表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕は勇者になんか、なりたくありません!!

作者: 梓志朗

 深い深い森の奥。その城はあった。森の奥にあるというのに異様に巨大なその城は、見ているだけでも気分が悪くなるような不気味さに満ち溢れていた。普通の人だったら近寄ることはおろか、目にしただけで気分に変調をきたし、視界から消すために踵を返すだろう。

 実際この城が出現してからというもの、城を囲む森は異様な魔力を帯び人々を惑わせるようになった。さらに凶悪な魔獣が住み着き、時折森から遠征しては近くの村を襲っているとのことだ。

 王都にある騎士団や傭兵団に助けを求めたものの、王都から遠く特別な資源や財源もないその地域の優先順位の低さからか、未だに討伐隊は派遣されていない。それならばと城の近隣の村の人々は何とか金をかき集め、討伐兵を自分たちで雇うことにした。しかし、討伐兵がこの城の主を倒したという吉報は未だにない。


 城の近隣の村々の人々は絶望を感じていた。もうこのままでは自分たちは一人残らず、魔獣共の餌食になってしまうだろう、と。自分たちは希望も奇跡もないまま、朽ち果てていくしか道は無いのだ、と。

 だがそんな時。偶々得体のしれない、けれども歴戦の勇士を思わせる旅人が現れた。村の人々は彼らに一縷の望みを託した。『どうかどうか、あの城の主を滅ぼしてはくれないか』と。

 旅人たちは、村人の願いを受け取った。


 そして僕は、その城の門の前に立っている。しかもこれから中に入る旅人の一人であったりする。城を目の前に見て改めて思う。この城に入ろうとするのは、正気の沙汰とはとても思えない、と。どんなに楽観的に見たとしても、これは高位の魔族の城だろう。城はかなりの大きさだし、城の周りには高い塀もある。僕らが今いる城の門だってかなり頑丈そうで、侵入者を拒むどころか、侵入者の存在自体認めていないだろう風情なのだ。

 別に僕はこの中に入りたいわけではない。僕らに頼んできた村の人たちには悪いが、僕は荒事は嫌いなのだ。出来ることならば、平穏に平凡に目立たず生きていきたいのだ。だけど何故か、入らなければいけないのだ。


「勇者様」


 そう、僕を呼ぶ男がいる。


「楽しみだな、勇者様」


 そう、僕に同意を求める男がいる。


 彼らは一欠けらも疑わず、僕がこの城に入るのが当然だと思っているのだ。そして彼らこそが、僕がこの城の中に入らなければならない理由なのだ。

 そもそも村の人たちも、僕には期待の一欠けらだって持ってはいないだろう。村の人たちは僕の存在は完全に無視して、彼らにのみ頼み込んでいたほどだったのだから。

 だけど、それが彼らの気に障ったらしい。何故ならば、僕が勇者で、彼らは守護騎士だから。なのに村の人たちは見る目がなく、僕を蔑ろにした。ならば、城の主を滅ぼすことで僕の実力を見せつけて、このお方は尊いお方なのだと見せつけてやるのだ、ということだ。なんてはた迷惑な。



 そして彼らは、宣言通り城の主を打倒した。それはもうあっさりと。これまでの村人や討伐兵の苦労は何だったのかという程、簡単に。

 まあ、この結果は予想通りだったけどね。彼らがこの城の主程度の存在にてこずることは無いだろうと思っていた。無いだろうと思ってはいても、それと僕までこの城に来ることとは別である。僕は彼らに比べてそれはもうひ弱なのだ。彼らのような無茶は出来ないのだ。

 なのに彼らは、城の主を倒したのは僕の功績だと吹聴する。僕がいたからこそ、自分たちは力を発揮できるのだと主張する。

 いやいやいや。貴方たち、僕がいなくても関係ないくらい強いですからね。僕なんて結界の中で守られているだけの、正直足手まといですからね。

 けれども村の人たちは、今では僕のことを尊敬の眼差しで見、僕に恭しい態度で接する。僕こそが英雄なのだと、彼らの言葉を鵜呑みにする。


 誰も聞いてくれませんが、一言言ってもいいですか?

 僕は勇者になんか、なりたくないって何度も言ってますよね!?


 止めて!崇めないで!!

 違うから!勘違いしないで!!


 僕は平凡な、ただの村人がお似合いなんです!!!





 人は皆、生まれた時に神様からの祝福をもらう。祝福と言っても大したものではない。「たくさん成長しますように」「健康でいられますように」「まめに働きますように」そういった、小さな小さな祝いの言葉だ。それは本当に気休め程度のちょっとした言葉だが、まれに「加護」と呼ばれる守護をいただく子どももいる。加護を持って生まれた子どもは、その後の人生で名を遺すような人物になると言われている。

 そして十歳になった時に、適正職業を神様から授かる。神様からの授かりものであることに加え「適正」とうたっているだけあって、その職業に就くことは当前だと考えられている。例えば「農夫」の適性を持った人ならば、より美味しくより実り豊かに作物を育てられる。例えば「商人」の適性を持った人ならば、より目利きが効きより良いものを売買することができる。

 もちろん努力すれば、適正職業以外の職業に就くことだってできる。しかし誰しも無駄な努力をしてまで、適正の無い職業に就きたいだろうか。答えは否である。適正の無い職業とは、つまりは才能が無い状態から始まることを意味する。せっかく神様からもらった有利な条件を不意にする愚か者がいるだろうか。


 しかし、少年は自分に課せられたそんな運命に抗おうとした。

 この物語は途方もない加護と適正職業を授かった少年の、無駄な努力と悪あがきの軌跡である。





 五年前に亡くなった母は言っていた。『あなたが生まれた時、母さんは確かに聞いたのよ。神様からのご加護を。お前はきっと素晴らしい運命を歩むわ』

 同じく五年前に亡くなった父は言っていた。『お前が生まれた時、空が歌い、風が天上の調べを響かせ、日の光がお前に降り注いだんだよ。それが何日も続いたんだ。あの光景は、きっと一生忘れられないだろう。お前は他の奴らとは比べ物にならないくらい素晴らしい人生を歩むんだ』

 二人とも、とてもとても誇らしげに嬉しそうに僕の頭を撫で抱きしめながら、僕に語って聞かせたものだ。二人の嬉しそうな顔は、今も僕の胸にある。今は決してもらえないその言葉たちだけが、今日まで僕を強く生かし、彼らに恥じないように清く正しく生きようと決意させていた。


 しかしそんな日常が崩れたのは、もう五年も前の出来事。あの大嵐の日、僕の待つ家への帰路を急いだ二人の乗った馬車は魔物に襲われ、谷底へと落ちた。その次の日は、僕の誕生日で。二人は少し遠くの街へと行商に行った帰りだった。僕の誕生日を盛大に祝いたい、その一心で商売に励み、遠くの街まで商売に行っていた両親。賢く優しい母、商いの上手い大らかな父。当時の僕は、ただ二人が祝ってくれるだけでも嬉しかった。ただ傍にいてくれるだけで幸せだったのに。もう、その気持ちも伝えられない。

 二人の死は、当時の僕が受け止めるには重く辛いものだった。僕は五歳にして孤児となったが、両親の残してくれた幾ばくかの財産と、優しい村人たちのおかげで今日の日を健やかに成長し迎えることができた。



 少し遠くなった二人の思い出を胸に、僕はこの村にある小さな神殿へと向かう。神殿とは言っても、王都にあるような壮麗という言葉が相応しいような巨大な建築物ではない。どちらかというと祠と言った方が相応しいような、村で大事に祭られてきたことが分かる清潔感溢れる小さな建物である。

 人々は十歳になる年の春の月天の日に、神殿に行って適正職業を天から授かる。それは大人になるための儀式の一つだ。僕も今年ようやく十歳になる。両親がとても楽しみにしていた、僕の適正職業がようやく分かるのだ。昨日は、今日のことが楽しみで中々寝付けず、本来であれば朝一番に起きようと思っていたのにかなり遅くなってしまった。普段は大人びていると言われる僕も、ただの十歳の子どもなのだと今さらながらに思い至り、少し笑いがこぼれる。


 神殿の周囲には、今年の子どもたちがどんな職業に就くのかと、大人たちが期待の目で見守っている。親は自分の子どもが少しでも良い職業に就けるように、職業人は少しでも根性のありそうな後継者が入ってくるように。子どもたちは適正職業が決まり次第、それぞれの職業に合った人の下で修業に励むのだ。

 この時間だと、大体の子どもたちがすでに適正職業を告げられていることだろう。まあ、この村は小さい上に田舎であるから、大抵の人は農業や林業、少し珍しいところで商人か加工職人だ。けれど大人も子どもも、自分の知り合いの適正職業が判明した後も神殿の傍で待っていた。

 誰を待っていたのかなんて言うまでもない。人々は現れた僕に「ようやく来たのか」とでもいうように期待の目を向けている。そう、みんな知っているのだ。僕が生まれた時のことを。

 

 通常であれば祝福が下りてくるだけなのに、僕は神様から加護をいただいた。母曰く、「定めを持って生まれし子よ。健やかに在れ」と神様は仰ったそうだ。世界も僕の誕生を祝うように包み込まれた。それはそれは美しい光景が村全体を包み込んだと、村中の大人たちは言う。一生に一度見られただけでも奇跡であるともいうべき、心洗われる光景だったそうだ。

 そんな僕の職業である。どんなものになるのだろうと、人々に期待されるのも無理はない。僕自身だって、自分の適正職業に期待と希望で一杯だ。自然、神殿へと向かう足取りも速くなる。


「あ、シグルド」

「………ソヴァール」


 神殿の近くで、逸る足取りの僕とは対照的にのろりのろりと足取りの重い少年に出会う。名前はソヴァール。読書の虫で家の中に籠るのが大好きで、外遊びは好まない。目の下には常に黒い隈があり、肌は不健康そうに青白い。同年代の子たちからは若干浮いてしまっている存在である。

 それでも僕が引っ張っていけば、遊びにだって加わってくれるし、嫌々ながらも最終的には一緒に山にだって森にだって付いてきてくれる。僕が無茶をすると怒るけど、それでも最後には一緒に無茶をしてくれる僕の大切な友人の一人だ。


「一緒に行かない?」

「……ぁ、うん……」


 緊張しているのだろうか、いつにも増してソヴァールの表情は硬く声にも覇気が無い。しかしそれも無理はないだろう。これで将来の道がある程度決まるのだ。神殿の前に並んで待っている他の子どもたちの表情も、期待と不安が半々、といった感じだ。

 神殿に着いた順番に神官様の前に並ぶので、やはり出遅れてしまった僕とソヴァールが一番後ろになってしまった。

 小さな神殿の中には、神官様と適正職業を賜る子どもの二人だけしか入れない。他の誰にも邪魔されず、神様から職業を教えてもらうことができるように、という配慮である。

 子どもが神官様の前に立つと、分厚い一冊の本を持った神官様が神言を唱える。神言によって、神官様の持たれている分厚い本に淡い光が広がり、パラパラと頁がめくれる。そして開かれた頁には、適正職業が示されているらしい。その光は子どもたち自身をも包み込む。キラキラとしたその淡い光は、見ているだけで心地いい。


 そわそわと自分の順番を待つ。深呼吸したり緊張した様子のソヴァールに話しかけつつ、しばらく待った。しかしそれにしても、ソヴァールの様子がおかしい。どうしたのだろうか。もう一度彼に声をかけようとした時、僕の名前が呼ばれた。

 いつもは気の良いおじいちゃん、といった神官様は、今日この日ばかりはいつもより神聖さが増した白地に金の縁取りがされた神官服に身を包み、その手には重そうな本を抱えている。ああ、ついに待ち望んだ日が来たのだ!!

 僕は様子のおかしなソヴァールのことも忘れ、神官様の前に立つ。神官様が期待を持った目で僕を見る。


「心の準備はできているかい、シグルド」

「はい、神官様」


 にこりと笑った神官様が、神言を唱える。本と僕を淡い光が包み込み、本の頁が音もなく捲れていく。ああ、この光は目で見ていた以上に心地よい。これは神様からの成人のお祝いであるのだ。自分に合った職業に就き、励みなさい。自分を知り、人の役に立ちなさい。そう、言われているような気がする。温かく優しく、それでいて励まされる光。気持ちが良く、いつまでも感じていたい。

 そんなことを考えていたその時、ある頁でそれがピタリと止まる。神殿の外には村中の人が集まっているようだった。辺りは固唾をのんで神官様の言葉を聞き漏らすまいと、静まり返っている。


「―――なんと―――!!」


 神官様が驚いて僕を見る。何が書かれていたのだろうか。適正職業はその本に神聖文字で記されていて、適正職業の種類やそれに付随した情報などが読むことができるとされている。しかし神聖文字を学んだ神官様たちにでさえ、本に書かれている全てを読み取ることは出来ていないと言われている。何でも神様の文字は複雑で、僕たち人に読み取れているのはほんの一部だという。

 それにしても、もう何十年も成人の儀を執り行っている神官様がこんなに驚くなんて。神官様が読み取った内容には、どんなことが書かれていたのだろうか。その場にいる全員が神官様の言葉を待つ。

 今一度、大きく深く呼吸をした神官様は、厳かに僕の職業について読み上げ始めた。


「適正職業:騎士

 この者は守護するために生まれ、定めを持ち生まれた。数々の試練を超えし時、更なる高みへといたるであろう」


 神官様の声の余韻を感じた後、神殿の外で待っていた大人や子どもたち、村中の人々が歓声を上げる。そう、神官様によりもたらされた僕の職業は、みんなの想像の遥か上をいっていたのだった。

 騎士、それは高貴なる人々を守護する存在とされている。王都でさえ、騎士の適正職業を最初から持って生まれる人は少ない。大体が兵士や戦士などの職業で研鑽を積み、神に認められたほんの一握りの者が騎士の頂へと昇れるのだ。そして騎士と呼ばれる人々は、そのほとんどが英雄ともいうべき業績を残している。例えば、ドラゴン退治、魔族征伐、戦を大勝利に導く等々、その逸話は枚挙に富む。

 それなのに僕は、初めから騎士という称号を手に入れた。しかも更なる高みへと至る可能性さえも記されている。これはあり得ないような選定である。僕は茫然と、神官様を見上げる。神官様も、驚きの顔をしていたが僕と目が合うとにこりと笑みを浮かべた。


「英雄の誕生に立ち会えて、この上ない栄誉だ」


 茫然としている僕の肩に神官様は手を置き、優しく微笑んだ。その言葉を聞き、少しずつ実感が湧き始める。本当なのだ。僕が、この僕が、騎士になるのだ。夢でも何でもなく。その温かさに僕の目から涙が溢れる。ああ、ようやく、ここから始まるのだ。父の願い、母の思いがようやく、形になったのだ。


 「……神よ、貴方に恥じない働きを約束いたします」


 人々の歓声に包まれた神殿で、僕は姿の見えない神にそう祈った。父と母にも僕の誓いは聞こえただろうか。喜んでくれているだろうか。僕はそう思いながら、止まらない涙をそのままに神への祈りを続けた。



 僕の適正職業が分かってからというもの、村はお祭り騒ぎだった。人々が狂喜し歓声を上げるのも無理はない。自分たちの村から、そんな英雄候補が誕生したのだから。

 大人は奇跡の瞬間に立ち会ったと喜び、子どもたちは英雄を見る目で僕を見た。村長は王都へと早馬を走らせ、僕を育成してくれる機関へと繋いでくれた。王都や王家でも、騎士の適正職業持ちが見つかったと聞いて大変驚き、急ぎ使者をこの村へと派遣したそうだ。

 そんな喧噪の中、主役である僕は王都へと旅立つ準備を進めていた。早馬が王都からの使者を連れて来たら、僕はこの村から出ないといけない。この村では騎士を育てるだけの費用も場所も無いからだ。

 生まれ育った村を出ないといけないのは、少し寂しい。でも、立派な騎士になるためには必要な旅立ちなのだ。そう、自分に言い聞かせる。そして寂しさ以上に、期待と希望に満ち溢れている自分自身に気がつかされる。


 そんな騒がしい日々の中で、僕はふとソヴァールのことを思い出した。そういえば、彼はどんな職業に就いたのだろうか。……あんなに悩んでいた彼の適正職業が、少しでも良いものであることを願う。その一方で、僕のせいで彼の晴れの日が台無しになってしまって申し訳なかったとも思う。それは彼だけではなく、他の子もそうだが。僕と生まれ年が被ってしまった子は、せっかくの成人の儀が霞んでしまったのではないだろうか。不可抗力とはいえ、申し訳ないと思う。


 王都から来た使者の中には、高位神官様がいらっしゃった。僕の適正職業を一応確かめるためにいらっしゃったのだそうだ。万が一にも間違いがあっては事だから、と。そこでもやっぱり僕の職業は騎士であった。

 使者の方たちも色めき立ち、高位神官様は王都では僕のことを騎士候補として扱うことになると興奮したように仰った。なぜ騎士の適正職業を持っているのに候補なのかと言えば、騎士になるためには色々な仕来りや作法を覚え、今まで以上に鍛える必要があるからだそうだ。だが、騎士の適正職業を持った僕ならば、乾いた地が水を吸うように簡単に覚えられるだろうとのことであった。

 そんな話を聞いて、僕のこれからの生活は大きく変わるだろうことが簡単に想像できた。しかしそれが少しも嫌ではないのだ。むしろ期待に胸が膨らみ、楽しみで仕方がなかった。

 僕はこれからどれだけ強くなれるのだろうか。僕はこれから色々なものを守れるようになるだろうか。いや、「なれるか」なんて希望では駄目だ。「絶対になるんだ」って思わないと。僕は神様にも期待された、加護持ちの騎士なのだから!


 その頃にはソヴァールのことはすっかり頭から消えていた。彼の心配よりも、自分の将来への期待に頭がいっぱいになってしまっていたのだ。……そのことを後に悔やむことになるのだが、そのことに気がつくのは何年も後のことである。





 何の特色もない田舎の小さな村。そんな村の特に他の家と変わらない小さな家。隣の家のように商売が上手なわけでもなく、特に作物が豊富にとれるわけでも、格別に美味い農作物がとれるわけでもない、本当に平凡な家庭。平凡な両親。その下に生まれた僕。だけど一つだけ、他の人と違うところがあった。


「あぅー!」

「あらあら、ご機嫌ね」


 僕がその能力に気がついたのは、まだ物心つく前のこと。時折ふっと、母さんの胸の前に何かの模様が見えたのだ。そのぐにゃぐにゃとした模様が面白くて、僕は飽きることなく眠くなるまでいつまでも、ただただ見ていた。その頃の僕は、母さんに言わせると全く手のかからない、いつでもご機嫌な幼子だったそうだ。

 最初はうっすらとした模様だったそれは、段々とはっきりとしていった。何なのだろうと目を凝らしていると、その模様が段々と増えていくのが面白かった。

 しかし、その模様について母さんに言っても父さんに言っても「何を言っているんだろう?」と不思議な顔をされたのには納得がいかなかった。こんなに綺麗な模様が頭の上や胸の前にあるのに、どうして気がつけないのかと不思議でしょうがなかった。

 ちなみにこの頃から隣に住んでいたシグルドは、神童として有名であったそうだ。まあ、生まれ方が生まれ方だし、同い年の他の子どもたちと比べて力も強く賢かったので、かなり将来を期待されていた。シグルドの胸の辺りにある模様は、他の人に比べてかなり長く複雑だったのが印象に残っている。


 その模様に規則性があることに気がついたのは、五歳になった頃だっただろうか。その模様は、人の傍にしか見えず、人によってその長さはまちまちだった。また同じ模様でも、頭の上にある人と胸の辺りにある人とがいた。

 お隣のおじさんとおばさんの模様は同じように頭の上にあったし、父さんと裏のおじさんの模様も途中までは同じだったりした。どうしてそうした違いがあるのかは、相変わらず分からなかった。しかし、父さんと母さんの模様の長さは他の人に比べて長かったので、それが僕にとってはひそかな自慢であった。

 


 そしてある日、僕は母さんに絵本を読んでもらった。するとどういうわけか、その模様が文字であることに唐突に気がついた。そして気がつくと同時に、その文字を読むことができるようになっていた。ちなみに母さんの胸の前に書かれていた文字は、こうであった。


適正職業:農家(刺繍家)


 そう、僕にはその人の適正職業が文字として見えていたのだった。そしてそれは神殿で適正職業として示されたものよりも、さらに一段階進んだものだということが成長とともに理解できるようになっていった。

 人は適正職業を持って生まれてくる。それはこれまでの事実と同じである。しかし、その適正職業よりもさらに向いている職業があるということが分かった。それを極めれば神業ともいうべき能力を発揮する、天から授かった職業ともいうべき職業があるのだ。そしてそれは持っている人もいるし、持っていない人もいた。僕の両親は後者だったので、他の人よりも文字が長くなっていたのだった。

 ちなみに父さんの胸の前の文字は、こうだった。


適正職業:農家(玩具職人)


 そういえば、父さんは僕が生まれてから手作りの玩具を作るのにはまっていた。僕は模様を見る方が好きだったのであまり父さんの作る玩具に興味を示さなかったが。その僕の態度がお気に召さなかったらしく、父さんの作るものは段々と複雑になり精巧になっていっていた。今ではあり得ない程の複雑な動きをするからくりの玩具を作るようになった。


 それが分かった僕は有頂天になり、父さんと母さんに伝えた。父の天職は玩具職人で、母の天職は刺繍家なのだと。僕の話を聞いた時、父さんは、ようやく息子が自分の玩具の魅力に気がついてくれたのだと喜び、さらに制作に力を入れ始めた。母さんは僕の冬物の上着の刺繍をいつもよりさらに細かいものにしてくれた。お世辞だと受け取ったようだった。


 後々、父さんの作った玩具は近くの町や王都でも売れ始め、母さんの作った刺繍入りの布も王都で販売されるほどになった。その時、我が子の放った一言が頭をよぎったそうだが、二人とも基本的に農業が好きであったので、農閑期にのみ細工仕事をし、玩具や刺繍の収入は臨時収入として我が家の財政を潤すに留まった。

 つまり、両親は僕の話を聞いてはくれたが信じてはくれなかった。自分たちを喜ばせるために息子がどこかで仕入れた知識を使って褒めてくれたのだと、そう解釈したようだった。


 その後も僕は何人かに天職を伝えてみたが、誰も本気にしなかった。今にして思えば仕方ないのかもしれない。両親でさえ喜んではくれたが、信じてはくれなかったのだから。

 中には、「神様から授かった適正職業を疑うとは何事か!」と激しく怒られもした。ちなみに大激怒された相手は神官様で、彼の転職は賭博師だったので怒られても当然だったのかもしれない。考えなしの僕も悪かったが、天職を伝えた後の三か月くらい罰として、神殿掃除と神の御業が記されているという書物の書き写しを命じられたのは、ちょっとやり過ぎなのではないかと幼心に思ったものだった。



 ちなみにシグルドの適正職業が騎士であると知った僕は、彼に適正職業を教えてはやらなかった。どうせ信じないだろうし、これ以上調子に乗らせても面倒になるだけだからだ。そう、幼い時分でもシグルドは他の子どもたちとは違うことが一目でわかるような奴だった。

 まず見た目がこんな田舎の村には相応しくない程に整っていたので、女の子たちからは好かれていた。大人の女の人も、将来が楽しみだと頬を染めていたのも一人二人ではなかった。また、明るく積極性もある性格で、遊びの中心でもあったシグルドは、同年代の子どもたちからも好かれていた。

 僕はシグルドに軽く嫉妬はしたものの、別に嫌がらせしてやろうとかまでは思わなかった。どうせ適正職業が分かったら王都にでも行ってしまうのだろうし、そうしたら僕には関係のない人になってしまう。むしろ極力関わらないようにして、自分と比べられることのないように過ごそうとしていた。


 なのに僕はその頃から、引きずられるようにして遊びに加えられるようになった。向こうからあれやこれやと誘ってくる回数が増えたのだ。それは後から思い返してみれば、彼の両親の事故のあったすぐ後のことだったように思う。もしかしたら、両親の死という重い事実を遊ぶことで紛らせようとしていたのかもしれない。

 僕は普段は室内に籠って本を読んでいるような貧弱っ子なのに比べ、シグルドは逞しく身体能力も高かった。そんな彼が普段一緒に遊ぶことも少ない僕を誘うことは、彼にとっては良かれと思ってのことだったのだろう。仲間外れは良くないと、そう本気で思うような正義感の強さも持ち合わせていたから。体を動かしていれば、ある程度寂しさや辛さが紛れたのだろうし。

 しかし他の子どもたちにしてみれば、大して仲良くも愛想もよくない僕の存在は目障りだったに違いない。彼のいない時には、軽い嫌がらせをされていたものだ。入りたくもない遊びに入らせるし、彼に誘われる僕への嫉妬で嫌がらせはさせられるしで、僕はシグルドが苦手だった。


 そして同年代にしては賢い彼であったが、たまに子ども特有の無鉄砲さで森の奥深くにまで迷い込んでしまうこともあった。その度に何故か僕が巻き込まれることになっていた。

 いや他の子どもだったら、僕のような知識もなく、シグルドのような身体能力や魔力もなく、ただただ悲惨な結果になっていたのかもしれない。だから僕は、巻き込まれたのがまだ僕で良かったのだと思うしかなかった。そうとでも思わなければやってられなかった。

 巻き込まれる度に僕は頭を抱え、いい加減学習しろと彼を叱責しつつ、二人が無事に何とか村まで帰り着けるようにするという苦行を毎回こなしていた。そしてその度に、シグルドは珍しい獲物や植物を村にもたらして褒められ、帰り着く頃にはくたくたで足手まといとなっていた僕は怒られるという、理不尽な結果になっていたのだった。

 なので僕は彼に関わりたくなかったが、何故か彼が絡んでくるので月に一度は巻き込まれて怒られる、というような状態だった……。



 まあそんな感じで、この頃はそれなりに平和に過ごしていたのだ。実はこの時点でも僕にはまだまだ読めない模様があったのだけれど、僕は適正職業が読めただけで満足するべきだったのだと今になっては思う。この先の領域に踏み込まなければ、僕の今の苦労は無かったんじゃなかろうか。そう、悔やんでも悔やみきれない程の後悔が押し寄せてくる。

 しかし僕はさっきも言ったように、シグルドに巻き込まれて散々な思いをしていたのだ。シグルドの胸の前に大量に書かれている模様のような文字を読むことができれば、何らか彼に対して有利になれるのではないかと考えてしまったのだった。それが浅はかであったと思い知るのは、結構すぐのことだった。



 それは僕が六歳になったかどうかという頃だ。知識を集めるのに貪欲になっていた僕は、村長の家でいつもの様に本を読んでいた。本は高いので村にある冊数自体も少なく、絵本以外の図鑑や文献のような知識を得るための本は、神官様や村長の家に何冊かあるだけだったのだ。

 その時は確か、農業に関する本を読み終わった時だったと思う。夢中に読むあまり、昼食をとっていなかった僕を心配した村長が、一区切りついた僕に声をかけてくれたのだった。


「ソヴァール、そろそろお昼ご飯の時間だろう。一旦家に帰りなさい」

「ぁ、は……い…?!!?」

「? どうした、ソヴァール」


 心配そうな村長の様子など目に入らない程、僕は村長の頭上に書かれた文字を茫然と眺めていた。

 適正職業には、その職名とともに簡単な神からの言葉が記されていることは知っていた。しかし、僕の知識が足りなかったのか、これまでは全く意味のなさない模様だった。だけど今、まさに読むことができるようになった。


名前:レオン・シュルツ

種族:人族

適正職業:(運に恵まれし)農家

補足:ラント村シュルツ家に生まれ、村をまとめし役割を引き継ぐ者|(しかし才能はない。正直血筋によってのみ選ばれた存在)。

(嫁補正:良い嫁をもらうことにより何とか村を治められるようになる。怒れる嫁には弱い。嫁がもしいなくなったら引退するのが吉である)


 ……何というか、言葉が出なかった。それは書かれている内容が物悲しくなるものであったからでもあったし、そもそも内容について驚きを感じたからでもあった。

 適正職業を神殿で示される際には、多分最初の部分しか言われないのだと思う。適正職業を告げられるのは、基本的に成人のお祝いのようなものだと聞いている。そこにあまりこれからの試練だとか苦難だとかは告げられないのだろう。

 しかしもしかしたら、この括弧の中身は他の人には読めないのかもしれない。これは神官様に確かめてみた方が良いかもしれない。……神官様の内容が酷かったらどうしよう。…………まずは父さんで確かめてみて、心の準備をしてから神官様の所に行ってみよう。そうしよう。


名前:ルース・ハーゼ

種族:人族

適正職業:農家(息子のために玩具を作り続け、天職の領域に達した玩具職人)

補足:田を耕し、愛情を込めて作物を育てる者(働くことが苦にならないので、体の許す限り働くであろう真面目者)。

(玩具職人:生来の真面目さから、子どもができた喜びによりたどり着きし職業。しかし、当の息子からの関心は買えていない。それによりさらに熱意が深まり、極めれば王家御用達の職人になることも夢ではない)


名前:ディリー・ハーゼ

種族:人族

適正職業:農家(色彩感覚に優れた生真面目な刺繍家)

補足:食物に愛情をもって接し育てる者。

(刺繍家:生来の色彩感覚と細かいところまで妥協しない性格から、微細で繊細な表現技法を用いて安物の糸でさえ素晴らしい作品を作り上げる。元々口下手なところがあるため、作品により自己の感情を表現している)


名前:ガイス・フリーデン

種族:人族

適正職業:神官(運を天に任せし賭博師)

補足:敬虔なる神に仕えし運命を持ちし者(生まれつき運に流されやすい者。ここぞという時は天に任せてしまい、実は予想通りになることよりもそうならない可能性に賭けているところがある。天性の賭博好きである)。


 両親の胸の前に記されていたのはこんな感じだった。父さんに関しては少し反省した。たまには父さんの作った玩具に反応してやろう……興味がわけば。母さんについても、去年の冬の上着の刺繍が最上の喜びの表現だったのだろう。……分かりにくい。

 そして神官様…。やっぱり見なきゃよかった気がする。この内容は、僕の心の内にそっと秘めておこう…。


 神官様には適正職業について聞いてはみたが、やはり僕の予想通り括弧の中の文字は神官様たちには読めず、適正職業を告げる時には関係の無いものとして扱われているらしい。むしろ読めないということは、神が人間には知らせなくてもいいことであるとした神聖なものであるので、神の御言葉として大切に扱われている部分だということが分かった。

 なのでそんなことを質問してしまった僕には、かなり疑いの目が注がれた。普通ならば神官様の様に修業を積んだ人にしか神聖文字は読めず、しかも解読されているのはごく僅かなのだ。それなのにまだ適正職業も授かっていないような幼い子どもが、適正職業の書かれている本の内容を気にする等ということはかなり不審であったようだった。どうやら神殿の奥に普段は安置されている適正職業の本を読もうとしたのだろうと疑われ、誤解を解くのに何時間も費やした。


 そんな感じで僕はその後も懲りたりせず、村中の人の書かれている文字を読むのに夢中になった。意外性のある人は少なかったけど、普通に面白かったからだ。

 だがしかし、僕は適当なところで止めておけば良かったのだ。好奇心をもって、シグルドの文字なんか読まなければ良かったのだ。


名前:シグルド・ヒュウホール

種族:人族

適正職業:騎士(という名の幼き勇者の隠れ蓑)

補足:この者は(勇者が健やかに成長できるように身近で)守護するために生まれ、(勇者の高き能力が迫害の対象とならないように、目を逸らし隠れ蓑となるための)定めを持ち生まれた。(勇者が)数々の試練を超えし時、(勇者は)更なる高みへと至るであろう(そして、勇者が本物の守護騎士を得て立派に育ちし暁には、勇者の傍らにいる必要の無くなる者である)。


 ………………これって、知ってはいけないことだったのではないだろうか。いやまあ、今までの他の人たちのだって、軽々しく読んで良いものではなかったんだろうけど。それにしてもこれは、なんというか……。

 これではシグルドは、勇者のためのただの駒である。しかもいつかは捨てられてしまう下っ端の。神様とは何て残酷なのだろうか。

 シグルドを思い、涙が流れそうだ。しかし僕はここでふと、気がついてしまった。シグルドの守る勇者って誰だ、と。


 この村に適正職業として勇者の称号を持つ者はいない。これは文字が読めるようになってから、老人から赤子まで片っ端から調べた僕が言うのだから間違いはない。

 背筋に嫌な汗が流れ、嫌な予感が頭をよぎる。もちろん、まだ生まれていないという可能性もある。だがしかし、それはないだろうとも感じていた。そう、僕はただ一人だけ適正職業を調べていない。それは何を隠そう、僕自身である。いやだってさあ、自分のことだよ?知りたくなくない?

 農家とかなら父親と母親の後を継いで暮らしていくことができるし、もし職人系ならば近くの町に行ってどこかに弟子入りすることもできる。しかし、もし万が一、そうではない職業だったら。そう思うと、自分自身のことは中々読むことができなかった。


 しかし、嫌な予感は頭を離れることがない。そして、僕はこれまでの人生から、とてもとても好奇心が強いのだ。知りたいことは調べつくして知っておきたい。その欲求に、この時も負けてしまったのだ。僕の馬鹿野郎!!



 はい。結果から言うと、僕が勇者でした。



名前:ソヴァール・ハーゼ

種族:人族(その魂は天族のものであり魔族のものであり、全てを内包せし者である)

適正職業:(周囲に勇気を与え、教え導く者。その者の全てを悟り、知らしめる者。略して)勇者

補足:現代に生まれし勇のある者。その力は神にも似ている。彼の者の言葉は神の言葉となり、人々を迷いから救い、教え導く(というのは建前で、生まれながらにして天から祝福されし神聖文字を解する唯人。複雑なる崇高な魂を有しているので、魔の者に魅入られやすく、人族からはその魂の質の違いから敬遠されやすい。他の魂に刻まれし情報を相手に伝えることで、神の代行を成す者である。これから更に苦難の道を歩むことになるが、守護騎士がいるので身の安全は保障されており、歴史に名を遺す大人物となる)。



 いいいいいぃぃぃぃやあああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!



 僕は力の限り叫んだ。喉から血が出るほどに叫んだ。僕のそんな声を生まれてこの方初めて聞いた両親は驚き戸惑っていたが、そんなことに僕は構っていられなかった。衝動の赴くままに走り出し、足をもつれさせ盛大に転んで頭を打ち、そのまま気を失った。……目覚めた時には全てが幻になっていればいいと、期待しながら。



 はい、結果として全部現実でした。僕の胸の前にある文字には全く変わりはないし、そこに書かれている内容も目が覚める前と同じです。見間違いですらありませんでした。頭にたんこぶができただけです。超痛い。

 もうね、何だこれ、である。勘弁してほしい。僕は神聖文字が読める以外は、本当にただの子どもなのだ。僕の前に書かれた文字にだってそう書いてある。なのにどうして、こんな過酷な運命に巻き込まれなくてはならないのだ。どうせ巻き込むなら、もうちょっと身体能力を上げるとか、魔法を使えるようにするとか、何か分かりやすい特典が欲しかった!


 しかし、いつまでもやさぐれていても何も変わらない。そう、過酷な運命に巻き込まれていない今ならば、何か出来ることがあるのではないか。なので、現状を整理してみよう。


体力:常に読書に勤しんでいたので、年下の子にも駆けっこで余裕で負ける。

知能:神聖文字を読める。大人向けの本でも読める。ただし生きていく上では特に役に立たない。シグルドに巻き込まれていたから、森での生存に多少強いくらいか。

運:悪くはないけど良くもないと思う。むしろこんな運命なのだから、ある意味最悪である。


 ……うーん。やばいね、これ。何一つとして良い材料がないね。強いてあげるとすれば、これまでシグルドの無鉄砲さに巻き込まれてきたおかげで、大人になれば何とか村を出てもギリギリ一人で自給自足で生きていけるのではないかという経験値があることくらいか。

 僕のこれからやっておかなければならないことって何だろうか。僕自身の身体能力を上げることは無理だろうから、別の方向で考えると。そうだな、なるべくシグルドのことを鍛え上げた方が良いのではないだろうか。

 僕が立派になりすぎてしまうとお役御免になってしまう彼ではあるが、出来得る限り鍛え上げれば騎士としては別に立派に生きていけるだろう。この村にいる間に僕を守る者としての能力を最大限上げてけば、僕と別れてもとりあえず捨て駒扱いされることはないだろう。仮にも騎士の適正はあるのだし。

 そうと決まれば、これまで以上に知識が必要となるな。よし、本を読もう。


 それからの僕は、表面的には特に変化の無い四年間を過ごした。ただ心情的には、びくびくと過ごしていたのだが。だって守護騎士の職業持ちが現れてごらんよ。僕は否応無しにそいつの運命に巻き込まれて、勇者にならないといけなくなるのだ。ああ、嫌だ嫌だ。僕は平穏に平凡に生きていきたい。出来るなら本に囲まれて過ごしたい。

 だから王都どころかラント村から出ることさえなく、時たまシグルドに巻き込まれながら森に入り、シグルドに時折無茶ぶりをして鍛え、シグルドの無茶ぶりにも付き合わされた。シグルドは年々逞しく精悍さを増していき、僕は年々目の下の隈を濃くしていった。……シグルドの無茶には付き合いきれないよ。っていうか、ただの騎士でこの程度なら、守護騎士ってどんだけ無茶できるんだよって感じだ。辛い。



 そして運命のあの日。僕は重い足取りで神殿へと向かい、僕の前に並んだシグルドによって村中がお祭り騒ぎになってしまったおかげで、適正職業を告げられることは無かった。やったね!

 もうそれからの僕はとっても良い気分だった。シグルドが騎士だということが分かったおかげで、僕の適正職業の発表は上手く流れてしまった。流石に両親には何だったのかを聞かれたが、とりあえず学者だと答えておいた。今後もたくさん本は読みたいからね。これまでの僕を見ていた両親は納得してくれ、シグルドのことが落ち着いたら、一番近くの街にある図書館へ職員採用試験を受けに行くことになった。やったね!!



 だが僕の幸せも長くは続かなかったのだった……。



 それは、シグルドを迎えに来た王都からの使者が来た日のことだった。王都からの使者は全部で十人。それが多いのか少ないのかは僕には分からないが、神官様以外のみんな蜥蜴馬レブルスに乗ってきていた。

 蜥蜴馬は馬力に優れ、長距離移動も難なくこなす賢く優秀な生き物だと聞く。この村には一匹もいないような高級な乗り物だ。それを簡単に使えているということは、この人たちは王国軍の中でもそれなりの地位にある人たちなんだろう。

 僕はいつもとりあえず、初めて出会う人を見たらその人に書かれている情報を読むことにしている。別にその情報を読んだからといって役立つことがあるわけではない。むしろしょっぱい思いをしたことの方が多いかもしれない。それでも、もはやこれは僕の趣味なのだ。しかも彼らは、王都という普段は行かないような遠いところから来た人たちだ。何かまた違う職業が見られるかもしれない、そう思った僕は好奇心の赴くがままに彼らの情報を読んだ。

 僕はそういった好奇心に負けて失敗したことが多々あったのに、自分の知識欲をどうしても抑えられないのだ。好奇心を抑えていれば、僕の幸せ生活ももう少し長続きしたのかもしれない。そう何度思ったかしれないのに……。



 一人一人、遠目から情報を読む。兵士に神官様、護衛なんてのもいた。みんなそれなりの適正職業を持っていて、説明も短くもないが長くもないって感じだった。もう少し色んな種類の職業が見たかったなぁ。まあ、神官様を中心とした使者団だからこんなものかと思っていた僕の目に、その情報が飛び込んできた。


 その二人は、周りの兵士や神官様とは立ち居振る舞いからして異なっていた。他の人たちよりも体格が良く、人間離れした容貌をしていた。けっして不細工とかではなく、むしろ美形に該当するだろうその二人。ただそこにいるだけで、気圧されるような圧力を感じた。他の八人とは何となく距離のある様子の彼らは、全く隙が無く「これぞ騎士!」といった感じだった。

 見た目からして唯者ではないその二人を見て、多分彼らがこれからシグルドを教育していくのかな、なんて思っていたのだ。それほどに彼らは特別な雰囲気を持っていた。だが、そんな呑気さは二人の情報を呼んだ途端に吹き飛んでしまった。

 


名前:ファルナ・アーグ・ジェグラット

種族:竜人族

適正職業:勇者の盾となる月影の守護騎士

補足:勇者を守護する定めを持ちし者。その実力は人族を軽く凌駕する竜人族の中でも随一の力を持つ。己の刃を捧げるに値するものを探し求めている。一度命を賭して守ると決めたならば、その力は何者からの攻撃も寄せ付けない強さを持つこととなる。


名前:ディル・バーン

種族:獣人族

適正職業:勇者の剣となる陽光の守護騎士

補足:勇者を守護する定めを持ちし者。獣人族の中でも無類の強靭さと強力さを持つ。何者をも寄せ付けない鋭きその刃で、全ての敵を屠る。己の刃を捧げるに値するものを探し求めている。一度命を賭して守ると決めたならば、その刃は主の敵を切り裂くためにのみ振るわれる。



 おおう。人間離れした美貌って当たり前でしたね。人間ですらなかったんですね。竜人族と獣人族なんて初めて見たよ僕。っていうか、あんまり僕らと見た目は大きく変わらないんだなぁ。へぇ。あー、でもそう思って見てみれば、爪の形とか歯の並びとかがちょっと尖ってるかもしれないな。

彼らはあんまり人族が好きではないから、彼らの国や生息域から出ないと本には書いてあったけど。なるほど、珍しい人たちを見れた。


 ……っていうか、この人たち勇者の守護騎士じゃん!僕の正体ばれたらやばいやつじゃん!!やばいやばい、呑気に感心している場合じゃなかった!!

 まあ、僕のことなんて気がつかないとは思いますが。僕、勇者感何にも無いし。神官様だって、成人の儀の時の本が無ければ相手の適正職業は読めないっていうし。もしかしたら自分たちが守護騎士だってことすら知らない可能性もありますし。とりあえず彼らが村を出ていくまでは警戒し続けることにしよう。そうしよう。

 それが逃げであることは分かっていた。分かっていても逃げたい時というのは人間誰しもあるだろう。だから僕は、シグルドも使者たちも避けに避けた。僕はシグルドの送別会にすら参加することなく、ひっそりとこっそりと使者とシグルドが旅立つまでの三日間を過ごそうとしたのだった。


 だけどね。そんな一流どころの彼らが、そんなに甘いわけがなかったのだ。



 シグルドが明日旅立つというその日。僕はちょっと油断していたのかもしれない。使者たちが来てから一歩たりとも外に出ようとしない僕を心配した母さんが、僕をお使いに出したのだった。いや、抵抗はしたけどね。相手は母さんという名の我が家の権力者である。逆らえるわけがない。

 村にたった一軒の雑貨屋で買い物を済ませた時、ふと誰かが僕の前に立った。その陰に気がつき、視線を上げる。そこにいたのは。シグルドのために来たはずの、あの異様の騎士の一人だった。


「…………」


 獣人族である彼の赤銅色の瞳が、何故か僕を睨みつけるようにして見ていた。え、何。怖すぎるんですけど。同年代の中でも小さい僕は、平均よりもさらに長身の彼からは完全に見下ろされる形になっている。怖すぎる。もし万が一ちびってしまったら責任とってくれるのだろうか。泣いちゃうぞ!騎士が子供を泣かすっていう状況作っちゃうぞ!!評判ガタ落ちになっちゃうからな!!!

 そんな恐慌状態に陥っている僕の様子にお構いなく、彼は唐突にこう言った。


「お前、変わった匂いだな」

「………は?」


 本当に、は?である。意味が分からない。別に僕は清潔好きって程ではないが、汚れに寛容なわけでもない。衣服は母さんが洗濯してくれているから綺麗だし臭いもない。何かの臭気を放つほどのことを最近した記憶もない。何を言っているんだ?


「あ、の?」

「うーん?うん? 何だ、この匂い??」

「えっと?」


 僕のそんな不審げな視線にも臆することなく、彼は何かつぶやきながら、じろじろと僕を観察しヒクヒクと鼻を動かしていた。僕が声をかけて戸惑いを伝えても、完全に無視される。僕のどこにそんなに見どころがあるというのか。理解に苦しむ。


「……あの、騎士様? 何か、僕に」

「!!」

「!?」


 それまで僕の言葉に一切反応のなかった彼が急に顔を上げた。その表情は驚きに満ちていて、目がギラギラと光っていた。何?!何なの!!?その反応!!急にどうしちゃったのさ!!??

 彼はさらに僕との距離を詰め、僕の肩を分厚い手で掴む。何だこの手。っていうか、凄く痛い。ちょ、ミシミシ言ってるんだけど!!


「お前、今なんて言った?」

「え?」


 人の言葉を遮っといて、何言ってんだこの人。それとも騎士になる人っていうのは、シグルドやこの人みたいにある意味自己中心的じゃないとなれないのだろうか。自分を強く持つ、みたいな。それって周りの人にとってはいい迷惑だよなあ。と、僕が現実逃避していたのが気に入らないのか、彼はさらに目つきを鋭くする。怖すぎる。僕はすでに半泣きだぞ!


「お前今、俺のこと『騎士』って言ったか?」

「……えっと?」


 それの何がおかしいことなのだろうか。だってこの人は、騎士だ。そう書いてあったし。別に守護騎士と言ったわけではないから、変なことを言ったわけでもないし。騎士であることなんて、この人本人だって知っていることだろう?何だっていうんだ?

 それともよほど騎士ということに誇りを持っているのだろうか。それなのに僕のような田舎の子どもが軽々しく騎士様などと呼びかけたことが気に障ったのか?とりあえず、誤魔化した方が無難かと思い、僕は適当なことを言ってこの場を治めることにした。


「……蜥蜴馬に乗っていらっしゃったので、騎士様とお呼びしたのですが……」

「………ふぅーん……」


 あ、これ僕の言ったことちっとも信用してないやつだ。あんまり関わっちゃ駄目なやつだ。彼も僕が誤魔化しているのが分かったのか、それ以上何も言わない。じろじろと僕を見極め続けるという気まずい雰囲気ではあるが、彼はこれ以上僕を問い詰める気は無いようだ。これ幸いと、僕は失礼しますと声をかけ、その場を後にした。だけどそれが不味かったのだろうか。彼の様子にもう少し気を遣っていれば、この後の恐怖は避けられたのかもしれない。





「この子どもが?」

「おう!」


 問題を先送りにした結果、先ほどまでの威圧感が倍になってしまいましたとさ。家の近くの林の中で、異様な風袋の騎士二人に見下ろされている僕。何だこれ!泣いちゃうぞって言っただろうが!!

 そもそも僕も、何でさっきまでの出来事に警戒しないで家から出ちゃうかな!まあ、さっきの獣人さんが僕のことを怪しんでいたことは分かっていた。だからって、母さんからのお願いに逆らえるわけなかったんだけどね!!

 母さんが家の裏手にある林の中に実っている果実取ってきてとか言うから!美味しいパイを作ってくれるって言うから!!そうさ僕は母さんの作るおやつに負けたのさ!!笑いたければ笑うがいい!!!

 泣きそうな表情を作りつつ頭の中は大混乱の僕は、誰にも言えない愚痴を盛大にこぼしていたので、二人が話している内容なんて、これっぽっちも聞いてはいなかった。


「本当なんだろうな」

「だってこいつ、俺のこと『騎士様』とか言ったんだぜ?」

「……ほう」


 獣人の言葉に、竜人が目を光らせる。ああ、僕もいつまでも現実逃避している場合ではないようだ。悲しいけれど、辛いけれど、現実に戻って対処しないわけにはいかないらしい。ため息をつきつつ、二人の様子を観察する。

 獣人は何が楽しいのやら、僕と隣の竜人を見比べてニヤニヤしている。その様子は子どもが新しい玩具を見つけた時のようで、何だか居心地が悪かった。竜人はそんな獣人の様子は分かった上で気にせずに、僕のことをじぃっと品定めするように見ていた。

 うぅ。何でか知らないが、僕はこの人たちに目をつけられてしまった。どうしたら面倒事を回避できるのだろうか。そもそもこの人たちのこの村に来た目的はシグルドなんだろうに、こんなところでただの村の子どもに構っていていいのだろうか。


「ふむ、唯人ではない力はうっすらとだが感じられるか……」

「だろだろ! こいつで決まりだって!」

「……試してみたのか?」

「あー、それはまだだったな」

「では」

「そうだな」


 どうにか突破口はないだろうかと僕が考えている間に、彼らの中で話がまとまってしまったようだ。しかし思考に沈んでいた僕は気がつかなかった。

 彼らがそれぞれの武器を持ちだしたことも。それを僕に向かって振おうとしていたことも。


――――ひゅっ――――


 僕の目の前で、風を切る音がした。

 僕が気がついた時には、目の前に二振りの武器があった。一つは獣人の振り下ろした大剣。もう一つは竜人の振り下ろした双剣。どちらも綺麗に研ぎ澄まされていて、よく切れそうだ。

 ――――なんてね!現実逃避がお手の物の僕にだって、これは無理だよ!!これは無いよ!!!普通、武器も何も持っていないただの子どもに、武器を振り下ろすか?答えは否である。何度でも言うよ。これはあり得ない出来事ですからね!!

 あり得ない状況に僕は泣くこともできず、動くこともできず、ただただ立ち尽くしていた。ここは僕の家の裏にある、いつもの行き慣れた林で。僕が一人で入っても、怖いことも危ないことも何もないような本当に平和な場所なのだ。しかし僕の混乱など、彼らの目には全く入っていないようだった。

 その時急に、彼らの視線が僕から勢いよく外れる。僕が気がついた時には彼らの視線はもはや僕にはなく、ただただ僕を通り越して遠くを見つめていた。


「ちっ!」

「来るぞ」


 ぞわりと、肌が泡立つ。これは、殺気だ。僕の近くから、確実に相手を仕留めようとしている気配が濃厚に漂っている。ちなみに一つは、異様の騎士たち。もう一つは。


「グラーヴェだと!?」

「……おー、結構な大物じゃん?」


 グラーヴェは強靭な四肢と鋭い牙、相手を容赦なく抉り取る爪を持つ大型の肉食獣だ。年を経るごとに肉体は巨大になっていき、数百年を経ると魔法も操ると言われている。通常はこんな浅い林に棲まう魔獣ではなく、もっと魔力の濃い森に棲み魔獣の頂点に立つこともある獣だ。まだ年若そうなグラーヴェだから、森を彷徨っている内にこんな所まで来てしまったのだろう。

 二人の騎士は油断なく自分たちの武器を構え、グラーヴェがいつ襲ってきても良いようにそれぞれの立ち位置を微調整している。グラーヴェも、相手が油断ならない相手だと分かっているようで、四肢に力は籠っているものの軽卒に襲い掛かることはしていない。


 不味いな、と僕が思ったのは時間にして大したことない数瞬が過ぎた頃のことだ。騎士たちはかなりの実力があるようで、グラーヴェよりも余裕が感じられた。年若いグラーヴェにはその緊張感や威圧感が耐えきれなかったのだろう。かと言って、この場を去るには自分の矜持が許さなかったのではないだろうか。膠着状態を解いたのはグラーヴェの方だった。

 グルグルと唸り声を上げつつ、体を動かそうとしたその時。僕は、決意をした。このままでは多少手こずったとしても、グラーヴェは討伐されてしまうだろう。だけど僕は出来得る限り、目の前で誰にも傷ついてほしくないのだ。それが何をしたいのかよく分からない騎士たちであっても、こんな森の入り口に来てしまった間抜けなグラーヴェにも。

 僕は大きく息を吸い、そして大声で叫んだ。この場を収めるための一言を。騎士たちの驚く気配がするが、構うものか。


『ネグル!』


 ピタリと、全員の動きが止まる。僕も、騎士たちも、―――グラーヴェも。誰もが、時が止まったかのようにピクリとも動かなくなった。

 一瞬の沈黙が流れた。最初に動いたのはグラーヴェだった。グラーヴェが四肢からゆっくりと力を抜き、僕をちらりと一瞥した後、森の奥へと去っていった。


 あああ、咄嗟の事とはいえやってしまった。もう後戻りできない。後悔はするけど、さっきの選択は間違ってはいない。ああするしかなかったのだから。 ちらりと騎士たちを見ると、案の定僕のことをまじまじと驚きの目で見つめている。それはそうだろう。魔獣のグラーヴェが、僕の一声で殺気を収め森の奥へと帰っていったのだから。

 僕が一つため息をつくと、その音で騎士たちも驚きから覚めたようで、今まで力を入れていた体から緊張を解いた。


「……今のは……」

「……何だってんだ?お前、何者だ?!」


 僕は深い深いため息をつく。きっとこの騎士たちはごまかされてくれないだろう。まあ、当たり前だけど。……うーむ、よし。こうなったら、僕が勇者とはばれないように僕の持っている力だけは説明しないといけないだろう。本当は、それすら嫌なんだけど。




 僕は諦め悪く、僕の力をかいつまんで説明した。人の名前が分かること、人の適正職業が分かること、二人の適正職業が『騎士』であること。これなら嘘は一つとして言っていない。僕の力がそれだけのものだと、そう思ってくれれば儲けものだ。

 騎士たち二人は、僕の長くなりがちな話を時に促し、時に補足を求め、最後まで話させた。途中、獣人の騎士の方は飽きていたような気もするが。


「……なるほど」

「不思議な力だなあ」


 よしよし、これで納得してくれただろう。竜人の騎士の方はともかく、獣人の騎士の方は僕の話に納得してくれた様子だ。これ以上つつかれない内に帰ろう。そう思い、騎士たちと別れようと踵を返そうとした。したのだが、騎士たちはそう簡単には開放してくれなかった。竜人の騎士が僕の肩をがっしりと掴む。だから痛いってば!!


「で?」

「……で、とは?」

「さっきのグラーヴェだよ! 何か呪文?唱えたら、あいつ帰ってったじゃん!」

「そう。魔物とは魔族とは異なり、我々の言葉は通用しない。なのに何故、君が声をかけた途端に森へと帰っていったのだ?」


 ああ、そういえば。確かに竜人の騎士が言う通り、魔物は一般的には知性が低いと言われている。実はもう一つ、説明していなかった僕の力がある。『僕の力』と言っていいのか、微妙なものなのだが。


「実は、魔物にも固有の名前があるんです」

「ほう?」


 これはシグルドと森で迷子になった時に分かったことなのだが。ある時僕とシグルドは、シグルドが敵わないほどの魔物に遭遇した。襲われつつ何とか戦おうとするシグルド。弱すぎるからか襲われることは無いけれど何もできない僕。

 シグルドは防戦どころか弄ばれるような戦いしかできていなかった。その時までそれ程までに追い詰められたシグルドを見たことがなかった僕は、シグルドが死んでしまうのではないかと思った。それ程に一方的だったのだ。

 僕は無我夢中で咄嗟に魔物の名前を叫んでいた。すると魔物は先ほどの様に急に動きを止め、僕たちの前から消えたのだった。その時はその偶然を喜ぶ暇もなく、村へと逃げ帰ったのだった。

 しかしその後も何度も同じようなことが起き、それはその時だけの偶然ではなく、僕が魔物の名前を呼ぶ度に同じことが起こるということが分かった。この力に、何度窮地を救われたことか分からない。

 まあシグルドは、僕が意味不明な言葉を叫んでいるだけだと思っていたようだけど。追い払えたのは、自分の気迫が勝ったからだと思っていたようだけど。


「……なるほど」

「どういう理屈なんだろな」

「僕にもよく分かりません」


 これで納得してくれるだろう。現に獣人の騎士の方は若干僕に興味が無くなってきている様子で、とってもいい感じだ。問題なのは竜人の騎士の方だろう。僕の話を聞いても思案顔で、沈黙が怖い。もう帰りたい。意を決して、帰宅したい旨を伝えようと試みる。


「……あの、僕そろそろ…「君の」

「ぅえ?」

「君の職業は何だ」


 何なんだ、この人は。僕の話を遮ってまで唐突にそんな。っていうか、僕の職業が何だっていうんだ。今の話のどこに関係してくるんだ。まあ、だけど両親まで誤魔化し切った僕だ。そこはすんなりと学者だと答える。早く帰りたい。


「……ふむ。では、私たちの名前を呼んでみてくれないか」

「「は?」」


 僕と獣人の騎士の声が重なる。何なんだ、本当にこの人は。僕がこの人たちの名前を呼んで、何があるというんだ。さっきも説明したけども、僕の名前呼びは魔物限定だ。いや、もしかしたら魔族とかにも通用するのかもしれないけど、人族には通用しないことは実験済みだ。でなければ、僕が誰かの名前を呼んだ時点で相手に何がしかが起きて、僕の力は広まっていることだろう。

 竜人の騎士の唐突な提案に、僕も獣人の騎士も意味が分からず首をかしげてしまう。


「何でだ?」

「いや、ちょっとな」

「……まあ、お前が言うならいいけどな」


 いやあの、僕を無視して話を進めないでほしい。っていうか、せっかく僕から興味を失いかけていた獣人の騎士まで、何だか知らないけど乗り気になっている。名前を呼んだからって、何も起きないのに。……起きないはずだ。


「呼んでみてくれないか」

「はあ……」


 提案でもお願いでもなく、強制なんですね。何でそんなに偉そうなのこの人。でも名前を呼ばない限り諦めないんだろうな。もう何でもいいから、とっとと呼んで家に帰ろう。そうしよう。僕は若干投げやりになりながらも、二人の名前を呼ぶ。


『ファルナ・アーグ・ジェグラット』

「!」

『ディル・バーン』

「!!」


 その時、何故か彼らを光が包んだ。え、ナニコレ。もう本当に、こういうの勘弁してほしい。


「何なんだ!?」

「これ、は……」


 適正職業を授かる時のような、淡くてそれでいて美しい光が二人を包む。もう、二人が光に包まれている間に帰ってしまいたい。だけども、どうしてこうなったのかも気になる。僕は二人から目を離せず、ただただ事態が動くのを待っていた。

 適正職業の時よりは長く、かと言って大した時間でもない短さで、光が段々と減っていく。そして光が終息するとともに、茫然としていた二人が己の体を確かめ、次に僕に目を向ける。

 その目にびくっと、つい体がすくんでしまう。目つきが鋭すぎる!何だよ!だから僕は、そういう殺気?とか怖いんだってば!!


 しかしそれ以上に、僕はその直後の二人の挙動に驚いてしまうことになった。彼らは二人で目を合わせうなずき合った後、僕の前に跪いたのだ。え、ナニコノヒトタチ。

 そして彼らは、まるで自分の主君に対するかのように恭しく、頭を下げながらこう言った。


「私たちの探し求めていたのは、貴方だった」

「は?」

「ようやく見つけたぜ」

「え?」


 何だか分からないけど、二人の間では何かが今までとは決定的に違うらしい。二人は跪いたまま顔を上げ、きらきらと眩しい笑顔を僕に向けている。え、何なの本当に。よく分からないけどその笑顔を止めてほしい。っていうか跪くのも止めてほしい。



「「勇者様」」



「ぅえええっ!?はぁっ?!!」


 ちょっと待て、竜人。今何て言った。聞き捨てならないこと言ったような気がするんですけど?!

 ちょっと待て、獣人。お前まで何を言っている。ニコニコすんな!ちょっと黙っておけ!!


「な、……何です……って?」

「勇者様、貴方を探しておりました」

「え」

「会えて光栄だ、勇者様」

「は」



 いいいいいぃぃぃぃやあああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!



 何か知らないけど、ばれてる!!逃げなくちゃっっ!!!

 僕は混乱した状態のまま、逃亡しようとする。そして前回と同じく衝動の赴くままに走り出した。前回と同じく足をもつれさせ、転びそうになったその時。僕の体はふんわりと支えられ、転ばずに済んでしまった。あああ、せっかく現実逃避できそうだったのに!!


「では、勇者様」

「行こうぜ」


 何なんだ、本当に。何でこうなるんだ、僕の人生。


「……ぅうううう、もう終わりだ」

「何言ってんだよ」

「そう、これは始まりですよ」


 ニコニコと、彼らは本当に嬉しそうだ。きっと死にそうな顔をしている僕とは正反対に違いない。何がそんなに嬉しいんだこいつら。っていうか、もう自分で歩くから離して欲しいんだけど。あわよくば逃げたいんだけど。

 僕のそんな気持ちを知ってか知らずか。彼らに両脇を抱えられ、林を後にする。あ、これ僕の家に行く感じですかそうですか。





 そして、現在。僕はあの生まれ育った小さな村を出て、何でか知らないけど旅をしている。騎士たちが言うには、世界を救うための旅だそうだ。何だその壮大な計画。なのに目的地は特にないそうだ。何だその杜撰な計画。僕には合わない。

 僕に相応しいのは、それなりの大きさの街の図書館で本に囲まれて暮らすか、俗世とは関わらない森の中で薬草でも作って暮らすかがお似合いなのに。

 何で旅になんて出ているのか、全てがばれてしまったあの日のことをぼんやりと思い出す。ばれてしまった以上の衝撃なんてないと思っていた、あの日のことを。





「そう、やっぱり…」

「思ったよりも早かったなあ」


 僕の家に着くなり、騎士たちは僕の従者になった者ですとか名乗りやがった。いやもう本当、何なのこの人たち。ただの頭のおかしい人たちじゃないか。現に、唐突に表れた二人の偉丈夫たちに、父さんも母さんも驚き戸惑っていた。

 ところが母さんたちが驚いたのは一瞬で、すぐにハッとした顔をしたかと思うと、お茶を用意し僕たちを席へと促した。え、反応それだけ?息子が両脇抱えられて帰ってきたんだよ?別にこの人たちおもてなしなんてしなくてもいいよ?


 それぞれの前に飲み物が置かれ、一息つく。え、こんな落ち着いていていいの?結構な問題発言したよ?この人たち。僕の友だちがふざけて従者ごっこしてるとかじゃないんだよ?見ればわかるでしょ?


「お前が生まれた時から、覚悟してたからなあ」

「そうね」


 僕の混乱や戸惑いを知ってか知らずか。お茶を飲み、二人はしみじみと語りだした。



 あれは僕が生まれる何十日か前のことだったという。まず異変に気がついたのは父さんだった。他の人の畑の作物はいつも通り何の変りもなかったのに、父さんの畑の作物だけがいつもより大きく育ったという。不思議に思ったが、収穫の時期を逃したわけでも無いし、美味しそうに育っていたから気にしなかったという。

 次に気がついたのは母さんだ。林でとってきた果実が、いつもよりも大きく甘かったという。次の日に他の村人たちが行っても、そんなに大きく甘い果実は無かったという。その場にあった実を全部取ったわけでも無いのにおかしいと思い、母さんがもう一度行ってみると、やはり甘くて大きい果実があったという。

 それからも二人の周りだけ、作物が健やかに育ちたわわに果実を実らせた。不思議には思ったものの害があるわけではないし、母さんのお腹の中には僕がいたから元気に育つためにはちょうど良いと気にしないことにしたそうだ。


 二人にそんな不思議が続いたある日、風が天上の調べともいうべき美しい音楽を響かせ、空が天族の歌声かと思う程の澄んだ歌を謳い始めた。最初はかすかに響いていたそれらが、日に日に大きく豊かになっていった。やはりそれに気がついたのも、両親が最初だった。だけどやはりそれらの美しい音楽は村の人たちには聞こえず、両親の心を豊かにするだけだったそうだ。

 そんな日々の中でシグルドが生まれた。空の歌や風の調べが村の人たちにも聞こえるくらい大きくなり、天から祝福の光までもが射すようになった。シグルドの両親は大喜びし、これは自分たちの子どもの誕生を祝うものだと言っていたそうだ。村の人たちも確かにこれまでは何も感じられなかったのに、シグルドが生まれた途端に感じられたそれらに、彼らの子どもが特別な子どもであると信じた。

 両親はそのことに不思議さを感じたものの、特に気にすることなく僕が生まれてくるのを楽しみに待った。


 そして、あの僕が生まれた日。その日も美しい音楽が鳴り、きらきらと村中が光に包まれていた。母さんはいつもの様にすやすやと寝ていたそうだ。そして、夢を見た。


 白い空間。雲の中にあるような、ふわふわとしたそんな不思議な空間。そんなところに母さんは気がついたらいた。そして隣には父さん。二人で顔を見合わせたものの、全く現実感の無い空間に「これは夢だな」と思ったという。

 すると二人の目の前に大きな大きな花のつぼみが現れたそうだ。白いような透明なような、何とも言えない色をした花。けれどとても奇麗で。二人は恐る恐るその花に手を伸ばそうとした。するとどこからか、不思議な声がした。



――― 汝等は、そのの親と成り得るか ―――



 男とも女とも、若いような年経たような不思議な声だったという。その不思議な声のあまりの迫力に、二人は一瞬手を止めたものの、再びつぼみへと手を伸ばし、声を掛け合ったわけでも無いのに声を揃えて言った。


「「この子は、私たちの子です」」


 そう、二人には何故か確信があったのだそうだ。これは夢だけど夢じゃなく、このつぼみの中にいるのは自分たちの子であると。温かな感触が、二人の手には確かに感じられた。普段から母さんのお腹を通して感じていた、命の鼓動が確かにそのつぼみにはあったという。

 二人が声を揃えて言うと、あの不思議な声は微かに笑いを含ませて、言った。



――― 汝等の心のままに育てよ。さすれば実は無二なる者へと育つであろう ―――



 そこで目が覚めた母さんは、胸の上に真っ白い布に包まれた赤ん坊を抱いていたそうだ。つまりは僕である。寝て覚めたら生まれていた僕である。普通ならば、驚き戸惑い、生んだ覚えのない赤ん坊に恐怖するだろう。しかし母さんは強かった。ただただ普通に受け入れた。

 生んだ覚えはなくとも、自分のお腹は赤ん坊が出た後の様に凹んでいる。それにこの子は、夢の中で一瞬触れたつぼみのような温かさがある。それだけで、この子は自分の子であると確信が持てたそうだ。

 同じく目が覚めた父さんは、母さんの胸に抱かれた僕を見て号泣したそうだ。生まれてきてくれてありがとう、生んでくれてありがとう、と僕と母さんに感謝しながら。父さんも当たり前のように、僕を受け入れた。

 二人が気がついた時には、風の調べも空の歌声も温かな光も止んでいたという。僕が生まれたから、それを知らせるための演出は終わっても大丈夫だというかのように。


 父さんと母さんは、夢の話を誰にもしなかった。所詮は夢は夢だし、シグルドの両親の様に自分の子どもの特別さを言いふらす必要も感じなかったからだそうだ。誰でも自分の子が一番かわいくて特別なのは当たり前なのだから。

 でも、シグルドと僕の家は近かったのでよく比べられた。シグルドの方が顔が整っている、シグルドの方が愛嬌がある、シグルドの方が先に歩いた、シグルドの方が先に言葉を話した、覚えていられない程色々なことを色々な人に。

 それでも母さんも父さんも特に気にしなかった。シグルドはシグルドだし、僕は僕だから。僕が健やかに成長すればそれでいいと、そう思ってくれていた。


 そして僕が五歳になった頃。僕が適正職業と天職の話をした時、久しぶりに僕の生まれた時の不思議さを思い出したそうだ。でも、生まれた時も不思議な子だったからそのくらいの不思議な力もあるだろうと、受け入れたそうだ。そう、僕が言ったことを信じてくれなかったわけではなく、ただただ納得しただけだったそうなのだ。

 え、だったらもっと早くこの話してくれてても良くない? 父さんと母さんの長い長い思い出話が終わった時、僕がそう思ってしまったとしても責められないだろうと思う。


 母さんも父さんも、騎士たちが僕と一緒に旅立ちたいと言ったら、二つ返事で了承した。ちょっと待て、何で僕が旅立ちたいみたいになっているんだ!

 それどころか、そういうこともあるだろうと思っていたと、僕の旅の装備一式を用意していた。準備万端過ぎるでしょ!!

 そして、僕が了承する間もなく僕は半強制的に旅立つことになっていたのだった。何でだよ!!!





「いかがなされた、勇者様」

「疲れちまったか?」


 騎士たちは、旅に出てからとても機嫌が良い。それもそうだろう。彼らはずっと僕を探していたのだから。まあ、『僕』というのは語弊があるかもしれないが。彼らはずっと、それこそ物心がついてからずっと、探していたのだ。自分たちの存在意義を。


 竜人の騎士ことファルナは、竜人の里で生まれた。しかし、竜人の持つ鱗の肌も、鋭い牙や爪を持たず、まるでただの人族のような外見であった。唯一竜人らしかったのは、その銀色に輝く瞳だけだった。

 獣人の騎士であるディルも同様だった。獣人としても規格外の脚力や腕力、俊敏さを持ちながらも、見た目が通常の獣人とは異なっていた。獣らしい耳も尾も爪も牙も、何も持っていなかったのだ。

 しかし二人は桁外れに強かった。二人は幼いころから里の歴戦の勇士たちの誰もが敵わないほど強かった。誰とも協力しなくても害獣を倒し、誰の助けがなくても獲物を屠った。だが、強すぎる力は憎悪を生んだ。

 見た目が竜人でも獣人でもないのに、誰も敵わないほど強い彼ら。それは自分たちの種族に誇りを持っていた獣人や竜人たちを傷つけた。勝手に彼らに劣等感を持ち、勝手に彼らを憎んだのだ。陰に日向に彼らは悪意をぶつけられた。


 それでも彼らは信じていた。自分たちが普通とは違う見た目に生まれてきた意味を。疎まれようと蔑まれようと自分たちには生きるに値する役割があるのだと。

 彼らには確信があった。物心ついてしばらくした頃に夢を見たから。それは自分たちの将来の夢だった。少年を護り戦う自分。強大な敵に知らない誰かと共に戦う自分。それはとても生き生きとしていて、とても楽しそうで。何度も何度もその夢を見た。

 だから彼らは誇り高くあろうとした。誰が見ていなくても気がつかれなくても、自分だけは自分に対して間違ったことはしたくなかったのだ。いつか出会う、自分が守る少年に会った時に胸を張れるように。

 

 そういうところも里の人たちの気に障ったのだろう。ファルナもディルも着の身着のままで里を追いやられた。二人は目的もなく当てもなく旅を続けた。時に魔獣を倒し、時に迷宮に籠り。自分たちの存在意義を探し続けた。でも探しても探しても、そんなものはどこにもなくて。自分と似た境遇の相棒を見つけても、そんな飢餓感は埋まらなくて。そうしてたどり着いたのが、この国だったという。

 成人の儀を受けていない彼らに適正職業は無く、とりあえずの職業として冒険者組合で護衛の職業を斡旋してもらったそうだ。この国では何らかの職業に就いていないと働くこともできないし、冒険者として活動することもできないのだ。

 そしてそろそろ次の国にでも行くか、となった時に今回の仕事をもらったそうだ。中々に実入りの良い依頼だったので受けたら、僕を見つけたという。


 僕は不思議だったのだという。他の村人たちと変わらない見た目なのに、それまで気がつかなかったのが不思議なほどの変わった気配とおかしな匂い。溶け込んでいるようなのに、自分たちとは違った意味で人族から浮いて見えたのだという。

 もしかしたら、という期待があったそうだ。長年探し続けてきた、誰とも知れない夢に見るだけの少年。ようやく見つけられたのではないかと思い、声をかけてみることにしたそうだ。そうしたら、大当たり。

 彼らの念願は叶ったのだ。僕に出会ったことで、自分たちの運命は大きく動くと、そう信じているのだ。


 ……え、僕の存在って、大きすぎじゃない?買いかぶりすぎじゃない?


 誰も聞いてくれないけど、言ってもいいだろうか。





 僕は勇者になんか、なりたくありません!!!




 勇者ソヴァール。その名を知らないものはいないほど、この世界では高名な存在である。幼きうちは寝物語に彼の活躍を聞き、成長すれば彼の足跡が世界各国の至る所にあることを知る。

 彼は世界に祝福されて生まれ、神の殊の外厚い加護を持って生まれた。幼き頃より聡明で、彼の生まれた村でも一目置かれていたとのことである。幼馴染の少年と共に森を探検し、様々な利益を村にもたらしたという。

 そして適正職業を決める成人の儀に疑問を持ち、守護騎士との出会いで村を出る決意をした話は、幼い少年たちの胸を今でも熱くさせる。これまでの常識に疑問を呈するというのは、並大抵のことではない。それを勇者ソヴァールは、何でもないことの様に行ったのだ。流石勇者になる存在は、幼き頃から突出しているという挿話である。


 しかし勇者ソヴァールを勇者たらしめているのは、その勇敢さだけではない。彼の優しさや謙虚さも、流石勇者であるという話に溢れている。人だけでなく、魔獣にすら見せるその慈愛の精神。どんなに高名になろうとも驕り高ぶることなく、困っているものに手を差し伸べていたという。

 そんな彼がいつも言っていたという言葉がある。



「僕は勇者などではありません」



 彼は生涯そう言い続けていたという。自分は勇者という選ばれし者だから世界を救い続けたのではない。誰しもが願い、けれども力が無く諦めてしまうそれら。弱きを助けたくとも強大な力の前には為す術のないそれら。それらを偶々力を持っていた自分たちが実行しただけなのだ、と。

 そう。だからこそ我々も、目の前の救えるべきものたちを、差し伸べられる範囲で、勇者ソヴァールの様に助けていくことができればと、そう思うのだ。



  ――― 首都大学 勇者歴史学講義集より抜粋 ―――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ