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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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116 生まれる前に知っていた答え



 ―――パチリと篝火がはぜた。


 見渡すと闇に浮かぶ戦士団。皆思い思いの装束を身に纏っている。一番多いのは旅団の姿か、いかにも歴戦と言った風は枯山水だろう。あの武器、でけぇとあきれ返った。オーガ達は良く見れば鎧の残骸のようなものを身に纏っているものも居る。


 ―――絵になるな。

 そんな感想を戮丸は内心一人ごちた。


 特に目を引くのはあの二人だろう。闇にそびえる巨体。ロボ?かと思う。びっしりと隙間なく鎧を着込み、良くあいつ等相手に闘えたものだと思う。片方がムシュフシュで、片方がグレゴリオだろう。

 水筒に入れた酒を酌み交わす者。

 瓦礫を撤去する者。

 雑談に花を咲かせる者。

 ――皆様々でまぜこぜだ。


 見知った顔を捜せば・・・


「倒した敵も助けたいのです」と言いながら蘇生に走るノッツ。それを「いや、おかしいから」と旅団の装束の男が追いかけている。見た顔だ。マティだったか、いい動きをしていた。

 大吟醸はそれを笑ってみていた。周りには歴戦風の戦士達が同様に笑っている。その姿は自然で解け込んでいる様にも見える。


「いいのかい?」

 いつの間にか隣に居た銀が問いかけてきた。そういえば俺、斬ったな・・・。ばつが悪いのを隠し、いいんだと答えた。


 モンスターはリポップする。つまり根絶やしは不可能だ。ならば今回の経験を持って帰ってもらったほうがいい。幾分やりやすくなる。それに・・・

 これは甘い考えかもしれないが、下手な武力よりよっぽど介抱された経験と言うのは抑止力になる。


「らしいね」と銀は納得した。オーメルも同じ考えなのだろう。手すきの者は蘇生に協力しろと命令を下す。マティはその令をうけて180度方向転換を余儀なくされた。だが、気持ちはノッツと同じだったのだろう。傍目に見て一番働いている。

 旅団の司祭団もノッツに習う。

 むしろ、困惑したのはオーガ達のほうで、それを見て大吟醸がまた笑う。


 この命令は意外な利をPCにもたらす。元々使用頻度の低い【蘇生】の呪文には失敗する可能性があった。死体の灰化報告が上がってくる。念の為、灰化した死体は高位僧侶によって、改めて蘇生呪文をかけられ問題なく復活した。これだけの数の蘇生を試みたのは全員初めてで、成功率や傾向などの大まかな数字が叩き出せたのは利点である。更に灰化時の連絡網の形成など僧侶間で取り決めが行われた。


 その様を見ていた戮丸は、四肢の力が抜けるのを感じた。倦怠感と鈍痛に肉体が支配される。

 そして、強烈に―――眠い。


「親ビン!」

「おお子ビン!無事だったか!良かった良かった!」


 ――子ビンってなんだよ。

 自分の言葉に内心突っ込みを入れる。

 シバルリ村で別れたはずのこのドワーフ。ドワーフの中でも高齢のはずなのだが、ぬいぐるみのような愛嬌は健在だ。


 ダイオプサイト【diopside】(透輝石)宝石ではなく貴石の一種で、現在ではパワーストーンの方が通りがいい。ドワーフでその名を冠するのだから意味があるのだろうと、ドットレーに尋ねたら一度は一族を率いる立場だったとか。スキル持ちのゲーム内でも重要なNPCだ。言葉を交わせば判る気もする。人は集まるだろう。しかし、組織の長として対外交渉やその他で弱さを感じる。滅んだか、追い出されたか、あまり立ち入っていい類のものではないので踏み込みはしなかった。


 そのダイオプサイトがシャロンの背をポンと叩く。


「戮丸―――」

 シャロンは戮丸に抱きつき嗚咽をこぼした。


 とうの戮丸は現状が理解できない。自分のさまが怯えさせるに足る姿だったのは理解している。だがそういう話ではなさそうだ。シャロンは安全なディクセンに残してきたはずだ。


 何かあった――?


 とシャロンを問い詰めるのは無しだ。怯えきっている。

 周りを見ればガルドが居る。監視者、裁定者の役割を担う立場のガルドが居るのはおかしい。不介入が基本スタンスのはずだ。


 ――ならば――契約――

 シャロンのみに何か危険が生じた。それも人の悪意による類のもの。


 戮丸の目に殺意が宿る。

 ベルセルクガングとは違う明確なロジックによる導き出された殺意だ。

 ――息を吞む音が聞こえる。


 だが、ソレに気づいて真っ先に変化があったのは戮丸だ。

 ――シャロンが泣いている。


 それだけで十分だった。


 オーメルに説明を求めた。低く感情を押し殺した声で――

 オーメルは事の顛末を客観的に説明し、多くの旅団メンバーからは『仕方ない』との声も上がった。しかし少数の事情を知るメンバーは顔に手を当て空を仰ぐ『ありえない』との呟きが毀れる。


「ふっざけんじゃねぇッ!!」

 叫んだのは大吟醸。言葉が続かない、ありとあらゆる罵詈雑言が口の中で交通渋滞を起こして出てこないのだ。


「――本当に何も出来ないのですか?貴方が居て戮丸と同じ冒険してきた貴方にそんな対処しか出来ないのですか?答えは山ほどあったはずだ――」

 ノッツの冷静な糾弾をとめたのは戮丸の掌だった。


「そんな時はスリープクラウド一発だ。寝てる間に治療を施し、状況によってはパラライズもいいな。とにかく本人の意思は無視で、先ず治療だ」

「非人道的だ!」

 戮丸の言ってる事は考えた。だが、患者の訴えを無視することが出来ない旅団僧侶陣から反対の声が上がる。

「そんなのは知らんよ。第一そんな状況が容易に想像できる現状を放っておいて人道もクソもないな」


 ぐうの音が出ない。

「治療したから感謝されるべきと思ってないか?身体だけ治して―――それが医者の務めだ。心はズタボロ。なら全部吐き出すまで受け止めるだけだろ?本当に感謝されるのは心も身体も治ってから気が向いたときにだ。不満が残るなら心がまだ治ってない証拠だ。心の傷なんてものは叫んでくれないと判らない。実にありがたい。毒は吐き出さないとな。どうしようもないんだ」


 ――だから、知っているべきではないんだ。


「そんな指示はオーメルには出来ないし、組織の頭だ。その役は出来ない」

「シャロンにはまだ荷が重すぎたし、恨まれ役ってキャラじゃない」

「感謝されるより、ただただ金切り声が不快なだけの俺の仕事だ」


 戮丸は強くシャロンを抱きしめた。


「無力だなんて言葉は十台のイケメンボーイの言葉だ。俺には似合わない。許されちゃいないんだ」


 ――誰に

 ――俺に。俺がそう決めた。


「どうせ許されないなら・・・俺は自由なんて認めない。悲嘆して自殺する自由なんてもんはな。せめて闘って死ね。そこまでは付き合うよ。・・・何年かかろうと。正直に行こうぜ。それが此処にいる全員の総意だろ?」


「戮丸ッ―――大好き」

 シャロンが涙に濡れた顔を上げ、満面の笑みでそういった。

 しかしその言葉には続きがあった。


「でも安心して、ちゃんと愛してないから!」


 大吟醸は後に言う。言葉の吹き出しが人に刺さった瞬間を見たと――

 


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