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1話
まだまだ残暑の厳しい9月。むつは、難しい顔をして来客用のソファーに座っていた。目の前には誰も居ない。視えない、ではなく、本当に誰も居ない。
夏の忙しさが一段落したのか、仕事のない日々が続いていた。休みも取りやすいし、外出もしやすいにも関わらず、みなデスクで真面目に仕事をしている。
実際は仕事をしているように見せているだけだ。それは、みながみな重々承知ではあった。外出癖のある社長の山上でさえ、毎日居るのだ。
パーテーションで仕切られた、来客スペースからは、今日何度目かの溜め息が微かに聞こえてきた。
ここ、よろず屋の社長である山上は意味ありげな視線を社員である湯野 颯介とアルバイトの谷代 祐斗に向けた。
みながみな仕事をしている、と言ったがよろず屋の従業員は社員二人とアルバイト一人のみ。社長の山上を含めても四人しかいない、かなり規模の小さな会社だ。そして、どうやって資金を作り出して給料を払っているのか、不思議なぐらいに暇な会社である。
山上は床を蹴って、椅子のキャスターを動かし座ったままで颯介と祐斗の間に移動してきた。




