人形になった人形使い
「おい、知ってるか?《ドールマスター》が死んだらしいぜ。」
無精髭を蓄えたドワーフの冒険者の発言に周囲の冒険者たちが信じられない、とでも言うかのようにドワーフの冒険者を寄ってたかって馬鹿にする。
「おいおい、んなわけねーだろ。あの《ドールマスター》だぜ?」
「そうだそうだ、あの野郎が死ぬはずがねぇ。」
「だな。」
「信じてくれよぉ。」
ドワーフはその剛毅な顔を歪めて仲間に泣きつくような様相を呈している。
「でもなぁ・・・」
「本当だって!なんでもSランク昇格試験の最中に王竜に襲われたらしいんだ。」
王竜という単語にみんなが反応する。
「そりゃ《ドールマスター》も災難だったな。王竜なんてSSSの奴らの領分だ。」
「んでその王竜はどうなったんだ?」
一人が心配そうに聞き返す。
「《ドールマスター》の死体のすぐ近くでくたばってたらしい。」
「王竜と相打ちか。それなら《ドールマスター》も悔いはねぇだろうな。」
「かもな」
《ドールマスター》の話も終わりかける。
「あとはこういう話も聞いたぜ。」
「ん?どんな?」
「《ドールマスター》の死体があった場所で女の子が一人保護されたってよ。」
「ほう。それはそれは・・・・・・・・・」
ここもまたいつものように闇に飲まれていき、闇の歩みに反比例するかのように酒場の賑わいは増してゆく。
そんな酒場の端で黙々と料理を食べる少女は一週間前の出来事に思いを馳せていた。
◇
一週間前――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おい!壁役が防げなくてどうする!」
《ドールマスター》アリアンロッド・フィルサナーレが自身の魔法人形に対して怒鳴る。
「すみません主殿。」
塔盾を持った美女が答える。
《ドールマスター》という二つ名が指す通りアリアンロッドは人形を操り戦闘をこなす人形使いだ。
そして現在Aランクの凄腕冒険者でもある。
彼の操る人形は分類として生体人形に入りその数は5。
壁役の聖騎士、攻撃役の双剣、二枚の魔導士、弓士である。
この日彼らはSランク昇格をかけた依頼に臨んでいた。
「討伐対象の竜は下位じゃなかったのかよっ!」
下位とは明らかにかけ離れた容貌、強さを如何なく発揮する竜は王竜であった。
王竜は普段は大人しく、人を襲うこともない。
しかし攻撃を受けた場合は相手が死ぬまで暴れ続ける。
「くそっこんなところでっ。」
遂に魔導士も潰された。
出会って早々に殺された弓士から順当に殺されていき、今残っているのは傷だらけの聖騎士と双剣だけである。
そして彼自身にも、王竜にも終わりが訪れる。
「危ないっ。」
聖騎士が慌てて間に入るも空しく、アリアンロッドは聖騎士と共に王竜の爪に串刺された。
そして大振りの攻撃を叩き込んだ王竜に隙ができる。
隙を見逃さず双剣が王竜の首を刈る。
束の間の静寂の後地響きと共に王竜はその体を横たえた。
「・・・・はっ。・・・・・ざまぁ見やがれ・・・・。」
王竜を倒したアリアンロッドはそのまま意識を失った。
◇
その後偶然その場を通りかかった馬車があった。
その馬車は竜の死体が転がっている辺りでその歩みを止める。
「うわぁ、こりゃひどいな。」
馬車から一人の男が顔を出して周囲の惨状を見てそう呟く。
「ん?ありゃあ・・・・。」
男の視線の先には傷をほとんど負っていない少女が横たわっている。
これは生存者かと思い男は確認する。
「おい嬢ちゃん。大丈夫か?」
肩をゆすると少女は唸り声をあげて目をこする。
「ん~。あっあれっ?」
少女は状況が掴めないようで目をぱちくりとさせる。
「おぉ、気が付いたか。大丈夫そうだな。」
男はそう言って少女に笑いかける。
「名はなんと言う?」
「えっ、えーっと、アリアン・・・・いや、アリア・フィリア。それが名前。」
「そうかいそうかい。じゃあアリア、ここであったことは絶対に口外するなよ?」
「は、はぁ・・」
いまだ自分の身に起こったことが理解できていない彼女だが、頷くほかなかった。
そして男は誘う。
「嬢ちゃん、ここは危険だ。俺は王都でギルドマスターをしているユビウス・ラズベルグという。乗せてってやるから早くここを離れよう。」
そう言って男に抱えられ王都へと少女は連れて行かれた。
◇
これが《ドールマスター》死亡の顛末であり、冒頭の少女へと戻ってくる。
少女の名前はアリア・フィリアという。
つい一週間前まではアリアンロッド・フィルサナーレという冒険者の男であった。
アリアンロッドの魂はどういうわけか自分の人形であった双剣の体に宿っている。
双剣はアリアンロッドの作った生体人形の中では最高の出来であった個体である。
それは既に人形の域を超えており生命維持活動さへも完全に再現されていた。
故にアリアンロッドの死体と共に転がっていてもアリアンロッドの人形だとは見られなかった。
王都へと到着すると同時にユビウスから登録をしていないのなら登録しておけ、と言われたことから冒険者としてアリア・フィリアの名で登録しなおしている。
適正ランク検査制度により既にCランク冒険者として活動している。
そして現在ユビウスからの呼び出しというか誘いに乗って待ち合わせの酒場で食事を摂っている。
「よう。待ったか?」
「待ってない。」
ユビウスのどや顔に対抗してアリアは仏頂面で即答する。
「で、話って?」
「まぁまぁそう急ぐなって話してやっからよ。な?」
「どうでもいいから早くしてくれない?」
ユビウスは苦笑しつつも話し始める。
「お前学園に行ってみないか?」
「は?」
訳が分からないといった風体でアリアが疑問の声を漏らす。
学園とはここ王都にある高等教育機関である。
入試による選抜が行われるため、入学できるのは実力者のみだ。
実際は無能の輩が多いことも事実ではあるが。
それでも自分のような人間が行く場所ではないとアリアは思っている。
「私が学園に?なぜ?」
「なんでってお前が今年13歳になるからにきまってんだろ?それに学園を卒業できたらランクいっこ上げてやるかやよ。な?」
「ま、まあ、そういうことなら。」
「じゃあ話は以上だ。六日後に入学試験だ。準備は怠るなよ。じゃあな。」
「はーい。」
こうしてアリアンロッド・フィルサナーレのアリア・フィリアとしての第二の人生が始まる。