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足なし宰相  作者: 羽蘭
第3章 内政
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27話 へそくり

第3章突入です!

加えて、気付いている方もいらっしゃるとは思いますが、変える変える言ってたタイトルを変更しました。





歩いて10分もかからない王城に行くのにも馬車が必要となってしまう。

馬車を降りて王城内を歩く方が時間がかかると言うのに。

それは貴族である以上、仕方のないことだ。


分かってはいるのだが、ディーは馬車が得意ではない。

椅子のクッションは柔らかく座り心地は良いものの、いかんせん酔うのだ。王城に着くまで5分だというのに最低でも1回は吐きそうになるくらい気持ち悪くなる。

美奈は車酔いしないタイプだった。こちらの世界の乗り物が揺れるせいもあるだろうが、やはり身体が違うとその分色々と変わってしまうのだろう。

我慢しているが何とかしたい。

とは言っても揺れを少なくする方法など知っているはずもない。


治癒魔法があれば一発なんだろうけれど、そんな便利なものはない。だから薬学が発展しているのだろうと思いきや、そんなこともない。


治癒魔法はなくともポーションがあるからだ。

ポーションは2種類ある。魔力回復ポーションと体力回復のポーション。

ディーは魔力回復のお世話になったことはないが、体力回復にはよくお世話になっている。病気が完全に治ることは少ないが、自然治癒力を上げることにより、病気がマシになるのだ。


ポーションは安いものではない。

供給は多いが、需要も多いからだ。一応ミリース国は王家主導で量産しているが、それは欠かせないものだからだ。そんな物が安いはずもなかった。

だからこそ、馬車酔いなどで毎回毎回ポーションを使うのも気が引ける。


今まで大まかに読破した本は歴史と土地、魔物についてである。魔物については元の知識がないに等しい為かなり時間がかかった。

歴史は地球の西洋と似ている展開もあったが、魔物は仕組みから違う。普通の動物との違いは魔法が使える点だろう。

その魔物の中でもヒトに害なす物を害獣と呼ぶ。ただ、害をなさない魔物は珍しい為、魔物と害獣はイコールで使われることが多いが、本や資料においてはキチンと区別されて使われている。


そして、今シュリルディールが読んでいるのは植物についての本だ。

つまり、自力で馬車酔いに効く薬草を探そうと考えたのだ。

しかし、この世界で薬草と認識されているものは、単体を食べたり塗ったりした結果、怪我の治りが早くなるものや、解毒作用のあるもの、2種のポーションの材料に使われているものだけである。

最初に読んだのは薬草についての本であったが地球にはなかったような草ばかりで、当然酔いに効くなど書いてあるはずもなく、とりあえず知識として蓄えるに留まった。

今は薬草ではない植物の中から前世で酔い止めに効くとされていた薬草を探しているのだ。


しかし、これが中々難しい。

写真がないこの世界、本に描かれているのはスケッチだ。特徴は捉えているものの、カラーではないために余計に同じように見えるものばかり。

それを一つ一つ確認し、時に説明書きも読んでいく。その表情は真剣だ。


(あれがあれば…)


脳裏に浮かぶのは前世で何度か使った薬草。


美奈の親は美奈が5歳の時に亡くなった。親戚も特にいなかった為、美奈は小さな町の児童養護施設に預けられた。

あの頃は必死だった。怖かった。ここに居れなくなったら居場所がないと分かっていたから必死に顔色を伺って良い子を演じた。院長先生は決して悪い人ではなかった。それでもあの時は大人が怖かったのだ。

そうやって過ごして行く内に、その必死さは大分和らぎ、怯えずに過ごせるようになったと思う。だけど、そうなって途端に見えて来たのが養護施設の現状だった。

院長先生の金遣いは非常に適当だった。良い人なのだけれど騙されやすいのだ。

途中から小学4年生の美奈が代わりに金銭は全て管理したくらいだ。その頃から自分がしっかりしなくてはという思いから別の意味で必死だった気がする。元々資金がそんなにあるわけでもなく、かなりギリギリの生活だった。

施設は公的なものでもしっかりとしたものでもなかったから色々な所からお金を借り、それを返せないというトラブルが何度も起きた。その度に兄姉と共に言葉巧みにのらりくらりと躱し収めて来たのだ。

その時に役立ちそうという理由から法律は全て覚えたしそれ以外の勉強もした。その中に薬草についても含まれていた。薬を買うお金は最低限にしておきたかったからだ。

薬草を摘んでくるのは裏山によく筍、きのこ、山菜を採りに行っていた小学校中学年から高学年の男子達。彼らに分かりやすい写真と特徴をまとめたメモ用紙を持たせて、あったら採ってくるように伝えたことが何度かあった。

そうやって皆で協力してギリギリで生きていた。


(でも、私死んじゃってるもんな…今皆どうしてるかなぁ…借金溜まってないといいけど…)


運営資金のやりくりはどうなっているだろうか。7歳までの子が8人、8〜12歳が7人、12歳以上が6人。少なくとも18歳までは施設にお金を入れるという暗黙のルールがあったから、美奈以外は高校に通わず働いていた。

美奈は特待生で通えたから将来先生になる為にバイトをしてお金を入れていた。

高校に通えるなんて恵まれていると分かっていたから大学を卒業してからもお金を入れるつもりだった。

美奈が死んだらお金をやりくりする人がいなくなる。入ってくる収入も減る。今どうなっているのか不安を覚えるが、今の美奈はシュリルディールだ。どうすることもできない。

たまに思い出して意味のない心配をすることしかできない。

そして、もう何も出来ないことに悔しく悲しくなって諦める。


(諦めるしかないと分かっているのにね。)


植物の本を読んでいると昔のことを思い出して自己嫌悪ばかりしている。

シュリルディールは軽く息を吐き苦笑する。それは寂しい苦笑だった。


そんな事を思いながら本を読んでいたディーだが、本の文字を追っていた目がある一点で止まった。


〈コリミール草〉


(これだ!ヘソクリ!)


カラスビシャク。別名ハンゲ・ヘソクリ。これが前世で呼ばれていたこの薬草の名前だ。百姓が副業としてこれを売ってお金を得たからヘソクリと呼ばれたとも言われている。

もちろんこの本には薬草とは書かれていない。雑草、毒草だ。

美奈がこの草を見たのは近くの畑の中だった。子供達で耕し育てていたが、その中でも抜いても抜いても生えてくる厄介な雑草だったのだ。あまりにも沢山採れるので食べられないかと調べたら、毒草ではあるがしっかりとした処置を施せば、車酔いやつわりなどによる吐き気止めや痰切りに有効と書いてあった。あの時は使えると分かって喜んだものだ。


(これがきっかけで薬草について調べるようになったんだよね。)


目当てのものが見つかって思わず笑みがこぼれる。


(とりあえず採取して同じものかどうか調べ……ん?さいしゅ……あっ!)


車椅子がガタリと揺れる。シュリルディールの顔には先程までとは違い、悲壮感が漂っていた。

陰に隠れているケインリーの視線がディーを向くがそれどころではなかった。


(そうだよ…ハンゲ(・・・)・ヘソクリじゃん…半夏(ハンゲ)じゃん…)


今は冬だ。冬なのだ。

ハンゲ・ヘソクリはその名の通り、半夏(ハンゲ)に採る必要がある。


(採取まではコリミール草が本当にハンゲ・ヘソクリなのかを調べて、毒を消せる生姜を手に入れておかないと。)


生姜がこの世界にあることは知っている。

名前は異なるとは思うが、食事に出てきたのだ。間違いない。

ディー自身は外を歩いて探すことはできない。だから誰かに頼む必要がある。車椅子の内側のポケットからメモ用紙を取り出し、そこに本に載ってあるコリミール草のスケッチを模写し始めた。


ふと、手元に影が差しちらりと顔を上げる。

そこには白い髭を生やした好々爺という印象のお爺さんが覗き込むようにディーの手元を見下ろしていた。シュリルディールは慌てて頭を下げる。


「シュリルディール殿、頭を下げなくとも良いですぞ。」


「は、はい。お久しぶりです、ソルベール宰相閣下。」


顔を上げて改めて目の前の人物を見る。どこからどう見ても人の良さそうなお爺さんだ。だが、有能な宰相(・・・・・)がそれだけなわけがない。


(隠すのが上手い…なるべく敵に回したくない人だよねぇ…)


「わしはただの元伯爵じゃよ。シュリルディール殿はどうしてコリミール草のスケッチをしておられるので?」


(だよね。そう思うよね。ただの雑草、いや毒草だもんね。うー何て説明するべきか…)


必死に頭を動かす。空間魔法を創り出した時以上に必死に頭を動かしている気がする。


「…何かこれが役に立てないかと思いまして。繁殖力も強いですし、毒は薬になると言いますから。」


そう言ってディーはにっこり微笑む。

嘘は言わないが多くを語らない。これが一番有効だ。


(誰かに聞いたとか言っても今までずっと家の中に居たし…本に書いてあったと言ったらどの本かと聞かれるし。でも、今すぐ証明はできないし。)


「確かにコリミール草は使い所のない厄介な草じゃが…ふむ、薬として使えたら良いのぉ。」


口調は穏やかなままなのに細い目が怖い。開いてるか分からない目が非常に怖い。毒草というのが悪印象だっただろうか。命に別状のある程の毒草ではないが確か声が出なくなることもあるのだ。

(…うん。こんな子供が毒草をメモしてるってのは印象悪くなって当たり前だな。)


「はい、調べてみようと思います。」


そう返すので精一杯だった。

内心は汗が凄い。

何度か言葉を交わした後、立ち去る背中が見えなくなったところで思わずため息をつく。


「びっくりした…」


そうポツリと呟いた言葉が書庫内に響いた。

宰相がディーに近づく少し前から隣に現れたケインリーに気づかないくらいには焦っていた。


(陛下に頼まれたのかな。何か私気に入られてるみたいだし。理由は何となく分かるけど。)


第一王子があんなのなのだ。使える人材は鍛えておきたいのだろう。それにしては接触が少し遅い気がするが。

このタイミングで接触してきた、それは…


(…あの誘拐事件か。)


遺体破棄現場を絶対に押さえる必要があった訳ではない。ただの牽制にしかなり得ないことは分かっていたが、口出しせずにはいられなかった。

次回似たようなちょっかいを出された時にディーが関われているか分からないのだから。


(でも、失敗したかな…流石にやり過ぎた感はあったからなぁ。)










次回は1月14日21時更新です。


ブクマが100超えてました!ありがとうございます!

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