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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
36/82

33話 チェルノー孤児院

オセロのディーの呼び方が統一できてなかったので訂正しました。2/21/17:00






シュリルディールは近づいて来る寂れた建物を観察しながら口元に軽く手を当てる。指は柔らかく揃えられ、先の部分で口元を軽く隠す様は令嬢らしく上品に映る。

左手はオセロッティアヌの肩に、こちらもまた優しく添えられるように置かれている。


先程までが決して粗雑だった訳ではないが、馬車を降りた途端に全ての仕草が綺麗に柔らかくなったディーを見て、オセロは眼を見張る。

そこらの貴族の令嬢より令嬢に見えた。

この年代の令嬢ももちろんマナーを厳しく教えられるし、貴族らしい動作を採ることが多くなってくる頃である。しかし、食事時や挨拶時のマナーを子供のうちは覚えられていれば良い方で、このような細かいところまでまで出来ている子供は優秀な王女や高位貴族くらいなものだ。


そう、ディーは真面目に女の子になりきっていた。ちゃんとした理由と昨年も同じ事をした仲間がいたから余計に恥ずかしさは消え去っている。

それが良い事なのか良くない事なのかは分からないがバレにくくなったという点から考えると良い事なのだろう。


ここらは王都の外れな為に、周囲にはこれと言った建物があるわけではない。何処かの兵士や商人、工人の家が密集しているくらいである。当然周囲に溶け込みようもない2人の姿は目立ち、孤児院に隣接する庭にいた子供達の数人が建物内へと駆けて行く。

それから数分も経たない内に、オセロが孤児院のドアをノックするとすぐに、おっとりとした印象の痩せた老婦人が扉を開け、オセロとディーに向かって頭を下げた。先程の子供達が知らせていたのだろう。


「こ、こちらはチェルノー孤児院でございます。どういったご用件でしょうか?」


明らかに貴族の令嬢とその従者と見える格好をした2人組は丁寧な言葉と動作で対応される。

当然監査なのだから前触れなど出していない。子供達から知らせを受けて慌てて身支度を整えたのだろうか。婦人の黒と白の混じった髪が一房だけ纏まりから外れてしまっている。


「お嬢様が孤児院を見に行きたいとおっしゃられてな。今から構わないか?」


横柄さを感じる口調。先程までのオセロの口調を考えると思わず笑いそうになる。ディーは込み上げてくる笑いを奥歯で嚙み殺しつつ、ダメ押しのように言葉を重ねる。


「突然来てしまってごめんなさい。ティーリと言いますの。こちらはロゥですわ。見学してもよろしいかしら?」


言ってから気付いた。これ4歳児の発言じゃない。大人しくも暗くもない、と。

(まあ身長低めの6歳児くらいにでも見てくれたら問題はない…はず。)

自身の身長が一般的な4歳児より低い事がすっかり頭から抜け落ちているディーである。


「は、はい!構いません。寂れておりますが、どうぞお入り下さい。私、チェルノーがご案内致します。」


そう言ってドアを全開に開けるチェルノーの促す通り、オセロに抱えられながら中に入るとすぐにテーブルと椅子が並べられた部屋が目に入った。

部屋はキチンと隅々まで掃除はされているお陰で不潔感はないものの、ディーが小さく感じてしまったのは貴族の生活に慣れきってしまったからだろうか。


(前世の感覚では狭くはないはずなんだけど…

自分では気付いてなかったけどいつの間にかあの広さの部屋に慣れてたんだろうな…)


少しだけショックだ。自分の中の当たり前が大幅に変化していることが、自分が自分ではなくなっているような気分に陥らせる。

部屋を見渡した後考え込んだディーを、オセロは一瞬不思議そうな面持ちで見つめたがすぐ視線をチェルノー婦人へと戻す。


「ここは食堂か?」


「はい。他にこちらの部屋以外に子供達机と椅子はないものですから勉学もこの部屋で行なっております。」


「ふむ。ここの椅子は全て埋まるくらい子供がいるのか?」


「はい。こちらには全てで24個の椅子がございまして…子供は28人おりますので、足りなくなっておりますね。」


そのような会話をしながら奥の廊下に進むと、3段ベッドが敷き詰められた小さめの部屋をいくつか紹介される。赤ちゃんとそれを見守る子供がいた他には取り立てて言うこともなく過ぎていった。


「こちらで最後となります。」


そう言って案内された部屋は一番見慣れた部屋に近い間取り。2つのソファがテーブルを境に対面式に置かれている応接間だ。窓から子供達が庭で遊んでいる様子がよく見える。


「こちらで少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」


「ええ。構いませんわ。」


ソファに座った2人に深々と一礼してから退室したチェルノー婦人の足音が小さくなっていくのを確認してからオセロが口を開く。


「ディール、何か気付いたことはある?」


「んー…子供達の警戒度が強いよね。貴族に慣れてない、もしくは何かがあったのか…」


「やっぱディールもそう思うかぁ…」


「というかここでこんな話して大丈夫なの?」


「魔法使って聞こえる範囲に人がいないのは確認済みだからね。」


「ならいいけど。」


ディーは頬杖を付きながらそう素っ気なく返して窓の外を見る。


「ちょっ、見れる範囲内にはいるんだから見た目は令嬢らしく振る舞っておいてよ。大人しく暗い令嬢は何処に行ったのかな?」


途中から笑いを含んだ声にディーはそっと肘をソファのへりから外しつつムッと唇を尖らす。


「分かってるよ。演技は苦手なの。令嬢らしくなかった?」


「いや、完全にしっかり者の令嬢だったよ?所作とか言葉遣いとか完全に高位貴族の令嬢そのもの!ディスクコード家では令嬢のマナーも教わる…訳ないよね?」


「うん、勿論。今まで見てきた人達の所作を真似たんだよ。」


「それってまさか…」


愕然とした表情をしたオセロにディーはあっけらかんと答えを告げる。


「お母様と第2妃様と第3王妃様だよ?」


途端にオセロは手で顔を隠し下を向く。ブツブツ何かを唱えているようだ。


「いや、うん、そうだよね。身近な女性を参考にするのが普通。そしたらディールの場合は王族になるのかよ。子爵家とか男爵家とかを想定してたのがそもそもの間違いだったのかも…」


「?…どうかしたの?」


ディーが首を傾げて問いかけた途端、控えめなノック音が部屋に響きわたる。


「失礼致します。」


そう言って部屋に入って来たのは盆を持ったチェルノー婦人。


「こちらはアプルルティーでございます。」


目の前で3つのカップに入れられた途端、紅茶の甘い香りがフワッと鼻孔をかすめる。アプルルはりんごのような香りで見た目は杏の果物だ。

口には触れることなく香りを楽しんだ後、ディーはカップをソーサーに戻しチラリと目の前の老婦人を盗み見る。

何かを迷っているような印象で視線を彷徨わせている。


(この状況にしたんだから何か話したい事があるんだろうけど…)


ディーが話すしかないだろうに何を躊躇っているのだろうか、という思いから少し怪訝な表情を浮かべる。その表情を表に出したせいだろうか、チェルノーがゆっくりと僅かに口を開き勢いよく頭を下げた。


「恥は十分に承知しております。貴女様を何処ぞの高貴なご令嬢とお見受けして、矮小な私からお耳に入れたいことがございます。どうかお聞き下さいませんでしょうか?」


ディーは悲痛そうな面持ちで必死に頭を下げている様子から言いたい事を大方予想付ける。おそらく間違っていないだろう。


(そもそもここに来た理由が…ね。)


「構いませんわよ。」


完全に大人しくない少しプライドが高そうな令嬢だ。


「あ、ありがとうございます。

ティーリ様のお耳に入れることを欲することはこの孤児院の経営に関する事柄でございます。

ここの孤児院は身寄りのない孤児専門の孤児院です。そのため収入は他の孤児院と比べて少ないことが現状でございます。」


家族から捨てられる形や預けられる形で孤児院に身を寄せる子供がいる。そう言った子供専用の孤児院は多い。

その理由は身寄りのない子供専用の孤児院に比べて経営における心配が少ないからだ。

親がいるにも関わらず孤児院で育つ例として多いものは、公にしたくない貴族の庶子や双子の片割れ、他にも商人の子でも外聞の悪い子供である。彼らの親は知られたくないが為に多くの金を援助金という名目で提供する。それだけでなく、そういった孤児院は比較的豪華で大きく見栄えも良い為、楽に慈悲深さを見せたい貴族の令嬢がよく訪れお金を落としていく。

一方、ここのチェルノー孤児院はそうではなく、援助金を貰ったとしても少額であり、当然援助金だけで経営はできず、国からの補助金や商品を作って売ることにより保たせているのだろう。

このような外れにある孤児院は貴族の令嬢等からの援助の望みは薄く、より格差を拡大させている。


「先日国からの補助金が減らされてしまいまして、経営が苦を極めております。どうか、どうかお気配りを下さらないでしょうか?」


そう、今回の目的は何故このチェルノー孤児院への補助金が著しく減らされているのか。財部省に尋ねても芳しい答えは返ってこなかった。

オセロとディーはチラッと目を合わせて頷き合う。


「国からの補助金が減らされたということは何か問題があったのではないか?」


「…た、確かに問題がありました。ですが!ですが、ここにいる大人は私1人ですし防ぐことは難しかったのです…」


「何があったの?」


「ここにいる子達の内の5人が誘拐事件に巻き込まれまして、無事帰っては来たのですがおそらくそのせいで減らされたかと…」


(んんー…何か既視感が。)

ディーの視線が部屋を彷徨う。


「お嬢様、如何致しますか?」


「え、えーっと、そうね。私の一存では決められないの。だからお父様に尋ねてみるわ。」


「そうですか…」


明らかに落ち込んだ様子を見て慌ててもう一つ言葉を加える。


「私からも口添えしておきますので、おそらく援助を与えられるとは思いますわ。話は以上かしら?」


オセロが咎めるようにディーの肩に手を乗せる。それを無視してディーは嬉しそうに頷くチェルノーにニッコリ微笑みかける。


「庭に出て子供達と話をしても良いかしら?」










昨日のフィギュアは凄かったですね。天然さ可愛すぎました。萌えました。

これから500m始まりますね。


次回の更新は2月25日21時です。

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