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1話
「どーしたんだ、あいつ。最近どう見ても、何ならいつもおかしくねぇか?」
颯介と祐斗の肩を抱き寄せ、山上は小声で最近ずっと気になっていた事をようやく口に出した。
颯介は山上の腕から器用に逃れると、何も知らないと首を振った。逃れ損ねた祐斗は、山上の髭が頬に擦れるのを本気で嫌がり、手を突っ張って離れようとしている。
「先月と違って元気なんだろうけどさ。おっかしいだろ、やたらと元気だったり、今日みたいに溜め息ばっかり…みやとまた喧嘩か?」
再び奥から聞こえてきた溜め息に、男三人はそっとパーテーションの向こうを見ようと立ち上がった。
溜め息を漏らしているもう一人の社員。玉奥 むつは、長い髪が床についてるのも気にせず、ソファーで横になっている。
今日はいつものように三つ編みもせず、眼鏡もテーブルに適当な感じで放置されていた。目を閉じているのか、見られてる事にも気付いてる様子はない。
「宮前さんとは知らないっすけど、西原さんと一昨日は呑みに行ったみたいですよ」
祐斗の報告を聞き、山上と颯介は音を立てずに静かに座った。祐斗だけが、微かに椅子を軋ませた。




