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足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
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23話 アレクフォルド視点

アレクフォルド視点です。

最初かなり遡りますし、ざっくり進んでいきます。






ずっと兄弟が欲しかった。


貴族家で子供が1人しかいないことの方が珍しい。

だが、(うち)は珍しく俺1人で、父様の妻もお母様1人でそれ以外に娶るつもりもなさそうだった。

仲良しなのは良いのだけど、俺は弟や妹が欲しかった。

俺は小さい時から外に出るのが好きでよくこっそり街に出て身分を隠して街の子と遊んだ。その時に兄弟姉妹のやり取りが眩しくて羨ましくて、お母様にどうして弟や妹がいないのかと聞いたこともある。

その時にごめんねと泣きそうな声で謝られて、聞いちゃいけないことだったのだと子供ながらに感じた。


俺が産まれたのはお母様が16歳の時だ。その後すぐに新しい命が宿ったらしい。しかし、その命は外の世界を見ることなく消えた。それから赤ちゃんができにくくなってしまったのか新たな命が宿ることなく時は過ぎた。

その話をヤン爺から聞いた時、弟や妹は諦めようと決め、羨ましいと思った感情を押し殺した。


学園に入学し、もう完全に諦めていた頃、弟か妹ができるかもしれないと連絡があった。

書いてあった手紙を思わず破いてしまうくらい驚いて、嬉しくて。初めて学園を無断欠席して領地に向かった。

もちろんお母様にも他の皆にも怒られたけど、嬉しくて気にならないくらいだった。


もちろん産まれるという時には、無断ではなくちゃんと申請して学園を休んで領地に戻った。

初めて抱いた弟は小ちゃくて潰してしまうんじゃないかと思うくらい弱々しくて、俺が守らないといけないと思った。


産まれた弟はシュリルディールと名付けられた。

ディーは身体が弱く、しょっちゅう熱を出して歩けるくらいの歳になってもベッドから出ることは少なかった。

何度も生死を彷徨ったと聞いた。1番危なかったのはディーが2歳になった頃だろう。あの時は俺には伝えられなかったけれど、それまでの熱や風邪の時よりディーは苦しそうで、シャラン爺(医師)も父様もお母様も慌ただしく動いていた。

でも、その後ディーがまだ3歳なのに魔力過多症だと聞いて目の前が真っ暗になった。

魔力過多症に3歳でなるなんて聞いたことがなかったし、どんどんと身体が動かなくなり最期は死ぬ、解決策がない病気だ。


気付いたらディーの側に座っていた。

怖くて悔しくて、どうしてディーばかりこんな目に…そう繰り返しどこにぶつければいいか分からない思いが頭の中で駆け回っていた。


どんな顔をしていたのか分からないけど多分酷かったのだと思う。

ディーは起きてすぐキョトンとした顔で俺を心配してきて、そのことが嬉しいと思うより先にただ悲しくて、あと1年しか生きられない弟に心配させる自分が不甲斐なくて、口を突いて出たのは何とかするという曖昧な言葉だった。

それでも口に出した途端、何とかできるかもしれない。あと1年あるのだから調べれば…そんな思いが一気に胸の内を占めた。


「兄様…無茶するの?」


何も知らないディーに努めて微笑んで答える。


「大丈夫だよ。」


だがディーは首を勢いよく振った。


「だめ!ディーの為に何かするんでしょ?ディーのことはディーがやるの。兄様は兄様のことをやるの。」


「いや、でも…」


「兄様。ディーの為に無茶してほしくないの!ディーの分まで兄様には生きててもらわなきゃいけないんだから!」


思わず息を呑んだ。


「……ディー…それは…」


ディーが知っていた。

あと1年しか生きられないことを知っていた。なのに、ディーは目をしっかりと合わせて微笑む。


「僕が永く生きられない事なんて元々分かってたよ。その長さの問題でしょ?」


軽い調子で言われた言葉がグサリと胸に突き刺さる。


「嫌だ。絶対嫌だ。無駄でも無茶でも何でもいい。ディーが死ぬなんて許さない。」


嫌だった。まだこんなに小さいのに、まだ一緒に外に出ることも何もできていないのに諦めるなんて嫌だった。


「に、兄様…?」


ディーが戸惑った声を出す。


「絶対に方法探し出すから。ディーは待ってて。絶対何とかするから。」


何とかできるか分からないけど、この時は何とかするという思いだけは何よりも強かった。

だが、その決意は他ならぬディーによって押し留められた。


「半年待って。兄様は半年間無茶はことはしないで。僕のことは僕がやる。幾つか案はあるの。だからちょっと待っててくれる…?」


先程までの軽い調子とは違い、ディーの眼には涙が溜まり、何か決意した色が見えた。

だから半年待つことを約束した。


それから王都に戻り元々登録していた冒険者ギルドや商業ギルド、学園の図書館で魔力過多症について調べる日々。

ルームメイトのネスにも何度も心配された。

それは父様も同じで、俺と同じように解決策を探しているのがこちらにも伝わるくらいだった。

それがある時聞こえなくなったと思ったら父様からディーの魔力過多症が治ったと伝えられた。

嬉しさ以上に信じられなくて問い詰めたけど、父様も詳しくは知らないようで、もう少し経ったらディーとお母様が王都に来るからその時に聞くという話で収まった。


まだかまだかと待っている内に寮から訪問者がいると聞いて慌てて向かった。

ディーが王都に来たという家からの使者だろうと思った先にいたのは久しぶりに見る弟の姿。

思わず大きな声が出た。


「ディー!」


「兄様!」


にっこり笑って手を振るディーの側に屈む。大丈夫そうだと聞いてはいるが聞かずにはいられなかった。


「病気は大丈夫なのか…?」


ディーは眩しい笑顔を向けて明るい声で答える。


「ほとんど治りました。だから外に出れるようになったの。」


「そうか…そうか…良かった…」


本人から言われるとより安心する。漏れた安堵の声は自分でも驚くくらい震えていた。

ふと、今まで目に入っていたはずなのに認識していなかった物に目が止まる。

ディーが座っている物だ。

銀を基調として、クッションや所々の部品、模様、家紋等の細工は薄い青色でできた椅子。ここまではいいのだが、椅子の脚の代わりに馬車に付いているような車輪が付いている。

ディーは魔力過多症の後遺症で足に力が入らなくなったそうだ。それは武家であるディスクコード公爵家としては良いこととは言えない。

でも、それくらい何の問題ないだろう。何かあったら俺が守ればいいんだから。


それから聞いた魔力過多症を治した方法は規格外とも言える方法だった。

学園に通っているからよく分かるが、空間魔法を考えたことも、それを成功させることもあり得ないし、凄すぎる。

ディーが頭が良いことは知っていたし、お母様の子だから使える属性も多いと思っていたが、それには収まらないくらいの天才だった。

兄として誇らしくなる。

今まで俺が調べて来たことは役に立ったとは言えないけど、そんなことはどうでも良かった。ただただ嬉しくてディーを抱き締めた。


それからディーは王城内の書庫に通っていると聞いた。動けない代わりに頭を使って役に立つと言っていたと人伝てに聞いた時、いや、その前から思ってはいたが、それならば身体を使って守るのは俺の仕事だとより強く思ったのだ。


思ったのに


守れなかった。


目に届く範囲だし、人も多いから少し1人にしても問題ない

そう思った自分を殴りたい。


目に届く範囲だとしても間に合わなければ意味がない。人が多い場所だから危ないことなどないと油断したせいだった。

どう考えても自分自身のせい。

慌てて追いかけたが間に合わなかった。


また、いや、今度は自分のせいで失ってしまうんじゃないかと怖かった。恐ろしかった。

父様に伝えて一緒に探しに行こうとしたが、止められ、屋敷から出ることを禁じられた。

すぐに見つかると言われたが、今ディーがどんな目に遭っているのか不安だった。

こっそり出ようとしたがすぐに気付かれ抑えられ、何もできない自分がどうしようもなく嫌だった。


時間にしたら4時間くらいだったのかもしれないが、とてつもなく長く感じた。

ディーの姿が目に入った途端、どう動いたかも分からないままドアの近くまで移動しディーを抱き締める。

口から出るのは謝罪の言葉。何度口に出しても気は晴れることはない。無理だった。


「兄様は僕に公爵家と騎士団を押し付けるつもりですか?満足に動けない僕に。」


その言葉に思わず違うと声を上げる。

でもそう思われても仕方のないことを言ったし、そうなる行動をしようと思っていた。

その事に愕然とする。公爵家当主は置いといても騎士団長をディーがやるなど不可能に近いのに。


「それに、兄様のせいというだけではないですよ。

ロマネクス家に任せて護衛を出さなかった父様のせいでもありますし、代わりとして僕等の護衛を務めたナチヤのせいもあります。

そして、抵抗しなかった僕のせいでもあります。

そもそも僕が来たいと言わなければ兄様はメリーお義姉様だけ守っていれば良かったのです。

一番誰のせいだと聞かれたら僕でしょう。準備もキチンとできていないのに急遽行くことにしてしまったのですから。

兄様がそんなに気に病む必要はありませんよ。」


そう言ってディーは微笑む。


「それに僕は何も酷いことはされませんでしたし、閉じ込められていたのはたったの2時間です。」


そうかもしれない。本当にディーは気にしていない風に見える。でも…それはたまたま運が良かっただけだ。誘拐された子供はほとんどが悲惨な目に遭うと聞いたことがある。

そうぐるぐると考えていた頭は、次のディーの言葉に真っ白になる。


「兄様は僕を守らなくていいんですよ。」


拒絶された、そう思った。


「兄様がこれから守らなければならないのは誰ですか?

婚約者であるメリーお義姉様です。ディスクコード公爵家に仕える皆です。ディスクコード公爵領に住んでいる領民達です。そして、王族の方々とこの国です。

僕を守る必要なんてないんですよ。」


「だが!だが…」


確かにそうかもしれないと少し思ってしまったから言葉が続かない。

ディスクコード公爵家次期当主としてはそれが正しい。だが、弟1人守れないなんて…

そう思った心の内を見抜いているのかディーが言葉を続ける。


「自分の守るべきものをを全て守って、それでも余力があったら僕を守って下さい。

兄様の守る最優先は僕ではありません。最優先を押しのけて僕を守らないで下さい。それは兄様のやるべき事を放棄することになります。

それじゃあ、格好良い兄様じゃありません。すべき事を放棄する兄様は嫌いです。」


「…そうか。」

嫌い…何だか少し胸が痛い。


「はい。それでも僕を守りたいのなら兄様自身ではなく、他の誰かに命じれば良いのです。今はそれは父様の役目でしょうけど。」


1人で守る必要なんてない…か。


「…分かった。格好良い兄様にならなきゃな。」


そう言って小さな身体を抱き締める。

ずっと感じていた焦燥感は綺麗に消え去っていた。

とりあえずディーに護衛を付けるように父様に進言しないとだな。










全然話は進んでいませんー…


フォルセウスに対しては父様で、シュリアンナに対してはお母様呼びなのは、シュリアンナが母様呼びを嫌った為です。

でももう少し年月経ったらアレクフォルドは母様呼びになっているでしょう。多分。忘れてなければ。


どんどん予定より長くなっており、タイトル通りの展開になるまでにかかる時間と話数が増えている為、タイトルの変更を考え中です。気が向いたら変えようと思います。その際は説明書きの所に旧タイトル載せておきます。


次回は12月24日21時更新です。

クリスマスイブか…予定なんて何もないな…勉強かな…

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