表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
足なし宰相  作者: 羽蘭
第2章 王都の商街
15/82

13話 夢・糸・熱







「◆☆▽■★○▲だろうが!!!」


(またあのこわい声…

こんどは何をとられるんだろう。何をこわされるんだろう。)


足音をなるべく立てずにいつもの部屋に隠れる。


その部屋の中で子供たちはひとつに固まって身を寄せ合う。


(あの声がしたらこのへやに入る。

そしたら声が聞こえなくなるまでここにいればだいじょうぶ。

いつものことだからだいじょうぶ、だいじょうぶ。)


そう自身に暗じさせながらもその身体は小刻みに震える。

突然そんな体がギュッと包みこまれた。


子供達の中でも一番大きな少女が一番小さな少女を抱きしめていた。

そして囁き声で小さな子を励ます。


「美奈ちゃん。大丈夫。静かにしてればここには来ないから。」


「うん…」


小さな少女はそう答えたが声は固く震えたままだった。


(おねえちゃんもふるえてる…

ほんとにだいじょうぶなのかな…)



そう少女が悲しい推測をした時、ドタバタとした音が子供達のいる部屋に近づいてきた。

争う声も聞こえる。


争う声が聞こえなくなったと思ったら足音がどんどん部屋へと向かってくる。


小さな少女は大きな少女に強く強く抱き締められる。




そして、足音は…









「ッ!っはぁ、はあ、はぁ…」


ハッと目を覚ました少年は荒く息を吐きながら辺りを見渡す。


見慣れた天井。


見慣れた壁。


見慣れた家具。


あの時よりも綺麗で白くて小さい手。


寝た姿勢のままギュッと握りしめ、心を落ち着かせる。

それだけでは足りなくて腕全体で身体を抱きしめる。何度も何度も手の位置を変えながら肩を抱きしめる。

汗で銀色に光る髪がベッタリと顔に張り付いて気持ち悪い。


「だいじょうぶ。夢だから大丈夫。」


そう自分に言い聞かせた声は微かに震えていた。







目を瞑って大丈夫大丈夫と繰り返し呟くうちに、震えも落ち着いてくる。ある程度冷静に考えられるようになってから、シュリルディールは大きく息を吐いて心を落ち着かせた。


(久しぶりにあの頃の夢を見たな…絶対彼奴等(第1王子達)のせいだ。)


何だかどんどんムカついてきた。

この熱もそうだ。


シュリルディールは体力を使い過ぎたせいであの後帰宅してから見事に熱を出していた。足は動かせないし、使った体力なんてそんなに多くない。それなのに熱を出した。多分精神的な負担もあったのだろう。


「寝れない…」


寝なければならないことは分かっているが、夢のせいで心臓がどくどくと波打っていて煩い。

もう一度目を瞑ってみるが眠れそうもない。

(寝るのは諦めよう…この暗さじゃ本も読めないし、魔法の練習でもするか。)


ディーは手のひらで風を生成した。それを本棚に向かって細く長く糸のように伸ばしていく。

風魔法の発動時間と発動できる回数が短すぎる。何をどう鍛えればいいか分からないが、とりあえず魔力制御を練習しておけば長時間扱えるようになるかもしれない。

そんな思いからディーは溢れ返る程ある魔力を少しずつ糸の形に放出していく。膨大な魔力があるからこそ、小さく細かい作業が難しい。気が緩むと一気に流れ出ていってしまいそうだった。


シュリルディールの魔法は基本無詠唱だ。

シュリアンナが無詠唱であり、無詠唱の方が良いと力説した為であるが、ディー自身も無詠唱の方が良いと考えた為でもある。


無詠唱は詠唱のある魔法より魔力を多く使う。

無詠唱のデメリットはこれだ。

そして、魔力量は大抵の魔法師にとって死活問題だ。平均的な魔力量の持ち主ならそこそこ強い剣士に持久戦を取られたら負けてしまうのだから。


逆に言えば、魔力量さえ問題なければ無詠唱の方が良い。

詠唱のある魔法だと決まったものしか出すことができない。

その点、無詠唱なら確固としたイメージが必要となるが、自由にイメージして魔法を使うことができるのだ。


今までディーが使っていた魔法は魔力をドカッと使って力押しだ。

空間魔法はまさにその典型だが、今まで使っていた細かい微調整の必要な風魔法も魔力の割にものすごく弱い風を短時間しか続けられない。

だから何度もかけ直しかけ直しで車椅子を動かしていたのだが、魔法はただでさえ頭を使うのだ。使い過ぎたら幼い子供の小さな頭はパンクしてしまう。

使う魔力が多ければ多いほど頭に負荷がかかる。

だからこそ、そのかけ直す回数には限りがある。車椅子を動かすだけなら一方向に押せばいいだけだから何回かできるが、自分を動かすとなったらさらに回数は限られる。

一回に使う魔力が少なくなればそれだけ多くの回数魔法を使うことができる。


つまり、ディーのやっている魔力制御、魔法制御は一応理にかなっていた。



細く伸ばした糸を棚の本にぐるぐると巻きつけてから引っ張る。

引っ張る力が弱かったのか、床に落ちそうになる本を時折下から風を吹かせることで浮かべて手元まで引き寄せる。

手の上に置かれた本を見て、ディーは何とも言えない顔をした。


(…これは駄目か。)

ここまで引き寄せる間に下から吹き上げなきゃいけないというのは二度手間だ。それなら糸を意識せずに初めから普通に引き寄せればいい。

もっと細かい作業ならこの糸は使えるだろうがその細かい作業に思い当たる節はない。

とりあえず呼ぶことがあるかは分からないが風の糸(ウィンドストリング)と名付けて、何となしにその糸で蝶々結びを作り始める。

(ん?結構難しい…)

風の糸は見えるものではない。魔力が見えるという魔眼持ちなら見えるのだろうが、それ以外なら引っ張られたりしない限り操者にのみ感覚的に分かるものだ。

単に結ぶだけならできるのだが糸で作った穴に輪っかにした糸を通すのが難しい。


見えるものではないが、はたから見て蝶々結びと分かる程度になった頃、日は既に上がっていた。

この日寝ていなかったせいだろうか、その後日も熱中して結び続けていたせいだろうか。ディーの熱はそれから5日経ってようやく下がった。


のちにこれをほぼ毎日練習したおかげで精密な魔力制御と操作を身に付けることとなるのだが、この時のシュリルディールは暇つぶしのせいで熱が下がらないという悪循環に陥りながら、良い暇つぶしを見つけたとしか考えていなかった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






やっと熱が下がった日の朝。いや、もう昼と言ってもいい時間帯だ。

(喉渇いた…)

シュリルディールは手の力と風魔法で上半身を起き上がらせる。足に力が入らないと腹筋があるわけでもないから起き上がるのでも一苦労だ。風魔法がなかったらと思うとゾッとする。


「あ、ディー様、起きられたんですね!」


「うん、サニアおはよう。今日は大丈夫そうだよ。」


サニアはディーに近づいて、その額に手を置く。


「もう熱も下がってますね!良かったです。こんなに長く寝込んだのは王都に着いた時以来でしたから。」


王都に着いた日から一週間程寝込んだことはあったが、それ以外は1日2日で治っていた。王都に着いた時は初めての遠出と馬車酔いのせいだったが、今回はサニアからしたらディーは王宮から帰って来てすぐ具合が悪くなったのだ。何があったのか不安になったのだろう。今の表情は晴れ晴れとしている。そんな反応に胸が暖かくなって笑みがこぼれる。


「ずっと軽いものしか食べてなかったからお腹空いちゃった。食堂に行こうかな。ベヤンに伝えてもらってもいい?」


ベヤンはディスクコード家の料理長だ。病弱なディーの食事の管理もしていた為、王都に来る際に一緒に付いてきてくれていた。


「そうですね…もうそろそろ奥様がご昼食をお召し上がるお時間ですが、ディー様もご一緒しますか?」


「うん。」


そう答えると共に、ディーはふわりとベッドから出て近くの背もたれのない椅子に腰掛け、サニアに手早く着替えさせられる。前世の記憶を思い出してすぐは着替えさせてもらうという行為に抵抗があったが、もう2年。すっかり慣れたと思う。




◆◆◆◆◆◆




シュリルディールは食堂へ向かう途中、窓からふと空を見上げる。

王都に来た頃の肌に突き刺さるような暑さと日射しはかなり和らいでいる。少し肌寒く感じる日も出てくるようになったくらいだ。


この国の暑さは日本のあの蒸し暑さとは違う。あの暑さはじめじめしていて気持ち悪く感じる時もあったけれど焼けにくかった。あのじめじめした暑さなら出歩けたのかなと少しあの独特な空気が懐かしい。

ここはカラッとした暑さなのだ。肌に日射しがガンガン照りつけても蒸し暑くはない為、同じ温度でも日本程の温度は感じない。しかし、外に長いこといると日射しが肌に当たってジリジリと痛む。そして焼ける。

ディーの肌は日に当たるとすぐ赤くなってしまう。だから外を出歩くのを禁止されていたが、もうそろそろ大丈夫だろう。





そう思って食事が終わり一息ついたところで母に聞いてみた。

「お母様、王都の商街は活気があって珍しいものも多く集まると聞いています。商街に行ってもよろしいでしょうか?」


「だめよ。」

即答された。

まあ、少し考えれば当然である。

(病み上がりだからそりゃあ反対されるよね…もっと経ってから言うべきだったか。)

目に見えて落ち込んだディーに、シュリアンナは今回の熱の原因が自分であるのと相まって罪悪感が募る。


「そうね…これから二週間熱を出さなかったら行ってもいいわ。」


だから、こんなことを口に出してしまったのだろう。シュリアンナは口にしてから、しまったと思ったがもう遅い。ディーの目はキラキラと輝き、期待の色で満ちている。


(二週間は少し微妙だけど治ってからすぐだから確率的にはいける。いける。)

ディーは限られた場所しか行ったことがない。移動で通ることはあっても馬車の中だ。馬車の窓は高くカーテンがきっちり閉じている為、外の様子は見られない。美奈はインドア派ではあったが流石に外の様子を見たかった。この世界の街並みを見たかった。


頰を僅かに上気させやりたい事をあれこれ考え始めたディーを見て、シュリアンナは小さくため息をつく。





二週間後、ディスクコード邸には小さな少年の浮かれた姿があった。










ギリ21時3分前!ストック消えた…


次回の更新は10月15日21時です。



展開→典型の誤字修正と少し分かりづらいかなと一文足しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ