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俺vs珍入者

 俺の名前は生涯真摯しょうがいしんし。紳士的でちょっぴりシャイな人から好まれる良いお兄さんだ。

 そんな俺は現在ちょっと困った事態に陥っている。

 何故なら、今までごく普通に接していた友人がアメリカの大統領だったっと発覚してしまったからだ。

 これは先日分かった事である。

 

 そして、今俺はその大統領からお呼び出しが来ている為、その準備をしている。

 俺は自分の部屋で伏木黒ふしぎくろというマッドサイエンティストによってサイボーグ化された両足と右腕のメンテナンスをしているところだ。

 どうも、三日に一度は錆びつかないように油を差しておかないと動きが悪くなるらしい。

 ギシギシ変な音が鳴るうえ、じいさん並みに動きがトロくなるからだそうだ。

 そんな状態で大統領に会えるものか。

 当然万全で行ってやる。

 全く昨日の大統領といい二日前の自分のサイボーグ化といい、俺はどうも非現実的なイベントを呼び寄せる体質らしい。これだと、そのうち幽霊やら悪魔やらが出ても驚きはしないだろう。


 俺はそんな事を思いながら、メンテを終わらせると先日帰る間際に黒から押し付けられた工具セットをテーブルの上に置く。

 そして、一回リラックスする為一度伸びをし、いざ外へ出ようと扉を開けたその時。


「ぐはぁ!!?」


 突然、目の前に緑色のソフトボールっぽいワサワサした何かが顔に飛んできて、俺は頭から倒れた。

 い、一体何なんだ!?

 今度は敵襲か!? エイリアンか!? はたまた俺を殺しに来た殺し屋か!?


「あら、ごめんなさい。まさかいきなり扉が開くとは思わなかったわ」


 倒れた俺の目の前に誰か居るのか? 若い女性の声が俺の耳に入ってきた。

 もしかして、この声の主が俺を処刑しにきた奴か?

 そうはさせるか、俺は大統領の『綺麗優』もとい『ジョージア・ワシントン』とアニメロンで会う約束をしているんだ。こんなところで死んでたまるか。

 俺は素早く上半身を起こして、右手を目の前にかざした…… が、誰も居なかった。


「きゃあ!」


 い、一体どこに居るんだ!? 声だけははっきりと耳に届いてる! 確実に近くに居るはずだ。

 俺はすぐに立ち上がり、周りをクリアリング(安全確認)する。しかし、廊下や部屋を見ても誰も居なかった。

 もしかして、本当に幽霊の類が俺を襲ってきたのか?

 チクショウ、俺には霊媒師のような霊祓いの能力は持っていないぞ。せいぜいあるのは身体の中のウランを任意で爆破する自爆能力とまだ使ったことが無い右腕のとある能力だけだ。

 

「ちょっと貴方、人を無視するなんて良い度胸ね?」


 なん……だと?

 いや、無視をしているわけでは無い。むしろ、俺はお前に会いたいんだが。

 だが、声を聞く限り相手は女性。ここは、紳士的に振舞わなければ。


「すみません、麗しい声の貴女様がどこに居られるか分からず、ついついフラフラっと声を頼りに探していました。して、そちらは何処へ?」


「貴方は私を舐めてるのかしら、ここよここ。貴方の目の前」


 そんな馬鹿な……

 目の前はただの壁だが。もしかして、この壁が喋っているのか?


「違うわよ、下を見なさいな」


 俺は言われたとおりに、視線を下にズラす。すると、そこには先程俺の顔にぶつかったあの緑色のソフトボールっぽい何かが転がっていた。


 …………


 ははは、いや、まさかな。


「はぁ、どこに居られるのやら。まさか、その小汚い苔だらけのソフトボールが貴女というわけじゃ……」


「よくも私を侮辱してくれたわね、お死になさい」

 

 ソフトボールっぽい何かは突然空気の層をぶち破るかのような音速の速さで俺の顔に向かって跳躍した。

 一体どんな原理なんだ!? 誰もボールを弾ませていないのに、自分から飛び上がれるなんて!?

 っというより、やっぱりこの苔玉が声の主か!

 苔玉は眼前まで迫りそして……


 ぎゃああああああああ!!! 



 っと、言うとでも?


 そう何回も叫んでばかりだと思うなよ?

 俺は向かってくるボールに合わせてサイボーグ化されている右手を出す。どうやら、俺の自爆以外の第二の能力を使う時が来たらしい。


「Vacuum cleane(掃除機)!!」


 俺が技名を叫ぶと、右手の平の人工皮膚が勝手に剥がれ落ち、手の形をした硬質な鋼色の金属が顕になる。

 手のひらの部分に丸い穴っぽいのが開いており、そこの部分が急激に空気を吸い込み始める。吸い込み風速は台風を軽く超えるだろう。





 但し距離は一センチメートルだ。




 正直使いどころが全くないクソッタレな能力だが、勝手に突っ込んでくる相手には多分使える。多分。

 麗しの声をした苔玉は右手の方へ向かっていたわけだから、確定で俺の右手に吸い込まれ……

 

「おや?」


 くっついた。


「こ、この私がっ! な、なんてざまよ…… 」


 大方、手のひらの穴より、この苔玉が大きかったのだろう。

 そして、ずっと吸引されてるわけだからぴったりくっついた。

 まあ当然の結果か。

 どうしよう、すごく外したい。



 業魔病院ごうまびょういん



 っという事でやって来ました、伏木黒の本拠地である魔窟(病院)に。

 多分、あいつなら何とかしてくれる。なんせ、この身体をサイボーグにしてくれやがった科学者でもあるんだからな。

 出来ないと言った瞬間、この苔玉をめいいっぱい口に突っ込んでくれるわ。

 早くアニメロンに行かなくてはいけないが、流石にこのギャーギャー騒ぐ苔玉を外してもらわないと綺麗……間違えた。大統領が迷惑だろう。


「もう、いい加減放しなさいよ!!」


「もう少し待ってください、今病院に着きましたからすぐに取り外してもらえるでしょう、というか黙れこの野郎、燃やすぞ」


 俺は病院内で自分が変人扱いされない為にも、苔玉を威圧で黙らせる。

 それから黙々と受付を済ませて、医者を指定(伏木黒)から俺の名前が呼ばれるまで椅子に座って待った。

 数分後、黒の居る診察室の扉が開き、小さい手が来い来いっと手招きしてきた。

 俺はゆっくりと立ち上がり、診察室へと入る。

 

「ういーっす、また来たね」


「そうですね、またあ来ることになるとは夢にも思いませんでしたよ」


 まあ、今回は病室では無く診察室だが。

 診察室はなにやらどす黒い液体が入ったフラスコがテーブルに置かれていたり、壁中に魔法陣やら呪い人形が吊るされていたりととても恐ろしげな雰囲気を醸し出していた。

 診察室ってこんな雰囲気だったっけ? こんな黒かったっけ?

 まあいい。


「ともかく、黒さん。さっさとこの苔ボールを外しやがってください」


「この苔…… ん? 離れない? あぁ、あの技か…… 良く使ったね。お前は馬鹿なのか?」


 フードを被っているから表情は読み取れないが、若干ぷくくっと笑い声が混じっているから笑いを抑えている事は分かっているぞ小娘。

 クソッタレ、やっぱり使い物にならない技だと知っていてわざとその機能を入れやがったな。


「ところで生涯、この苔玉」


「はい?」


「もしかして毬藻ちゃんか?」


「マリモ? あぁ、確かに言われてみればマリモですね」


「この子は私の知り合い、喋るだろ?」


 彼女は抑揚の無い淡々とした声で俺に聞いた。


「えぇ、喋りますともそうですとも」


 黒はこのうざったい苔玉…… 俺にいきなり襲撃をかけてきた毬藻を知っていると…… ほぅ。

 また、お前の身内かぁぁぁぁ!!

 俺は数分前の苦労を思いだし、正直この毬藻を彼女の口の中に今までの恨み分ぶち込みたくなったが、俺は紳士だ。


 婦女子には手を出せない。


 くっ…… 全く紳士道は辛すぎる。

 

 そんな俺の苦労なんてしらない毬藻は、自分の救世主に見えるのだろう、黒に助けを求めた。


「黒先生! さっさとこんな外道以下の畜生から私を解放してください! じゃないと、このままだと私はストレスで枯れて死んでしまいますわ!」


 それはこっちの台詞だ。

 黒はそんな小生意気な毬藻に「うむ、そうしたいのはやまやま」っと言い、指を顎に当てて、考え出した。

 おや、もしかして右手が常時毬藻を吸引している状態だから、取れないのか?

 俺はもしかしたら一生このままかもしれない可能性が出てきて、背筋に冷たい汗が滴る気持ちになった。

 いやいやいやいや、こいつと二十四時間朝から晩まで毎日右手にくっつけた状態で生活することになったら、俺は確実に首を吊る。

 

 俺は正直ふざけんなっという気持ちで考えている黒を見続ける。

 すると、黒はフードの中から見える小さな唇がニコっと笑ったような形を作って、少しドキッとした。主に悪い意味で。


「生涯」


「は、はい」


 初めて黒に名前を呼ばれ、俺はつい背筋を伸ばした。

 黒は外見からして、妖しいフード付きローブを着た黒魔術師だが、やはり一流の医者だ。

 俺の名前を呼んだ一声で医者の威厳みたいなものを一瞬だけこの俺も感じてしまった。

 彼女はおもむろに自分の机の引き出しから『何か』を取り出す。


「そ、それは…………!」


「残念ながらこれしか手段が無い」


 黒はそう言うと未だに毬藻を吸引している俺の右手の平と、俺の右手の平に吸引され続けている毬藻の真ん中にスっと、取り出した物を差し入れた。


 ボトッ


 少し重たい感じのする音を立てて、吸い込まれていた毬藻が落ちる。


「やったわー! 流石黒先生ね!!」


 あぁ、確かに黒は先生だ。この俺も認める。

 そのフード被って全く表情が分からないが、ドヤ顔をしているっというのは一目で分かるぞ、だが認める。

 なんせ……


 

「まさか、下敷きを使うとは…… 恐れ入った」


 まさに盲点だった。

 そうだよ、吸い込まれてる側にはある程度隙間みたいなものがあるんだから、面積の小さな物を挟めば吸引している側に壁が出来るから吸い込まれてる方は落ちるはずだ。

 やっぱり、天才は違うな。

 本当に尊敬するよ。

 だけど、代わりに今下敷きをずっと吸い込んでいるがな。っというかこれ、止めれないのか?

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