1話
椅子の音にむつが反応して、起き上がるような気配もないのを確認し、眉間に皺を寄せた颯介がささやく。
「寄り戻したって事?」
祐斗は、それは知らないと首を振った。
「みやは?何してんだ?」
山上がタバコをくわえて火を付けようとすると、颯介がぱっとタバコを取り上げた。そして、オフィスの奥にあるキッチンの方を見た。
「やっぱり、宮前さんってむっちゃんが好きなんですか?」
タバコを取り上げられた山上は、しぶしぶといった様子でキッチンに向かう。だが、しっかりと颯介と祐斗の襟を引っ張って無理矢理同行させる。
「好きの方向性が分からねぇけどな」
「ライクかラブかって事ですか?」
タバコの煙を吐き出す山上の前に、祐斗は灰皿を渡した。そして、ついでのようにやかんに水をいれて火にかけた。
「そう、それ」
「宮前さんって意外と純粋なんですか?」
颯介は苦笑いを浮かべつつ、個々のマグカップを並べて、多目にコーヒーの粉を入れる。
「純粋ってより奥手な感じですよ。海の時もお酒の力でようやく誘ったのが花火程度でしたよ」
祐斗が馬鹿にしたように、ふんっと鼻を鳴らした。その仕草に颯介と山上が少し、意外そうに見ていた。