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足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
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15話 商街へ2






「…なにこの子可愛すぎる!!!アレクずるいわ!私も抱きしめて撫で撫でしたい!絶対後でそこ代わってもらうんだから!!!」


(メリーお義姉様…聞こえてます…普通は僕と代わって欲しいって言うとこじゃないのか?

うん、とりあえず、笑顔は抑え気味でいこう…)


ディーはそう決意した。


が、


そんな配慮は貴族街から出た瞬間に綺麗に消え去った。

本ではこの世界の街並みはどんな感じか知っていたし、日本の街並みは勿論知っているが全然違った。



( 超 か わ い い !!)



街並みが非常に可愛いかった。王城も綺麗だったが大きさが大きさだから可愛いとは思えなかった。

だが、商街は違う。

まるで童話の世界に紛れ込んだような気分。暖色系のカラフルな建物と緑の草木が、この街全体を彩っている。

建物の色に派手な色はない。全てパステル色の中でも落ち着いたオレンジや黄色、たまに薄い赤や紫、緑と言った色で、それぞれの建物が少しずつ色が違うのに全体的に上手くハマっている。それはおそらく屋根の色が同じだからだろう。もちろん全く同じではないが茶色という点では同じだ。物によって多少明るかったり暗かったりするがほぼ同じであるお陰で統一感が出ていると感じる。

今は秋で花の種類は少なめなようで、道の脇に立っている木々や花壇には綺麗な緑が(しげ)っている。秋でも葉が落ちない木々なのだろう。日本の街路樹でよくあった銀杏や紅葉なんかは見られない。

一方、貴族街は秋でも花が咲いている。ここの違いは珍しい花木を植えているかどうかの違いというだけだ。多分冬でも貴族街では花が咲くのではないだろうか。ちなみに貴族街の建物は王城より黄色が少しだけ強いクリーム色や白が多く、屋根の色がバラバラだ。王城に近ければ近いほど建物の大きさも大きく、商街に近ければ近いほど小さくなっている。小さいとは言っても大きい部類に入るが。

そちらも可愛いのだけれど、それぞれの屋敷と庭が大きすぎて視界に多くの建物を入れることができないのだ。

だから商街のように単体でも可愛い建物が連なっている光景の方が可愛さ増し増しでグッとくるものがある。


瞳の色を変え、頰を上気させアレクの服を掴んだままブンブンと腕を動かすディーの様子は年相応で、見ている方が微笑ましくなってくる。周囲からは暖かい…時々矢鱈と熱のこもった視線がシュリルディールに集まっている。


「に、兄様!すごいです!かわいいです!」


「うん、そうだね。かわいいね。」


そう言って微笑むアレクは街並みを見ずディーを見て同意する。

そこに違和感を感じたディーとアレクの視線がかち合う。

見つめ合ったのは1秒にも満たないくらいの短時間。その短時間で先程までの自分の姿が頭の中を駆け巡る。


固まった。


その顔が徐々に赤く染まっていく。


「い、今の忘れてください…」


(はしゃぎすぎた…)

顔に熱が集まっていることを感じて、それを隠すように兄の服にぐりぐりと頭を押し付ける。


「ディー、鬘脱げるから…」


その言葉にピタッと動きを止める。

(ま、まあ?今の私は子供だし?問題なくない?うん、ないよね!)

今までシュリルディールが子供っぽい仕草をしていたのはかなり演技が混ざっていたが、今回のは素だ。童話の世界のような夢の世界のような街並みは可愛いもの好きだった美奈にとって興奮せずにはいられなかった。王城や屋敷も綺麗で可愛いと言えるのだが、いかんせん大きさと高級感が元庶民にとっては胃が痛くなるような、気後れするような感覚の方が強かった。


開き直り始めたディーの頭がぽんぽんと撫でられる。それにつられて顔を上げるとニッと笑ったアレクの顔。


「ディーは初めての街だから興奮するのは仕方ないさ。だが、興奮しすぎて熱出さないようにな。」


「わ、分かりました。」


そう言ってコクコクと神妙に頷く。

もうしないから大丈夫と思う一方で、こちらの恥ずかしい気持ちを和らげるような言葉をすぐにかけられるアレクの姿に学園での様子がチラッと垣間見えた気がする。

(兄様優しいし強いし絶対学園で人気高いだろうなあ…メリーお義姉様大変だったんじゃ…)


兄のイケメン行動ぶりに街並みから思考が飛躍したディーはチラッとメリーの方を見る。

後でアレクの学園での様子を聞いてみよう。絶対無自覚にイケメン振りまいてるだろうと思うくらいにはディーも充分ブラコンだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





商街の中心部にある広場、ウォール広場と呼ばれる場所には噴水がある。

貴族街のものより少しだけ小さい。この様子から分かるだろうが、このミリース国は水が豊富な土地だ。狭い国土ではない為、そうでない土地もあるが大半が水が豊富で水不足に困る事はない。

水が豊富ということは作物を育てる場がそれだけ多いということにも繋がる。また、川を利用することにより物資の運搬が簡単に速く行えることにも繋がっている。ミリース国は水の国と呼ばれることもあるのはこれが要因だった。

だからこそ、そんなミリース国の王都には多くの物資や人が集まる。特に商街きは人が溢れかえるほど賑わい、活気に満ちている。


「兄様、あれは何ですか?」


「ん?どれだ?…ああ、この銅像か。」


ディーが指したのはウォール広場の噴水の中央にある何かを模した人らしき像。貴族街のものは意匠を凝らしてあったが像は置いてなかった。

だから気になったのだが、こういう所に建造されるのは前世も今世も変わらず大抵歴史的な有名人である。

前世は銅像の数も多く、特に誰と決まっているわけではないものも多かったが、こちらは銅像の数自体が少ない。前世程平和でも裕福でもないため、何か理由があって作られたものしかないからだ。

だから誰を模しているのかは想像しやすい。

馬に乗り剣を掲げている男性。

王都の商街の象徴とも言える場に立つ。


十中八九…


「あれは初代国王陛下の像だな。」


まあ、それ以外だったら逆にびっくりだ。

初代国王については様々な史料が遺っているが、どこからやって来たのかなどは未だ不明である。銀髪の人間はこの大陸で記録されたのは初代国王とその血筋だけなのだ。別の大陸はあることは分かっているが遠すぎるし、銀髪がいたという記録はない。色々謎な人物である。


「ディーは読書好きだし建国記は読んでるよな?」


「はい、もちろんです!」


もちろん初代国王については読み漁った。その為に歴史の本を片っ端から読んだと言ってもいいくらいだ。


初代国王の名はハルヒコ・ミリース。


これだけ聞けば特に思うこともないかもしれないが、ミリースという名字は建国してから付いたものだ。それまでハルヒコ王に名字はなかったとされている。その点から農民出身だとする説もあるが、銀髪というのが農民に出るのかという意見が多い。とは言っても貴族にも銀髪はいなかったようだけれど。

苦しんでいる人々を連れて建国し、救った何処からかやって来た珍しい髪色の男。ここから神の使徒だとする説を推す人が多いが真相は分からずじまいである。


(ハルヒコって名前が当時珍しかったことも、日本でハルヒコって名前は普通にいそうだってことも分かってるんだけど…そうだと仮定すると銀髪がよく分からないんだよね。)


もしかしたら同じ日本からやって来たのかもしれない。

これは名前だけでそう思ったわけではない。ハルヒコ王がミリースという女性と結婚して建てたのがこの国だが、その時に様々な制度を導入しているのだ。法律から行政形態まで。ここにどこか懐かしいものがちょいちょい入っている。

アレクの同室のネストリオ・アルヴィスの家が代々継いでいる外部省大臣。この外部省という名も少し違うが懐かしい感じがある。そもそも省なんて言葉はなかったのに創り出したのもハルヒコ王と言われている。

ただ、日本人だったとしても、他にいない銀髪であったことの答えにはならない。

他にも、知識チートというものがあまりない点も気にかかる。農業の改善は少しあったらしいが既存のままを維持していることが多い。


怪しいが怪しいと思えば思うほど不可解な点が浮上してくる。

だからこそ、その糸口を掴む為に色々歴史本について読み漁ったのだ。途中で量が多すぎて諦めたけれど。

しかも、歴史というものはその時代や後の時代に書き換えられることがある。

例えば前世では『日本書紀』などは良い例だろう。蘇我氏が暗殺された乙巳の変。そこで中大兄皇子と共に活躍したとされる中臣鎌足(後の藤原鎌足)は当時の彼の地位から考えると乙巳の変で大活躍したとは考え辛いと言われている。後に藤原氏が力を付けていく過程で書き換えられたなどという意見も多いのだ。

他にも神功皇后伝説などおかしな箇所は多くあるし、さらに時代が進んでから書き換えられたという説もある。有名なのは明治になった時に書き換えて広めたなんてものだろうか。

結果として、この国の制度のより細かな箇所など同じ前世の知識があったのではないかと思われる点は色々見つかったが、それが初代国王が本当に作ったのかなども含めて結局確定には至っていない。


(まあ、知ったところで何かあるわけでもないんだけどね。)

探るのは無理だと諦めたのに、諦めきれていない自分自身にシュリルディールは内心で苦笑した。











今更感あるけど章のタイトルを間違った気がします。なので二章が終わる頃らへんで色々配置を変更する予定です。

ただその二章が当初の予定の10話を優に超えます。まだ国政要素欠片もないですし…


日本書紀の話は単なる一説です。ただ、その時代や後の時代の勝者による書き換えは確実に為されているとされています。

乙巳の変は大化改新と習ってる方も多いでしょうか?大化改新は大宝律令に基づく政治への改革などを指し、乙巳の変は、当時権力を握っていた蘇我蝦夷、入鹿親子の暗殺事件のことを指します。乙巳の変は大化改新に至る前段階と言ったところです。教科書に乙巳の変の結構衝撃的な絵が描かれていたから頭の片隅に残っている方も多いのかなと思って挙げてみました。

神功皇后伝説は知らない人がいるのではないかなと思いますが、調べると不可解な点が次々と見つかって面白いです。ちなみに、神功皇后自体が現在はいないとする説が濃厚です。後の時代の斉明天皇と特に似た箇所が多いため、彼女がモデルと言われています。



次回の更新は10月29日21時です。


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