方とは知らず…」


「ああ、ディールがいたから総部省だろうと当たりを付けたんだね。私達に声をかけたのは正解だったよ。総部省内でも僕らより下の者には今回の件は知られていないから。」


レイクスの喉がゴクリと鳴った。

思っていた以上の大事(おおごと)だと気付いたためだろう。


「母は何をしたのでしょうか…逮捕された、他の者にこの事は話すなとしか聞かされていないもので…」


「端的に言うと国に対する裏切りだ。」


「は、母はそんなことをする人じゃありません!!」


ガタリと椅子を鳴らして立ち上がったレイクスはオセロの鋭い視線と無表情さにハッとしたように再び椅子に座り直す。だが、先程まではピシッと伸びていた背は若干丸まり、身体が細かく震えており焦りが見て取れる。


「総部省が毎年この時期に財部省に対して監査をしているのは知っているだろう?レイニーはそこで数字を誤魔化して財部省のある人物が不正をしているのを数年にわたって隠していた。」


「まさか…そんなはずあり得ません…」


「財部省のある人物とはネタィダルク・テレジア執政官だ。」


「テレジア殿は優しい方です!」


「表面だけ、ね。何故彼が君とよく共にいたと思う?レイニーへの脅しのためだ。」


レイクスは黙ったままでいる。というよりかは頭の中で整理がついていないのだろう。だからと言っていつまで時間がかかる整理がつくのを待つつもりなどないオセロは、横槍が入らないのを良いことに説明を続けていく。


「…それは本当ですか…?」


説明を一通り終えた後、レイクスは縋るような眼でオセロに尋ねた。嘘を言うはずがないとレイクスも分かっているが心理的に聞かざるを得なかったのだろう。自分に対して優しかった上司が母親を脅していたというだけでなく、余命宣告を告げられたのだから。


「今すぐは無理だが、希望するならレイニーと会わせることもできる。レイニーは今回の件を問い質したらすぐに認めたから彼女に同じ事を聞いてみたらいい。」


「…分かりました。」


何か言いたげにしたもののグッと呑み込み、レイクスは深く頷いた。取り乱すこともなく見た目は冷静に見える。

オセロはジッとその姿を見た後、席を立った。


「私達は仕事が残っているから出るが、貴殿はこの部屋に留まっていてくれ。後で騎士団の者が来て証拠と共に詳しく事情を話してくれるだろう。」


「…はい。」


俯いたままオセロとディーが退室するのに席を立たない様子はレイクスの心がここにないことを端的に表していた。


「…助けてやれなくてすまない。」


最後にオセロが呟いたその言葉も届いていたかは分からない。


「オセロ大丈夫?」


今オセロがどのような表情をしているかは分からないが、部屋を出る直前にした表情は悲痛さがディールの目に焼き付いていた。


「僕は慣れてるからね。」


慣れている。そう言えるようになるまでどれだけの経験を積んで来たのだろう。

オセロは基本笑顔を貼り付けていて見た目と相まって軽い性格のように見えるが、その実情に厚く感情豊かだ。ただそれを隠せることができるだけだ。

総部省内に不正の手伝いをしている者がいると知った時も隠してはいたが一瞬もの凄く泣きそうな表情をしていた。軽そうにしているのは内面を悟らせないようにするためだ。


「それよりディールの方が心配だよ。」


「僕は問題ないよ。これから僕が何かする度に犠牲になる人は少なからず出てくるだろうから、初めの1人はよく知っておきたかっただけ。」


今言ったことは間違っていない。そう思ったから戻らなかったのだ。だが、名前だけ知っていた人の人となりを知ったところでオセロほどの罪悪感は感じていないし、普通に仕方がないと割り切れてしまう。


「ディールは彼を助けようと思ってる?」


だから、そんな問いにもすぐに首を振ることができるのだ。助けたいが、無理なことを知っている。

フォルセウスに頼めば公爵家の財力なら問題なく救えるだろう。しかし、代わりにレイクスはレイクスとして生きられなくなる。例外を作ってはならないからレイクスは死んだ者として処理される。そして残された生は一生を救った者に捧げなければならなくなる。

キープニェイアを使ったことは大事にはできないから自由はまず与えられない。常に監視される日々を過ごすことになるだろう。

そうでなくとも自分の感情だけで将来自分が継ぐわけでもない公爵家の負担を増やす選択はなるべく採りたくなかった。


(こう人の命までも天秤にかけて割り切れちゃうから人間じゃないって言われたんだろうけど。)


思い浮かぶのは前世の記憶。流石に人の命を天秤にかけたのは初めてだが、似たようなことはしたことがある。その時に言われたのだ。その時は柄にもなく落ち込んだ。

だが、今ならよく理解ができる。

この世界でならそんなに珍しくもないどんな物事もリスクとリターンを意識する考え方は人の命が軽いからだ。

人の命が重い日本でこの考え方はそりゃあ異質だっただろう。


(でも、関係ない。ここは日本じゃないんだから。罪悪感は胸の内に秘めておけばいい。)


この少しだけ自分が怖くなったのも気の所為なのだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





あれから1週間後、オセロ経由で事件の詳細が伝えられた。

財部省への監査はこの機会にマクベス中心で一斉に行ったそうだ。そしたら埃が出るわ出るわで大変なことになったらしい。流石に孤児院の件ほど大規模ではなく、少額ではあったが、不正は不正。一斉検挙で一斉逮捕となり、財部省は人手不足らしいが仕方がないことだろう。


ネタィダルク・テレジアとカルフルートールー・ヴァテギョン、ビゲッケン孤児院の院長、クノートルダム孤児院の副院長は死刑が決まった。他に軽く関わっている者もいたが、彼等は死刑ほど重い罰は課されないそうだ。

ディーには単に死刑とだけ伝えられたが、死刑にも色々な種類がある。絞首刑や自死刑、火炙刑などだ。一番重いものではないだろうが、苦痛のある死刑になるであろうと思われる。

子供に刑の種類までの話は伝えられなかった。オセロは結構過保護だと思う。


テレジア家はこの件より、キープニェイア、死神の鎖の材料の保管権を失った。それだけでなく、国の領内の街への干渉が増やすことへと繋がった。国からの監査を常駐させることができるようになり、領地からの税はそのままに国への税は増えた。

その額は過大ではない。そのような軽度の罰で済んだ理由はテレジア家当主が関わっていないこと、当主のこれまでの功績だろう。

ついでに王都内の全ての孤児院に監査を定期的に入れることが決まった。数年に1度ではなく、年に1回だ。

しかも行う部署は学部省だ。やる事が多い総部省では毎年は不可能だからだ。学部省は学園以外何も管轄しておらず、その性質から他から隔離されており独立している。その為、子供相手だからという少々こじつけの理由で監査に抜擢されたのだ。


情報部が見付け出したクノートルダム孤児院院長は半監禁状態で衰弱しており、復帰するには時間がかかるそうだが、本人がやる気に満ちているようで左程の問題はなさそうだ。

流石にあれからディーはベリルアグローシュに会いに行けていない。というよりかはこれからずっと会いに行くつもりはなかった。

ベリルアグローシュがいくら操りやすい人間でも、流石にディーにカルフルートールーについて聞き出してすぐ、彼と副院長が捕まったとなったらディーが調査していたのだと気付かないはずがないだろう。


一通り説明し終えたオセロがディーの目を真正面から見つめて首を傾げる。


「ディール、初めての仕事はどうだった?」


「かなり大事になったなって思うよ。」


そう返したディーにオセロは半眼となる。顔全体でそう言うことは聞いてないと告げている。


「ごめんごめん。そうだね…不正していたからしょうがないけど色んな人の人生を突き落としたなとは思う。これから僕がこの道を進むなら…いや、進むしかないけど、こういった事は当たり前になっていくんだろうなと思ったよ。」


多分大変だったとか疲れたとか、そういった答えが欲しかったのだろうし、それが子供らし…くないことをしてるけど子供らしいのだろう。

だが、流石に自分達が動いた結果、この人が死刑になったよ、と告げられた後でそんなぬるい答えは言いたくなかった。

それがオセロにも伝わったのだろう。


「あー…聞いたタイミングが悪かったかな?」


「うん。」


その通りである為、遠慮することなくディーは頷いた。あ゛ーと言いながらオセロは頭を掻く。


「…うん、そうしよう。ディール明日休みだよね?」


「そうだけど…」


「僕も休みなんだ!一緒に出掛けない?一仕事終えた記念で。」


そう言って初めて会った時のようにオセロはウインクをした。そう言うのは女性にするものでは…と思うが、オセロの表情が久々に笑顔なのに釣られてディーの口角も上がる。


「王都内?」


「そう!変な所には行かないから…どうかな?」


場所を言う気がなさそうな点は気になるが、ディーは少しの逡巡の後頷いた。


「うん、いいよ。」


本人が変な所には行かないと言っているのだ。問題ないだろう。おそらく護衛が付いてくるのも織り込み済みだろうし。










あー…無理矢理終わらせた感が出てる…

ディーがこれ以上この件に関わることはないからどう頑張っても結末辺りは誰かから聞くしかないからこれ以上どうしようもないし、仕方ないですけど…


ちなみに、オセロ専用の部屋は窓はなく、内からも外からも鍵があれば開け閉めできます。

レイクスを外に出さないために外から鍵をかけ、騎士団にその事を連絡しています。



次回の更新は7月1日21時です。





1人の犠牲と国の利益を天秤にかけた時、

オセロは犠牲を理解できるからこそ、助けようと真剣に悩みながらも国の利を取る。

ディーは犠牲を分かっているけど、左程悩まずに国の利を取れる。

ただ、どちらも出したくなかった被害者を出して、それを見捨てることに落ち込まないわけではない。

落ち込むのと悩むのは別問題。

という差のお話でした。

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