世紀の大犯罪者V
「…一体何故、このような事件が起こったとお思いですか?原因は何だったんでしょう?」
「ええ…今回の和菓子の砂糖と塩偽装事件。実は指示した人間は実は当社が雇った一人のアルバイトが原因でした」
「アルバイト?」
社長の説明に、記者団から一斉にシャッターが切られる。辺りはカメラのフラッシュで一瞬真っ白に輝いた。
「はい。彼の名前は伏せさせていただきますが、仮にV.W.といたしましょう。Vはあろうことか、和菓子の製造過程で砂糖を入れるところを誤って塩を入れていたのです」
「それはいつごろから続いていたのですか?」
「十七年前からです」
「では我々は十七年間、砂糖の効いた和菓子だと思い込まされて、隠し味に塩を食べさせられていたのか!」
憤慨した記者が立ち上がった。社長は深々と頭を下げた。またしても大量のシャッター音が、会見室に鳴り響いた。
「大変申し訳ございません。ただ、今回の件はVが独断でやり続けていたものでして…」
「組織絡みの隠蔽じゃなかったのかね。十七年間も気づかないなんて、オカシイだろう!」
「申し訳ございません…Vも十七年間も当社の工場にいた手前、半ば職人のような立場になっておりまして。我々も全く気が付きませんでした。砂糖の配分は、彼の独自の裁量に任されていたのです…正確には塩でしたが」
立ち上がった記者が食い下がった。
「それじゃあ、今回の事件はあくまでそのアルバイトが個人でやったということですか。あなた方は一切関与していない、と?」
「その通りでございます」
「何だそうか。それなら良かった」
座ろうとした記者の横で、納得いかないもう一人の男が右手を上げた。
「待ってください。では粉飾決算の件は?貴社は昨年度の上期決算で明らかに会計を誤魔化していましたよね?その責任は取らず終いですか」
狼狽した社長が汗を拭った。
「ええ。そちらの問題ですが、実は粉飾した人間は…Vだったのです」
「何だって?」「そんな馬鹿な」
「間違いありません。Vは十七年もウチにいましたから、途中で取得した簿記一級の腕を買われ、数年前から管理会計を任されるようになったのです」
「じゃあ、粉飾も、Vのやったこと?」
「我社は一切把握しておりませんでした」
記者の言葉に、社長が頷いた。記者室がだんだんと騒がしくなってきた。
「では、では貴社が関わっていたという工場の排気ガスによる環境破壊問題は?」
「Vが…Vが無駄に電気を使っておりました」
「まさか…貴社とは何の関わりもない、昨日の大手IT企業のインサイダー取引は…」
「Vの父親の弟の、知り合いが勤めていた会社でした」
「もしかして…この世界の全ての都合の悪い出来事は、我々の責任ではなく…」
「Vの仕業です」
報道陣が一斉にフラッシュを焚いた。数日後、Vがいなくなったこの会社は「和菓子に独特の塩辛さがなくなった」と評判を落とし倒産したが、もちろんそれも、恐らくVの仕業に間違いないだろう。