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5話
「大丈夫だ」
子供が言うと、男は素直に引き下がった。それを見て、むつの前に立とうとしていた京井も下がった。
「今回は仕方ないですね。折角、長い時間をかけて準備をしたんですが…諦めましょうか」
冬四郎の抱いている琴音に近付くと、フードをかぶった子供は琴音の額に手を置いた。すると、たちまち土色になり、ぼろぼろと崩れていった。
あとに残ったのは、崩れ落ちた土とほんの少しの生臭さだった。
子供は、その土の中に手を入れると人の形にしてある木の板を取り出すと、ひらひらと振りながら、むつに見せた。
「僕はね、むつさんと違って木を使うんです。だから、ある程度は丈夫だし何度も使えるんですよ」
「そう…なら、この琴音ちゃんも?」
「そうです。…ですが、そっちはもうほっといても崩れるでしょうね。僕の人形も古くて使えそうにありませんし」
颯介の方の琴音には、もうあまり興味もないのか、ちらっと見ただけだった。




