1話
「犬神憑きという家系とおっしゃってましたが、実際に蠱術が行われたのですか?」
「恐らくはかなり昔の事でしょうね。わたしにも、そこまでは分かりませんが…血筋として残っている以上は、そういう事なんでしょうね」
麦茶を飲み干した京井は、少し不機嫌そうだった。それもそうだろう。
「蠱術の事を玉奥さんは、どの程度ご存知なのですか?」
「蠱術…ムカデ、ヘビなどの虫を壺に入れて共食い、競わせ生き残った一匹を殺して摂取して、力を得る。または、それらの毒を使って人を殺すという程度しか」
京井は、うんうんと頷いている。
「それだけ、ご存知なら十分ですよ。では、犬を用いた蠱術については?」
むつは、ちらっと琴音の方を見た。こんな話を幼い子供の、ましてや、犬神憑きの子に前で離しても良いものかと悩んだ。
「犬蠱と呼ばれる物ですね。目の前に餌を置き餓死寸前で首を落として、その首を十字路に埋めて怨念を集めるという物でしたね」
「ええ、それと…落とした首が餌に食いついたら、それを燃やして祀る方法ですね。そうする事で、永遠に人に憑くと…」
「その永遠に人に憑き願望を叶えるというのが、琴音ちゃんの一族の犬神なんですね」




