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1話
面倒くさがりのはずの山上が立ち上がり、男の方に歩み寄っていく。怪しい雰囲気の山上と、堅気に見えない男が並ぶと迫力がある。
祐斗は静かに後ずさった。
「うちの玉奥にどういったご用件ですか?」
「相談があって参りました」
山上は無精髭を撫でながら、そりゃそうだろうよ、と言いたそうな顔をしていた。
「いらっしゃらないようでしたら、後日出直しますので」
「…谷代、玉奥に声かけて来てくれるかな?」
祐斗は頷くと、パーテーションの方に向かっていった。山上の態度が固いというか、警戒してるような気がして祐斗は何となく気がかりだった。
「むつさ…」
のぞくと、髪の毛をぼさぼさにしたむつが、パーテーションの影から男を観察していた。
「お客様がいらっしゃってますが。今は大丈夫ですか?」
むつは、眼鏡をかけて手櫛で髪の毛を整えると頷いた。そして、祐斗と共に山上の所に向かった。
「お待たせして申し訳ありません。初めまして、玉奥です」
髪の毛はまだ少し、整ってないがしっかりと仕事モードといった他所行きの声で挨拶をし頭を下げていた。