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足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
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18話 誘拐の考察






ディーが連れ去られてから1時間ほど経っただろうか。

ここに来てからすぐは色々話したが少しすると誰も口を開かない状態となった。

泣く声だけが部屋に響いている。


「ままにあいたぃ…」


誰が口にしたのかは分からない。だが、静かな空間にその声はとてもよく響いた。

その声の悲痛さに思わずディーの腕に鳥肌が立つ。

(この空気はだめだ…悪循環を生み出す)

何か言わなくては。

そう思うのに何を言えばいいのか分からない。

少しだけ開いた口は再び閉じ下唇を噛む。


その時、さっと影が1つ動いて泣いていた少女を抱きしめる。


「だいじょーぶだ。あいつらは悪いやつなんだ。悪いやつは良いやつに負けるんだ。ぜったい助かるさ。」


そう言って少女の顔を見てニカッと笑う。

少女が頷くのを視界に収め、思わずホッとした息が漏れる。

(ずっとヴェルドがこうやって励ましていたのか…)


強いな、と思う。まだ7歳だと言うのにこの場面で人を励ませるだけの胆力がある。ヴェルドがここにいて良かったと言うのはヴェルドに失礼だが、ヴェルドがいなかったらここはもっと酷い状況だっただろう。

そう考えていたディーの耳に小さな声が聞こえた。


「おや…なんて…」


目だけを左に向けると、ちょうどディーの隣に、ディーと同い年くらいの子が体育座りで座っていた。頭は膝の上にうつ伏せになっており、腕で隠している。

その子の服はここに来るまでに見た人とおなじような古びた布を身に纏っている。


(スラムの子か…親がいない子はこっちじゃ皆孤児院に預けられるわけじゃないのか。)

美奈は自分の身の上を不幸だと思ったことは何度もあったけれど、日本に生まれた、ただそれだけで何十倍も恵まれていたのかもしれない。


ヴェルドの真似をして頭を撫でようとした手を引っ込める。

(あの子には良かった手段でもこの子にとっては気に障るかもしれない。)

あの時の自分は同情が一番嫌いだった、その事を思い出したからディーは何も話すことはしなかった。

シュリルディールは首をゆるく振って懐古に呑まれかけた思考を切り替える。こんなところで思い出したら戻れなくなりそうだ。


(ここにいる子供は全員で13人。男9人、女の子4人。3歳から7歳まで。奴隷売買か…?それにしては手口が…)



突然バンッと大きな音がして自然と下がっていた頭を上げる。


「飯だ。」


男が数人扉を開けて器を子供の人数分、床に下ろす。その器の中には野菜の少し入ったスープ。続いて配られたのは少し固くなったパン。ディーをここに連れてきた男がここのトップのようで子供達に食事を配る男達の後ろに立って彼らをじっと見ている。

そして、配り終わったのを見届けた男は真っ先に立ち去ろうとする。


そこに場違いなにこやかな声がかかった。


「ねえ、ちょっといいかな?」


「あ?」


「ち、ちょっと…」


にこにこと微笑むディーに慌てて止めようとするヴェルド。そして睨みつける男達。

周囲の視線を意に介さずディーは口を開く。


「これって誰が指示してるの?貴方達だけじゃないよね?」


「誰がそんなこと」


「商人にしては手口が雑すぎるから貴族かな。しかも王都に常に居を構えている貴族じゃなくて地方の貴族。もしかして王都以外の都市でもこんな事してるんじゃない?」


次々に投げかけられる言葉に食事を運んできた男は後ろに立つ男に視線を投げかけ、その視線を受けた男は口ごもる。


「し、知らねえよ!」


そう言ってドアを勢いよく閉める。取り残された男が慌ててドアを開けてその後を追っていく。

(おーう。何て分かりやすい反応。)


食事を運んできた男の身なりはスラムの人々と同じような素材。チラッと扉の奥に見える男達も同じ。ディーをここに連れてきた男だけが身なりが他と違い、さっきの答えを知っていた。

良い反応が見れてディーの口元が緩む。


(当たりだな。おそらくあの男は貴族の私兵か何か。それ以外は王都で雇われたんだろう。頭脳派じゃなくて肉体派だからよく考えもせずにあの格好のままここにいて雑な手口とかか…)


そう思考に没頭するディーの肩が揺すられる。

ハッと顔を上げると唇を尖らせたヴェルドの顔。


「ディール!何であんな…!」


「必要だからだよ。」


「答えてくれなかったじゃないか!」


「答えなくてもあの反応だけで僕の考えが合ってたことくらい分かるよ。もう少ししたら助けが来るかな。」


ディーはそう言ってにっこり微笑む。

ヴェルドだけでなく周りの子供達もその言葉に目と口を大きく開く。


「どういうことだ…?」


ディーは皆に手招きで寄るように指示すると先程までより声を潜めて話し始める。


「貴族だと思った理由は単に雑だからっていう理由だけじゃないんだ。

騎士団は多分とっくに動いてる。貴族が絡んでるから色々手順踏まないといけなくて取り締まるのが遅いけどあんな雑な手口でバレないわけがないんだよ。」


(確実に騎士団は把握してるよね。商街観光してる間に私服だったけど2人組の第2騎士団の人達をちょいちょい見かけたし、その目線は子供を注視していたから。)

何かあるのかと思ったけど流石に誘拐事件とまでは分からなかったなぁ、とシュリルディールは内心苦笑する。

普段の様子を知らないからこんな事があるまでそれが普通と思っていたのだ。


(最初の事件から2週間は経っていない。スラムの子は気づかれなかったとしても、孤児院の子を連れ去った10日前、そこから3日後に商人の子供を次々と連れ去ってる。他にも何件も連続して毎日起こっている。)


それに、あんな風に直接ここに連れて来るなんてここが拠点ですよと言ってるようなものだ。スピードは速いがあんなスピードで裏道を駆けるのもおかしいし何かあると勘付く原因になる。

王都を守護する第二騎士団には隠れて追跡することを得意をする人達が大勢いる。


それでも動かない理由は裏にいる貴族が誰かを知りたいから。


貴族を逮捕する場合、確実な証拠が必要となる。状況証拠では逮捕できない。蜥蜴の尻尾切りのように有耶無耶にされてしまう。

だからいくら最初から犯人だと分かっていても貴族の逮捕というのは時間と労力がかかるのだ。かけても駄目な時が多いが。


(でも私が捕まったからそんな事言ってられなくなっただろうなぁ…)


だからすぐに来るのだ。人質に取られないようにする点だけ気を付けていれば彼らなら簡単に制圧できる。


「い、いつたすけてくれるの…?」


ディーと変わらないくらいの女の子が服を掴んで涙の滲んだ目を向けて来る。

ディーはその少女の頭を優しく撫でる。


「そこまでは分からないかな。」


(本当にもうすぐ来るとは思うけどね。)

そう思ったディーの肩がグイッと引かれる。振り向くと耳元にはヴェルドの口がある。


「おい!そこはもっと励ますようなことを…」


「だってあまり期待させもね?」


不思議そうな顔をするディーにヴェルドはため息をつく。


「まあ…ありがとな。助けがすぐに来るって言ってくれて。」


「本当の事を言っただけだよ。絶対とは言えないけど騎士団に関しては十中八九僕の想像通りだ。」


(分からないから動かないの時期は僕がここに来た時点で過ぎている。)


この誘拐事件と関係してると思われる騎士団の行動は商街に入ってからのものだけではない。

ここ数日フォルセウスが忙しくしていることは知っていた。第二騎士団長が団員を数人連れて1週間前と一昨日家に来たことも知っている。時期的に見てこの件の可能性が高いのだ。

それと商街での騎士の様子を組み合わせれば、自ずと騎士団が何をしたいかは予測できる。

そのせいで護衛を辺境伯家に任せ、公爵家から割けなかったことを嘆いているかもしれないがもう過ぎたことは仕方がない。

そして、ここに突入せず父達が忙しくしているのは貴族への手がかりがないこと、これしか考えられない。


ディーはそこまで考えて一息ついた。

ここに連れて来られたことを利用して潜入調査紛いのこともできなくはないが止めた方がいいだろう。まず自分の身をどうにかすることが一番だ。悪手にしかならない可能性がある時点でそんな綱渡りを渡る気はシュリルディールには毛頭なかった。












前に第2章終わってから配置を色々と変更すると言ったのですが、先日変更致しました。

この後の流れに違和感があった為、第2章から国政関連を消したことによる急遽変更です。

今まで投稿した話の内容は変更していません。

変更したのは章の名前、それに伴って元々第2章だった前半の数話を1章に、登場人物紹介の3点です。

登場人物紹介は1章に数話追加された分、人数が増えただけです。


たった数話なのに登場人物は一気に増えてますけど…



次回の更新は11月19日21時です。

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