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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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37話 会議





チェルノー孤児院、クノートルダム孤児院、ビゲッケン孤児院で集めた資料と証言等を記した書類がシュリルディールの机の上に広げられている。それを今回孤児院の担当となったオセロッティアヌとディー、加えてマクベリアスの計3名で囲み各々気になった資料を手に取り、眉を寄せ合っていた。

ちなみにディーの机が使われているのは一番物が置いていないからだ。ディーは今回の孤児院以外は任されていないから当たり前ではある。


「これは…」


「まさかこう来るとは…」


「うむ…」


三者三様の反応を示すが、皆共通して顔色は悪く不快さが見て取れるものとなっている。


「…だからこの部屋で、か。」


マクベスがこう言ったのには理由がある。

元々ディーが総部省に慣れる目的も含んでいた為に、集めた情報を大臣補佐以外の執政官や執務官と共に会議をする予定だった。

だが、現在それをオセロが取り止めこの補佐官の執務室で会議をしている。


「財部省どころかここにもクロがいる可能性があるもんね…」


そこそこ大掛かりであるにもかかわらず、お粗末な点があるから財部省全体ではないだろうが補助金をチョロまかそうとした人がいる事は確実である。

しかもそれはただの執政官では成し得ない程度にまで及んでいる。


「そうそう。これはちょっとどこまで手が伸びてるか分からないから僕達だけでとりあえず見ておこうと思ってね。

ちょっとクノートルダム孤児院とビゲッケン孤児院のこの帳簿はちょっと見過ごせないからねえ…」


帳簿。

この2つの孤児院の経営規模は小さくはない。だからこそ帳簿をつける必要があった。

その帳簿がそれぞれ約5年分ずつ。

もちろん帳簿を見せて下さいと言って見せてもらったわけではない。ディーとオセロが注目を集めている間にこっそり隠密に優れた人達が入手した情報だ。

盗ってきたらバレてしまう為、その場で写したものがこの場に並べられている。これをディー達が話していたあの短時間で済ませたのだから、潜入した人は優秀すぎると言ってもいいだろう。

その優秀さのおかげで明るみになった事態に3人は悩まされているが。


「このお金はどこに行ったんだろうね…」


そう呟いたディーの視線の先には国からの補助金額全てが同額で記された帳簿。


…同額であるはずがないと言うのに。


(国庫からは増額された補助金が支出しているのに、孤児院には増額されてない金額しか入ってない。)


この空白のお金は、2つの孤児院合わせて20,000,000ソール、つまり日本円で2億円だ。

ちなみにその前の年や調査の入っていなかったそれ以前の年にも誤魔化したと思われる金額も入っている。昨年までの増額具合は少額だったから今年誤魔化した分が半分占めてはいるが。

隠蔽工作は数年にわたっており、どんどん空白の金額が増えていることから味をしめたのだろうと思われるが、明らかにそこいらの政務官1人で誤魔化せるような金額を超えている。


それだけではない。


この事に不信感は去年から抱いても総部省が証拠まで辿り着けなかった事、そもそも去年になってようやく孤児院の件がグレーに入ってきた事を考えても、財部省の政務官だけでなく総部省内に共犯者がいる可能性が浮上している。

一昨年までは総部省大臣補佐官は2人だった。だからこそ財部省に対する調査という名の監査は主に総部省補佐官ではなく政務官が行なっていた。

総部省の政務官の中に共犯者がいると警戒していい盤面だ。

そんな事をディーが考えている間にも会話は進む。基本オセロが話してマクベスが頷いたり首を振ったりするくらいだが。


「財部省内のことはマクベスの部下くんが調べてくれてるんだね。じゃあ、あとは孤児院側がどこまで関与してるか、だよねぇ。」


「ああ、もう一度行くか?」


「うーん…流石に援助金出さないで何度も行くのは警戒されるかなって思うんだよねぇ。数回行ったくらいじゃ答えてくれるとは思えないし。」


必要な情報を引き出すには2回じゃ絶対に足らない。どの地位の人までが孤児院の補助金を(かた)っていたことを知っているかを知る必要があるからだ。

最悪分からなくても何とかなるかもしれないが、財部省内の誰かも人数も何も分からない警戒も厳しい場所よりかは孤児院側から調べていった方が主要人物だけでなく細部まで見通すことができる可能性が高い。

これが1人2人の話なら財部省内を調べ上げれば良いのだが、そこそこの地位と人数でないと出来ない金の流れと総部省まで伸びている手がある時点で大っぴらに財部省を調べることはできない。

ただ、孤児院側から調べると言っても限度がある。資料は集められるが証言が足りない。国の機関は紙に記してまとめる癖が付いている者が多いが、孤児院だとそうもいかない。

あとは日記を付けていればそれを探し出すという手ぐらいしか…


眉間に皺を寄せ考え込む。良い案が思い浮かばない。

援助金も出して何度も通うのが一番か…と結論付けようとマクベスが真一文字に結んでいた口を開いた。その時、横からパンッと手を叩く音が耳に入りマクベスが視線をやると、ちょうどシュリルディールが明るい表情で口を開いた場面だった。


「こういうのはどうかな?」


その口から飛び出た子供らしくも狡猾な案に2人の首は縦に振られた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





ディーはゆっくりと馬車から足を出し地に付ける。

(これ結構キツいな…)


魔法を使ってディー自身を動かしてみるが、滑るだけならまだしも複雑な動きはかなりキツい。余分な力が入り過ぎている感覚があるのにどうすれば良いのか分からない。


(滑るだけだとしてもあまり保たないだろうな。早めに終わらせよう。)


そんなディーがいるのはクノートルダム孤児院の前。つまり女装3回目。


(さてさて、ついに自ら女装すると言うようになりましたよー)


前世が女だったために激しい拒否感はないが、ある程度はある。拒否感より危機感があるに近いが。それがここまで来るとほぼ消え去っていた。


(まあ、似合うから別に良いよね。)


そのような問題ではない気がするが、まるきり違うとも言えない。似合わなかったらネタでしかないのだから。

ディーが着ているのは孤児院を廻った時のように貴族の令嬢らしいドレスではなく、大きな商家の娘が着るようなドレスワンピースと言われる普通のワンピースより高級でドレスに近い格好をしていた。もちろん長さは足が完全に隠れる長さで色は可愛らしいピンクである。

クノートルダム孤児院の近くでこっそりと馬車を降り、1人で門の近くまで歩くように滑る。


「あの、少しよろしいかしら?」


ディーは小首を傾げて目に少し涙を滲ませながら、ガッシリとした体型の護衛に問いかける。

背が小さいから上目遣い。容姿は幼いものの美少女。

呼びかけられた護衛を勤めていた冒険者はたじろぎながら顔を僅かに赤く染める。


「お嬢ちゃん、どうかしたのか?」


猫なで声…と言うほどではないが明らかに作った声で屈みながら答えた冒険者に、ディーの目が少し細まる。


(幼児に顔赤くするのはおかしいでしょ。ロリコンか?)


という内心の思いは悟らせずにっこりと微笑む。


「私、数日前にこちらを訪問したの。そこでベリルアグローシュと友達になったのだけれどいるかしら?」


「ああ、あの新人の子か!確か今日休みだから部屋でゴロゴロしてるって言ってたな。ちょっと待ってな、呼んできてやる。」


ベリルアグローシュはクノートルダム孤児院の新人だ。彼女が重要な情報を握っているとは思えないが彼女を通して副院長や他の人達に聞いてもらうことはできる。

よくある懐柔作戦というやつだ。普通は恋人となって…というパターンが多いが今回は友情パターンで行くこととなった。

理由は幾つかある。子供の方が警戒されにくく突っ込んだ話を聞きやすいこと、既に友達だと口に出していたこと、ベリルアグローシュが懐柔しやすそうだということ。

友情という点から子供らしいが、その友情を利用する点からすると子供らしいとは到底言えない。


「ティーリ様!?」


その声に思考に沈んでいた意識を上げると目の前には金髪でワンピース姿の女の子。


「ベリルアグローシュ、先日ぶりね。」


「ど、どうかなさったのですか?」


「あら、練習があれだけだと思ったの?言葉遣いしか直せなかったじゃない。」


(言った時はあれだけで終わらせるつもりだったけどね。)


「え、えっ、いいいいいんですか?」


「ええ、でもその前に貴女と仲良くしたいと思って。お休みのところ悪いけれど少し付き合って貰えるかしら?」


「は、はい!」


驚いた、けれど明るく笑うベリルアグローシュの表情にディーの胸の内に少しだけ罪悪感が込み上げる。しかし、それと同時に反対に第1関門を突破したことにニヤリとした笑みが溢れそうになる。それらを微笑みの裏に隠して誤魔化すように口を開く。


「待ってるから準備して来なさい。街中でも歩きましょう。」










ちなみに、財部省へ他の件と共に問い合わせた結果は

クノートルダム孤児院は人数が増えたため

ビゲッケン孤児院は勤めている女性が高齢の者が増えたことにより若い人を入れ、勤務者が増えたため

に補助金額が増えたと回答されました。


次回は3月25日21時更新です。

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