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GIFT -Hero&Heel-  作者: 楽団四季
第一章
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久世綾花

「これに懲りて、もう悪さはしないでください」

 左手を腰に当てて、右手はビシっと人差し指だけ立てて相手を指し示す。脚は肩幅に開いて、自分でも見事にふんぞり返っていると思う姿勢で、たった今、投げたり引き倒したりして伸した三人組に諫言を述べた。

「くっそ……。せめてそのおっぱいに触れてからやられたかったぜ」

「俺はウェストに抱きつきたかった」

「……ふともも」

「ふん」

「いでっ!?」「あぐっ……!」「……もっと」

 セクハラを言える威勢がまだ残っていたので、順番に脇腹へつま先を打ち込む。せいぜい息苦しさを覚える程度の加減だけど、減らず口を押さえるならこれで十分。

「そういうのもしないこと。止めないかぎり、私が知る度に投げられますよ。男として情けないと思いませんか?」

「うるせぇよ。好きでこういう生き方してんだよ。お前だって、俺らみたいなのに泣かされても知らねぇぞ」

 それを捨て台詞に、三人ともよろめきながら立ち上がって、私にやられて痛む箇所を抑えながら立ち去った。

(なんだか、また会いそうな気がするな)

 あの口ぶりは、懲りてないと言うよりは、構って欲しいと言っているように感じた。

久世くぜさん、ありがとう」

 感じた嫌な予感に微妙な気分を覚えたけど、私を遠くから見守っていた同級生の言葉に意識を向けて、それは一旦片隅に押しのける。どの道、更生してくれるまではどんな相手であろうと、何度も正面から受けて立つつもりなのだから。

「お礼言われるほどのことでも……」

「いやいや、居なかったらあたし付き纏われたかもしれないし、お礼言うほどはあるよ。それにしても、ナンパなんて古いと思ってたけど、自分がされるとは思ってなかったよ」

 彼女は同級生の品野しなのさん。入学して十日ほどしか経っていないのを差し引いても、大した接点はなかった。互いに顔を見知っている程度であり、いきなりでこんな気の置けない会話が出来るのも、彼女の気さくさに依る所が大きい。

「いやー、噂程度にしか聞いてなかったけど、本当にヒーローみたいな行動してるのね」

「ええ。それが私のアイデンティティとさえ言えます」

 そんな大した接点もないのに助けたのは、学校からの帰りで通りすがったからとしか言えない。

 困っていたから、割り込んで盾になった。最初は話し合って引き下がって貰えればと思っていた。結局聞く耳持たない相手で手を出してきたから、やむを得ず地面に転がした。

 自分が危なくなるとは、多少思っている。だけど、私は控えめに言ってもかなり強かった。それに恐怖を感じても、見捨ててはいけないという気持ちが勝る。

 知人であっても他人であっても、それは変わらない。

 私は実家では、両親とお祖母ちゃんの四人で暮らしている。そして、三人がそれぞれ、私に教えを授けてくれた。

 父は、困ってたり泣いてたりする人を見捨てるなと言った。

 母は、自分と助けたい人を守るために武術を教えてくれた。

 祖母は、感謝は求めるのではないと諭してくれた。

 だから、助けを必要とする人には手を差し伸べた。

 私が間違っていると声高に叫んで、それを目障りだと拳を振り上げる相手は、良い気はしないながらも組み伏せた。

 感謝を、希望はしても求めることはしない。

 それを幼い頃から行った結果、当時は単純に憧れることが出来る人間だと、みんなの心を夢中にした。

 私もその信頼に応えようとして、みんなの前に立ち続けた。時には幼さゆえに失敗もしたけど、その度の反省を糧にした。

 それが今の私を形作った。そして今も行い続けている。

 今と昔で違うことは、いつの間にかやることが増えたことくらいだ。

「にしても、あんな良くて三枚目しかいない集まりでナンパ紛いって、無謀だと思うわ。タバコ臭い上に一人だけデブ混ざってるし」

 品野さんは、ついさっきまでのことを既に思い出同然にして感想を述べ始めた。気持ちの切り替えが早いのは良いことだけれど、さっそく酷評するのは如何なものか。それに、一人だけ余計に貶されているのはきっとわざとではないのだろうけれど、だからなおの事その相手が浮かばれない。

「どうせ不良に誘われるなら、レッドキャップかオロチのリーダーくらいカッコいい人じゃないとねー」

「えぇと……わたし、その2つが何なのかわからないんですけど」

「え? 有名なグループよ。あなたなら知ってると思ってた」

「他県から来たばかりで、この地域のこともほとんど把握していないので」

「ああ、今は慣れるので精一杯かぁ。ならそれどころじゃないわね」

 事情を察した品野さんが、わたしが知らなかったその2つについて説明を始めてくれた。

「マイルドヤンキーの集まりって言ってしまうと身も蓋もないけど、馬鹿やるのに情熱を傾ける男たちよ。そのチームのリーダーそれぞれが、かっこいいし強いしって言うのは有名」

 示し合わせたわけでもなく同じ方向へ足を進めながらの話は、今後の私にとって為になるものだった。

「名前の由来は、この二人が格ゲーでゲーセンを賑わせてるのが理由みたいよ。テリー対草薙の主人公対決にちなんで、それぞれのキャラの代名詞から――って所だけど、オロチの方は、草薙だとピンと来ないからって、仲間内で話し合った結果そうなったんだってさ」

「……格ゲー?」

 あくまで、今後の。

「まずそこなの!? ああもう、一から教えてあげるから!」

また出会いそうって言ってるけど、当初の予定から逸れたせいで、このエピソードに関しては登場しません。

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