3話 シュカイルゼン王立学園
サブタイを付けることにしました〜
ミリース国内で一番大きな建物はもちろん王城である。
白寄りのクリーム色を基調とした外壁に深い赤色が屋根など節々に使われており、ミリース国民の誰もが誇るほど見た目が美しく、しかし迫力も兼ね備えている。
それと似た大きな建物が王城から数キロ程離れた場に建っている。こちらは外壁の色は王城より幾分かグレーよりで節々に使われている色は紺に近い深い青だ。
それは王都で二番目に大きい建物であるシュカイルゼン王立学園。6学年あり、入学する年に10歳になる子供から15歳までの主に上流階級の子供が通う学校である。
王族貴族が通うことは義務となっており、加えて商人の子供もコネと将来の為に多く入学する。それ以外の子供でも貴族や商人の元で働けるということもあり、親の土地を継がない子供も通う。
しかし、誰でも通えるわけではない。筆記と実技の入学試験があり、そこで平民の子はかなり減らされる。
平民は入学試験を受けた内の四分の一程しか入れず、試験を受けられるのは一生に一回きりの為、そこそこ裕福な家は特に子供に英才教育を施す。この為、ミリース国ではある一定程度の余裕がある家の子供の学力は他国と比べると相当に高い。
これは学園の入学費が平民は無料だからであろう。その代わり、卒業した平民は20年は国で、又は国の為に何かしら働くことが義務付けられている。これは国内で働くも良し、国の為に何処かの国と輸出入してくるも良し、もちろん貴族の元で働くのも良しである。しかし、この世界の寿命は50から60とそこまで長くない。35歳までは国の為に仕えろということであるから、そこから別の国にとはなりづらい。ほぼ一生国の為に働くと考えても良いかもしれない。これは魔法誓約書で結ばれる為、破ることは難しい。それでも高度な教育と安定した将来を得られる為に、毎年入学者が絶えないのだ。
ただここ以外の10歳以上が通える学校はミリース国内にはない為、入学できた者とできなかった者とでの格差が問題となっている。
ちなみに、入学試験を受ける為にはお金が必要だ。値段は1,000ソール、銀貨一枚だ。日本円で言うと一桁増えた一万円といったところだ。そこそこ高いがこれで子供の将来が決まると思えば安い買い物だ。
つまり、学園は平民達にとって仕えたり繋がりをもつ貴族を査定する場でもあり、逆に、貴族が平民達の中でも優秀な者を自分の家に使用人や文官、武官として取り込む為の見極めの場でもあるのだ。
とは言え、貴族の子供は人員が足りない家は別としてそこまで見極める必要もない。だからこの学園内で比較的お気楽に過ごせるとしたら貴族の次期当主になる者だろう。それでも他家の者とのコネややり取りは必要ではあるが。二男以降はぼーっとしていると就職先が卒業後なくなる為、平民と同じかそれ以上にガツガツしている。
このように国を担う子供達の将来を決める場である為、この学園の敷地は王城ほどではないにしても広大である。
加えて、この敷地内に寮もある。王族貴族は一人で身の回りのことができるようにする為に寮に住むことが必須だ。昔没落した貴族が自分で何も出来ずにのたれ死んだらしい。もちろん平民も国内の四方八方からやって来る為、寮に住む者は多い。
そんな広大な学園にまだ9歳には到底満たない、3、4歳の小さな子供とメイド服の女性が歩いていた。
入学前の視察にしては早すぎる為、兄や姉に会いに来たのだろう。
立ち入り許可と書かれたプレートがローブをかぶって髪を隠した子供の膝の上に置かれている。
カラカラと音を立てながら寮へと向かっていく二人の顔は嬉しそうな表情を浮かべていた。
そのせいだろうか。先ほどからすれ違う生徒が子供を二度見ならぬ三度見して顔を赤らめていくのだ。
「僕が小さいから珍しいのかな?」
「えーっと…ディー様がお可愛らしいからかと…」
小さい=可愛いの図式が少年の頭に浮かぶ。
「ここにいる人たち皆僕より6歳は歳上だもんね…」
「え、いや…」
そういう意味じゃないというメイドの心の声が聞こえる気がする。
フードを深く被っている為によく見ないと分からないが以前より短くなった青みがかった銀髪。外に出れなかった為に日焼けを一切していない透き通るような白い肌。明るいよく晴れた日の空を切り取ったような瞳。
美姫と言われたシュリアンナ姫の美貌を受け継いでいる少年は、幼いながらも見た者の顔を自然と赤らめさせてしまうほどの可愛らしさを備えていた。
寮の前に着き、メイドはディーに待ってもらうように言うと寮の管理室へと向かう。
寮の前に一人残ったシュリルディールはキョロキョロと辺りを見渡す。
(寮ってもっと何かこう…とりあえずこんなんじゃない。こんなの寮と認めない…)
軽く引きつった顔で、寮というより前世のそこそこ高めなホテルに近い6階建ての豪華な建物を眺める。
「五年経ったらここに住むのか…ま、綺麗な分には問題ないか…1階だといいけど。」
そうボソボソと呟いていると、後ろから肩を叩かれた。
「こんな所でどうしたのかい?」
振り向くといかにも貴族風の男子生徒が話しかけてきていた。服は制服なのだが、オーラがキラキラと輝いているのだ。
(ナルシストそう…)
ディーはそんな失礼な事を思いながら、その生徒が貴族子息で最小学年らしいと当たりを付ける。
「兄様に会いに来ました!」
無邪気に笑ってそう言うと、その男子生徒は顔を赤らめる。この学園は査定の場ではあるが、こんな子供は普通なら該当しないはず。それなのに話しかけてくる目的を探ろうとしていたディーは顔を赤らめた様を見て、内心首を傾げる。
「お兄さんに会いに来たのか!お兄さんはどんな人?案内してあげるよ。僕はジェラルド・ナハザール。可愛らしいお嬢さんのお名前も教えてくれますか?」
その言葉を聞いた途端、話しかけてきた目的が非常によく分かってシュリルディールの笑顔が引きつる。
(お嬢さん…女の子と思われてるか。流石に女の子でも6歳差…いや、この世界じゃこれくらいの歳の差は普通か。って!そうじゃなくて!)
「僕は男の子で「男!?」
被せてきた言葉に乾いた笑いが漏れる。
前世が女だったからこそ女の子に間違われるのは止めてほしいと思うのだ。非常に心臓に悪いし、つい女の子っぽい仕草をしてしまいそうになる。
それに、それに…
本当に女だった時は美少女なんて言われなかったのに、ナンパなんてされなかったのに、
男になった途端、美少女と言われナンパをされるのは少し…いや、かなりムカつくものがある。
だから少しだけ、ほんの少しだけチクリと言う。それくらいは許されるだろう。
「はい、残念ながら僕はれっきとした男です。」
ガクッと地に手と膝をつけて項垂れるジェラルドを見てため息をつく。少し警戒して損をした気分だ。
「僕は男ですって看板でも持つか…?」
この場に二人以外の人間がいたらツッコミが入ったであろうがそんな人はいない。
美少女と落ち込む少年という構図に皆が遠巻きに見ているのだ。
「ディー!」
そんな不思議な空気の中、大きな声が響く。皆がそちらを見る中、やって来たのはアレクフォルドだった。
5ヶ月ぶりの懐かしい姿に思わず大きく手を振る。
「兄様!」
かなり急いでやって来たのだろう。金色の髪があちこち跳ねている。
駆け寄ってきた兄はディーと目線を合わせるように屈む。母譲りの緑の瞳が不安そうに揺れる。
「病気は大丈夫なのか…?」
恐る恐る聞いてくる兄に笑顔で返す。
「ほとんど治りました。だから外に出れるようになったの。」
「そうか…そうか…良かった…」
心底安心した声音に嬉しくて涙がこぼれそうになる。チラッと上を向いて堪えていると、アレクはディーの足を見て眉を下げた。
「もしかしてその足は間に合わなかったのか…?」
「うん…立つのも難しくなっちゃった…」
ディーはいわゆる車椅子に座っていた。
メイドのサニアがここまで押して連れて来てくれたのだ。自分だけでは動けない。
前世の車椅子ならボタンを押して自動で動くことも、手や腕を使って車輪を動かすこともできたが、そこまで技術が発達していないこの世界では作れなかった。
長時間座っても痛くないように柔らかい素材でできた手すり付きの椅子。その背もたれには二本の棒と、足元には足を乗せる台を取り付け、椅子の足の代わりに車輪が四つ。後ろの二つは大きく、前の二つは小さい。
ここまでは前世と同じように作れたのだから自力で動かすこともできる気はするが、その取っ手が付けられないのだ。
改めて前世との技術の差を感じる。
これでも子煩悩のディスクコード公爵の財力権力をフル動員して作られたものであるのだから。
「そうか…でも治って良かったよ。僕の部屋に来るか?」
「うん!」
笑顔の弟の頭をフードごしに撫でてから先程からずっと項垂れている下級生を見る。
「ところで、この子は?」
シュリルディールは家の中で寝ているしかなくて暇だった時に眺めていた国内の貴族一覧とそれぞれの大まかな家系図の資料を思い出しながら答える。
「えーっとナハザール伯爵家嫡男のジェラルドさん。自己紹介したら落ち込んじゃいました。」
それだけで色々と察したのだろう。
「ジェラルド君…ディー可愛いもんな…元気出せ。」
その言葉にジェラルドは涙を溜めながら立ち上がる。
「アレクフォルド様の弟だったんですね…ありがとうございます。これからは目をしっかりと鍛えます。」
「あ、ああ。頑張れ。」
ジェラルドは悪い性格ではないのだろう。見た目は貴族らしく少し傲慢に見えるが、素直で真っ直ぐな貴族としてはまだまだ未熟な印象を受ける。
どうやって目を鍛えて男子と女子を見分けるのかが気になるところだが。
どうやって治したのかまで書けませんでした_(꒪ཀ꒪」∠)_
貨幣の価値は必要になった時に説明する予定です。
次回は8月6日21時更新です。