表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
27/82

25話 護衛と真相

本日1話目です!

本日の2話目は1時間後の22時に更新します!






トントン


小さく軽い、しかしよく通るノック音が廊下に響く。


「父様、シュリルディールです。」


入れという声の後、サニアが扉を開け車椅子を押してくれる。

黒に近い茶を基調とした執務室は、人を迎い入れることもある為、書類が積み重なっている大きな机だけでなく、低めのテーブルと、それを境に対面した形でソファが2つ配置されている。しかし、現在は低めのテーブルだけでなく、そのソファの上にも書類や本がおそらく分類別に分けられており、人を迎える機能は全く果たしていなかった。


そんな状態の執務室に入ったディーは顔は動かさず、視線だけでザッと辺りを確認する。

積み上げられた書類も目を留めるものではあるが、今はそれ以上に気になることがあった。

執務机で仕事をしている父とその少し後ろに立つディスクコード家の家令ハラルド、そして、栗色の髪をした少年。


(護衛はこの子か…)

ディーは栗色の髪の少年をチラリと見る。

そして、父の方を見て話を待とうとするが、ディーの視線は再び少年の方を向く。


知っている顔ではない。

つり目でキリッとしたイケメンと言える顔立ちをしているとは思うがそれだけだ。ディーが少年を二度見することになった原因はその服装にあった。

少年の服装は黒一色で動きやすさに重点を置いたもの…


いわゆる、忍者服だった。

頭には何も付けていない点は異なるが、襟元はどう見ても和服のそれであるし、肘膝から先は紐と布で絞ってあり動きやすくなっている。極め付けは薄っぺらい草履だ。


(どう見てもこれ日本人考えたよね?!どこルーツだ?)


忍者好きの外国人の可能性もあるが、そんな事はどうでも良い。湧き上がった問い詰めたい気持ちを無表情で抑え込める。

小さく息を吐いたディーは今度こそ父を見る。


「ディー、具合は大丈夫か?」


「はい、熱も下がりましたので問題ありません。お呼びと伺いましたが…」


微笑んで答えたディーの言葉を遮りフォルセウスは口を開く。


「ディーを呼んだ理由は2点ある。1つ目は彼だ。」


そう言って指し示されたのは忍者服の少年。


「彼の名前はケインリー。これ以降ディーの護衛に付いてもらう。ケインリーは気配を消すのが上手いから居ても気になることもないだろう。実力はあるから安心して良い。」


その紹介と同時に忍者服、改めケインリーはディーに向かってお辞儀をする。

お辞儀がぎこちないことからあまり礼儀に関しては詳しくないことが察せられる。


「はい、分かりました。僕は戦闘においては無力ですから有り難いです。」


自由はいくらか制限されるが仕方ないだろう。間接的とは言え、護衛を付けるように進言したのはディー自身なのだから。


「部屋に戻ってから親睦を深めると良い。

もう1つの件だが、こちらは先日の事件の結果だな。ディーの言った通りだった。

昨日の夜貴族街で男3人を捕らえたぞ。」


フォルセウスの優しい眼差しが険しいものへと変化した。

あの事件から今日で3日。つまり、2日目の夜中に貴族街の一角で死体を遺棄しようとしていた男達を見つけ、全員無事捕らえた、ということだろう。


ディーはフォルセウスの話に頷きながら仮説と相違点が少ないことに安堵と幾許かの残念な気持ちを胸に宿す。

安堵は自分の仮説で騎士達を動かしたのに何も起こらない、などという結果にならなかったことに対して。

残念は真の黒幕への情報が辿れなかったことに対してだ。


そして、遺棄させられそうになっていた死体の元へワイズを連れて行った所、自らの主であることを認めたそうだ。

昨日の夜に捕まえてからの仕事が異常なまでに早い。


(父様があれから家に帰ってないの知ってたけど凄いな…)


純粋に尊敬する。

ワイズに認めさせただけでなく、これまでの事を全て吐き出させたと言うのだから。


ワイズは主の遺体を確認し、諦めたことからポツリポツリと身の上を話したそうだ。

ワイズの主はワイルベール・ゴルゼット男爵。26歳だと言う。

ゴルゼット男爵はメランコリアと話した時にチラッと出てきた名前だ。

代替わりした今年にちょうど作物の病気が蔓延し凶作となった為に、前当主の悪業と相まって対策が何も打てずに領民全員が難民となりそうな状態の最悪な場所。

前当主の悪業のせいで元々領民の数が減っており、彼方此方の田畑が放棄されている。僅かに完成していた作物も領民達が逃げ出した時に持っていった。

さらに、ゴルゼット男爵家に仕える者の数も片手で数えられる程度にまで減っている。

男爵ということはそれなりに仕えている人数も多かったはずなのに片手で数えられる程度しかいないのは騎士爵家以下だ。

前当主は気に入らない者や反対意見を出した者を片っ端から斬っていたらしいし、武芸に秀でていた為に逃げ出せる者も少なかった。そして、その当主が死に、新しい当主に替わったのを機に皆一斉に逃げ出したということだった。

現当主…いや、亡くなったからどう言えばいいか分からないが、未だ書類上は現当主のワイルーベル・ゴルゼット男爵は親のせいで散々な目に遭った可哀想な人といった印象だ。


そういった状況下でアイツ(・・・)に声をかけられ、資金援助の代わりに小さな子供を連れ去るように言われたそうだ。

その中で何人か選りすぐり連れて行く。残った子供は好きにしろ。読み書きができるのなら行政に当たらせることもできるだろう、とも。

だから誰が残ってもいいように読み書きのできる子供を集め回ったそうだ。

完全に踊らされている。

そもそも資金援助の額が有り得ないくらいに高い。普通に考えて有り得ないだろうと思える額だ。加えて前金として10万ソール貰ったと言う。

ミリース国金貨10枚だ。

こう言うと少なく聞こえるが、ミリース国金貨は他の国の物より純度が高く大きい為かなり高価だ。日本円に換算すると大体100万円になるくらいには。

それをポンと前金で出されたら金欠で貧窮していた者にとって救世主に見えてしまったのだろう。

考えが足りなさすぎる。足りなさすぎるのだが、こうなってしまった原因を考えると仕方ない気もする。

こうなる前にどうにかすべきだったのだが、もう遅い。何より前ゴルゼット男爵が一番責任があるが、ミリース国南東部を統括するロマネスク辺境伯家と、ミリース国全土を統括する王家の責任でもある。

ロマネスク家はメリーが早めに帰ることからも、これからどうにかする予定だったのだと思うが、ゴルゼット男爵にとっては待っていられなかったのだろう。


(徐々に減っていく周りの人々と食料。何かしようにも手札が少なすぎて何もできない。そんな無力な日々。

…まあ、そんな状況下に置かれたら病むわな。犯罪に手を染めたのも頷ける。許される行為ではないけど。)


ゴルゼット男爵に子はいなかったと思うが流石に庶子まではディーも把握していない。それに、同じゴルゼット家が治めても丸く収まるかは怪しい。


(どうなるかはルドルフェリド伯父様達が決めるでしょ。)










次回更新は本日22時です。


ミリース国の通貨は

銭貨、銅貨、半銀貨、銀貨、金貨、白金貨

銭貨1枚 =1ソール=10円

銅貨1枚 =10ソール=100円

半銀貨1枚=100ソール=1,000円

銀貨1枚 =1,000ソール=1万円

金貨1枚 =1万ソール=10万円

白金貨1枚=100万ソール=1,000万円


です。

もちろん他国は別の通貨を使っています。

敵国なのに同じ通貨はないだろって事でこうなってます。でも、両替は可能です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ