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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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44話 権限内の仕事





総部省大臣補佐官部屋


そこを訪れた者がいたら目を丸くしたことだろう。

そこにはオセロッティアヌとシュリルディールの2人しかいない。だが、何かが書かれた紙やその束が先程から宙を飛び交い、机の上に並べられ、又は積み上げられている様は(はた)から見たら中々に面白い光景だった。


「オセロ、次は証拠!まず、4年前の資料から…こことここを写して……」


「こことここ…」


「こっちの資料のこの1文も…」


「……」


目を閉じれば上記のような声やカリカリとペンで書き物をする音、紙をめくるような音しかせず何らおかしい点はない。

だが、ディー、マクベス、トッレムの机に書類が独りでに並びか積み置かれ、時折インク壺の中のインクが宙に浮いてペンにインクを補充する。

何処かの魔法世界に迷い込んだかのようなこの光景はオセロとディーの風魔法だ。

ディーは書類の中から必要な文言やら何やらを見つける為に風魔法で書類を宙に浮かせて手元に引き寄せ、必要のないものは端に積み上げている。

オセロは書き終えた紙をインクを乾かすために重ねずに他の机の上に並べ、ついでに写し終えた書類を端に積み上げている。そして時折インクを足す為に黒いインクをペン先に付けている。

風魔法は利便性が高いと言われる所以(ゆえん)はここにある。とは言え魔力量と魔法制御の問題からわざわざ日常生活で魔法を使う者は少ない。魔物や戦争と言った戦いの絶えないこの世界では魔法 = (イコール)戦闘である。

だから魔法があるこの世界でもこのような光景は滅多に見られるものではないだろう。

この場にはそんなことを気にできる者はいないが。


このようにして出来上がった書類はここ5年の孤児院への補助金の規定額、実質額一覧から始まり、どのような経路で誰が関わっているのかという事件の概要、その人物の身辺調査、そして逮捕申請書まで多岐に渡る。

財部省の執政官、総部省の執政官、伯爵家の人間、大孤児院の院長まで関わっており、これら全てを捕縛し、罰することになる重要な書類だ。誰がどこまで関わっており、誰にどれだけの罰を与えるのかはこの書類を元に練られることとなる。

貴族が関わっている点、現在宰相が他国にいる点を考慮すると全てが終わるまで時間がかなりかかるだろう。

これからその決着までを担当するのは総部省大臣補佐官ではない。補佐官の任務は監査だ。監査において問題を発見し、調査報告するに留まる。逮捕権限、罪状決定権までは備えていない。一斉に捕らえた方が良いなどという助言はするが、それ以上踏み込むと越権行為となる。

逮捕権限は王や宰相から騎士団に与えられ、罪状決定権は王や宰相、法部省にある。

総部省補佐官はどちらかと言えば総部省執政官レイニーの上司として取り調べを受ける立場になるだろう。シュリルディールはまだ入ったばかりなのでそれもないだろうけれど。

ただ、今仕上げた書類と共にそれの元となった情報や資料は王と宰相へと上げられる。それに当たって、宰相補佐官としてその補助を担う可能性はあるがあっても事務作業に留まるだろう。主体として取り組むことはほぼない。


だからこの書類を仕上げた今、オセロとディーは王に奏上すればこの件に関しては終了だ。

ディーがこの補佐官部屋に着いてから2時間半が過ぎていた。

よく短時間で終わらせたと褒められる出来であろう。自分達自身で褒めるしかないが、今はそんな事を言っている暇もない。

騎士団が彼らを逮捕する前に王から逮捕するに足る理由があると認めさせなければならないのだ。

タイムリミットがあるのはこれ以上時間をかけるとバレる恐れと同時に逮捕しづらい状況に陥るからだ。だから最悪事後承諾だが、騎士団の面々のことを考えると事前承認が最適である。

だから今2人は急いで王の執務室へと向かっていた。


王の執務室への扉が開けられ中に通されてからすぐにルドルフェリド王はオセロに声をかける。


「間に合ったようだな。」


「はい、こちらをお読み下さい。」


挨拶もそこそこにそう言ってオセロが差し出した書類は先程仕上げたものだ。

大まかな内容は既にルドルフェリド王も知っていた。これまでの報告を受けているのだから当たり前である。

だが、形式というものは大事であり、監査担当の総部省補佐官が奏上してそれを王が許可し、逮捕権限を騎士団に与えるという流れは例え奏上される前に王が知っており、既に騎士団が動き出していても貴族を捕まえるのだからこちらが不利になることは出来る限り無くしておきたい。

パラパラと書類をめくった王は逮捕申請書にサインをし、既に用意していたらしい書類を付けて共に隣に立つ騎士団長へと手渡す。


「フォル、任せた。」


「今から動いてきます。」


他に目があればもっとちゃんとした会話をするのだろうが、フォルセウスは簡潔に答えてからすぐに動き出した。

ネタィダルク・テレジアが登城する前に抑えるつもりなのだろう。そうすれば隠される心配なくその場で部屋の中も確認できるのだから。それにはやはり公爵家当主という身分のフォルセウスが立ち会う方が上手くスムーズに事が進む。

時間は左程ない。彼の登城時間まではあと1時間程。家を出るまでは30分くらいだろうか。ネタィダルクがテレジア伯爵邸を出る前に乗り込む気満々で廊下を駆けていく音が遠ざかっていく。


「フォルはディールが関わっているから張り切っているよ。」


「…そうみたいですね。」


あんなに後は任せておけという視線でこちらを見られたら誰だって分かる。シュリルディールは苦笑しながらそう返答した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「オセロ、とりあえず僕達がやるのはここまでかな?」


「そうだね、後はこれからの混乱に乗じてマクベスが更に監査を入れて情報を集めるからそれをまとめて終わりかな。あとは今散らばってる資料を後で陛下に送っておかないと。」


行きとは打って変わってのんびりと廊下を進む2人は、これまたのんびりと会話をしていた。

朝から疲れたのだ。ピークを無事に過ぎて2人の頭は若干お花畑状態だった。


「あ、あの!すみません!」


そんな2人を呼び止めたのは1人の青年だった。成人はしているだろうが、いかんせん背が小さいため幼く見える。胸元のバッヂは執務官を示すものだった。


「君は…」


オセロがそう呟く。ディーには見たことのない人間で、ただ首を傾げた。


「わ、私は財部省執務官のレイクスと申します!総部省執政官レイニーの子であります!あ、貴方方に話しかけた理由は…」


ディーはチラリとオセロを見上げる。その視線の意味に気づいたオセロは頷き返し、人の良さそうな笑みを浮かべた。


「レイクス殿、ここで話す内容ではないよ。部屋を用意するから付いて来てくれるかな。」


レイクスは口を閉ざしコクコクと頭を上下に振る。


「じゃあ、ディールは…」


「僕も行っていいよね?」


指示を出す前にディーはその言葉を遮って笑みを浮かべた。ニコニコと笑みを浮かべたまま首を小さく傾げる。


「ディールには戻って片付けして欲しかったんだけど。」


「そう言ってオセロが僕を近付けさせたくないのは分かってるよ。でも、それじゃあ駄目だと思うんだよね。僕自身が関わってる事なんだから。」


オセロの眉が寄せられる。そして小さく呟いた。


「ディールには知って欲しくなかった。」


「でも知らなきゃいけない事だ。」


何の事を話しているのか分からないレイクスはおろおろとした様子で2人を見比べている。

意志の込もった鋭い視線から逃れるようにオセロは目を瞑って額に手を当てた。


「降参、分かったよ。」


ため息と共に吐き出された了承にディーは淡く微笑んだ。そして今回の件の一番の被害者に目を向けた。

一番の被害者でありながらその自覚はなく今も何も知らされていない、だが、もうすぐ死ぬ事は決められている目の前の青年に。


(親であるレイニー逮捕の理由とか聞きにきたんだろう。オセロはどこまで話すのかな…)


知らない人間なら助けられないことに胸は痛むがそこ止まりだ。だが、知ってしまったら自分達が摘発した為に被害者であるにも関わらず死ぬ人間を前に情が湧く。

レイクスがどのような性格かはオセロは知っていたのだろう。だからこそディーに近付けたくなかった。助けられないことにより苦しむだけだ。

だが、シュリルディールはその苦しみは今回の件解決の貢献者として知らなければならないことだと返し自ら関わる事を告げた。


2人がやるべきことはまだ終わっていない。









あれれ〜?おかしいな〜思ったより進んでないぞ〜??


前もこんな事言ってた気がしますが、本気でそろそろヴェルド出したいのにまだ出て来そうもないですし、今回で事件解決するかと思ったらしないし!

多分次回一旦解決します。多分次回レイクスと話してる時にとりあえず逮捕は終わってるでしょうし、うん。多分次回ディーが関われる範囲内で今回の件は解決するでしょう。


次回の更新は6月24日21時です。

次回で隔週更新は終了となります。

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