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足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
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26話 ケインリー

本日2話目です!






フォルセウスの執務室を退室したディーはいつも通りサニアに押されながら自分の部屋に戻る。

その後ろを常に同じ間隔を空けて付いてくる少年に視線を向ける。


(気にしてなかったらいることも気付かないくらい静かなんだけど…やっぱり見た目だけじゃなくて中身も忍者か…気配を消すのが上手いんだもんね…)


「サニア、ケインリーと2人で話させてもらってもいいかな?」


部屋に着いたディーはサニアにそう呼びかける。サニアは失礼しますと告げてからディーの額に手を当てる。もう片方の手は自分の額だ。何度も何度も繰り返された行為。


「熱はないと思うよ。少し疲れてるけど。」


「…ええ、そのようですね。疲れたのはディー様が勝手に魔法の練習をなさったからでしょう?」


「そ、そうだねー…これからはちゃんと言うよ。夕食の時間になったら呼びに来てね。」


サニアは止めるつもりのないディーにため息を吐くが、妙に頑固な所があるこの主には事前に言うだけマシかと微笑む。


「かしこまりました。」


「じゃあ、ケインリーはこっち来て。」


ちょいちょいと手で招くようにするとケインリーはサニアとすれ違うように部屋に入ってくる。この国の人を招く動作は指を上に向けて動かすのではなく、下に向けて動かす日本式だ。

ディーの目の前まで来たところでケインリーは片膝を折ってディーと目を合わせる。


「ケインリー、です。家名はありません。シュリルディール様の護衛に就くことになりました。」


そう言って頭を下げる。今度は先程よりスムーズなお辞儀だ。ただ、話し方がぎこちなく、少し目が泳いでいるのが気になるが。


「僕はシュリルディール・ディスクコード。

ケインリーは気配を消すのが上手いって聞いたけど、周囲に潜みながら護衛してくれるのかな?」


そう首を傾げて言うとケインリーは僅かに目を見張った。

護衛と言ったら近くに張り付いて守るのが当たり前で、距離を保っていたとしても隠れることは殆どない。護衛が付いていることは相手に対しての牽制になるからだ。


「は、はい。よくお分かりになりましたね…」


(忍者で護衛って言ったらそれ以外ないでしょう…それにしても話すのがあまり得意ではないのかな?忍者で話すの大好きだったらびっくりだけど。)


「聞いているとは思うけど僕は足が動かないから護衛するのは大変だと思うけど、これからよろしくね。」


「こちらこそよろしくお願い致します。」


そう頭を下げるケインリーにディーの視線が下を向く。


「ケインリー…んーケイでいいかな?シュリルディールは長いから僕のことはディールって呼んでね。」


護衛と護衛対象、距離があるのは仕方ないがここまで距離があるのは少し寂しい。

そう思ってとりあえず形から入ってみたが、ケインリー…ケイは口をパクパクしながら視線を彷徨わせる。


「え、えっと…」


「…だめ、かな?」


ついでとばかりに首を軽く傾げて下からケインリーの顔を見上げる。

見た目美少女が首を傾げて上目遣いでダメか聞いてくるのだ。

ケインリーの顔が赤く染まる。


「だ、だめじゃないです…」


「ありがとう!」


そう言ってニコッと笑う。

ケインリーの耳まで赤くなる。

確信犯だ。

(使えるものは使わないと。)


「じゃあ、ケイ。ケイについて教えて?」


ケインリーは目線を下げ、少し考えてから躊躇いながら口を開いた。


「そうですね…私はこの王都の孤児院で過ごしました。それ以前どこにいたか、親の名も分かりません。…孤児院の前で捨てられていたようで、特に変哲も無い布と籠以外何もなかったので何も分かりません。…ケインリーという名は孤児院の先生が付けて下さいました。」


美奈は親の記憶がある。片方は最悪だったけれど、それでも記憶があるし楽しかった思い出ももちろんある。

それがないのは、自分が何かも分からないのはキツいだろうな、と考えディーの表情が僅かに歪む。

施設で共に育った弟の中に施設の前に捨てられて親の名前も何も分からない子がいた。

生意気でやんちゃ坊主だったけれど、親の名前も顔も分からないのを悲しそうにしてるのを知っていた。でも、酷い親から逃げて来た子もいたから口には出せずに静かに泣いていたのを知っていた。

記憶にあるのは13歳の時の姿。

ちょうど美奈が施設に入ってすぐに捨てられていたせいか、美奈が名付け親になったのだ。


(せい)…小学生くらいまでは可愛かったのにどんどん生意気になっちゃって…)


「…あの…ディール様は私がどこの誰とも分からない者でご不満ではないでしょうか?」


思考が過去に飛んでいたディーはその言葉に一気に現実に引き戻される。そして、目を大きく見開く。


「えっ?」


「親の顔も分からない私では…」


「い、いやいやいやいや!そんな事ないよ?!生まれがどうだからって性格や実力は関係ないし、それに生まれとかただの運でしょ?」


その言葉に今度はケインリーが目を大きく見開き、ぽかんと口を開ける。


(あーただの運は言い過ぎたか。この世界じゃそんな考えはないもんね…生まれが運って考えは間違ってないと思ってるけどね。)


「でぃ、ディール様は変わった考えを…」


「うーん…そうだね。他の人には秘密にしておいてくれる?」


ディーは人差し指を唇に当てる。

内心はやばいを連呼している。


「もちろんです。」


でも、そう言って柔らかに笑ったケイの表情を見たら、バレたらまずいことではあったが、言ってよかったという安堵から笑みが浮かんでくる。


「ケイは孤児院で気配を消すの上手くなったの?」


「いえ、私は6歳の時に上司に引き取られまして、そこで様々なことを覚えました。」


「上司?」


「ええ、護衛などのプロです。」


(ふ〜ん、など(・・)ね。)

気にはなるが、何となくこれ以上聞いても答えてくれなさそうだ。


「その上司の人はどんな人なの?優しい?怖い?」


これくらいは聞いてもいいだろう。

だが、ケイの視線は彷徨う。


「そうですね…優しいですよ。おそらく…明るい時もありますし…上司は演技が上手いので何が本性なのか分からないのですよ。」


「えっ、それは凄いね。」


ディーの頭に少し()ぎる姿があるが、流石にそれはないだろうと頭の中からその考えを吹き飛ばす。

それでも少し片隅に残って主張している気がしてディーは頭を軽く振る。


「じゃあ、次は僕について話すね!

僕は…と、ケイは僕の魔法については聞いた?」


「はい。魔力過多症であることと、それを治した魔法についてですね。」


その返事に先程の過ぎった姿が無視できないことの気がしてくる。


「あー…詳しく聞いてるかな?」


「いえ…魔力を何処かに送ってるとくらいしか…」


「よし、それならそれについてまず話すね。」


ディーは口角を上げて話し始めた。


夕食の支度ができたと、サニアがディーを呼びに来た時には、シュリルディールとケインリーはすっかり話が弾んで仲良くなれていたのだった。











次回の更新は1月7日21時です。


前話の通貨の話に追加で、円とドルなどのような変動相場制ではなく固定相場制です。

例えば、カディア国の金貨は同じ金貨でも金の含有量がミリース国より少ないので

ミリース国の金貨1枚=1万ソール=10万円カディア国の金貨1枚=1万リル=5万円

という差になります。

でも銭貨はほぼ変わりません。あと、カディア国の通貨には1円に当たる石貨というものもあります。

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