1話
お茶を運んできた山上を見て、むつは驚いた顔を一瞬した。そして危なげな手付きの山上からお盆を受けとると、テーブルに麦茶とオレンジジュースを置いた。
山上はちらちらと男を気にしていたが、むつがお盆を返しやや強引に追い出した。
ドアを閉めて、男の向かい側に座ったむつは、にこりともせず男と女の子を見比べた。
「それで、ご相談というのは?」
「大きくなられましたね。以前、お会いした時はまだ小さかったというのに」
麦茶を一口飲んだ男は、懐かしそうに、むつの顔に何かを探すようにまじまじと見ている。
「お会いした事はないと思いますが…」
「以前、お会いした時にはまだようやく歩けるようになったくらいの時でしたから」
男がそう言うと、むつはふむと唸った。そんな昔の事なら覚えていないのは、当たり前だ。だが、軽く30年程近く前にむつと会っているという男の見た目は、どう見てもむつと変わらないくらいの年齢にしか見えない。
むつは、眼鏡を外して鼻の上を揉んだ。外した眼鏡は、テーブルの上に置いてあり、かけ直そうとはしなかった。
「見た目は、わたしと変わり無いようですが…ずいぶんと、お年を重ねてらっしゃるようですね」




