12話 黒歴史確定
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「シュリルディール君。迷惑かけたわね。」
そう申し訳なさそうに言ったペリポロネシス妃の腕の中には泣き疲れて寝てしまったフェリスリアン王子の姿があった。
「いえ、当たり前のことをしただけですから。」
そこまで口にしてからジッと見つめてくるペリポロネシス妃の視線に何が知りたいのかを察して閉じかけていた口を再び開く。
「…第一王子殿下、第三王女殿下にお会いしました。」
「ああ…それならまだマシかしら。シュリルディール君、彼のことどう思いました?」
(まだマシ…マシじゃないのはラフティンディウム公爵と正妃かな。)
どう答えればいいのか迷って少し考えこむ。
「…そうですね…将来が不安になりました。加えてあの王子だからこそ貴族派の旗頭になれるのかと納得もしました。」
王家が力を付け中央集権国家になった方が良いと言う国王派と貴族が力を付けた方が良いという貴族派。内情はそんなに明確でも簡単な話でもないが大元はそんな感じだ。それなのに王族が貴族派の旗頭となるのは違和感があった。だが、あの性格ならそこまで考えていないのだろうと納得できる。いや、そうなるように育てられたと言うべきかもしれないが。
そんなディーの答えを聞いたペリポロネシスは小さくため息をつく。
「やはり変わりないようね…殿下自身が疑問を持ってくれれば良いのだけれど…」
「あの様子では大きな変化がなければ難しいかと。その変化も周りの目が厳しく起こせそうもありませんが。
…とりあえず、私はなるべく関わりたくはないですね。喧嘩売ってしまいましたし。」
「それは…リアンのせいよね…」
「…そうですね。ですがあちらは表立って文句を言ってこれないと思いますよ。」
ペリポロネシス妃は、そう言ってふふっと微笑むディーの顔を信じられないという顔で凝視する。
(この反応から見るに、いつも理不尽な事を言ってきてるんだろうな。今回は目撃者もいるし、文句を言う前にあの場にいたメイドや騎士達が止めるでしょう。)
あの二階にチラリと見えた姿は外部省大臣。会ったことはないが兄と同室のネストリオ・アルヴィスにそっくりだからすぐに分かった。あちらも止めようとこちらに向かっていたがディーが割り込んだのを見て、そのまま遠くから眺めていた。その様子は名前を告げなかった方の騎士もしっかりと目撃していたのを知っている。
何故あの場に外部省大臣がいたのかも知らないし状況に助けられたようなものであるが、利用できるのものは利用すべきだ。
「…どんな手を使ったのかしら?」
「偶々ですよ。状況に助けられました。二階からアルヴィス公爵閣下が見ておられたのでどちらに否があるかは明白であったというだけです。」
(まあ、見ていたのが分かったから飛び出せたんだけどね。あとはたまに二階を見て、それにつられて騎士が大臣がそこにいるのを発見できるよう誘導すればいいだけ。)
アルヴィス公爵家は国王派だ。そうでなかったらこんな風に安心できなかった。貴族派だったらもみ消されかねない。アルヴィス公爵の名はフォルセウスからも聞いたことがあるがおそらく問題ないだろう。確か真面目で小難しい人と言っていた。
(だから、何か言われるとしたら表立ってではなく裏で…そうなるとどんな手で分からないんだよなぁ…何もないといいけど。)
「あら、それなら大丈夫そうね。それは向こうも気づいていたのでしょう?」
「はい、もちろんです。気付くように誘導しましたから。」
ペリポロネシスはそう言って微笑むディーの顔を凝視してからグルンッと顔の向きを変えてシュリアンナの目を見る。
「シュリルディール君ものすごく優秀じゃない!どうやって育てたの!?」
(前世の記憶という名の裏技です。)
そんなことは知らないシュリアンナは首を傾げる。
「ディーはずっとベッドから出られなかったから本は幼い頃から好んで読んでいたわね…少し変わったと思ったのは冬にアレクが帰って来てからかしら。」
余命については言えない。ペリポロネシスに言うべきことではないからだ。空間魔法に繋がることであるのだから。もしかしたら伝えていいと言われるかもしれないがどちらにせよここでは目と耳がある為に止めるべきであるし、王に伝えていいか伺いを立てていない。
前にペリポロネシスに出した手紙には余命については触れていなかった。それは偶然であったが、もし書かれていたら密かに王から伝わっていたか、詮索するなとの命が出ていただろう。
それはシュリアンナもよく分かっていた。だから怪しまれなさそうな言葉を選ぶ。
「その時から、より知りたがりやになったのよね。」
「知りたがりや?」
「ええ。魔法を見せたのもその時が初めてだったわ。」
「そう…やっぱり貴女が何かしたというよりは本人の意思よね…」
やっぱりという言葉にペリポロネシスのこの友人への認識が透けて見える気がする。
それ以上の事はペリポロネシスは聞いてこなかった。
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《ペリポロネシス妃side》
「あら?フェリスリアン、どうしたの?」
「お母様!あ、あの…さっきの女の子は?」
日が沈み始めた頃に、やっと目を覚ました息子は起きてすぐ辺りを見回したかと思ったらそんな事を言い出した。
私はピシリと笑顔のまま固まる。
リアンの言う女の子とは、私の友人でありこの国の王の妹であるシュリアンナの第二子、シュリルディール・ディスクコード君の事で間違いないでしょう。
彼はまだ3歳…もうすぐ4歳。大変利発で将来が楽しみな子だったわ。足が動かず病弱だと言っていたけれど、貴族は騎士にならないのなら頭の良さが重要視されるのだからそこまで問題ではないわね。身体の弱さは跡取りの事を考えると問題だけれど兄がいるから大丈夫だものね。
しかも頭の良さに隠れてしまっていたけれど、魔法の腕も相当なもの。風魔法でのあの身体を動かし方は中々できる人はいないでしょう。流石天才魔法師と呼ばれたシュリアンナの息子ね。
そう、息子なのよ。
ドレス姿でリアンに会ったからリアンは女の子と勘違いしているけれど、男の子なのよ。
可愛かったけれど、似合ってたけれど、どうしてアンナは女装させたのよ…!どう説明しろって言うの…
私はため息をつきそうになるのを抑えながらチラリとリアンを見る。
息子の頰は赤く染まり、握りしめている両手は僅かに震えている。
そして、こちらを伺うように見ている目は今まで見た事がないくらいに輝いている。
その様子を確認し、思わず手で額を覆う。
「そうね…あの子は帰ったわよ…」
そう答えた私の声は思っていた以上に弱々しく聞こえた。
「そうなんですか…」
リアンは項垂れる。
言うべき…よね。
今日は何故か学園を休んでここに来た第一王子に虐められて落ち込んでいるところに、さらに落ち込ませる事をリアンに告げなきゃいけない。
貴方の好きになったその女の子は男の子なのよ、と。
好きという感情もまだ分かっていないような子供。でも、この反応からしてどう見ても一定数以上の好意を抱いていることは間違いないわ。
気が引けるけれど誤解したままの方が面倒になるでしょう。
私は意を決して額から手を外しリアンの顔を真正面から見つめる。
「あのね…リアン。」
私が何を言おうとしているか知らないリアンは慌てたように笑顔を見せる。
「気にしないでください!また会えるでしょ?」
「確かにまた会えるでしょうけど…」
「なら大丈夫です!」
リアンのこんな笑顔を見るのは久々だった。最近私が暗い顔ばかりしていたからでしょうか。こんな輝かしい笑顔はほとんど見ていなかったわ。
少し涙腺が緩む感覚がして目を瞬かせる。
そんな事をしている内に、リアンはその女の子について楽しそうに話し始めた。
その顔があまりにも嬉しそうなものだから真実を言い出しづらい。
もう少しだけこの笑顔のまま過ごさせたい。
そう思ってしまったからーーー
だから、私は口を噤んで微笑んだ。
フェリスリアンが真実を知って初恋が黒歴史へと変化するまであと2年。
つまり、あとこの小説の時系列的には2年くらいこの王子は登場しません。
4章かその少し前で再び登場する予定なので4、5ヶ月後くらい後になりますね。
(もっと後になりそうです!11/9 21:53)