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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
97/162

121 時代錯誤も甚だしい



「何時の生まれだ?」


 ムシュフシュの呟きにノッツは同意を禁じえなかった。

 覚悟が決まりすぎている。戦国武将や内乱地帯の出身なら話は通る。だが現代、平成の時代にその覚悟は異質すぎるし過剰だった。


 話の前後の事柄が無ければ到底理解できないし、指を指して嗤われても仕方が無い。


「そういう人生送ってきたらしいぜ。じゃあ、お先」

 その言葉を残して、大吟醸はゲートを潜った。ムシュフシュとノッツもそれに習う。ふと振り向けば、電池が切れたように座る戮丸の姿が印象に残った。

 ―――中二病をこじらせた訳ではないらしい。


 一同はディクセンの大通りに出た。通りは王城までを貫いている。実際城の普請としてはあり得ない形状らしい。敵軍に攻め入られて王城まで直進できるつくりは非合理だ。ただ、小国と言う背景と、彼らのまだ知らない歴史からそれはあった。


 この国が昨日まで現存したのは、有る意味奇跡なのだろう。




 最後は戮丸とガルド。それとその背のシャロン。そろそろ降りればいいのにとも思うが、それを咎める者はいない。彼は恐るべき狂人であり、それに懐く姿は救いでもあった。


 彼らを待ち受けていたのは、有る意味相応しいものだった。


 ―――歓声。


 それは酷く空々しく聞こえた。グレゴリオの存在は危惧の対象ではあったが、空に映し出された戮丸と旅団首魁オーメルの存在に、出すぎた真似はしなかった。

 歓声の大部分は旅団のそれで、後は一般住民。実情を知らない住民は上が「ついに動いたのだろう」と無邪気にはしゃいでいる。


 住民の大半は「難民がどうなろうと知ったことではない」というのが共通認識ではあったが、アクション映画のキャストが登場した、そんな騒ぎだ。彼らには別の何かに見えるのだろう。

 数日すれば、「余裕があるなら税を引き下げるべきだ」と井戸端会議で弁舌を振るうのだ。辻で訴えれば捕まる。何時の世も同じ。


 まあ、経済的にかかった様子が無いのが更に熱狂を加速させている。


 また敵が襲われれば、戮丸をけしかければいい。兵隊も必要ない。軍備も必要ない。当然お金も必要ない。戮丸は死にはするが生き返る。

 数万の犠牲の前には些細な犠牲だ。それが歓声を受けたものの当然の義務である。

 こんな論旨が当然のように繰り返されるのだろう。


 ないすあいであ。


 「はたして貴方のわめき声にそれだけの価値があるのですか?」と質問するものは居ないだろう。

 何時だって人は似たような事を言っている。

 実に空々しく響く。それでも戮丸はいくのだろう。


「彼らは我々を受け入れなかったんですよ」

 ポツリと銀が呟いた。

「ところでかんむりは見なかったがい居たのか?」

 ムシュフシュが訊いた。冠とは【砂の冠(サンドクラウン)】の事だ。オーメルは協力を要請していたはずだ。ムシュフシュはその事を知るはずも無いが、【赤の旅団】が主導で参加しているのに、居ないのも不自然と思った程度だった。


「いましたよ。偵察してただけですが・・・かなりいました」

 銀のメンツは丸つぶれである。

「・・・闘えよ」

「うちはそういうクランじゃないから・・・金剛ばかならそう言うな」

しろがね?」


 そう【赤の旅団】は軍事力で秀でる。先の騒動も旅団が本気を出せば数分とかからず綺麗に片付く。寡兵であっても鉄の規律で織り上げられた旅団は屈強だ。【精霊雨アルブズレイン】もエルフ主体のクラン。瞬間的な火力は【赤の旅団】をも凌駕する。最高レベル25の欠点もあるが、一般兵の全てがファイヤーボールやライトニングボルトを使えるのは脅威以外の何物でもない。

 一方【砂の冠(サンドクラウン)】は戦力では幾つも他クランに見劣りするものの情報戦に長ける。ゲリラ戦術を得意としている。見劣りする。その事実こそが【砂の冠】の長所なのだ。

 事実、リーダーの金剛はよく切り盛りをしていると思う。今回の事もその薄情さを存分に使ったのだ。


 その現状を踏まえれば、金剛の指揮も合点がいくが・・・


 銀はキレかかっている。

 銀は再三の要請をかけた。それに金剛が応えていれば・・・いつも通りの金剛なら、副次的な災厄は未然に防げていた筈だ。それだけの能力を持っている。最初の謁見でも戮丸が死に至るのを防げていた。あの男の・・・口から生まれてきたと言わんばかりの単能を活かせば。

 やっと要請に応えたかと思えば・・・盗人のようにコソコソと見てただけ。


「さ、さてと、これからどう動くのかだが・・・」

 君子危うきに近寄らず。話題を変えた。


 どう動くも何も無い。王城からの出迎えは来ている。あの映像を見れば当然と言うところか?主導が赤の旅団に移ったからか、難民の流入が始まっている。オーメルの指示にしては遅い反応だが、末端の様子を見れば、指示は出ていたが重要性は感じていなかった。ただ、あの映像を見て慌ててと言う感じだろう。

 その怠慢に憤りを感じるが、彼らはプレイヤーなのだ。あくまでここには遊びに来ている。そう考えれば、逆の意味に異常なのだ。


 城の衛兵が招く。着慣れない装束を着せられた感が否めない衛兵の先導では、遅々として進まないずに熱狂した群集に囲まれた。居丈高に命令するに慣れた衛兵は牢の中なのだろう。それを踏まえた上での先導だ。


「おい?オーメル」

「判っている」

 オーメルが指示を出すと旅団の人間が先導に加わる。

 戮丸は「俺は子供の様子が・・・」と訴えている。さもありなんだ。だがここは堪えてもらわないと格好が付かない。

 グレゴリオも同道するらしい。曰く「居場所が無い」賢明な判断だ。

 流石に、シャロンは降りて戮丸の後に続く。


 オーメル、戮丸、シャロン、銀、グレゴリオがここでは主役なのだ。

 ムシュフシュも訴えればそれ相応の待遇なのだが望んでいない、あくまで事の顛末を見守れればいい。傍聴を禁じられなければ不満は無い。


「お前達もいくのか?」の言葉に、ギルド【凶王の試練場(69)】の面々は当然と答えた。第一陣と違い二陣のメンバーは群集の興味が薄い。実際それほど重要な事をしたつもりも無い。マティだけが別格だが、青い顔で付いてきている。


「・・・クビだそうです」

「・・・ご愁傷様」

 流石にこの対処は酷いと思ったが、オーメルが、いや、旅団が特例を許す組織ではない。ムシュフシュも会話で学んだ事がある。復帰を訴えるにしてもそれは後のお話だ。今取り扱うべきではない。


「復帰クエストくらいは受けさせてくれるだろう。戮丸の言質も取っているし・・・そう難しいことじゃないはずだ」

「うちに来ればいい。お前なら枯山水でも通用するよ。史上初の増筋なし入団は箔が付くぜ」

 レビンの言葉にムシュフシュは頷く。マティならどのクランでも通用する。以前はどうだったか知らないが、戦闘能力、行動力共に不足はない。そこに同情は無い。正直な気持ちだ。ギルドとクランは違うもので、旅団の代わりとは行かないが、最悪旅団クラスのクランに移籍という手も有る。そこに枯山水の太いパイプがオマケでつくのだ。

 「それを見過ごすか」となればオーメルは違った反応をするだろう。


「むしろ、なんでお前がいるんだ?」

「そんな殺生な!」

 冗談を言って場を和ませたが、実際レビンも後衛として、しっかり勤めを果たしていた。実力もほぼマティと同格以上だろう。このレベルのものの加入は正直ありがたいし、レビンにとっても張りになる。


「とりあえずはシバルリに腰を落ち着けるつもりです。戮丸さんに教わりたいことがたくさんありますし」

「そうか。残念だ」

「俺が入ってやってもいいぜ」

「馬鹿いうな。お前じゃ装備が貧弱すぎる。せめてトロールを弾き返せる位は必要だ。まさか俺を盾に使ってずっとと言うわけではないだろう?」

「メイン盾さんアザッス」

「お呼びじゃねーんだよ。大吟醸!」

「お前な・・・タイマンなら首取られるぞ?」

「ま・じ・か!マティ!」

あなどって勝てる相手では無いですよ。事実、盾役を勤める人間が居れば自分以上に働くでしょう・・・ただし、ついていければの話ですが」


 大吟醸は攻撃特化のライトファイターだ。戮丸戦、オーガ戦ではその持ち味をまだ生かせたが、体格がそれ以上の相手には通用しない。攻撃が届かないのだ。そうなると武装の弱さがもろに出てくる。

 あくまで種別として大吟醸は枯山水には不適合と言う事だ。加入すれば大吟醸は、より持ち味である【速さ】出さなければ通用しなくなる。その追求された速さに追いつく盾役というのも無理の有る話だ。それは大吟醸も自覚している。


 つまり、冗談だ。大吟醸にからかわれたレビンは一触即発の状態だ。


「いいのか?」とムシュフシュはノッツに問う。

「いいんじゃないかな?ちょっと興味の有るカードだし・・・」

 そういう見方もあるのか・・・。確かに、レビンvs大吟醸は見所があるな。下馬評では圧倒的にレビンだが、その通りに行くとは言いがたい。


 むしろ、何処まで大吟醸が食いつくか?その際に勢い余って殺してしまう可能性は否定できない。

 アタンドットではPVP。つまりプレイヤー対プレイヤーは普通に喧嘩や殺し合いになってしまっている。だから、その可能性は捨てていた。勝っても得はないし、負けて死ねば一レベルダウンのデメリットのみだ。


 実際、一レベル分稼ぐとなると大事おおごとなので普通は誰もやりたがらない。

 シバルリではPVPが一般的なのか?


「ふうむ。大吟醸に一口。あの戮丸から手袋を掏り取った手先の器用さを買う」

「じゃあ僕はレビン一口。大吟醸の戦いぶりは露出が激しいからね。対処法さえ見つければ、それにあいつ馬鹿だし・・・」

「なるほど」


『なるほどじゃねーって』当事者達の激しい批判。

「レビン、大吟醸・・・仕方が無いんだ。判ってくれ」

「何を?」

「君らレベルのガチバトルは金がかかるんだ。僕は毎月金欠さ。移動時間だって洒落になってないし、飛行機に乗って見に行く事もしばしばだ」

「・・・で?」

「そんな苦労をして見に行ってショッパイ試合も多いんだよ?君らがガチで闘うべきじゃないかな?かな?いや闘うべきだ僕の為に」


 ―――おまわりさんコイツです。

 ―――ハイハイ。事情は署のほうで伺いますね。

 ―――その為に【蘇生】憶えたんだよ?レベル下がんないよ?殺しあえよ。


 ・・・・・・・・・・・・・ノッツ・・・


 異常者二人目・・・同情の余地無し。


「ホラ、さっきの映像スフィアです。これで我慢して」

「こんなトンでもバトルじゃ僕はもう満足できない!」

「じゃあ返してね。凄い金額になるから、それ」

「そんな事出来る訳が無いだろ?常識的に考えて」

「本気でぶち込もうか?」

「そんな出来る訳ないだろ?」

「ポリスラインを甘く見ないほうがいい。・・・自分はリアルでも警察だ」

「でたよリアル文句タイプって・・・マジ?」

「大マジ」


「警官がこんな事してていいのか?」とムシュ。

「良くはありませんが内勤ですし、手術のおかげで現場には出られないんですよ。一応非健常者と言う扱いになるので、後は普通の職場です」


「リアルで警官。ネットでポリスか、どんだけ正義を愛してるんだ?」

「逆ですね。刑事に憧れて警察になって、リアルで刑事ドラマの真似事は問題ありすぎるでしょう?」

 マティの言うとおり、警察になったから刑事ドラマのような展開などまずあり得ない。それは子供の妄想だ。

 社会はインプラントに対応していない。スマホを体の中に取り込むようなもので、一応社会は非健常者として扱う。スポーツの大会に出場資格を失う。もちろん、それで何かしら損失を被るのはごく一部だ。だが、そのくくりが抑止力になっているのも事実である。

 警察機構としても最先端技術の使用を率先して取り込むわけにも行かず、希望者を規制することも出来ない。と言うのが現状だ。


「あまり、大声で言う事でも無いのでオフレコでお願いします」

「ああ、当然だな。で話は代わるが戮丸のクランに移籍する気は無いのか?」


「それは願っても無い事ですが・・・今現在クランを作ってないそうで、もし作っても私が入れるかどうか・・・?」

「いや、あの様子なら大丈夫だろ?」

「大吟醸が補欠枠ですよ」

「こいつでかッ!」


 戮丸が特級の戦闘能力を持つのはわかる。それをクラン員全員に求めるとも思えない。しかし、「大吟醸で補欠枠」の情報にはムシュフシュも困惑した。能力・・・と言う事ではないのか?と思考が動くが、それ以上に

「確定枠の人間はどれだけの化け物なんだ?」の興味に押しつぶされる。


「しかし、実際作るかな?」

「ふむん・・・」

 ノッツの言葉は確信を突いている。戮丸は意志がある。決まりすぎた覚悟だ。極端な話、あの巨人戦に巻き添えにする仲間を求めるか?と言う事だ。このゲームの仕様上、彼の言う原風景は壊れないだろう。それは表向きの話だ。あの戦場で何が出来る?ムシュフシュでも自信は無い。ただ一人押しつぶされるだけ・・・

 その事実に心まで押しつぶされないだろうか?そもそも、それくらいは戮丸なら予想がつくだろう。


「出来て捨て駒か・・・」

 あの戦場で捨て駒に成れれば、傍から見る分には十分な戦果だ。だが、それを前提には出来ないし、そもそもそんな覚悟ならきっぱりと断るだろう。「みんなで力を合わせて闘おう」なんてタイプの男じゃない。


「厳しい男なのか?」

 戮丸は自分には厳しいがそれを他人に求めるタイプにも見えない。当事者達に聞いてみた。

「むしろ優しいな。ベリーイージーを用意できる。正直な話で1レベル僧侶で途方に暮れて酒場で膝を抱えていた僕を、普通にダンジョンに連れて行ったんだよ?」

 ノッツは顛末を掻い摘んで話す。ムシュフシュもその情景は目に浮かぶ、入りたての頃に見慣れた風景だ。

 ただ、戮丸の覚悟とその面倒見のよさには、天地の開きがある。初心者救済はクランを立てて行う事ではないのだろう。現状シバルリで既に行っているのだ。

 クランを立てて欲しいと言うのが人情だろうが、そこの人間をあの戦場に連れ出す・・・それはしない。いや出来ない。


 石にかじりついてでも付いて来い。そういった方向性を持たない戮丸にとってクランは足枷以外の何物でもない。

 規律とマニュアルで旅団化すればいいと言う考え方もあるが、それはしないだろう。現実に「赤の旅団」が存在する以上、劣化組織を立ち上げるはずも無い。


 クランには何かしら色がある。

 戮丸自身に強烈な個性がある。

 しかしそれは集団とは相容れないもの。


「・・・判らんな」

「そうでしょ?」

「しかし、マティのクビはオーメルなりのクラン設立の後押しじゃないのか?」


 ―――?

「いや、大した事じゃないが、戮丸には効きそうだ。マティはギルドでオーメルと繋がっている。オーメルがマティにクラン員として与えられるメリットは戮丸が用意できる。別のものだがな。遜色はない。マティなら赤の旅団以上のメリットがあるはずだ。戮丸の新設クランにポリスラインの太いパイプが出来るのも悪くない」


「結果WINWINな関係になると」

「そう、マティの行動は本来褒められるべき事だ。ギルド内では昇格するだろう」

「クランをクビでギルドで昇格ってありえないだろ?」

大吟醸ばかは黙ってろ。今回マティの負い目は【越権行為】だ。そこにたどり着く。それが正しいことなら、それだけの立場にすることが必要だ。オーメルはそれだけの裁量をマティに渡すべきなんだ」


「そうなると・・・旅団よりマティにとってはいいの・・・かな?」

「どういう事だ?」

「実際そうだろ?戦技・・・特に特殊な状況を想定した戦闘ではシバルリは随一だ。その権化みたいな男だから・・・マティに足りないのは実績と自信。それが無い限り旅団での昇格はあり得ない。ただ、ギルドでは違う。小規模な裁量権を与えられるとして、小組織を運営するに必要なのはオーメルより戮丸だ。技術の話ね」


「劣ってるとも思えんがの」

「振るえなければ無いのと一緒だ」



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