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足なし宰相  作者: 羽蘭
第1章 空間魔法
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2話 無謀な約束・魔法

※題名通りの展開になるのはまだまだ先です。今の所第4章から題名通りの展開になる予定です。一章あたり十話前後を予定しているので本当に先です。


間隔を開けてみました。読みやすくなっていたら幸いです。





どれ程の時間が経ったのだろうか。ふと隣に気配を感じ意識が浮上する。目を開けて隣を見ると深刻そうな面持ちをしたアレクフォルドがいた。


「兄様…?」


兄の目は赤く腫れていて泣いたことが見て取れた。

(あの後泣いたのかな…)

そんな思いから少し唇を噛む。


「ディー…」


その掠れた声と頭を撫でる優しい手に思わず涙がこぼれそうになる。

だが、ここで泣いたら聞いていたことがバレてしまう。キョトンとした顔で無知を装う。


「兄様どうかしたの?」


「何でも、何でもないよ。」


(兄様…隠すの下手すぎる…)

背に腕が回されギュッと抱きしめられるとアレクの身体が震えているのが感じられた。ディーはアレクを抱きしめ返す。

それ以外できなかった。

病気治すことなんてできないのだから。

できないはずなのに。


「ディーのことは何とか、僕が何とかするから。」


そう告げられた言葉に身体が固まる。

14歳のアレクに出来ることなどない。権力はある程度あるかもしれないが、それならば父や母の方が上であるし、権力など魔力過多症には何の意味もない。

そんな子供が何かやるとしたら嘘か本当か分からない噂に従うことくらい…


「兄様…無茶するの?」


シュリルディールに出来ることは無知を装ってはぐらかして聞くことだけだった。


「大丈夫だよ。」


(嘘だ。絶対何かやらかす。)


「だめ!ディーの為に何かするんでしょ?ディーのことはディーがやるの。兄様は兄様のことをやるの。」


「いや、でも…」


「兄様。ディーの為に無茶してほしくないの!ディーの分まで兄様には生きててもらわなきゃいけないんだから!」


ヒュッと息を呑む音がした。

言ってしまった。つい口から出てしまった言葉に頭を抱えたくなる衝動に駆られたが、もう色々と遅い。


「……ディー…それは…」


身体を離したアレクの目を見つめて淡く微笑む。隠し通せないのなら隠さず話して無茶をやめさせる。


「僕が永く生きられない事なんて元々分かってたよ。その長さの問題でしょ?」


努めて軽く言う。声が微かに震えているのはバレてないだろうか。


「ディー…知って…」


「聞こえちゃったの。だから、兄様は…」


「嫌だ。」


その言葉に嬉しいような悲しいような感情が入り乱れる。


「嫌だ。絶対嫌だ。無駄でも無茶でも何でもいい。ディーが死ぬなんて許さない。」


「に、兄様…?」


(許さないって言われても…)


「絶対に方法探し出すから。ディーは待ってて。絶対何とかするから。」



(ああ、この兄は。)



涙が後から後から頬を伝う。涙を止めることなどもうできなかった。


「はんとし…」


「え?」


「半年待って。兄様は半年間無茶はことはしないで。僕のことは僕がやる。幾つか案はあるの。だからちょっと待っててくれる…?」


口から出まかせだった。案なんて何もない。でもこのブラコンを極めた兄を止める事なんてできなかった。

期限付きにするのが精一杯。半年経って無理だと思ったらその時は…


(3歳半で死ぬのも4歳で死ぬのもほとんど変わらないでしょう。)


そんな荒唐無稽な提案。

でも無茶だけはさせられなかった。この世界の噂は酷い。

前世はネットが普及していた為に多くの噂で溢れかえっていた。だが、少なくとも噂通りに動いて一歩間違えると死ぬなんてことはなかった。

だが、この世界は違う。魔王や勇者はいないが魔物や魔法がある世界だ。

その上、ちゃんとした知識がある訳でもない。前世なら皆が一笑するような事を真実だと思い込む者が多い。

そんな世界の病を治す噂に従わせる訳にはいかなかった。公爵家に産まれた者としても、たった一人の弟としても。

ただそれだけの為の提案。

そうだと言うのにアレクはそうかと呟いた。


「本で調べるとか人に聞くとかは無茶には入らないよな。」


「うーん…それくらいなら…」


「分かった。半年待つよ。」


その言葉にホッと息が漏れる。


「それにしても…ディーは頭良いんだな。」


「へっ!?」


(しまった!あんなの3歳児の発言じゃない!止めることしか考えてなかった!)


「だから案も思いつくのか…案ってどんなのだ?」


「あ、あはは…秘密…」


(良い方向に捉えてくれたのなら良いや…)






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





次の日、シュリルディールはとりあえず魔力過多症についての本を幾つか読んだが、内容はどの本もほぼ変わらない。

簡単に言うと魔力の増加量が多すぎることにより身体がパンクする病気ということだ。罹って時間が経つにつれて身体のあちこちが動かなくなっていき、最期には身体が全く動かせなくなって亡くなる。

魔力量が8歳頃までの内に普通の大人の約2倍以上になった時点、15歳頃までの内に普通の大人の約3倍になった時点から治せないとされる魔力過多症となる。

ディーの場合は3歳から増えるという異常に加えて、その増加量が多すぎ、現在では普通の大人の約2.5倍になっている。いつ死んでもおかしくない状態なのだ。


15歳以上の解決法は、

①魔力を出来る限り使う。

②魔力を抑える魔道具を付ける。

この二つのみ。これで上手くいけば生き残れるという寸法だ。


(だが、これが私に使えるとは思えない。やってはみるけど、これと並行して何かしなくては解決にはならないだろうな。)


案とは言えないような案なら浮かんでいる。

①魔力増加量を減らす。

②魔力許容量を増やす。

これくらいだ。

絶対治るなんて楽観視はしてない。ただ諦めてはいるのだけれど、あんな兄を見てしまうと諦められないとも思ってしまうのだ。


「こうなったら出来る限り足掻いてやる。」


そう呟いた声は少しだけやる気が滲んでいた。




それでも、数日後、学校に戻らなくてはならない兄に泣きながらぎゅうぎゅうに抱きしめられつつ別れを告げた時、


「頑張るから。また…来てね。」


またねとは言えなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





アレクが学園に戻ってすぐ、魔力を出来る限り使ってみようという考えからシュリルディールは母の部屋に行った。


そういえば1ヶ月程前から母は日に日にやつれて細くなっていた。それが自分のせいだったということに気付き胸が痛む。


「お母様、魔法を教えて下さい。」


(いきなりすぎたかな?)

驚いたように黄色がかった緑の目を見開き、こちらを見た母の顔はやつれていても変わらず綺麗だった。

前世にこんな人がいたら絶対ファンになってスマホに写真を大量保存してるなと思いながら、だめですか?と首をかしげる。


「魔法を使いたいの?」


「はい!」


出来るだけ無邪気に。病気の事など知らない風に。


「ディーは…確かに魔法を使った方が良いかもしれないわね…うん、分かったわ。魔法を教えます。」


「ありがとうございます!」


お母様にギュッと抱きつく。

ディーはきっかけさえあれば母にすぐ抱きつく。それは美奈が可愛い子大好きな女の子だったからである。自由な時間もお金もなくてテレビを見たりコンサートなどに行くことはなかったが可愛いアイドルも結構好きだった。役得とばかりに見た目20歳前半の可愛らしい美女に抱きつくところはこんな時でも平常運転だった。

そんな美人に自分自身がそっくりだという自覚はない。



その後、シュリアンナから見せてもらった魔法は室内ということで水や光などのあまり害のないもので、かつ小さめのものだったが、何というか凄かった。物理法則化学法則完全無視の現象は凄い以外の感想が出てこない。


どうやら母は非常に珍しい全属性の持ち主だったようで様々な魔法を見せてくれた。

属性は、火・水・木・土・風・光・闇・雷の8種類。

魔力持ちだからと言って魔法が使えるとは限らない。そうだとしたらこの世界の全員が魔法を使えることになる。

実際魔法を十分に使える者は全体の約0.5割。

生活に使えるような小さな魔法しか使えない者を含めると約5割。20人に1人は十分に魔法を使える計算だが、十分に使えると言っても大抵は1、2種類であるし、例えば水や火が手のひらサイズ以上出せれば十分に使えると思われる。

だから前世のゲームやラノベみたくガンガン魔法を放って戦ったり、天変地異を起こしたり、物を作り上げたりする事が出来る者はごくごく僅かである。

魔法を使える者と使えない者の差は解明されていないが、遺伝されやすいことだけは分かっている。その為、魔法を使える者のほとんどは貴族や王族であり、魔法は貴族の一種のステータスとなっているのだ。


「さて、ディー、これに触れていってくれる?」


そう示されたのは8つの色をした石の玉のようなもの。先ほどシュリアンナが侍女に指示して持って来させた物だ。

頷いて一番近くにあった赤色の玉に触れる。

すると、微かにではあるが濁っていた石が透明に透き通る。


「ディーは火が使えるのね。」


「これだけで分かるのですか?」


「ええ。透き通り具合が強いほど、その属性の大きな魔法が使えるということを表しているのよ。この場合は私の手のひらサイズの火の玉を一つか二つ出せるのではないかしら?」


(思ったよりしょぼかった…)

ちょっと期待しただけにショックだったが、ないよりはマシかと思い込む。


「練習しても一個か二個しか出せないのですか?」


「ええ。昔試した人がいるそうだけど50年かけても無理だったそうよ。練習したら出せるスピードは速くなるけどね。」


(なるほど。つまり、一個一個の大きさは小さいが練習すれば連続して出せると。)


「さあ、次は水ね。」


青い濁った石に触れると、今度は次第に綺麗な透明な玉へと変化していく。


「水はとても使えるわね。練習すれば雨を降らせることも出来るかもしれないわよ。」


「おおっ!」


その言葉に目が輝く。雨を降らせるなんてすごいファンタジー。

こうして8種全て終えた結果は、全て透明になった、であった。つまり、全属性使えるということだ。

一瞬で透明になったのは風の玉。これが一番得意なものだろう。次に得意なのは水と光と闇。それ以外は手のひらサイズが限度のレベルだ。


ちなみに、闇属性には魔力を蓄える魔法もあるものの、20歳の魔力許容量の約8分の1程しか蓄えられない。戦闘で少しだけ余裕を持てる為、地味に人気が高い魔法だが、だからと言って病気をどうこう出来る訳でもない。


とりあえず出来る限り魔力を使うことに専念しつつ、闇魔法で身体の魔力を影に蓄え続ける。


どうにかできないか方法を探りながら魔法を出来る限り使う日々が始まった。









次話更新は7月30日21時です。

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