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第六話

「…………………………………………………………それで。どういう事、これは?」

 僕は家を出た後に真っ直ぐ夏風さんのいるであろう古びたバス亭を目指した。



 そして――――――――――――



「夏風夏奈専用バス、停車致します。定員は一名。尚、このバスは病院への直通です!」

「…………………………」 

 僕は自身が所有している愛用の自転車に乗って古びたバス亭へと来ていた。


 頭には「夏風夏奈専用バス」と書かれている鉢巻を着け、自転車のサドルには『路線図』と書かれた一枚のダンボールがぶら下げてある。

 ちなみに『路線図』という言葉の下に書かれている文字は『バス亭↓病院』だ。


 ……てきとうにも程があるな、僕のお手製バス。

 ここまで来るのにも数々の奇異の視線を浴びて相当恥ずかしかったし。


 しかし…………。

 これでこそ……やる価値はある。


「ねえ、あなた。もしかしてこれで私を乗せて病院まで行こうとしている?」

「あたぼうよ!」

「…………馬鹿ね」

「馬鹿で結構」

 僕は一言だけ即答で返して、後に付け加える。


「僕は馬鹿だ。けれど『正しい』馬鹿でありたい。そう――――思っている。それに言っただろう?」

「……何を、よ」

「これは馬鹿な僕が考えて考えて考え抜いた結果なんだよ。自信を持った結果なんだよ。お前は自信を持った結果には価値がある、とそう教えてくれたじゃないか。なあ、師匠?」

 夏風さんは短く「……はあ」と溜息を吐くと、

「馬鹿な弟子を持つと苦労するわね……」

 そう言って彼女は僕の自転車の荷台へと腰を降ろす。


 乗り方は女の子らしい横向きだった。

 ……個人的にその乗り方、滅茶苦茶怖いと思うんだけど。


 バランス取り辛いし、落ちやすいしで。 

 まあそういうツッコミはきっと野暮なのだろう。


「さすがはノリの良い夏風夏奈だな。そうこなくっちゃ!」

「……ねえ、そう言えば二人乗りって道路交通法違反じゃ無かったっけ? 運転手さん」

「知らねぇな。そもそも自転車だし、細かい事は言いっこ無しだぜ」

「…………もうバスじゃないって言っちゃってるし…………。本末転倒ね」

 彼女はそう言った後、諦めたように僕に体重を預けながら寄り掛かる。


「じゃあ雨が降らない内に出発するか」

 そう言って僕等の『バス』は走り出した。





「…………はぁ…………はぁ…………」

「…………ねえ?」

「……はぁ……はぁ…………何だ?」

「…………私、降りようか?」

「……はぁ……問題ねぇよ……」

 どうやら僕の馬鹿な目論見は功をそうしたようで、夏風さんはあの古びたバス亭を無事離れる事が出来たが、問題はそれだけに留まらず現在僕は病院まで続く道の途中にある超ド急の坂道に悪戦苦闘していた。


「一人でもキツそうな坂道を二人乗りで登ろうだなんて…………。そろそろ両足イカれるんじゃ無いの?」

「さあな………………もう、感覚が殆どないし……」

「既にイカれてる!」

「へへへ…………ヘマァ……しちまったぜ…………ざまぁねぇな……」

「何で今にも死にそうな台詞吐いているのよ!?」

「死んだら僕の灰はこの街の中心にでも撒いてくれよ……」

「死亡フラグ!? つーかショボイ! この街で撒くってどれだけ規模の小さいお願いしてんのよ!?」

「…………面倒掛けさせないように、と思って」

「そんな変な気は使わないで良いわよ!」

 ……そうは言うけどさ。


 あんた、「僕が死んだら灰は世界の中心に……」とか言ったら絶対、面倒がって撒いてこないだろう。

 良くて「ああ、うん。世界の中心ね。判った判った」とか何とか言って政界の中心(国会)にでもばら撒いてくるんじゃねぇか?


 人間の灰を国会にばら撒くとか迷惑どころの騒ぎじゃねぇ。

 なんなら悪ければトイレにでも流してしまいそうだ……。



「…………いやいや。あなた、私をなんて血の涙も無い人間だと思ってるのよ」

「……いやいや」

「…………?」

「血も涙も無い人間だと思ってる訳じゃない。血も涙も出すんだろう? 燃えないゴミの日に纏めて」

「もっと冷酷じゃない!」

「『血も涙も私には要らない。私に必要なのは――――――そう、自由だけよ』ってこの前言ってたじゃないか」

「格好良い――――――――っ!!」

「血も涙も私には要らない。私に必要なのは――――――そう、血の渇きだけよ……」

「格好良すぎて涙が出てくるぅ――――――――――っ!!」

 夏風さんは一頻り騒いだ後に「いやいや、私そんな事を言った覚えは無いわよ……」とツッコむ。

 ホント、ノリ良いなあんた。


「しかし、まあ…………本当に降りなくて大丈夫? あんた、さっきから楽しそうにしているけど…………内心、結構キてるでしょう?」

「そんな心配は必要ねぇよ。僕に必要なのは――――――そう、下り坂だ」

「格好良…………いや、良くない! 割と普通な事言ってる!」

「いや言っていて思ったんだけど、『――――は要らない。僕に必要なのは、そう――――――だ』って感じに言えば基本的に言葉って格好良く聞こえるよな?」

「『僕に必要なのは普通の友達じゃない。僕に必要なのは愛と勇気だけさ……』みたいな?」

「それじゃあ、アンパンマンじゃねぇか…………」

 まあ色々とふざけてみたものの、実際夏風さんを降ろすのは躊躇われた。


 夏風さんの『ルール』が何処まで適応するか判らない以上、今の状況を出来得る限り崩したくは無かった。

 最悪、地に足を付けた時点であの古びたバス亭まで強制的に戻されると言う事も考えられる。物事は常に最悪を想定して考えるのが慎重派の僕のポリシーだ。


 更に僕は夏風さんに対して「それに……」と付け加える。


「さっき、この『バス』は病院まで直通だって言ったじゃねぇか。各駅停車はしないんだよ」

「……そう。ありがとう」

 夏風さんは小さな声で僕にお礼を告げる。



「夏風さん。それを言うのは母親に会ってからにするんだな!」



 僕はそう言って『バス』のペダルを思い切り、踏みしめた。

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