24話 攻撃魔法
遅くなりまして申し訳ありません。
少し伸びました(25日21:46)
誘拐事件から3日が経った。
領地でやる事や出来る事を外廊下を歩きながらハラルドと話し合っているアレクの姿が見える。
領地経営に携わっておく為に卒業後すぐにディスクコード公爵領で執務を執る予定だからだ。
ディスクコード公爵領は通常業務以外何もしなくても上手く成り立つ領地だ。だからこそ当主は領地に居らず代官に任せることができる。
だが、自然災害や害獣の大量発生、病などが起こったら表に立ち指示を出すのは当主の役目となる。その際に執務を行ったことがないから分かりませんでは問題があるのだ。
だから、そういった時の為に領地経営を実践で学ぶのであって、それ以上は基本求められてはいない。
それでもアレクは出来ることがそれ以上にないか、より良くできるのではないか、と考え、1年という短い期間でできることを模索しているのだろう。
3日前に見たあの気弱さは微塵も感じられない。
「眩しいなぁ…」
ディーの口からポツリと溢れた言葉にはディーの事をよく知らなければ気づかない程度、微かに哀愁がこもっていた。
(私は必要以上のことをしようなんて思ってなかったな…)
前世で美奈は必要だから会計係を担当した。必要だから本で様々なことを調べた。実践した。
全て必要かどうか考えて、必要だと思ったから行動を起こした。
必要の範囲が広い気がしなくもないが、前世の他の血の繋がりのない兄弟は必要不要を考える前に行動を起こしていた。
一概に良し悪しは言えない。先が見えないから失敗もあった。でも予想外の大成功となったこともあった。
結果が見えないからより喜んでいた姿を目にした事がある。一緒になって喜んだけれど何故か胸が痛かった。
(必要かとか考える前に行動したいな…無理だけど。)
単純に性に合わないのだ。
美奈、シュリルディールは考える前に身体を動かすことが異常なまでに苦手だった。
全て結果が、先が見える行動。必死になったことがないのかもしれない。行き当たりばったりの不安定な選択はしなかったから。
(いや…空間魔法を創ったのは考えなしの行動だったかな。)
でもどこかで成功すると分かっていたから、あれは別だろう。
まるで自分が自分でないような感覚だった。
前世の記憶がある時点で何が自分だとか結構分からないけれど。
(自分が誰かは考えても意味がない。考えたところで無駄だ。結果なんて出ないんだから。)
そう結論付けたディーの目の前を小さな白い蝶が飛んでいく。
ディーがいる場所はディスクコード邸の中庭だった。
ディーはアレクと話した後いつも通り熱を出した。気絶していたシュリアンナは何ともなく、屋敷に帰ってきて熱で寝込んでいたディーをキツく抱きしめていた。
(本当、似た者家族だよね。)
苦しくなるくらい抱き締めるのがこの家での流儀なのだろうか、と思ってしまうくらいだ。ディーは木の裏に隠れながらそっとため息をつく。
気持ちを切り替えるために深呼吸をする。
今日の朝は気分が良くなっていたから、ディーは魔法の練習をしようと庭に出ていたのだ。
良くなってきたとは言え病弱なディーが熱が下がってすぐ外に出ることを許可されるわけがない。もちろんこっそり抜け出した。
怒られるだろうが部屋の中で行うには危険かもしれないと考えた。だが、なるべくすぐに覚えた方がいい魔法。
「戦闘魔法を覚えないと。」
魔法は生活魔法と戦闘魔法に分かれる。ディーが今まで使っていたのは生活魔法に分類される。
水で手を洗う。風で物を動かす。闇で固定する。
生活魔法も戦闘に使えるものもある。しかし、戦闘魔法は敵に魔法をぶつけてダメージを与える事を目的としている魔法であり、生活魔法ではそれだけで勝つのは難しい。
(だけど問題は戦闘魔法がどれくらい使えるのか。
生活魔法ですら空間魔法を使いながらのせいで制限がある…
それに僕が戦闘することを想定するとなると、風魔法で身体を動かす必要も出てくる。
……無理かなぁ…)
戦闘魔法を使うとしたら、空間魔法で魔力を送りつつ風魔法で自分を動かしながらとなる可能性が一番高かった。
「幼い内は魔法を使ってもすぐに頭に負担がかかって切れる。だから戦闘魔法も使うとしたらせめて同じ風魔法が良いはず…」
戦闘魔法には攻撃魔法と防御魔法がある。だが、風魔法の防御魔法は矢などを吹き飛ばすくらいにしか役立たない。
しかも、あれは常に身体を覆うように暴風を巻き起こさなければならない。単純な攻撃魔法より困難だった。
だから、使うとしたら攻撃魔法一択だ。
ディーは唯一攻撃魔法を繰り出した光景を思い出す。攻撃魔法というには少々拙いが、軌道とスピードは申し分なく上手くいったあの出来事を。
一緒に嫌なことも思い出し一瞬顔を顰めるが、イメージはバッチリ。加えて、ムカついてきたからコンディションもバッチリだ。
風に魔力を馴染ませ、手の平の前に丸い玉を創り出す。よく見れば何かが渦巻いているように見えるそれを、ディーが身を隠している木に一番近い木に向かって押し出す。
(腕を出した先から魔法が出るってゲームとかアニメみたいだ。)
手の平の前で魔法球を創ったのも、手を押し出したのも特に意味はない。強いて言えば、分かりやすいくらいだろうか。
(子供だから許されるけど、これ見られたら恥ずかしいな…止めよう。)
一定数の中学生がかかる例の病気みたいなものに見えてしまう。それは勘弁だ。中身は前世と今世を合計したら20歳を超えているのだから。
ディーは首を軽く振って魔法が着弾した先を見る。
綺麗な円だった。
当てた木の幹は結構太い。
濃いめの茶の樹皮で覆われた木の幹の一箇所だけが白く丸く刈り取られたようになっている。
ちょうどディーから見て幹の中央に当たっているから精度は申し分ない。
精度に関しては今まで難しい魔法を使ってきたのだからその事に特に感動を覚えることもない。
ディーは咄嗟に辺りを見渡した後、そっと円に近づく。
触るとよく分かる。
木の表皮が綺麗に剥ぎ取られていた。
「もっと込める魔力を抑える必要があるか…」
あれでもそんなに込めてないんだけどなーと少し痛む頭を抑えながら口の中でぼやく。
これ以上はここで魔法を使えないだろう。 部屋に戻る分の風魔法と、常時発動の空間魔法以外使うとオーバーヒートしてしまう。
(攻撃魔法はこの威力で1回こっきり。確かに王宮での事を考えたら1回くらいが限度ってのも頷ける話か…)
そう納得はできるが、やはり1回だけというのは悲しいものがある。元となる魔力はあるのに魔法を行使する時に使う頭の中にある器官が限界となって行使できない。
(もう少し魔力を抑えたら2回くらい発動できるかな?試してみるのは明日以降か。)
普通はこんな幼いうちに魔法を使うことはない。だから1回しかできなくて困ることも殆どないのだ。
それは魔法の構造や行使の仕方が少し複雑な為であり、幼い子供が使うことがないからであるが、それをおかしいと指摘する人がいないのは教えるのがシュリアンナで、シュリアンナも魔法においては天才だからであった。
ふぅと息を吐いたディーは円に向き合う。
現実逃避は終わりだ。
目の前の状況をどうにかしなければ。
こっそり魔法の練習をしているのにこのままではまずい。
木魔法。
ここで役に立ちそうなものはこれ以外考えられない。
使ったことはないが本でやり方は学んだ。木の修復法なんてものは載ってなかったけれど。
手を円形の窪みに押し当てる。
(治れ治れ)
まあ、当然治るわけがない。
木魔法は植物の成長を早め、動かすことができる。
木は内側から新しくなっていく。だから木材は内側が柔らかいと言うし、年輪なんてものがある。
木の内側なら治るかもしれないが、外側を修復することはできない。年月が経って外側の樹皮が剥がれ落ちるのを待つしかなかった。
魔法は便利だが何でもできるわけではない。
(仕方ない。バレないことを祈っておこう…)
これ以上魔力を込めても無駄であるし、魔法の行使が本気で限度を迎える。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ディーはそっと窓から部屋に戻った。外に出ていた時間は30分程だ。
部屋には誰もいないことから気づかれた様子がないことにホッと息をつく。
そっと部屋を出る前のようにベッドに入り、車椅子の位置も戻したちょうどその時、ノック音が部屋に響いた。
ディーの肩がビクリと跳ね上がる。
「サニアです。」
10秒程経ってから失礼しますとの声と共に扉が開く。
ディーが寝ていたとしても律儀に待ってから入るサニアは流石公爵家のメイドと言うべき人物だ。
ディーは緩く目を瞑り寝息をたてる。
「あら、ディーさま寝てしまっておられるのですね…」
そう呟いた声に内心でホッと息を吐いたディーは、次の言葉に身体を固まらせた。
「…ディー様、寝たふりは駄目ですよ?」
うす〜くうす〜く目を開けるとこちらをジッと見つめるサニアの顔が目に映った。
冷や汗をかきながら完全に目を開く。
「サニア…どうして分かったの?」
「そりゃあ分かりますよ。…ディー様が中庭に出ておられたことも。」
「…え、えっと…それには深い訳がありましてですね…」
「攻撃魔法の練習ですか?」
(うわぉ…完全にバレてる…)
「そ、そうだよ…だって攻撃手段は必要だと思わない?」
サニアはその言葉に首を緩く振る。
「それには及びません。本日よりディー様には常に護衛が付くことになりましたから。」
(なるほど…予想はしてたけど思っていたより早かったな。)
「サニアがここに来たのはそれが理由かな?」
「ええ。あとは勝手に抜け出している方に一言をと思いまして。」
「あはは…それはごめんなさい。父様の所に行ったほうがいいかな?」
「はい。執務室で護衛の方と引き合わせると伺っております。」
ディーはサニアに寝間着の上に上着を着せてもらうと、部屋を出た。
次回はちゃんと更新できると思います。
言い訳させてもらうと休みに入って曜日感覚ズレてました。今度はこんな事がないように頑張ります。
次回は大晦日の21時更新です。




