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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
32/82

29話 勉強

上手く切れず、いつもより短めになっています。すみません。






クジェーヌ・ソルベール宰相とシュリルディールの視線が交錯する。

ディーの口元が僅かに緩んだ。


「どう、とはどのような意味でしょうか?僕はまだ政務に何ら関わりのない突然ここに連れて来られた子供ですよ?」


その言葉にトッレムの責めるような視線がクジェーヌに向かう。その視線に気付いているのか気付いていないのかクジェーヌは大振りな動きで手を動かし眼を見張る。


「おお、そうじゃった。言い忘れておりましたな。」


(嘘でしょ)

騙されかねない程上手い演技だったが、それまでの探るような視線が完全にアウトすぎた。

これで釣られて頷きでもしていたら、その時点でディーは宰相のお眼鏡に叶わなかっただろう。


(…それはそれで面倒事に巻き込まれなさそうでアリだけど。

………うん、アリだな。そうすれば良かったんじゃない?失敗した…)


密かに落ち込むディーにクジェーヌはニッコリと微笑んで告げた。


「わしの、総部省の手伝いをしませんかのお?」


その言葉を聞いたディーの表情に目立った変化はなく、精々眉が少し上がった程度。だが、頭の中はグルグルと高速で思考が移動する。

(人部省と言っていたからそうじゃないかと思っていたけど…これ明らかにルール違反にならない?)

色々と言いたい事が駆け巡るが、何よりまず先に言わねばならない事がある。


「この件を父は認知、そして賛成しているのでしょうか?父が賛成しない限り僕からは何も言う事は出来ませんが。」


脳筋とよく言われるフォルセウスだが、馬鹿ではない。本当に重要なことに関して悪影響を与えかねない行動はしない。そうでない事に関して考えて考えた結果、壊せば良いとか突撃すれば良いとかそんな結論を出してしまうだけで。

…それも問題ではあるけれど。

(…でも、これはかなり重要な部類に入る。頷いたら間違いなく面倒事になるくらいには。)


「もちろん賛成は貰っておりますぞ。加えて陛下からものお。流石に他家の事を家主に聞かんで決めることはせんからのお。」


(何でこんなに焦ってる?

こんな身を切るような行動をしなければならない程追い詰められてるってこと…?)


「それならば僕は指示に従いましょう。」


(断る余地なんて初めから用意されてないじゃん。)

内心で舌打ちしたディーにクジェーヌは満足そうに微笑んで頷く。


「ですが、それは規則違反になりませんか?」


「認めさせれば良いのですぞ。学園の官吏用卒業試験を合格するなどして、のお。」


ディーの口元がヒクリと歪む。


「…本気ですか?」


ニコニコ微笑むその表情が物凄く恨めしく感じた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





あの後分厚い本を30冊程渡されたディーは書庫に戻ることなくディスクコード邸に帰った。

ケインリーがディーの部屋に本を置いて出て行ってから10分程が経過していた。


「はぁ…どうして1週間で最難関の試験を…」


通常、官人になるには学園を卒業する必要がある。それだけでなく、学園で官人になる為の卒業試験を受け、合格しなければならないのだ。一定程度の貴族となると優遇されることもあるがそれも少数だ。

貴族が官人になる為の試験は官吏登用試験Aと呼ばれる試験を受けて合格する必要がある。この場合は基本が王城勤務であるし、採用先も家との関係により大方決まっている。

一方、庶民が官人になる為の試験は官吏登用試験BとCがある。Bの方がCより難しく、その分その後は一定程度までは出世できるようになることが多い。

しかし、合格したからと言って就職先が決まるわけではなく、試験より前に予め確約を得ておかねばならない。確約を得るには同じ学園に通う貴族の子息や仕えたい貴族や王城の人事担当者に掛け合う。

予め確約を貰わねばならない理由は試験自体が卒業間際の冬であるからであり、合格してから何処に就職したいかと動き出しても遅いからだ。

もちろん、貴族に仕える場合は試験に合格せずとも気に入られれば仕えることはできるが、王城勤務の場合は必ず試験に合格する必要があるのだ。


ちなみに今述べている官人は文官のことであり、武官、つまり騎士の場合は実技試験である。


そのような決まりがあるというのに、陛下や宰相の独断で4歳になったばかりの子供を政務に関わらせるなどルール違反だ。


だが、これには一つだけ抜け道がある。

このルールで行くと学園卒業者以外は王城で働けなくなってしまう。

他国の者や埋もれていたが優秀な者を取り立てる為に、しばしば抜け道が使われている。

それは先程説明した官吏登用試験Bを20番以内で合格するという道だ。


官吏登用試験Bまであと1週間。


ふざけるなと叫んでもおかしくないと思う。


ふぅ、とディーはため息を吐く。視線の先にあるのは目の前に積み上げられた本達。

官吏登用試験B用の教材である。歴史や文化、伝統、魔法、建築、地理、外交など多岐に渡る分野が表紙に見えるが、おそらくディーの目の前にある本達は幾つか種類のある試験用の教材の中でも優れている物なのだと思う。


「でもさ、無茶振りすぎない?」


一番上にあった土地の本を手に取ってパラパラとめくりながら悪態を吐く。その口から出た言葉は止まらず、次々と吐き出していく。


「大体さ、伯父様とか父様が許可出してるならもう少し前にこの話は挙がってたと思うんだよね。なのに、1週間前に言う?最難関でしょ?それを20位以内で合格しろと?4歳児に?バカじゃないの?本当に馬鹿。あー…本気で合格させる気ないんじゃないの?」


そう言いながらも目は次々と文字を追い、止まる様子はない。

(あの目は合格させる気ないって感じはしなかったけどさ!酷くない!?)


ディーの勉強漬けの1週間が始まった。










試験の難易度はB > C > Aの順です。貴族以外で王城その他で働きたい人は普通はBもCも両方受けます。


次回は1月28日21時更新です。

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