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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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36話 クノートルダム孤児院2

ディーが楽しそうに演技しているのは書いてて楽です。

オセロとのやりとりも書いてて楽しいです。





真っ先に案内されたのは応接間。

部屋の造りはしっかりしており、公爵家の小さい方の応接間に劣らないくらいには豪華なものとなっている。


「当院ではお客様には何処を中心的にご覧になりたいのかをお尋ねし、吟味した後に廻って頂くこととなっております。お茶と甘味をご用意致しますので少々こちらでお寛ぎ下さいませ。」


エソナリア副院長はそう言って頭を下げる。対面式に3人がけソファが2つ置かれているというのに座っているのはシュリルディールただ1人だ。

オセロッティアヌは従者のフリをしているから座るわけにはいかない。


(さて、何を話すか…)

案内より先にここに連れて来られるとは思っていなかった。何か隠す物でもあるんだろうかと勘繰ってしまいそうになる。


(隠すなら隠してくれてもいいけど。何人派遣されたのか知らないけどもう動いてるんだろうし。)


ノック音がして紅茶を運ばれてくる。運んできたのは30代前半程度の女性だ。一礼して紅茶をその場で注いでいく。

その間、エソナリアが紅茶を注いでいるのはアイリスだと紹介してくれた。

アイリスがソーサーとセットでオセロの分まで手渡ししているのを横目で確認しつつディーは口を開いた。


「副院長殿、この孤児院についてのお話を聞きたいわ。座ってちょうだい。

そうね…先程のベリルアグローシュは最近ここに入ったのかしら?」


副院長が座ったのと同時に副院長の分の紅茶も注がれてテーブルの上に置かれる。


「は、はい。まだ不慣れな点が多く…何か粗相を犯しましたでしょうか?」


「いえ、そこまでではないわ。あそこまで慣れていないと大変だろうなと思っただけよ。」


「お恥ずかしい限りです。」


本当に恐縮そうに返答するエソナリアを見て、ディーは軽くポンッと指の先を合わせる。


「そうだわ!せっかくなのだから私を練習台に使ってみない?」


エソナリアもアイリスも目を丸くしこちらを凝視する。

ディーは指の先を合わせたまま首を傾げ軽やかに微笑む。


「ここに就職したくらいだもの、優秀なのでしょう?慣れれば簡単に出来るようになると思うのよ。」


「お嬢様にそこまでしていただくわけには…」


「そんな事気にしなくて良いわ。私あの子気に入ったの。駄目かしら?」


2人は互いに目を合わせ、副院長が頷くとアイリスが頭を下げる。


「かしこまりました。ベリルアグローシュを呼んで参ります。」



◆◆◆



「失礼致します。アイリスとベリルアグローシュです。」


数分ですぐにノック音と共に扉の向こうから声がする。


「入りなさい。」


副院長の声と共に扉が開き、アイリスと明らかに緊張した面持ちのベリルアグローシュが顔を見せた。2人は同時に一礼してからこちらへと向かってくる。

ディーはそれを見てにっこりと微笑む。


(これで3人。)


今日この孤児院にいる大人は護衛2人と下働き1人を含めて8人だ。院長は外出している…というよりかは基本いないらしい。

護衛2人は滅多にあの門から動かないだろう。そして、この部屋に3人。しかも副院長がいる。残り3人の目をかいくぐって役立つ資料を見、或いは盗ってくれば良いのだから難易度は一気に下がる。


人を集める


ディーとオセロが変装して正面から入った最大の目的。それを見事最大限に果たしていた。


まず初めに滅多にいない院長の代わりにこの孤児院を切り盛りしている副院長が接触して来たのは僥倖だった。

そのまま他に任せることなく付いているのは新人が粗相をしたせいだとは思うが、結果的に良い方向に進んでいる。しかもその新人を呼び出せたことにより副院長はここから離れることが難しくなった。


新人であるベリルアグローシュを呼んだ理由は副院長をここに留める目的もあるが、単純に警戒の意も込められている。新人は何をするか予想がつかない。行動の周期がなく、予想が付かないことはひっそりと潜入する側としては非常にやりづらいものだ。だからこそ、この部屋に留めた。


先程(チェルノー孤児院)は結果的に上手くいったから良かったものの失敗しまくりだったから。)


言葉遣いが混同したことだけでなく、子供達から情報を引き出せなかったことも。

成功したことはちゃんと令嬢に見られたことくらいだ。そんなのはこの容姿なら余程のことをしなければ成功する自信がある。


「ベリルアグローシュだったわね。私と少し話さない?とりあえず座ってくれるかしら。」


「は、はい!失礼します!」


「そんなに緊張する必要はないのよ?貴族というだけで普通の人間なのだから。」


ロボットを連想させるような動きがその言葉で若干緩和されたのだろうか。ベリルアグローシュは震える手で紅茶を飲みながら一息ついて恐る恐る声を出した。


「えっと…私元々貴族なんです…出来が悪くて、婚約破棄されて現在は家の名は名乗る事を許されていませんが…」


(名前から貴族っぽいとは思ってたけど…)

出来が悪くて勘当されるとは相当だ。社交界デビューも果たしていただろうに。


「だからここにいるの?」


出来の悪さは言葉遣いがなっていないことからも予想はつく。彼女の家の家庭教師は何をしていたのか問いたくなるレベルだ。


「は、はい…ここで勉強しろと、言われまして…」


「そう…それは良かったわね。」


ベリルアグローシュの親は出来が悪い娘を単に勘当するのではなく、就職先を用意して勘当したのだろう。


「良いことなんて…」


「あら、普通ならこんなに良い就職先を用意されないまま放っておかれるのよ?充分すぎるじゃない。」


家を継げず、他の家に入ることもできなかった貴族の子女は当主の特別な意向がない限りは学園を卒業したと同時に平民落ちとなる。

流石に古くから存在する伯爵家以上はそのような事は殆どなく、分家を創設したり同じ家に住ませるなどするが、それも数代で進展がなければ平民落ちとなる。

だから学園卒業時に平民落ちと確定している次男以下は必死に就職先を探すのだ。


ただ、平民落ちとなっても勘当という形を採られることは少ない。次期当主がいなくなった場合に継げる人物がいなくなると困るからだ。

ベリルアグローシュの背景がどんなものかは分からないが次期当主の備えとしても必要ないと認定されたのだろう。


(当主としての判断と父親としての情が入り混じった結果が、孤児院への就職か。)


「…そうかもしれません。」


「親からの最後のプレゼントを最大限に生かさなければ勿体ないわよ。…ということで私で貴族の対応を慣らしてみたらどうかしら?」


慣らしてみるという話はアイリスから聞いていたらしい。ほぼ驚くことなく質問が飛んでくる。


「ど、どうして私にそこまでしてくれるのですか…?」


「単なる私のエゴ(自分勝手な考え)よ。

慣れというのは大事よ。私も大人とばかり話しているからこんな風に慣れてしまったわ。」


ふぅとわざとらしくため息をついてからディーはベリルアグローシュに向けてにこっと微笑んだ。

ベリルアグローシュは副院長の顔を見てから大きく礼をする。


「よ、よろしくお願いします。」


「ええ、とりあえずその言葉遣いだけれど…」





◆◆◆◆◆◆




30分は経っただろう。

慣れより先に言葉遣いを直すことで時間が過ぎてしまった。


「ティーリ様!ありがとうございます!」


それでもベリルアグローシュは満足感達成感の見える表情で何度も何度もお辞儀をして感謝の意を示す。


「後は自分自身で頑張りなさい。」


一区切りついたのを見逃さず副院長が口を挟む。


「ティーリ様、誠にありがとうございます。ところで、当院の案内は如何致しましょうか?」


「そうね…私ここには同年代の子と友達になってみたくて来たのだけれど…」


そう言いながらディーは後ろのオセロをチラリと見る。オセロは小さく首を傾げニッコリと微笑む。

(必要ない、か。)


「私には難しそうだと思ったわ。ベリルアグローシュとは友達のようなものになることができたと思っているから、今日はこのまま帰ることにしようかしら。」


「宜しいのですか?」


「ええ。友達を作る目的は達成したもの。お時間を取らせてごめんなさいね。楽しかったわ。」


これから案内して子供達と触れ合っていたらどれだけ時間がかかるか分からない。もう1院行く必要があるというのに。


ベリルアグローシュと最初に会った場所まで見送ってもらい一言二言話した後にディーとオセロはクノートルダム孤児院を出る。




「ディール、良い動きだったよ。情報も上手く集まったみたい。次もここと同じ感じだから似たような感じで人を集めていこうか。」


ニヤッと笑ったオセロと同じ笑みをディーも返す。


「同じ手は使えないけどね。」


あの子みたいな子がそうそういては困る。


「ベリルアグローシュちゃん純真無垢って感じだったねー。悪い奴に簡単に騙されちゃうよね。」


「僕が悪い奴って言いたいの?僕だって純真無垢な4歳児なのに。」


頬を膨らませて抗議するディーにすぐさま反論が返ってくる。


「いやいや、ディールが純真無垢って言ったらかなりの人が純真無垢になっちゃ…ってごめんごめん!あまり痛くないけど心が痛い!」


ポカポカとオセロの脇腹を殴り続けるディーに向かってオセロは顔の前で手を合わせて謝る。

ディーはハァとため息をつき軽く唇を尖らせる。


「別にいいけどね。純真無垢すぎて勘当されたんだし、僕は勘当されたくないし。」


「ありがとう。ディールはどんな風になっても勘当されないと思うけどねぇ。」


フォルセウス()の親馬鹿は有名な話であるらしい。例えグレても余程のことをしなければ勘当されそうもないことが容易に想像できる。


「うん、されない気がする。

次はビゲッケン孤児院だよね。同じ演技でいくね。」


「しっかり者の令嬢、年齢を考えなければ違和感なかったから良いんじゃないかな。」


それは良いのだろうか。



2人は日が傾き始める中、のんびり歩く馬車に揺られながらビゲッケン孤児院へと向かった。










ビゲッケン孤児院は、行きました。で終わります。名前しか出てきません。クノートルダム孤児院と似たような子供を集め、似たような見た目です。


次回は集めた情報を共有しながらの会議をします。

更新は3月18日21時です。

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